春風とオオカミくんには騙されない(8)春風とオオカミくんには騙されない(8)
「…付き添ってってどういうこと?」
「ひとりじゃ不安なの!」
「気になるの?」
私がそう言うとかのは黙った。
「…うん、わかった!そうだよね、心細いよね…付き添うよ」
「本当?ありがとうすみか」
2週間後。
今日はかのとゆきくんの太陽LINEデートだった。
「…今日だね」
私とかのはデートの設定場所で待っていた。
「…ところで最初から私いるのって感じ悪いかな?なんか最初から1人にさせないーって感じで」
「…別にいいんじゃないの。太陽LINEだし途中参加も覚悟の上で誘ったんだろうし」
かのはいつもより冷たい口調で言った。
緊張しているのだろうか。
すると、前方からべにこが来た。
「私も参加していい?」
かのはふい、と顔を私とべにこから遠ざける。
「かの、緊張してるみたい…かの、やっぱり私たちどこかで時間潰してから途中から来るから!べにこ行こう」
かのは私がそう言っても何も反応しなかった。
「…かの、どうしたの?」
べにこがかのから少し離れたところで言った。
「わからない。本当に緊張してるのかなんなのか…」
「緊張する気持ちもわからなくないけどね…」
しばらくして、私たちは頃合を見て合流した。
「こんにちは〜」
私とべにこは2人の後ろから登場する。
「うわ!」
私たちが来るとは思っていなかったゆきくんが驚く。
…かのは笑っていた。
私たちが来ることを知らなかったように笑っていた。
「え!2人が来るとは思ってなかったよ〜」
そして、いつもの調子でそう言った。
…やっぱり緊張していただけだったんだ。
私は安心した。
しばらく4人で遊び、楽しい時間を過ごした。
「かのちゃん、2人で話したい」
ゆきくんがそう言った。
「…うん」
一瞬かのの表情が曇った。
ゆきくんとかのは去っていった。
「…今日すみかが来るとは思わなかった」
べにこがそう言った。
「すみか、ゆきくん気になってるの?」
「…違うの。私はかのが心配で来たの」
「え?」
私はかのに付き添って欲しいと言われたことを明かした。
「そうだったんだ…すみかもゆきくんが気になるのかと思った」
「…『も』?」
べにこはあっ、と言うように笑った。
「…実は第一印象からずっとゆきくんが好きなの」
「え!?そうだったの!?」
「でもなかなか勇気出なくて…誘ったりもあんまりしなかったから思いが通じないんだと思う」
「でもまだチャンスあるよ!頑張ろうよ!」
「でもゆきくんかのしか見てなくない?無理だよ…」
べにこの目から涙が落ちる。
「泣かないで…大丈夫だよ、サポートもする。2人のこと応援する」
「…そうだよね!ありがとうすみか、私も頑張ってみる!」
べにこは私に抱きついた。
べにこは絶対こんなことしないキャラだと思っていたので、びっくりした。
その時だった。
「なんでそんなこと言うの!?」
遠くでもはっきり聞こえるような怒声が聞こえてきた。
…今の声は…
「すみか、行こう」
私はべにこと一緒に2人が去っていった方に向かった。
そこには、今まで見た事のない表情をしたかのがいた。
「なんで撮ってるの!?!?撮るなよ!!!!!!」
髪を振り乱して怒っている。
「どうせあんたも私の名前が目当てなんだろ!?!?あ!?おい答えろよ!!!!」
「撮影中止!!カメラ止めて!」
スタッフさんも焦った様子だ。
「花野!!!」
奥からマネージャーさんらしき女の人が飛び出してきた。
女の人はかのを制止するように抱きしめる。
すると、かのは今度は子供のように泣き出した。
「…申し訳ありません。今日はこのまま、花野を帰らせます。」
「わかりました…君たちも一旦、作業場に戻ろう」
作業場まで移動する車で、私たちは黙っていた。
「ゆきくん、最後かのと何かあったの?」
「…俺、ああなるとは思ってなかったんだ。」
「…ああなる、ってどういうこと?」
「…あんなことになるなんて…本当に思ってなかったんだ…名前を出すなんてあんなことになるなんて…俺のせいだ」
「…名前?誰の名前?」
「それは………し」
「着きましたよ」
窓の外はいつもの作業場だった。
「…ゆきくん、降りよう」
ゆきくんは何も言わずに車から降りた。
もうすぐ中間告白が迫っている。
そして、かのはこの日から私たちの前に姿を現すことは無かった。
オオカミくんは誰だ?