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    3ten98yen

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    https://privatter.net/p/8208460にアップしていたものと同テーマで鯉登視点のものを書こうとしていたけれど手詰まりになってしまったので没ネタ供養&ポイピク試したかったので。
    ある日、急に軍曹の内心が文字として見えるようになってしまった少尉の話。色々とあるようでさしてない日常、山猫を添えて。

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    ○○は口ほどにものを言う/鯉登の場合【月鯉/転生現パロ】 ある朝、恋人の呼び声で目を覚ましたら、その恋人の顔にデカデカと字が書かれていた。
     
    「鯉登さん? どうかしたんですか? 鯉登さん?」
     ベッドの上で身を起こした私の顔を、傍に立つ月島が怪訝な表情で覗き込んでいる。
     鼻の低さや目つきの剣呑さなど、造形は少々独特だが渋みがあって男らしい、大好きな月島の顔。ところが今、その肉の薄く固そうな頬になんとも邪魔な黒文字が浮かんでいるではないか。
    『寝ぼけてるのか? 大丈夫だろうか』
     それも、なぜか角ゴシック体である。
     しばらく月島の顔をじっと見つめていた私は、意を決して口を開いた。
    「……なあ、月島。お前顔に文字を書いたなどということはないな?」
    「は?」
     眉根を寄せて聞き返してきた月島の顔にはありありと『この人は何を言ってるんだ』と書いてあるようだった。いや、実際に書かれている。先ほどまで浮かんでいた文字が一瞬でそう変わっていた。
     これが例えば白石とかが相手だったなら、新しい悪ふざけだと考えて一体どういう仕組みなのか問い詰めもする。しかし、私の恋人である月島は良く言えば生真面目、悪く言えば面白みのない男なのでそんな真似をするとも思えない。いやでも、どういう仕組みなんだろう。
     気になってどうしようもなく、私は目の前にある月島の両頬をガシッと両手で掴む。押されたせいで顔がちょっと愉快なことになった月島が何やら言っているが、それを聞かず文字に集中した。
     また一瞬で文字が変わる。
    『この人の奇行には慣れているつもりだったが、今朝は本当に一体なんなんだ』
     失礼な、私に奇行などしているつもりは全くない。その怒りも込めて、ムニムニと月島の顔をいじり回す。
     けれど文字にも触れているはずなのに、指先に感じるのは髭をあたったばかりのややざらざらした感触ばかり。やっぱり不思議でならない。
     しばらくもそうしていた私の手を、月島の意外に大きな手が掴む。それはもう嫌そうな表情をした月島は、頬から私の手を離しつつ言った。
    「寝ぼけてますね? だから夜更かしはそこそこにするよう声をかけたでしょう。平日なのに遅くまで杉元達と遊んでいるから——」
     眉間に川の字を刻んだ月島がくどくどと説教を始める。ベッドに正座をしてそれを聞くふりをする一方で、私の目は相変わらず例の文字を追っていた。
    『とはいえ、こういう奇行は初めてだし、いっそ心配だな……具合が悪いとかじゃなければいいが。後で熱でも測ってもらうか』
     つらつら記されていくそれに、気まずいような申し訳ないような心境になってしまう。
     書かれている内容がそのまま月島の内心なのだとしたら……こいつ、私のことをいくつだと思っているんだろう……
     なんだか朝からしょっぱい気持ちになった私は、まだ続いている月島の説教を半目で聞き流したのだった。
     
     
     その後もちょこちょこと変わる顔の文字の謎は解けないまま、月島はいつも通りに出社をしてしまった。
     玄関を出ていく直前の月島の頬にはしっかりと『心配だし今日は早く帰るか』と書かれていた。それを喜べばいいのかどうか、なんとも言えない気分である。
