春風とオオカミくんには騙されない(11)春風とオオカミくんには騙されない(11)
私たちはエントランスから場所を移動し、会議室らしき部屋に入った。
「…まあ言いたいことはだいたい分かるけどね。話って何?」
かのは立ち上がった。
「…番組を辞退させてください」
「…花野ちゃんさあ、モデルも辞めちゃってこの先どうするの?芸能界で生きていくにはきついと思…」
「芸能界は引退します」
「ほう…芸能人との恋愛は性に合わなかったかな?」
「…いえ、実は…」
かのは自分が新庄はなのだったことを話した。
「…それは悪かったね。こちら側も君の意向を汲んであげられなかった」
佐藤さんはそう言うと突然黙ってしまった。
「…あの、途中辞退は出来るんですよね?私の時も佐藤さん途中辞退していいからって言いましたよね?」
私は思わず入り込んでしまった。
「…いや、途中辞退はできるんだけどね。芸能界も引退するとなると色々と辻褄が合わなくなっちゃうんだよ…だから、辞退発表を芸能界引退の時期とと合わせなくちゃならないんだ…そんなこと出来るか…?」
佐藤さんはブツブツと何か言いながら考え始めた。
かのは黙り込んでしまった。
…ん?待てよ?
これなら辞退発表を引退発表と合わせることが出来る。
「…あの、提案があるんです」
私は2人に考えを話した。
「…確かにそれなら時期は合わせられる。…でもそれには流さなきゃならない映像がある」
「…その映像ってなんですか?」
「…倖くんと花野ちゃんの太陽LINEデートと、澄花ちゃんと花野ちゃんの月LINEの映像だ。…念の為一部始終を撮らせてもらったよ。…澄花ちゃんの言ったことをするんだったら、これはどうしても流さなくてはならない。」
「構いません」
かのははっきりとそう言った。
「普通に戻れるならどんな形であっても構いません」
かのがそう言うと、佐藤さんは一瞬ニヤッとした。
「今すぐ次回の放送の予告を変更する」
日曜日、午後10時…
番組に参加している男子メンバーがステージのある映画館に集められた。
「…なあ、みんな何か聞いてない?」
「…俺が聞いたのは、今日の放送内容が変更になるって話だけ」
「…え?俺は女子から発表があるってTwitterで…」
その時だった。
だんだん映画館の照明が暗くなる。
一瞬の暗転の後、ステージにさっきまでいなかったはずの女子メンバーが立っていた。
映画館のスクリーンに文字が映る。
『本日はお集まりいただきありがとうございます』
『今日のオオカミくんは予定を大幅に変更し』
『ある女子メンバーからの重大発表並びに』
『番組史上初 生放送でお送りします』
「生放送…?」
「じゃあ今もうオンエアされてるってこと?」
『発表のあるメンバーにスポットライトが当たります』
スクリーンが暗くなった。
しばらくの暗転の後、かのにスポットライトが当たる。
男子メンバーと私以外の女子メンバーは、少しざわついた。
かのはそのまま、ステージの真ん中に移動した。
「…このような場を用意していただいたことに感謝します」
かのは一呼吸して言った。
「私 福寿花野は本日をもって『春風とオオカミくんには騙されない』の辞退、並びに芸能界を引退させていただきます」
相変わらずざわついているメンバーとは対照的に、私はただ1人泣くことしか出来なかった。
オオカミくんは誰だ?