つめたいまち あの子が消えてしまってから、2年がたった。
世界はあの子をとうに失っていたから、なにも、なにひとつ変わらなかった。わたしだけひとり、置いていかれた。あの子がわたしの目に映らなくても回る世界。なんたる孤独。
透けるあの子の姿、揺れる長い髪、大きな黒い目、悪戯っぽく浮かべる笑顔。すべて色鮮やかに思い出せるのに、あの子はもう、わたしだけに微笑みかけてはくれない。子供のような悪戯をしてくれない。鈴の鳴るような声で笑ってくれない。 あの子のすべては少しずつ遠くなって、質量を持たない過去になって、わたしの心は侵食されるように少しずつそれを受け入れる。あの子との思い出はたくさんあるのに、わたしは、それを置いていくように、1日1日を生きてしまっている。わたしは、本当にあの子を弔ってしまった。あの子は死者であり、もうわたしと共にはいられないのだと、2度と同じ歩幅で歩くことはできないのだと、2度と一緒に時を刻むことはできないのだと、分かってしまった。わたしが子供だと見抜いていたあの子に、気遣われて、それに気付かずにこんなに長い間付き合わせてしまった。大人になれないあの子はわたしが大人になるまで待っていてくれた。
あの子はわたしの左腕を持っていった。最後の最後に触れた左手の感触は最早、記憶を改変して『思い出した』先にしかないけれど。それでもあれは幻ではなかった。あの子は確かにわたしの左手に触れて、指を絡めて、笑って、消えて行った。寂しがり屋のあの子は、最後にわたしの左腕をあちらへ持っていったのだ。わたしの左腕はあの子の寂しさに切断された。
ふたりで手を繋いでいれば、寂しくないから。
それはわたしだけの言葉ではなくなって、あの子にとっても、大切な言葉だったのではないかと思う。声という形にしないと彼女に伝わらないわたしの思考は、たしかに彼女に伝わって、彼女に伝播した。彼女の一部になった。