Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    julius_r_sub

    @julius_r_sub

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    julius_r_sub

    ☆quiet follow

    3 ──目が覚めると、薄暗い場所に居た。驚きはしたものの、瞳はすぐに暗闇に慣れて、自分が横になっていることや何処にいるのかということはすぐに判明した。やけに見覚えのあるここは、自分の執務室だ。硬くて冷たい絨毯の細かい模様も記憶にある。

    「──っ!うぅ……、これは……」

     起き上がろうとすると身体の節々が悲鳴をあげた。特に腰が酷く痛む。捻ったり力を入れるだけで激痛が走るなんて、骨折でもしたのか疑いたくなる。しかも、その時初めて自分の両腕がまだ縄で縛られていることに気がついた。

    「く…………!誰か!ここから出してくれ!」

     叫んだところで返事はなかった。悔しげに唇を噛みつき、司は痛む上体を起こす。すると、縄で縛られてはいたものの、その縄が何処かに繋がれていることはなかった。つまり、自由だ。そしてよく考えればここは司自身の執務室、どこに何があるかは自分が1番把握している。縄を切る道具はそこら中にある。
     立ち上がろうとすると、腰が痛みを訴えてきたが、司はどうにか自分自身を叱咤し、震える2本の足で体重を支えた。机の引き出しの中に、ナイフが入っていたはずだ。それが見つかれば、自力で縄を切る事が出来るだろう。他にも部屋の隅には剣があるし、壁に銃剣をかけておいたのを覚えている。そうしてふらふらと机に向かって歩いていると、ふと、机より少し離れた、少々陽の光が漏れ出ている、締め切られた鎧戸から馴染みのある声がした。

    「──さん!──こうさん!!」
    「まさか……!!」

     声は、いつもこの部屋に訪れていた森の民のものだった。切羽詰まったようなその声色に、司は背筋が凍るような感覚さえ覚えた。
     今は、一体何月何日の、何時だ。弾かれたように、時計がかかっていたはずの方向を見遣ると短針は12の数字を通り越していた。鎧戸から微かに滲む太陽の光は、まだ明るい時間だということを示している。類は、和平交渉の、宝の交換をするタイミングで、宝を持ち去ったことを発表すると言っていた。
     額に冷や汗を浮かべ、体に鞭を打ちながら鎧戸の前までたどり着き、後ろ手でどうにか鎧戸と、窓を開けた。木枠の向こうにいたのはやはりあの少女だ。いつも通り、この部屋からほど近い大木に登っている。しかし、司はあることに気がつく。

    「枝が…………」
    「将校さん!!良かった、無事だったんだね!」
    「──お前!どうしてここに来たんだ!殺されるぞ!」

     ホッとしたような、そんな表情を浮かべる彼女は、非情にも短く切られた枝の根元に立っていた。何故そんな表情をしていられるのか不思議でならない。きっと、類の計画通りならば少女は司が宝を奪って逃げたと聞かされているはずだ。彼女以外の森の民は今どうしているのだろうか、類の思惑通りに動いてしまっているだろうか。もしそうならば、こんな場所に居ては射殺されるかもしれない。

    「あたし、森も、町も、守りたいの!みんなでちゃんと仲直りしたい!」
    「──!!」

     どこまでも、真っ直ぐな瞳と声。森も、町も、守りたい。司だって同じ思いを持っていた。豊かな自然に覆われた森も、無機質な煉瓦に囲まれた町も、どちらも損なわれることがないように、守りたいと思っていた。果てしない、無力感。気がつけば、同調するようにそれを呟いた。

    「私も、双方を守りたい、守りたかったんだ……!」
    「うん……だからあたしが、今からそっちに行って将校さんを助けるよ!」
    「こっちに──?まさか、飛びうつる気か!?」

     司とは対照的に、少女の声や表情は自信や希望に満ちていた。けれど、彼女の足元はあまりにも頼りない。思わず窓に駆け寄り、枝から部屋までをもう一度見遣る。随分と短く切られたものだ。見るものを驚愕させる運動能力を持つ森の民であろうとも、この距離はあまりにも危険だろう。焦りや不安で、汗の滲んだ拳を強く握りしめた。こうしている間にも時間は進んでいく。
     ふと、遠くで土を踏む音がした。目を凝らせば、軍服を纏った兵士が2人、銃剣を片手に歩いている。平時であれば2人1組の見回りなんて滅多なことでは見ることはない。焦燥感が、増す。

    「落ちたら大ケガをする上に、見回りの兵士につかまるぞ!」

     なるべく小声で、向こうの兵士を視界に映しながら司はそう言い放った。彼女もまた、同じ方向を視界に収める。きっと兵士に気づいたことだろう。
     さて、どうしたものだろうか。このままこの大木の上に居ろと言ったところで見つかっては危ない。けれど、降ろしたところで兵士の目に止まれば同じことだ。

