Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💚 💜 💒 😘
    POIPOI 163

    Satsuki

    ☆quiet follow

    レトユリ。遅刻クリスマス2021.12.26

    「あっ! ねえ、見て!」
     かまってほしがり屋のエリーが声を上げたので、僕は仕方なく振り返った。鬼ごっこの途中なのに、エリーはいつだってそうなんだ。一番小さくて、足が遅いし、女の子だからしょうがないんだけど、でも時々僕らはうんざりしてしまう時がある。司祭様はいつだってみんな仲良くしなさい、って言うけれど、男の子は男の子だけで遊びたい時だってあるのに。
    「なんだよエリー、そういうの、ダメだよ!」
    「そうだよ、するいよ!」
    「ちがうもん、あそこに何か置いてあるの!」
     エリーが一生懸命そう叫ぶので、僕らは立ち止まってエリーが指さす方を見た。ちょうど、庭から外へ出る門のところだ。あそこは、たまに赤ん坊が捨てられていたり、他の教会からの荷物が届いていたり、村の人たちからの野菜や差し入れが置いてあったりする場所だ。こんなに寒いのに、赤ん坊がいたら大変だ。けれど、僕は新しい子が来るのは嫌だなあ、なんて考えてしまう。だって、小さい子は誰かが面倒を見てやらなくちゃならないし、その子の分までご飯を用意するってなると、自分の分が減ってしまう。それに、……小さい子の方が、新しい家族のところに引き取って貰えることが多いから。
    「なんだろう?」
     孤児院の生活は退屈で、みんな新しいことが大好きだ。だから、僕らはすぐに門へ駆け寄って、キィと軋む扉を開けてみる。そこには、大きな袋が置かれていた。
    「司祭様に届けよう」
    「待って、これ、……すごい!」
    「開けたらだめだよ!」
     だめって言うのに、みんなはワッと中身に飛びついてしまった。僕は焦って止めようとしたけれど、袋の中身を見て息を飲む。そこには、真新しい盤上遊戯や、可愛い女の子の服や、おいしそうな焼き菓子、くまのぬいぐるみなんかが沢山入っていたからだ。
    「名前が書いてある!」
    「どれ? みんなの名前があるの?」
    「エリーのはどれ? お名前、読んで!」
    「これ、もしかして聖クロード様からの贈り物じゃない!?」
    「聖クロード様!? すご~い!」
     僕は目をぱちくりさせて、エリーへ、と書かれたくまのぬいぐるみを彼女に渡してやった。聖クロード様だって? そんなの……おとぎ話か、裕福な家の子どもたちにだけ訪れる、都合の良い存在なんじゃないのか?
     聖クロード様というのは、その昔、貧しいフォドラの民に向けて、食べ物や金貨を配って回ったという男の人のことだ。一節によると、その人はフォドラの外から来た人間で、飛竜で空を飛び、贈り物を配ってくれると言うが……そんなの、僕は出会ったことがない。でもこうして贈り物が届いたということは、もしかして、本当にそんな人が、いるのだろうか。
    「はい、あなたのよ」
     ぬいぐるみを抱き締めたエリーが、最後の一つに残っていたらしい包みを僕に渡してくれた。僕の名前の書かれたそれは、分厚い騎士道物語の本だった。見たことがないくらい綺麗でかっこいい表紙に、僕の心は今までに感じたことがないくらい温かくなって、今にも踊り出してしまいそうになる。すごい。僕だけの本だ。僕への、贈り物!
    「司祭様に見せに行こう!」
    「でもさっき、お客様が来ていたよ!」
    「知ってるわ、とっても素敵な人たちだったもの」
     駆け出して行った仲間たちを追って、僕は慌てて門を閉じる。袋の底には、まだカードが一枚、残っていた。
    『冬のあとには、必ず春がやってくる。みんな仲良く、元気で過ごしなさい。』
     はあ、と吐き出した白い息はすぐに消えてしまった。僕は司祭様にカードを見せるために、騎士道物語の本を胸に抱えて走り出した。


    「みんな喜んでいたな」
    「聖クロードね……大飢饉の時の援助は確かにありがたかったが、こんな存在として語り継がれることになるなんて、ヤツも予想外だったろうな」
    「そうだな。いや、案外気に入ったかもしれないぞ」
     ベレトは馬車の窓から外を覗き、厚い灰色の雲を見て目を眇めた。対面に座っている伴侶はファーガス育ちで寒さには強い。しかし、その彼が毛皮の襟巻きに顎まで埋めているところを見るに、今夜は雪が降るに違いないだろう。
    「あの孤児院に顔を出したのはいつぶりだろう」
    「十と……数年じゃないか? 教会の連中も入れ替わって、そろそろ俺たちの名前も顔も、知られていなくなってきたな」
     その方がいい、とベレトは思う。伴侶と二人、一線を退いてかなりの年月が経っている。そろそろこの地を見守る役目を終えて、外の世界を見たいと思っていたところだ。新しい年を迎えたころ、切り出してみようか……
    「ところで、」
     ユーリスはニッと笑うと、ベレトの足を軽く爪先でつついた。
    「絶対に雪で足止めを食うぜ、今夜はどうする?」
    「そうだな……途中の街に宿をとろう」
    「おしっ、あそこの街だな。それなら旨い飯屋がある」
    「まだやっているだろうか?」
    「確か息子が二代目になってたはずだし、大丈夫だろ」
     伴侶の笑顔の裏に何かを予感し、ベレトは唇を笑みの形に曲げた。ベレトと同じように、ユーリスもまた、この日にこっそり伴侶への贈り物を準備していることは分かっていたが、お互いにそのことは口に出さないようにしているのだ。
    「楽しみだなあ、料理」
    「そうだな。……今晩は、一番いい部屋をとろう」
     そう言うと、ベレトは注意深く席を立ち、ユーリスの隣に移動する。狭い馬車の中で、くっつき合った肩と膝が温かい。くすぐった気に笑うと、ユーリスはわざとらしい仕草でベレトの肩に頭を乗せる。しかし内心では、最愛の人が隣にいてくれることが嬉しくて、幸福だ。
    窓の外では、いつの間にかちらちらと雪が降り始めていた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎄🎁😊🎅💖💖💖💞💖🌠🎄🎄🎄☺☺☺☺👍👍💞💒💒💒💞👏💚💜☺🎄🎁💕💚💜💖💖🎄🎁😭🙏💞💞👏👏💖☺💖💖🎄🎁💚💜💒🎄🎄🎄💚💜👏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator