あそこに燃えてるものが見えるかね 目が覚めたときに、真っ先に感じたのは匂いだった。生き物が燃える匂い。それはここら一帯に広がっており、既にマトリフの体に染みついていた。
マトリフはわざと見ないように顔を背ける。何が燃えたのか、まさか忘れたわけではなかった。
それよりも先を進んだ仲間の心配をしなければと、頭を切り替える。殺した好敵手に手向けるものは何もなかった。
「……どうした、マトリフ」
幼子に手を握られて、よほど自分が酷い顔をしているのだと気付く。顔を背けてもその燃えた亡骸が無くなるわけではない。視界の端には黒く燃え残った塊があった。
それはもはやガンガディアではなかった。燃え尽きた亡骸は煙すら上がっていない。その輪郭は崩れ、吹き飛んだ体の破片は灰になっていた。
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