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    bin_tumetume

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    ##ほぼ100日冬彰チャレンジ

    4日目『want to glow old with you』「冬弥、彰人、入籍おめでとう! かんぱーい!」
     杏の音頭の声を皮切りに、口々に乾杯と口にして四人は手に持っていたグラスをぶつけ合う。WEELEND GARAGEの奥の席でカチンと硬いものがぶつかる澄んだ音が響いた。グラスを持った二人の左手の薬指を眺めて、こはねがほうっと夢見るような息をつく。
    「二人とも、本当に結婚したんだね」
    「ああ。式については詳細が決まったら連絡する」
    「別にしなくても良かったんだけど、してた方が色々と都合が良いからな」
    「まーたそんなこと言って。冬弥に愛想つかされても知らないからね」
    「大丈夫だ、白石。これはただの照れ隠しだからな」
    「おい、冬弥」
     とっくに成人を迎えた四人のグラスの中には、それぞれ強さの違いはあれどアルコールが注がれている。そのおかげか、いつもよりも軽口が弾んでいた。
    「もう東雲くんと青柳くんって呼べないんだね」
    「苗字じゃどっちのことかわかんないもんね」
     しみじみと感慨深げに呟いて、こはねは両手で握ったグラスの中の液体にちびりちびりと口をつける。
    「俺も慣れるまでは時間がかかりそうだから、青柳でも構わないぞ」
    「そういえば、なんで青柳じゃなくて東雲にしたの?」
     数年前に法律が改正されて、同性同士の婚姻が認められるようになった。その少し前には選択的夫婦別氏制度も取り入れられている。杏もこはねも、その頃からもともと同居をしていた二人がいつか入籍するんじゃないかと予測はしていたが、実際に報告を受けたときは自分のことのように嬉しかったことも覚えている。しかし、冬弥が姓を東雲に変えたことの理由までは知らされていなかった。
    「オレが長男だからって気いつかってんの」
    「彰人も絵名さんも嫁に出てしまったら困るだろう?」
    「そんなの気にするような家じゃねーって言ってんのに」
    「そうだな。色々理屈を捏ねたが、ただ俺が彰人の苗字が欲しかったけだ。それに、東雲彰人という名前の響きが好きだからな。彰人にはそのままの名前でいて欲しかった」
    「へえ~、なるほどねえ」
    「すっごく素敵だと思う」
     ニヤニヤと揶揄を含んだ笑みを向ける杏と、嬉しそうに頷くこはねの視線から逃れるように彰人は視線を逸らした。その頬が赤いのはアルコールだけのせいではない。
    「お前ら、余計なこと聞きすぎ」
    「いいじゃん。今日くらい惚気けていきなさいよ」
    「ぜってーやだ」
    「ね、こはねも何か聞きたいこととかないの?」
    「え、えっとね、相棒としての好きなとことは別で、恋人としての青柳くんのどんなところが好き?」
    「お前、ほんと遠慮ねーな」
    「そ、そうかな?」
     恥ずかしそうにはむはむ体を揺らしたかと思えば、こはねの口からは酔っているときですら答えにくいような質問が飛び出した。
    「何だよ、恋人としての冬弥って」
    「だって、東雲くん、相棒としての青柳くんの好きなところは沢山教えてくれるから……」
     彰人には、オレの相棒は最高なんだとこれまで自慢してきた自覚があった。もちろん、恋人としての冬弥のいいところは沢山ある。しかし、渋い顔で目をつぶると深く考え込んでしまった。三人の視線が少し唸りながら熟考する彰人に集中する。
    「……、オレだけの秘密」
    「ええっ!」
    「言いたくねえモンは言いたくねえんだよ」
    「ははーん。どうせ、自分だけの冬弥を私たちに教えたくないんでしょ。独占欲こわ~」
    「うっせえな。分かってんなら聞きだそうとすんなよ」
     痛いところを突かれてつい彰人が凄んでも、長年の付き合いのおかげで杏もこはねも一切動じない。ふと、考え込んでいた冬弥が首をかしげた。
    「それは、俺にも秘密なのか?」
    「お、前……!」
     その真面目な顔には聞きたい、と書いてあった。輝く目に見つめられ、彰人がうっ、と声を詰まらせる。もう杏とこはねには二人のこの会話の辿りつく先がなんとなく分かってしまった。何しろ付き合いが長くなってきたので。
    「…………後でな」
    「ふふ、分かった」
     満足そうに微笑みを漏らす冬弥の勝ちを悟り、杏は予測どおりの結果にやれやれと嘆息した。冬弥のお願いに彰人はいつまでたっても勝てない。それは、籍を入れたくらいでは変わらないようだ。
    「じゃあ、冬弥は恋人の彰人のどこが好きなわけ?」
    「そうだな、数え切れないが、俺のことが大好きなところだろうか」
    「お前ら全員、今日の記憶飛ばすまで飲ませるからな」
    「はいはい、照れ隠し照れ隠し」
     わいわいと賑やかに騒ぐ仲間たちをみつめながら、こはねはまたちびりと酒を口に含む。相棒と恋人という関係に、更に新しい関係が追加されたことでみんなが楽しそうに笑っていて、冬弥と彰人は殊更幸せそうだった。それがすこしだけ羨ましくて、自分もいつか相棒兼恋人に打ち明けようと密かに心に決めたのだった。
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