     今日は講義が四限の一つしかなく時間のある私は、フロアワイパーで床を簡単に掃除しつつスマートフォンを取り出す。そしてメッセージアプリでとある人物へ短い文章を送った。
     まあ、そろそろ始業時間で向こうも忙しいかもしれんから、昼にでも返信があれば……
     そんなことを思いながらせっせと掃除を続けること数分。短い通知音が聞こえて、スマートフォンの液晶が返信のあったことを教えてくれた。
    「早いな……大丈夫なのか社会人のくせに」
     呟いてアプリを開く。そこに表示された名前は【尾形】だ。そう、かつての性格極悪凄腕スナイパー山猫もどきにして、現在は性格極悪かつ山猫もどきのまま月島の部下としてサラリーマンをしているあの尾形。
     以前、ちょっとした訳があって連絡先を交換する羽目に陥ったのだ。とはいえ、月島はなぜか私と尾形が交流を持つことを嫌がるので、連絡を取り合うことはほぼなかったけれど。
     私が先ほど送った『今日、月島の顔に妙なものがついていないか』という問いかけに対して、尾形の返信は『妙な顔だが特別何かついてはいない』という内容だった。失礼な、月島の顔は妙なのではなく味があると言うのだ。
     どう返信をしようか考えていると、向こうからさらにメッセージが続く。
    『忙しい社会人様へ急にくだらんことを聞いてきてどうした』
     以前、もう今世の私相手に敬語は抜きにすると言っていた通り、随分とぞんざいな書きぶりである。
     それにしてもこいつ、対面でも腹が立つが文章のやり取りだと余計に腹が立つな……そもそも忙しい社会人様ならこうも早々と返信を寄越さないのでは? 
    『その割には返信が早いな、真面目に働け。月島のことは今朝ちょっと顔に妙なものが見えたから、それでだ。大した話ではない』
    『俺は要領が良いんでな。あと、気になるからその話は直接聞かせろ』
     そう言い出した尾形が、続けて勝手に時間と場所を指定してきた。月島が嫌がることもあるし『断る、行かん』と送ったものの、それには既読の印がつかない。あの山猫、よりによってこのタイミングで……!
     困惑するやらイライラするやらで待ったものの、結局既読はつかぬまま指定された時間が近づいてきた。場所は月島と尾形の会社の近くで、そろそろ出ないと間に合わない。
     尾形のやつが勝手に言い出したことだし、断りだって入れたのだから行く必要はないだろう。しかし、相手が誰であっても待ちぼうけを食らわせる可能性があるのは落ち着かない。
     自分の感情で板挟みになった私は、何度かぐるぐると室内を歩き回って、最終的に溜め息をつきつつ荷物と上着を掴んだ。
     尾形には全く、これっぽっちも会いたくないが、行くよりも行かない方がストレスが溜まりそうな気がするのだ。とりあえず月島には内緒で、パパッと行ってパパッと済ませてしまおう。
     
     
     そんな心算をつけて向かった先は、何度か月島との待ち合わせで使ったことのあるシアトル系カフェ。
     私の気分と同様の曇り空の下、入口を潜り店内を見回したところ、奥の席に座っている尾形が目に入った。
     カウンターでカフェオレを購入し怒りの形相で正面の席へ座った私に、左右非対称の皮肉げな笑みを浮かべた奴が言う。
    「断る、行かん、じゃなかったのか?」
    「喧しい、わざとらしいことを言うな」
     三分前にやっと既読をつけておいてからに……。社に戻り次第コピー用紙の端で指を切ればいい。
     心中で小さな呪いをかけていたら、尾形が自分のカップを傾けながら口を開いた。
    「で、月島課長の顔がなんだって? 鼻がない以外に何か問題でもありモスか」
    「おい月島の悪口はやめろ、大体あの鼻は愛嬌があって可愛いだろうが」
    「愛嬌……?」
     まるで初めて聞く言語のように怪訝に眉を寄せて呟いた尾形を無視して、私は一つ咳払いをしてから今朝のことについてざっと説明をした。
     その間、ずっと片眉を上げて唇を引き結ぶという何とも言えない表情をしていた尾形は、私の話が終わった途端に言う。
