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    KOP/カケタイ
    🎾 /月寿

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    月寿
    バンドのライブ後
    月光さん大好き~な寿三郎くんのお話です

    ⚠️🎾🐰4周年イベスト後半のネタバレ含
    ⚠️方言は雰囲気ですごめんなさい

     あかん。俺の好きな人、ほんまにむっちゃかっこええ。
     そら普段からかっこええのは知っとったけど。テニスしとる姿は勿論、読書中も、飯食うてる時も、歯磨きしとる時も、寝顔さえもかっこええ人がステージで演奏なんかしたら、そらもう世界一かっこええに決まっとる。そんなことは当たり前や。だから本番中に気を失わんよう、ステージに立つ月光さんのイメトレはバッチリやった筈なんに、想像の百倍、本物の月光さんは最高やった。
     しかもヘドバン。あの月光さんが、ヘドバンて。高身長で前髪も長いからどえらい迫力やし、前髪が重力に逆らう瞬間、目が合った気がして。いや、気がしたやなくて確実にあった。あの人、俺のこと見とった。絶対。
     ほんま、心臓が飛び出るんちゃうかと思った。
     ……という話を、隣でライブを見ていた種ヶ島さんにしたら、「自分、ホンマにツッキーのことしか見てへんな☆」なんて笑われてもうたけど。
    「そういう感想は、本人に伝えるのが一番じゃないですか?」
    「私たちに構わず、越知くんの元へ行ってください。寿三郎」
    という三津谷さんやキミさんの言葉に背中を押され、俺は熱気の冷めない会場を飛びだした。
     
     
     ◇
     
     
    「……月光さん!」
     
     あちこち走り回ったから、全身汗だくや。普段なら震え上がるような冷たい夜風も、今夜ばかりは気持ちがええ。ライブで火照った体をスーッと冷ましてくれる感じがする。
     必死こいて探してたん、バレるの恥ずかしいわあ……て思たけど、どうせこの人には全部見透かされとるんやろうな。
    「毛利」
    「月光さん、やっと見つけた」
     呼吸を整えながら月光さんに手を伸ばした瞬間、ひときわ冷たい風が吹いて、ふわりと月光さんの前髪が浮き上がる。ライブ中、俺を射ぬいた青色が頭の中によみがえって、いらん汗が吹き出した。
    「……二次会はいいのか?」
    「真っ先に月光さんに感想伝えたくて、抜けてきましたわ。種ヶ島さんにメシの確保頼んどりますけど、あの調子やと中学生の子らに食いつくされとるかもしれんね」
     全ての演目後、アフターパーティーが開催されるっちゅう噂を耳に挟んで、豪華なメシも出てくるんやろか~とはしゃいどったことを、月光さんは覚えてくれはったんかな。あ~もう、この人は俺のこと喜ばす天才や。ほんま好き。世界一かっこええ。
     汗が滲んでびちゃびちゃになった手をぐっと握り、月光さんを見上げる。そうや、いつまでも心の中で褒め散らかしとるだけや意味がない。ちゃんと目を見て伝えんと。そのために月光さんを探したんやから。
    「あの、月光さん。改めてお疲れさんでした! 月光さん達のバンド、めっちゃカッコよかったです! ヘビメタ似合いすぎやし、まさか月光さんのヘドバンまで見れるとは思わんかったけど」
    「……」
    「あ、照れとる」
     ほんの少し唇が開いて、それからぎゅっと引き結ばれたのを、俺は見逃さんかった。
     照れとる? なぁ、照れとる? と月光さんの顔を覗き込むと、ぽんと頭のてっぺんに手を乗せられて、わしゃわしゃと撫で回される。普段はひやっこい大きな手が、今日はぬくくて、やっぱり照れとるんやなあ……って嬉しくなる。
    「お前たちの演奏も良かった」
    「おおきに! 真面目に練習した甲斐ありましたわあ。……それにな、あのペンライト、オレンジ色振ってくれはったやろ」
     ぴくりと空気が震えて、頭を撫で回していた手の動きが止まる。
    「……見えていたのか」
    「そら見えますよ! 月光さんのペンライトだけ、宙に浮いとりましたからね」
     バツが悪そうに目を反らす月光さん、かわええ。なんや今日の月光さんは素直やね。
    「月光さんが、俺の好きなオレンジ色振ってくれたん、ほんまにめっちゃ嬉しくて」
     危うくドラムスティックふっ飛ばしそうになりましたけど。ライブ終わるまで耐えたんやで。と、伝えれば、月光さんは顔を反らしたまま、もごもごと唇を震わせた。
    「……」
    「月光さん? どないしたん?」
    「……色の変え方を、教わって」
    「へ?」
    「あのような場では、一番に応援している演者のイメージカラーや、好きな色を光らせるものだと」
     その言葉の意味を理解した瞬間、たまらんくなって、俺は月光さんに飛び付いた。
    「月光さ~んっ!」
    「……」
    「俺もな、青色振ってたんですよ」
    「ああ、見えていた」
    「月光さん! 月光さ~ん!」
     広い背中にぎゅーっと腕を回して、胸板に頭をぐりぐりと押し付ける。嬉しい。好き。ペンライトの青色に込めたんよりもっと、全身から気持ちが伝わるように。
     なぁ、月光さんは俺のこと好き? 今、どんな顔しとるんやろ。もう少し踏み込んでみてもええやろか。と、見上げた瞬間、頭上から「くちゅっ」と、長身に似合わんかわええくしゃみが聞こえてきた。
    「すまない」
    「さすがにずっと外におったら体冷やしてまうね」
    「そろそろ戻るか」
    「会場戻ったら、一緒にメシ食いましょね」
    「ああ」
     いつか、ちゃんと好きやって伝えるから。だけどまだ、あともう少し。
    「あ、せや! 部屋戻ったら、俺のTシャツにサインしたってください!」
    「構わないが……いいのか?」
    「バンドマンぽくてええでしょ! それに、俺の一番は月光さんやから」
     なんて言いながら、今はまだ人懐こい後輩の顔で、あんたの隣におらせてくださいね。



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