    「…………今から私は、自力で縄を切って、この館の兵士を説得するから、それまでそこを動かず──」
    「絶対落ちない!あたしを信じて!」

     がさりと、細い枝が揺れた。思わず向こうの兵士を見るが、幸い今の声は聞こえていなかったようだ。少女の瞳は未だ、真っ直ぐだった。そして、ダメ押しのように少女は一言。

    「あたしは絶対──跳び越えてみせる!」
    「…………!」

     声も足も、震えのひとつ見せることがなかった。失敗を恐れないのではない、失敗なんて未来は無いと断言していた。──と、ここで初めて司はあることに気づいた。

    「そ、そうだ!和平交渉はどうなったんだ!今、森は、町は無事か!?」

     館はまるで戦争のような厳戒態勢の雰囲気を醸し出している。しかし、外はやけに静かで、銃の音も、金属音も、火薬の匂いも全く無かった。きっと、まだ戦いは始まっていない。
     少女はまず、こくりと頷いた。

    「あのね、さっき、将校さんが、宝を奪っていなくなっちゃったって聞いて、あたし、将校さんがそんなことするはずないと思って──!でも、森のみんなは将校さんを裏切り者って言ってカンカンになって、町を焼こうとしてるらしいの。」
    「…………」
    「あたしは誤解を解くために、ここに来たの!みんなが町を襲う前に、将校さんは事情があって宝を届けられないだけだって!」

     司の執務室から、森は見えない。宝を交換するはずの広場も、ここからは遠く、見えなかった。

    「私は、部下に裏切られたんだ……!その上、宝を失ってしまった。だが、君は……そんな私の事を信じてくれるんだな……」
    「──うんっ!あたしは、将校さんがそんな人じゃないって、信じてる!」

     この和平交渉は、互いを知り、信じ合い、いがみ合うことが無くなるようにという願いから生まれたものだった。思えば、彼女は初めて会ったその時から人を無闇に疑わず、偏見をぶつけない、優しい心を持った人物だった。類は、司のことを優しいとしきりに言ってはいたが、本当の優しさというのは、きっと彼女のようなものを言うのだろう。

    「わかった!一緒にすべてを明らかにして、この無益な戦いを終わらせよう!」

     窓からそっと、離れる。彼女を身体で、受け止められるように。

    「跳んでくれ!」
    「──うん!!」

     タンッ、と軽い音が鳴った。

    ───────

     久方ぶりに自由になった両腕が最初に掴んだのは、少女の小さな手だった。感謝を述べ、強く握りしめて微笑むと、彼女は明るい笑みを零す。それだけで血が滲む手首の痛みが、引いた気がした。

    「ん?あれ?将校さん、これどこで貰ったの?」
    「これ、とは?」

     机の上を見た少女は、赤い果実を拾って見せてくる。全く見覚えがない故に、なぜそれがこの部屋にあるのかは謎でしかない。

    「この木の実、猛毒なんだよ!食べなくて良かったね!!死んじゃうところだったよ!」
    「なんでそんなものがここに……?まぁいいか。」

     少女が果実を机に戻す。少女が言うには猛毒、それも死んでしまう程のものだったようだ。ますます謎が深まるが、そんなことを考えていても仕方がないと、思考を辞めた。

    「さて、ここからどうするか……」
    「宝を交換するんだよね?」
    「そうしたいところなのだが、生憎“黒い油”を紛失してしまったのだ……」
    「…………あ、さっき言ってた……」
    「町の宝も、実は何処にあるのか分からん──が、奴らは町の方には興味が無いはず、この館の何処かにあるのでは無いだろうか……」

     これから万事、何もかも上手くいく、なんてことはなかった。町の宝は、司が預かった後に自分の執務室の中に隠していた。しかし、隠していたはずの場所を探してもさっぱり見つからなかった。類か誰かは分からないが、何者かに持ち去られたのは明らかだった。
     ひとまず少女を連れて部屋の扉を開く。鍵はかかっていなかったようだ。廊下に兵士は居なかった。居たとしても、将校である己が無闇に捕まることは無いと願いたい。念の為に携えた銃剣が、役に立たないことを祈る。
     まず、司が向かったのは同じ2階にある類の執務室だった。正直、あまり入りたくはない。あの行為の跡が残っているだろう。ズキズキと、腰が傷んだ。執務室までは、誰ともすれ違わなかった。だが、一応人は居たようで、何度か気配を察知した。

    「この部屋に、町の宝があるの……?」
    「分からん。──が、可能性としては充分だ。念の為、扉の側で待機していてくれ。部屋の中心には……、あまり、近寄らないように。」
    「わ、わかった!」