    「よくそんな話をする気になったな、頭がおかしいと思われる可能性しかないってのに」
    「それは承知しているが、貴様にどう思われようと腹は立っても傷つきはせんし」
     本音を返した瞬間、尾形は前髪を掻き上げてあの聞き慣れた空々しい笑い声を上げる。
    「キューピッド様にひでえ言い草だな」
    「貴様のような髭のキューピッドがいてたまるか。大体、いつまで恩に着せるつもりだ」
     今世で月島と再会するきっかけ——こいつの弟である勇作殿を経由して月島の住所やらを聞き出したせいで、ことあるごとに引き合いに出されるのだ。なんともまあ器の小さい男だと思う。きっと、お猪口の底くらいの面積しかないに違いない。
     憤然とした私の前でお猪口がまた笑う。
    「またそんな恩知らずな台詞を吐いたせいで、そら」
     そう言って、猫によく似た意地の悪そうな目で私の肩越しに何かを示す。あっ、これは嫌な予感しかしない……
     一つ深呼吸をしてから、ゆっくりゆっくりと振り向く。何だかギギギという錆びついた音が自分自身から聞こえるようだった。
    「キエッ……!」
     嫌な予感ほどよく当たるもので、振り向いた先には、これぞまさしく仏頂面とでも言いたくなるような顔つきの月島が立っていた。
     仏頂面のカタログがあったなら表紙を飾ること間違いなしのその顔には、『何をしてやがるんだ、こいつらは』と書いてある。
    「月島、これには深いわけが……」
     言っている途中で、あまりにも典型的すぎる言い訳だと気付き言葉を呑み込む。お猪口尾形が噴き出す音が聞こえて心底から腹が立ったものの、今はそちらを構っている余裕はない。
     泡を食う私を一瞥して深々と溜息を吐いた月島が、尾形の方へ鋭い目を向ける。月島の手にしている紙コップが少し変形していた。
    「尾形、前に言ったよな?」
    「そうでしたか?」
     詳しい事情はわからないが、そらとぼけているらしき尾形をしばらく眺め下ろしていた月島が、私に視線を戻して言う。
    「鯉登さん、もう用事は終わっていますね? 一緒に来ていただけますか」
    『こっちはどうしてやろうか……』
     有無を言わさぬ口調と顔の恐ろしい文言に、私は震え上がりながら立ち上がった。そのまま半ば連行されるようにして店外へ出る。
     その途中、元凶となった尾形を振り返り睨みつけたものの、奴はニヤニヤ笑うばかりだった。おのれ尾形、犬の糞でも踏んでしまえ。
     そして店外へ出て道の端へ立った途端、月島はもう一度深い深い溜息をついた。
    「たまには昼休みにましなコーヒーでも飲むかと思ってきてみれば……」
     苦々しい月島の顔には、何やらびっしりと文字が浮かんでいる。あまりに長文で細々と書いてあるのでちょっと読めない。いや、怖くて読む気にもなれない。こう、トラウマの扉を開きそうな気がして……
     しかし、こういう展開になった際にはなにはともあれ謝罪あるのみだ。昔から、月島は私が素直に謝ればそれ以上は強く出ずにいてくれた。伊達に何度も何度も小言を食らってはいない。
    「月島に黙って尾形に会ったのは悪かった。私も会わずに済むならそうしたが、騙し討ちのようなものでな」
    「つまり、何かしら騙されるなり言いくるめられるなりして、のこのこやって来たと」
     即座にそう返され、ぐうの音も出ずに視線を逸らす。流石は月島、伊達に何度も何度も小言を食らわせてはいない。
     渋い顔で呻く私を見て、月島は空いている手で坊主頭をガリガリと掻いた。それからもう何度目とも知れぬ溜息をつき、続ける。
    「……いえ、いいんです。俺もあなたには怒っているというわけではないので」
     意外な言葉だ。まじまじと見つめていたところ、月島の顔の文字が変わっていく。
    「以前あなたに危害を加えた人間を近づけたくないという、俺の我儘です」 
    『もし尾形がこの人にまた何かしでかしたら殺しかねない』
