Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    penpen91420

    @penpen91420

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🌸 🍑 🍺
    POIPOI 27

    penpen91420

    ☆quiet follow

    #dilumi
    #ディル蛍

    【ディル蛍】眠気覚ましを今すぐに「うぅーーーん……」
    旅人は一人、たくさんの本棚に囲まれて唸っていた。今日はアデリンからの依頼で、ワイナリーの仕事を手伝いに来ている。報酬は申し分ない額だし、ディナーも用意してくれるというものだから食いしん坊なパイモンはやけに張り切っていて、二人は言われるがままにアカツキワイナリーのメイドの服に身を包むと、蛍は書庫の整理を、パイモンは屋敷の庭の掃除を任された。最初こそ順調に進んだ書庫整理も、こうも膨大だと疲れてしまうし、何より──
    「届かない……」
    一生懸命腕を伸ばしてみるけれど、やはり一番上の段には手が届かない。台か何かがあればいいのだけれど、生憎この部屋には無いようだった。下段の整理にばかり気を取られ、上段のことをすっかり忘れていた。始めてすぐの頃はアデリンが指示を出すのにそばに居てくれたけれど、手際の良い蛍を見て大丈夫だと思ったらしい彼女は別の仕事へ行ってしまった。ここには蛍一人しかいない。
    「やっぱり別の部屋を見に行くべき……?」
    今更感は否めないけれど、こうして時間を消費していくよりはマシだろう。でも、皆がどこに行ったのかわからない。どうしたものかうろうろと部屋の中を右往左往していると、キィ、と部屋の扉が開く音。ちょうどよかった、台がないか聞こうと振り返ると、そこには予想外の人物が立っていた。
    「……ディルックさん」
    「蛍?」
    ぱちくりと目を瞬かせながら部屋に入ってきたのはこの屋敷の主。いつも忙しそうにしている彼は屋敷にいることが少ない。今日は居たのか、と蛍も彼を凝視する。その顔には少し疲れが滲んでいて、今帰ってきたばかりなのだろうと推測される。
    「アデリンが頼もしい助っ人が来たと言っていたのが、君だったか」
    「頼もしい……かはわからないけど、今日は一日メイドさんたちのお手伝いをすることになってます」
    「それでその格好をしているんだね」
    「私は大丈夫って言ったんだけど、アデリンに押し切られて」
    「似合っているよ」
    彼に褒められるのはなんともむず痒い。恥ずかしさのあまり、う、とかあ、とか小さく呻いて、誤魔化すようにそうだ、と蛍は手を叩いた。
    「ディルックさん、台ありませんか?」
    「台?」
    「ここの本棚、大きくて一番上の段が届かないんです」
    「それなら僕がやろう」
    躊躇いなく机に乱雑に散らばっている本を手に取ろうとしたディルックから、蛍は慌てて本を取り上げる。
    「ダメです、依頼を受けたのは私だし、一応今日はメイドだし、ご主人様にやらせるわけにはいかないでしょう?」
    渡せと手を差し出してきたディルックに、蛍は首をぶんぶんと横に振る。ここで折れる訳にはいかない。じぃ、と見つめられるが、お願いしてしまえば最後、1冊どころか全ての本をしまい終えるまで手伝ってくるに違いない。報酬を貰う以上は自分でどうにかしたい。
    ぎゅうと本を抱く手に力が篭もる。その様子を見て何を言っても無駄だと思ったのか、しばし考える素振りを見せたディルックは無言のまま蛍の前に立つと、軽々と蛍の体を持ち上げた。
    「え、えぇぇ……!?!?」
    ひょい、と軽々と。彼の腕に尻を乗せるような形で抱き上げられ、蛍は驚いて声を上げた。
    「これなら届くか?」
    「届く、けど!」
    恥ずかしい、恥ずかしい!
    彼は身長が高く、抱えられれば上段には余裕で届く。顔を真っ赤に染めた蛍とは対象的に、彼は涼しい顔で蛍を見上げている。
    「これくらいの手伝いなら許されるだろう?うちのメイドは少々強情なようだからね」
    「いや、でもあの、重い、重いから……っ」
    「ちっとも重くないよ。むしろ軽い。きちんと食事はとってるのか?」
    「食べてる、食べてる!」
    だから早く降ろしてほしい。必死に目で訴えるけれど、ディルックは素知らぬ顔。早く閉まってしまえと目が言っている。お互い強情だけれど、先に折れたのは蛍の方だった。
    一人で作業していた時よりも遥かに早いスピードで抱えていた本を仕舞う。本を持つ手がぷるぷると微かに震えたけれど、ただひたすらに、黙々と。下を見れない。今だって、視界に入れないようにしているのに、じっと蛍を見つめているディルックの視線がわかるのだ。羞恥に苛まれながらも漸く本を片付け終えた。
    「……っ終わりました」
    「あぁ、そのようだね」
    「……」
    「……」
    「あの、終わりました。」
    一向に降ろす気配のないディルックに、蛍は再度声を掛ける。暴れることも出来るけれど万が一暴れて体制を崩してしまうなんてことになるのは避けたい。穏便に事を終わらせたい。
    「次の指示をアデリンに聞きたいので、降ろしてもらえますか?」
    「……そうだな、久しぶりにチェスに付き合ってくれないか?」
    「え、あの、でも」
    おそらく今回の依頼はアデリンが出したもの。大元を辿れば彼に繋がるのはわかるのだが、手伝いに来てチェスを興じるとはいかがなものか。
    「君がうんと言うまで降ろさない」
    「……ディルックさん、もしかして眠いんですか?」
    いつもより少し、目が開いていないような気がする。なによりこんな困らせるようなことを言う人では無いのだ。
    「そんなことはない。僕はただ、久しぶりに訪ねてきた友人の話を聞きたいだけだ」
    む、と唇を尖らせたディルックに、蛍は思わず口元を緩めた。あのディルック・ラグヴィンドが甘えている。成人男性に思うことでは無いかもしれないが、可愛いとさえ思う。
    「眠いなら無理しない方がいいですよ、お部屋で休みましょう」
    「……わかった」
    こくりと頷いたディルックにほっとしたのも束の間。彼は蛍を抱き上げたまま、降ろすことなく部屋から出ていこうとする。
    「え? あの? このまま行くんですか……?」
    「降ろしたら君は逃げるだろう?」
    「逃げるというか、その、お仕事に」
    「君の話が聞きたい。」
    焦って制止するも聞き入れられず。暴れて降りるわけにもいかず。
    結局、抱えられたままの状態で彼の私室へ連れられ、慌てて追いかけてきたアデリンによって救出されるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺🍌💴💒☺💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works