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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    銀雪をクリアした記念の短文。レトユリ風味。220125

    その日は、いやに胸が騒いだ。温室で花を選ぶ間、頭の中がざわざわとして落ち着かない気分だった。ジェラルトの好きな花なんて分からない。だからいつも、手当たり次第に、その時美しく咲き誇っている花を束にして墓に供えていた。そのうちのどれかが父の魂を慰めてくれれば良い。いつだったか自分がそう考えていることを口にすると、ユーリスは可笑しそうに笑って頷いてくれた。茶会の席だった。
    『いいんじゃねえの、それでさ』
     彼が面白がっている時に、少しだけ歯を見せて笑うのが可愛らしいと思う。目を細めて、こちらを見ながら、ニッと笑う。出会った当初に浮かべていた、こちらの出方を窺うような、わざとらしく口角を上げて笑顔をつくるやり方ではない。懐疑的な色を湛えていた朝焼け色の瞳は、今は澄み切って真っ直ぐにベレトを見る。
    『あんた、まだ王になろうか迷ってるって顔してるぜ』
     どんな顔だろう。そんなに分かりやすい表情をしているなんて、ユーリス以外に指摘されたことがない。昔よりは感情が表面に出やすくなった自覚はあるが、……やはり彼には、自然と伝わってしまうということなのだろうか。
     だとしたら、自分のこの気持ちも、彼にはもう知られているということなのだろうか。
    『いつかお前にも大切な人ができたら……』
     ジェラルトの言葉が耳に蘇った。もう一緒にいてやれそうにない、という言葉と共に。では、これから自分はいったい誰と一緒にいれば良いのだろう。と、あの時に感じた孤独が今またうっそりとおぼろげに顔を出し、ベレトの心をざわざわとさせている。皆、進むべき道を決めようとしている。帰るべき場所がある者もいる。戦争は終結し、自分たちも一歩前に踏み出さなくてはならない時が来たのだ。
     大切な人。もう二度と、離れたくないと思える人。その人の幸せのためなら、なんでもしてやりたいと思えるほどの、大きな感情が自分の中にある。自分の目の前で瞳を瞬かせ、優しく微笑みかけてほしい。両腕で抱き締めて、その体温を感じてみたいと夢想し、ふとした瞬間に恋しくなって頭の中に浮かんで来るのは、彼だ。
     革袋に大切に仕舞ってある指輪をそっと確かめて、ベレトはユーリスを想う。これを渡したら、彼はなんて言うだろう。豪快に笑って指を通してくれるだろうか。それとももしかしたらちょっと頬を赤くして、しおらしく左手を出してくれるだろうか。ベレトは少し目を伏せて、ジェラルトの墓を見た。
     ユーリスと二人で歩いて行ける、そんな未来が訪れると良い。それにはいよいよ、セテスを通して、レアの話を聞く必要がある。そうすれば自分が何者で、どんな運命の下に生まれて来たのかが、きっと分かるはずだ。
    (だが、もしも……)
     もしも残酷な真実が、自分一人では受け止めきれなかったとき。ユーリスはそれでも、どんなことがあっても、自分の傍らに居てくれると、答えてくれるだろうか。
     風がベレトの頬を撫ぜ、修道院の中を吹き抜けていく。不思議と、不安はそれ以上ベレトを苛まず、愛しい人への決意だけが胸に残った。灰色の外套を翻して墓所を後にするベレトの背を、風に揺れる花束がそっと、見つめていた。

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