     ひく、と頬が引き攣ったのが自分自身でもわかった。いやいやいや、待ってくれ月島、流石にこの令和の世に殺傷沙汰はまずかろう。
    「いや、あのな月島、尾形のやつは私をコケにして遊びはしているが、危害云々まではないと思うぞ」
     必死に言葉を選びつつ言うと、月島はわかっていますよと頷いた。
    「さっきも言った通り俺の我儘です。それでも不安でして……だから、すみませんがやっぱりあいつとは連絡をとらないでください」
    『本心だが、重くて面倒なやつだと思われているだろうな……』
     確かに、ものすごく重い。そこは正直、否定のしようもない。
     しかし、あくまで私への心配から出た発言だということもまた事実なのだ。そう思うときちんと返事をしてやりたい。
    「うん、善処する」
     首肯した私を見て月島はどこかほっとしたような顔をした。そのままシンプルな腕時計に視線をやり、申し訳なさそうに言う。
    「ありがとうございます。……時間があればせっかくだし飯に誘いたかったんですが」
    「いや、こちらこそ貴重な昼休みを使わせてすまなかった。いつも通り夕飯を用意しておくから、夜はゆっくり食べよう。午後も頑張ってな」
     月島は、はいと答えると軽く頭を下げて踵を返した。去り際、頬に『ひとまず安心した、それはそれとして尾形はシメる』とあったので、尾形は後で何かしら面倒な事態に陥ることだろう、因果応報である。
     月島の後ろ姿を見送りながら、私はふう、と息を吐いて空を見上げた。
     曇天模様だったはずの天気はいつの間にか晴れ渡っており、眩しい日差しに目を細める。本格的な冬の直前の小春日和となりそうだ。
    「……よし、夕飯は月島の好きなものにするか」
     呟いて私も歩き出す。頭の中に、米に合いそうな主菜をあれこれと思い浮かべながら。
     
     
     キッチンに面した窓からふと外を見ると、空の端に引っかかるように照っていた夕日はいつの間にか消え失せ、深い藍色の帷が落ちていた。ぽつりぽつり灯る街灯の白っぽい光すらもどこか寒々しい。
     一方で、コンロの上では肉じゃがの入った鍋が湯気と共にリズミカルな音を立て、キッチン全体を緩やかに温めている。醤油と出汁の匂いが鼻先をくすぐり、胃が小さく鳴った。
     その横に置いた小鍋には、豆腐とわかめの味噌汁。うん、この献立で正解だったな。
     月島はあと数十分もしたら家に着くと連絡をくれていた。先に酢の物やお浸しの小鉢を机に準備しても、まだ少し時間がある。
     洗い終わった調理器具をしまいつつ、私はぼんやりと今日のことを思い出した。
     午後、月島に別れて大学へ向かった後、食堂で杉元と白石の二人に会った。それで共に昼食を取ることになり、月島の顔の文字の件は伏せて、午前の出来事について話したのだが……
    『尾形ちゃん、相変わらずだね』
     などと呑気に笑ってうどんを啜る白石の隣で、牛丼のどんぶりを持った杉元はとんでもない渋面を浮かべていた。
    『軍曹、よく殴らないでいられるよな』
     あいつが部下とか絶対無理と言い切った杉元だが、恐らく尾形の方でも同じような台詞を吐くことだろう。言ったが最後、うるさそうなので黙っておいたけれど。
    『にしても、軍曹さん穏やかじゃないってか、激重じゃん』
     白石がまた笑ったものの、今度はやや引き攣った笑いだった。気持ちは、わかる。
    『いや、俺は軍曹の気持ちがわかる。俺も、あいつを明日子さんに近寄らせたくもない。もしまた何かしやがったら殺しかねないもん』
     もん、じゃない。可愛こぶった語尾でも到底相殺できないほど物騒なことを物騒な眼差しで語った杉元に、私と白石は視線を見交わして小さく頷き合った。
     ——こいつと尾形は、できるだけ会わせない方向で。
     若干不本意ではあるけれど、心が一つになった瞬間だった。流石に身内から逮捕者は出したくない。
     とはいえ、杉元の言葉を聞いて思うところがあったのも確かだった。
     それだけ——杉元が明日子へ向けているのとベクトルは違えど、同じ熱量の情を私に持っているのか、月島は。
