春風とオオカミくんには騙されない(13)春風とオオカミくんには騙されない(13)
「…え?」
「だからさ、こうたくんのこと諦めろって言ってんの。…私のおうちさあ、芸能事務所やってんだよね。…あんたも知ってると思うよ。俳優の○○とモデルの××ちゃんとかいる事務所なんだけどさぁ」
「何が言いたいの」
「…あんたみたいな無名の女子高生1人くらい平気で潰せるって意味だよ」
「私のこと潰してどうするの?…てか、諦めろって言っておいてそんなにこうたくんのこと好きじゃなさそうだけど」
「そんなの私が売れたいからに決まってるでしょ?今人気急上昇中のbad-boyの1番人気だよ?オオカミくんで成立したらもれなく人気になれるの。私と番組で成立したらどう?私はこうたくんの彼女。1番人気の彼女。私は?必然的に人気女優になれるじゃない!」
「…呆れた。スタッフさんに言うから。」
「言っとくけどスタッフさんの中にも私の内通者がいてさ〜、密告なんてしたらすぐ私のパパに話行くよ?」
「…」
私は黙って更衣室を出た。
…その日の夜
『え、まおってそんな子だったの?』
私はかのに電話した。
「そうなの、なんかスタッフさんに言おうとしたらスタッフの中にも内通者がいるって言われて…」
『うーん、それは嘘かも。番組の中に自分の内通者がいるって普通はありえない話だよ。ファンがいるならまだしも事務所に話が行くって言うのはありえない』
「え、じゃあ家が芸能事務所っていうのも嘘?」
『ううん、それは本当』
「えっ」
『今調べて見たんだけど、最近新進気鋭になってきた事務所みたいだね。社長の神田って言う人、wikiに載ってる。著名な親族の欄に娘のまおも載ってる』
「なんかどこまで本当でどこまで嘘かわからない…」
『それが芸能界だよ。…とりあえず、まおとの接触は番組に影響が出ない限りは避けた方がいいかも。』
「うん…」
その翌日。
私はまた作業場に行った。
作業場に着くなり、べにことあいなが近づいてきた。
「すみか、おはよう〜!」
「突然だけど…今日私たちと一日作業してくれる?高所作業、あいなが怖いって言うのよ…」
「高い所好きだって言う人の気が知れないよ…事務所NG出してなかった私も私だけどさ…人が沢山いた方がいいし!」
「わかった。一緒に作業しよう!」
「「ありがとう〜!」」
高所作業は、クレーンを室内に入れて作業する。
2台あるクレーンの内、1台に私とべにことあいなが乗った。
「ひょー!!高〜い!!」
高所恐怖症を騙っていたあいなのテンションが何故か高い。
「…あいな、本当は高いところ好きだよね…?」
「そうだよー!」
そうだよって…
そう思ったその時。
「…ごめんね。こうでもしないとすみかと話せないと思ったの。」
べにこがそう言った。
「え?私と話がしたかったって…?」
「…すみかにとってなんのメリットも無いってわかってるんだけど…ここ最近、作業場でまおがすみかの嫌な噂をずっと流してる。」
「…え」
「なんかこうたくんをお金で誘惑したとか〜…なんか彼氏がいるのに番組参加してるとか〜…言ってる…」
「…やめてって言っても、逆にまおに脅される?」
私がそう言うと、2人は頷いた。
「2人もそうなんだね。教えてくれてありがとう」
「スタッフさんにも相談したんだ。もう番組側でも把握してたみたい。うまく編集するから…っては言ってたけど。」
べにこが言葉を濁らせたわけがなんとなくわかった。
やはり大手芸能事務所の所長の娘ということもあり、番組側が直接注意したりとかができないのだろう。
「…2人とも本当にありがとうね。私は大丈夫だから」
「すみかがそう言うならいいんだけど…でも不安になったら私たちを頼ってね」
2人の視線から、私を心配している気持ちが伝わった。
大丈夫、1人じゃないんだ
私は自分の心にそう強く言い聞かせた。
「おーい!休憩しようぜ!」
男子が下の方から私たちを呼んだ。
私たちもそれに応じ、一度下に降りた。
私が地面に足をつけたその時だった。
「すみかちゃん!ちょっといいかな」
スタッフの1人に呼び止められた。
「どうかしましたか」
私はスタッフさんの元に行った。
「監督が呼んでる」
スタッフさんはどこかを指差してそう言った。
その指の先に、佐藤さんがいた。
私が佐藤さんを見ると、佐藤さんは笑顔で私に手を振ってきた。
「どうかしましたか」
今度は佐藤さんに向かってそう言った。
「呼び出してなんだけど、ここでできる話じゃないから外に出ようか」
私と佐藤さんは外に出た。
何かと焦らしてくる佐藤さんに内心イラつきながら私は聞いた。
「話ってなんですか」
「澄花ちゃん…僕の質問に正直に答えて欲しいんだ」
佐藤さんのその言葉に私は思わず黙る。
「そんなに難しいことは聞かないから。質問は1つ。今、この番組に気になる人はいるか?」
私は…すぐに答えることができなかった。
「今、気になる人は…いないかもしれません。思えば、自分の恋は二の次みたいな感じになってたかもしれない。他のメンバーの恋とか…それをただ見ていただけで私は…」
「オーケーそこまでで十分だ」
佐藤さんは遮るようにそう言った。
「もう何が言いたいかわかるね?」
佐藤さんは一呼吸置いてこう言った。
「今回のオオカミくんの成功は…はっきり言って君1人にかかっているとも過言ではない。視聴者は君の恋が見たいんだ。…まだよくわからなそうな顔をしているね。君は言わばシンデレラなんだよ。大人数の中から、こちら側の人間に認められたシンデレラ。…しかも君は一般人だ。澄花ちゃん、最初に僕が言ったことを覚えているかい?君を起用することでオオカミくんを身近な番組にしたいと言ったことを。…だからこそ君の恋愛が見たい。番組のために、誰かを好きになって欲しいんだ」
オオカミくんは誰だ?