三文小説 演じていれば、それでよかった。
胸中になんの感慨もなくとも適切なタイミングで笑い哀しめば友人と呼べる人たちはできたし、会社員も裏稼業も上手くいった。
芝居の巧拙など分からなかった。それでも私の周りには人が増え、いなくなり、それが途切れることはなかった。私がなにも変わらなくとも、目まぐるしく環境は変化していく。駄文ばかりの脚本の通りに進む茶番のように。
私の中身がどうなっているかなど、──どんな伽藍が広がっているかなど。誰も気付かなかった。誰にも心が動かされることはなかった。私の生はこのまま、つまらないまま終わるのだと思っていた。
彼に出会うまでは。