春風とオオカミくんには騙されない(12)春風とオオカミくんには騙されない(12)
「私は昔、新庄はなのという名前で子役をしていました。」
かのがそう言った瞬間、周りが少しざわつく。
「子役活動をしているうちに…みんなも知ってると思うんだけど、あの事件がありました。私は芸能活動を休止しました。」
「…どうして今ここにいるかというと、自分があの時大好きだったお仕事を続けたかったから。どんな形でもいいから、戻りたいと思った。…それでも今、この話をしているというのはあまりにも身勝手すぎることだと感じています。」
「もちろん自分でも、身勝手さをわかって話しています。番組にも穴を開けてしまう。みんなの顔に泥を塗ってしまう。それもわかっています。」
「…だから、逃げようと最初は思っていました。誰にも言わず、こっそり番組から、芸能界から消えようと思いました。それでも、そんな卑怯なことはできない。こっそり消え去るのは、1番やってはだめだ。そう感じました。」
「…私は、ある人に月LINEを送りました。…すみかです。」
スクリーンに、私とかのの月LINEの映像が映る。
みんながスクリーンを見ている中、私とかのだけがスクリーンを見ていなかった。
月LINEの映像が終わったあと、かのはまた話し始めた。
「…こうやって生放送で話すことを提案してくれたのは、すみかです。この場を設けてくれた全スタッフさんたちに、改めて心から感謝します。」
「…それでも、どうしても。この場で本当に感謝したいと思っているのは…ゆきくんです。」
私はそれを聞いて思わずびっくりしてしまう。
かのはゆきくんに正体を気づかれたから辞めるんじゃなかったの?
スクリーンにまた映像が映る。
今度は私も映像を見た。
『…ごめんね、呼び出して』
それは、ゆきくんとすみかの太陽LINEデートの映像だった。
『…実は、ちょっと聞きたいことがあって。…ずっと、聞きたかったことがあったんだ。』
『何?』
『…君は、新庄はなのちゃんだよね?』
『…え』
『…俺、新庄はなのちゃんが小さい頃から好きで。君みたいになりたいって思ってこの業界に入ったんだ。それでも俺、背が低いから俳優向きじゃなくて、だから声優に…』
『…なんでそんな事言うの!?』
『…え?』
『どうして今更その名前を出すの!?…お前も…なんで撮ってるんだよ!!撮るなよ!!!…どうせあんたも私の名前が目当てなんだろ!?あ!?答えろよ!!』
『おいカメラ止めろ撮影中止だ』
ここで映像は終わった。
「…ゆきくん、あの時は本当にごめんなさい。あの名前で呼ばれたから動転してしまった。あなたがあの日、私に憧れていたことを後から聞いた。…本当にごめんなさい」
「…新庄はなのだった時、周りが見えなくなっていた。悪い意見ばっかりに囚われて、自分を応援してくれてる人がいないと思っていた。…だからね、ゆきくん。私、今本当に嬉しいの。ありがとう」
「私の話を聞いてくれてありがとう。私の話は、これで終わりです」
それからかのは、番組から居なくなった。
久しぶりの撮影の日、私はいつものように作業場に向かった。
「おはようー」
「おはよう!」
「おはようー」
あの日から随分経った。
…もう、かのがいない作業場にも慣れた。
とは言え、私はちょこちょこ連絡をとってるんだけど…
その時だった。
「…すみかおはよう!」
まおが私に話しかけてきた。
「おはようー」
「あのさ、ちょっといい?」
私はまおに呼ばれ、カメラのない更衣室に入った。
「どうしたの?」
「すみかに話したいことがあって!あのね、」
まおは一拍置いて言った。
「いい加減こうたのこと諦めてくんない?」
オオカミくんは誰だ?