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    Kon_sch5

    PROGRESS
    宵待草、鳥がよぶまで 7ちょっとだけ・・・・・



     夢見が悪い、というのは、もはや疑いようのない事実だった。
     週に一、二度は、寝汗をかいて飛び起きる。それがもう二か月は続いていた。夢の内容は思い出せない。絶望的な気分だけがべったりと背中にはりつき、はげしく打つ鼓動を聴きながら肩で息をする。絶望感の正体もまた不明だった。自分自身が危害を加えられたというよりは、取り返しのつかない行為に手を染めてしまったというような、そういう種類の絶望感だという気がした。
     食いしばりも日に日にひどくなるようで、顎から首にかけてこわばったようになって目覚めることもあった。職場で雑談の一環として何の気なしに口にすると、歯科にかかったほうがいいと熱心にすすめられた。部下からは「マウスピースは食いしばりを解消するのではなく歯への負担を軽減するものなので、ボトックス注射によって食いしばりを抑える治療がおすすめ」だと言われた。ボトックス注射というのは美容医療の領域でしか耳にしたことがなかったので、月島はおどろいた。「歯ぎしりが治まるだけじゃなく、フェイスラインもすっきりするのでお得」と言われたものの、月島は別段顔まわりをすっきりさせたいと考えたことはなかったけれど。
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    fujimura_k

    PAST2023年12月発行『喫茶ツキシマ・総集編』(番外編部分)
    月鯉転生現パロ。喫茶店マスターの月島と作家の鯉登の物語。総集編より番外編部分のみ。
    喫茶ツキシマ 総集編(番外編)例えば
    こんな穏やかな日々が
    この先ずっと

    ずっと
    続いていくなんて

    そんな事があるのでしょうか。

    それを
    願っても、いいのでしょうか。


    ***


    図らずも『公衆の面前で』という派手なプロポーズをして以来、鯉登さんは殆ど俺の家で過ごすようになった。
    前々から昼間は大抵店で過ごしてくれていたし、週の半分近くはうちに泊っては居たのだけれど、其れが週四日になり、五日になり、気付けば毎日毎晩鯉登さんがうちに居るのが当たり前のようになっている。
    資料を取りに行くと言ってマンションに戻ることはあっても、鯉登さんは大抵夜にはうちに帰って来て、当然のように俺の隣で眠るようになった。
    ごく稀に、鯉登さんのマンションで過ごすこともあるが、そういう時は店を閉めた後に俺が鯉登さんのマンションを訪ねて、そのまま泊っていくのが決まりごとのようになってしまった。一度、店を閉めるのが遅くなった時には、俺が訪ねて来なくて不安になったらしい鯉登さんから『未だ店を開けているのか』と連絡が来た事もある。
    19591

    fujimura_k

    MOURNING2022年5月発行 明治月鯉R18 『鬼灯』
    身体だけの関係を続けている月鯉。ある日、職務の最中に月が行方を晦ませる。月らしき男を見付けた鯉は男の後を追い、古い社に足を踏み入れ、暗闇の中で鬼に襲われる。然し鬼の姿をしたそれは月に違いなく…
    ゴ本編開始前設定。師団面子ほぼほぼ出てきます。
    鬼灯鬼灯:花言葉
    偽り・誤魔化し・浮気
    私を誘って

    私を殺して


     明け方、物音に目を覚ました鯉登が未だ朧な視界に映したのは、薄暗がりの中ひとり佇む己の補佐である男―月島の姿であった。
    起き出したばかりであったものか、浴衣姿の乱れた襟元を正すことも無く、布団の上に胡坐をかいていた月島はぼんやりと空を見ているようであったが、暫くすると徐に立ち上がり気怠げに浴衣の帯に手を掛けた。
    帯を解く衣擦れの音に続いてばさりと浴衣の落ちる音が響くと、忽ち月島の背中が顕わになった。障子の向こうから射してくる幽かな灯りに筋肉の浮き立つ男の背中が白く浮かぶ。上背こそないが、筋骨隆々の逞しい身体には無数の傷跡が残されている。その何れもが向こう傷で、戦地を生き抜いてきた男の生き様そのものを映しているようだと、鯉登は月島に触れる度思う。向こう傷だらけの身体で傷の無いのが自慢である筈のその背には、紅く走る爪痕が幾筋も見て取れた。それらは全て、鯉登の手に因るものだ。無残なその有様に鯉登は眉を顰めたが、眼前の月島はと言えば何に気付いた風も無い。ごく淡々と畳の上に脱ぎ放していた軍袴を拾い上げて足を通すと、続けてシャツを拾い、皺を気にすることもせずに袖を通した。
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    fujimura_k

    MOURNING現パロ月鯉 珈琲専門店・店主・月島×画家・鯉登
    脱サラしてひとりで珈琲専門店を営んでいた月島が、画家である鯉登と出逢ってひかれあっていく話。
    作中に軽度の門キラ、いごかえ、菊杉(未満)、杉→鯉な描写が御座います。ご注意ください。
    珈琲 月#1 『珈琲 月』


     そのちいさな店は、海の見える静かな街の寂れた商店街の外れに在る。
     商店街は駅を中心に東西に延びており、駅のロータリーから続く入り口付近には古めかしいアーケードが施さていた。年季のいったアーケードは所々綻びて、修繕もされないまま商店街の途中で途切れているものだから一際寂れた雰囲気を醸している。
     丁度、アーケードの途切れた先には海へと続く緩やかな坂があり、下って行くと海沿いの幹線道路へと繋がっている。坂の途中からは防波堤の向うに穏やかな海が見え、風が吹くと潮の香りが街まで届いた。
     海から運ばれた潮の香りは微かに街に漂い、やがて或る一点で別の香りにかき消される。
     潮の香りの途切れる場所で足を止めると、商店街の端にある『カドクラ額縁画材店』の看板が目に入るが、漂って来るのは油絵の具の匂いではない。潮の香にとって代わる香ばしく甘い香りは、その店の二階から漂って来るモノだ。
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