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    hinoki_a3_tdr

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    渋→(←)鶴
    渋川編集長と高杉編集長が居酒屋でだべってるだけ
    捏造しかないし鶴松先生は出ない

    初めてあれを見た時のことを未だに覚えている。心酔していた本居梅次とはまた違う、力のある文面。まだ自分の魅力に気づいてない、この原石を輝かせてみたい。そんな欲に駆られたのはそう遠くない過去のことだ。
    「すみません、お待たせしました!」
    「全くだな」
    額に汗を浮かべながら焦った様子で駆け寄ってきた高杉にひとつ嫌味をこぼしてやる。すると、彼は苦笑いを浮かべ隣に腰を落ち着けた。
    「酷いですよ、編集長。僕が忙しいのわかってるでしょう?」
    「やかましい。それに、俺はもうお前の編集長じゃない。全く、うちの先生を持っていきやがって……」
    「僕の先生でもありましたよ〜。なんたって担当でしたし、うちの子も先生のお気に入りですしね〜」
    ヘラヘラ笑っているこのバカを一発殴ってやりたい。その衝動を酒で流し込み、どうにか抑えた。一見分かりにくいが、この男はかなりのやり手なのだ。その証拠に、うちの看板作家の担当をもぎ取り、ちゃっかり自分のレーベルを立ち上げ原稿を書いてもらっている。何より、アイツを手中に収めていた。
    「知久くん、とっても優秀で助かってますよ」
    「……その名前を出すな」
    大江知久。あの家で居候していた学生も、今では一端の編集者だ。そして。
    「知久くんが行くと、鶴松先生の調子が良くて。いや〜どっかのひねくれた誰かさんがちょっかいかけてた頃とは大違い! 知久くん様々ですね!!」
    「うるさい!!」
    「まあまあ、そう熱くならないで。安心てください、渋川編集長。うちの知久くんは鶴松先生のこと大好きだし、鶴松先生も知久くん大好きの相思相愛ではありますが、あくまで親愛! あなたのその拗らせに拗らせた恋とも執着ともいえるそれとはまっっったくの別ものですので!!!」
    「うるさいって言ってるだろ! この人でなし!!!」
    俺は勢いに任せ、グラスいっぱいに入った日本酒を煽った。この野郎、調子に乗りやがって。
    「何年越しの片思いでしたっけ? いや〜、さすが編集長。一途というかなんというか」
    「言いたいことがあるならはっきり言え」
    「え、じゃあ聞くんですけど、心酔していた作家先生のお孫さんでありハナタレガキンチョであったはずの一回り年の離れた同性にウン十年懸想し続け今も尚諦めきれずさらに年下の救世主に嫉妬しまくるってどんな感じなんです?」
    「死にたいのかお前」
    ワンブレスで四方八方から喧嘩を売ってくるこの男はほんとうにどういう神経をしているのか。理解に苦しむ。
    高杉は気にした風でもなくカラカラ笑って泡の無くなったビールを口に含んだ。
    「八割はふざけてますけど二割くらいは本気で気になってますよ。だって諦めるでしょ、普通」
    「悪かったな、普通じゃなくて」
    「いやいや、なんだかんだ立派だと思ってますよ。耳障りのいい言葉をかけて手篭めにすることもあなたならできたはずだ。でもあなたは真っ向から鶴松先生に向き合って、そうして知久くんがやってきた。先生を救ったのは知久くんですけど、守ってきたのはあなただと思ってますよ」
    「高杉……」
    「編集長が守ってくれたおかげで、先生はうちのレーベルで腕を奮ってくれてますよ!!」
    「高杉!!!」
    ちょっとまともな話をしたかと思えばこれだ。ここまで来ると毒気も抜かれるというもの。…………いや、やっぱり腹立つ。
    「さてさて、そんな編集長にご朗報が」
    「なんだ、その知久とかが辞めるのか?」
    「そんな日には鶴松先生も引きこもっちゃいますよ。じゃなくて、その先生が最近ちょっと寂しそうらしいですよ」
    「寂しそう?」
    「そうそう。なんでも、最近どっかの誰かさんが全然会いに来ないから、とうとう愛想を尽かされたのかもと」
    「…………は?」
    「自分はどう転んでも本居梅次にはなれないから興味が無くなったのかな、なーんて落ち込んでるらしいですよ。酷い野郎もいるもんですねぇ」
    相変わらずヘラヘラと、高杉は笑っている。俺はと言えば、こいつの言葉を飲み込むのに精一杯だった。なんだそれ、そんなはず……。
    「……高杉」
    「なんでしょう?」
    「金は後日返す」
    「奢りでお願いしまーす!」
    ここにいても埒が明かない。いても立ってもいられず挨拶もそこそこに俺は店を飛び出した。そんなはずはないけれど、もしかしたら。そんな希望に縋らずにはいられなかった。


    その後どうなったかは、ご想像にお任せする。
    にやけヅラの高杉に札束でビンタを食らわせたとだけ言っておこう。
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