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    hinoki_a3_tdr

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    西の東のもどき
    西の独白
    あの子ら名前はないんかねと思いながら書いた

    「おい、***!」
    懐かしい呼び名。懐かしい呼び声。臆病なくせにプライドが高いそいつはいつも俺の後を追ってはあれこれと勝負を仕掛けてきた。それを適当にあしらうのが当時の日常で、めんどくさくもあり楽しくもあった。
    目を開く。懐かしい声は風化して、目の前にあるのは薄暗闇だった。夢だとはわかっていた。あいつはもう自身の名前を呼ばないし、自身も彼の名を覚えていない。
    それは数年前のこと、魔法使いである俺たちが国を四つに分けそれを統治すると決めた。おそらくその日をきっかけに、俺たちは互いの名前が分からなくなった。どうしてそうなったのかは分からない。それなりに手を尽くしもしたが解決には至らなかった。できないものは仕方がない。その日から俺は「西の魔法使い」に、他の魔法使い達はそれぞれ東、北、南を冠した。
    そのことを気にしたことはさほどない。呼び名にこだわりはなかったし、自分の名を呼ぶような存在も思い当たらなかった。発覚した当時、面倒だと思ったくらいのものだ。だが、今にして少し惜しくなった。俺を呼ぶあの声はもう二度と手に入らない。それどころか、あれは俺を敵視して対の領地を手にし、居を構えている。全く忌々しいことだ。
    目を瞑り、魔法を使う。どこまで見通せるこの目は、同じ薄暗闇で眠る青年を写し出した。おかしな飾りの着いたローブを身にまとい石造りの床なんて寝苦しそうな場所ですやすやと寝息を立てている。周囲には乱雑に散らばった資料の山。やれやれ、この馬鹿はまた研究に明け暮れ寝落ちしたらしい。そっと目を開き魔法を解く。
    この目はどこまでも見通せる。ただ、それだけだ。その先に手を出すことまではできない。床に転がるあのマヌケをベッドに拾いあげるなど最強の俺でも不可能だ。それこそ数年前までは簡単に触れられる距離にいたというのに。
    横たわっていた寝具から身を起こし、窓の外を眺める。早くこの国を手中に収めなければ。そうすればこの国もそこに住むものも全て俺のもの。当然、あの馬鹿者も手に入る。ずっと俺を追いかけていたんだ。あいつだって本望だろう。
    思考に耽ける俺は気づかなかった。窓の外を通る気球に。それに乗るメガネの男に。どこまでも見通せる目であろうと、未来を知ることはできないのだと思い知るのはもう少し先のこと。
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