     日頃、杉元がどれほど明日子を大事にしているか知っているからこそ、その事実は私をどこまでも落ち着かなくさせた。
     過保護には思うところがあれど、想いを寄せている相手に大事にされていると実感して平気な顔をしていられる人間は、そうはいないだろう。
     我ながら単純だとも思うが、私は月島の本心に慌てながらも後ろ暗い喜びを覚えてもいた。こんなこと、月島本人はおろか誰にだって言えやしないけれど。
     その時、玄関から聞こえた鍵を開ける音に思考を中断された。時計を見上げると、時刻は七時十分前。いつもよりも随分早い帰宅だった。
    「ただいま戻りました」
    「おかえり、月島」
     エプロンを脱いで出迎えると、月島は何か考えるような顔をして靴を脱いでいた。すぐ顔に、『あ、肉じゃがか、嬉しい』などと浮かんだものだから、ちょっと噴き出しそうになる。
    「すぐに夕飯にできるから、手を洗って着替えて来い」
    「ありがとうございます」
     頷いて廊下を進む月島の足取りは、内心を知っているせいか、どこかウキウキしたものに見えた。私の恋人が、今年で三十四になる男が、こんなにも可愛い。

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    MOURNINGhttps://privatter.net/p/8208460にアップしていたものと同テーマで鯉登視点のものを書こうとしていたけれど手詰まりになってしまったので没ネタ供養&ポイピク試したかったので。
    ある日、急に軍曹の内心が文字として見えるようになってしまった少尉の話。色々とあるようでさしてない日常、山猫を添えて。
    ○○は口ほどにものを言う/鯉登の場合【月鯉/転生現パロ】 ある朝、恋人の呼び声で目を覚ましたら、その恋人の顔にデカデカと字が書かれていた。
     
    「鯉登さん? どうかしたんですか? 鯉登さん?」
     ベッドの上で身を起こした私の顔を、傍に立つ月島が怪訝な表情で覗き込んでいる。
     鼻の低さや目つきの剣呑さなど、造形は少々独特だが渋みがあって男らしい、大好きな月島の顔。ところが今、その肉の薄く固そうな頬になんとも邪魔な黒文字が浮かんでいるではないか。
    『寝ぼけてるのか? 大丈夫だろうか』
     それも、なぜか角ゴシック体である。
     しばらく月島の顔をじっと見つめていた私は、意を決して口を開いた。
    「……なあ、月島。お前顔に文字を書いたなどということはないな?」
    「は?」
     眉根を寄せて聞き返してきた月島の顔にはありありと『この人は何を言ってるんだ』と書いてあるようだった。いや、実際に書かれている。先ほどまで浮かんでいた文字が一瞬でそう変わっていた。
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    剣の娘と月と猫 1 月島は、目の前で繰り広げられている光景を、頭の中で整理しようと四苦八苦していた。
     会社から帰るいつもの道である。月島のアパートは都内の勤め先から地下鉄で四十分ほど、駅から歩いて十五分ほどだ。抜群とは言えない立地だが、独りで暮らすには充分以上に広く安価なのが気に入っている。
     奨学金で大学に通い、中堅どころの商社になんとか就職して早や八年。帰宅は大概夜遅くて、人通りも少ない。途中のコンビニで夜食や酒のつまみを買い、それをぶら下げて歩いていると、ふらりと猫が目の前に現れる。
     右目が潰れた黒猫だ。
     いつも、何か分けてもらえないかと足元に絡みついてくる。月島が買うものは何しろ酒のつまみが主なもので、分けてあげられるような食べ物がない。弁当の白米を少しあげるくらいだ。かと言って、猫缶をわざわざ買ってやるのも気が引けていた。そんなものを買ってやったら、飼ってやらねばなるまい。月島のアパートはペット禁止であった。
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