     部屋に入ると、扉を開けたときに死角になる場所へ彼女を留めた。鎧戸は閉め切られたままで、薄暗い。幾つもの本棚と床に積まれた本。そんな本のこと、あの時は目に入らなかった。暖炉の火は、司が居た時から消えていたはずだ。そうして見渡していると、町の宝はすぐに見つかった。美しい細工を施された木箱が、彼の机の上に放置されていた。ホッと一息つきたくなるのを堪え、すぐに回収しなければと部屋を歩いていると、何か、湿ったような音と、感触があった。それが何か、司は全て理解していたものの、必死に考えないようにする。

    「将校さん、あった?」
    「あぁ!あとは森の宝だけだな。…………だが、どうしたものか…………」

     無事だった木箱を胸ポケットにそっとしまいこみ、もう一度部屋を見渡すが、それらしき瓶は見つからない。
     急がなければ、時間が無い。暴動は寸前に迫っている。森の民が町を襲えば、類の思うままだ。己の無力感と、焦燥感に、感情が沸き立った。気がつけば、「クソッ」と吐き捨てて、机の上に転がっていた空の瓶を床に投げつけていた。もしかして、あの時使った瓶だろうか。だとすればおぞましい物を触ってしまったと、顔を顰めて手のひらを布で拭う。
     ふと、少女の方を見ると今の司の行動に驚いたような表情を浮かべていた。怯えているとも取れるような、そんな顔だった。怒りに身を任せてはいけない、そんなことは分かっている。けれど、時間が無さすぎる。

    「し、将校さん……だ、大丈夫だよ!まだ焦らなくても……」
    「奴らの計画は、森の民の暴動を理由に、反撃と称して皆殺しにすることだ。本来は、私を殺害した罪を着せようとしていたらしいが、まぁ、どうにか私は解放してもらえてな……」
    「将校さん、殺されるところだったの……!?」
    「あぁ、森の民に殺された、ということにして今日の朝に死体にされるところだったらしい。」
    「…………あたし達が、将校さんを殺したように見せて……」
    「そうだ。暴動の途中に私の遺体が発見され、その犯人を和平交渉に納得のいかないという設定の森の民に擦り付ける予定だったらしいぞ?まあ、これから暴動が起きれば本当に私は死体になってしまうかもしれないがな。」
    「…………将校さんは、なんで殺されなかったの?」
    「……まぁ、ちょっとした、交換条件だ。それに、私が死ななくとも、良くなったからではないか?」

     少女は、森の民が皆殺しされるということよりも、なぜ司が真っ先に殺されなかったのかに焦点を向けていた。司も抱いた疑問だ。そしてその質問に対して類は、なんだかんだと理由をつけていたがあまり多くは覚えていない。けれど、少女に説明していて、改めて司はやはり何か違和感を覚えた。言葉では上手く説明出来ない。類は、司の命をどうしたかったのだろう。何かが引っかかってしょうがない。

    「…………宝を持った私を奇襲し、捕らえ、翌日に、殺す……?」

     ゆっくり、類のあの言葉を反芻する。そして、直前までの記憶を手繰り寄せるように思い出した。突如襲われた場所は、森から館への帰途だった。ほかの兵士は、居なかった。司はあの日、腰に剣を帯びていた。やはり、どう考えても変だ。森の民の仕業に見せかけようとしたら、すぐに出来た状況だったような。

    「…………なんだか、回りくどいね。」
    「……あ、ぁ。まわり、くどい……」

     ぐるぐると回る脳みそに、足がおぼつかなくなった。類のことが、益々分からない。殺す上で何か不都合なことでもあったのだろうか。机の上に杜撰に置かれている書類を調べたところで、何も得るものはなかった。あの男は随分と整理整頓ということに無頓着だったらしいことしか分からない。
     そもそも何故律儀に解放されたのか。司を生かしても支障が無いのならば、殺す必要もなかったはずだ。そういえば、抱かれる直前にも同じようなことを思った覚えがある。
     思わず、ため息が零れた。そんな中、硬い木の上に置いていた手に、冷たい感触。次いで、カチャリと音が鳴った。目をやると、空になった瓶がそこにある。昨日、散々味わった液体が入っていただろう空き瓶だ。そんなことで、思考が逸れた。そういえば、気絶する寸前まで腹に注がれていたアレは、どうなったのだろう。気になって、下腹部を摩ってみるが違和感は無い。──なんて、そんなことをしているからだろうか、急に、自分を見つめる熱を帯びた金の瞳が、何もかもを支配されているような感覚が、脳裏に蘇った。昨日、まさにこの部屋で、起こったことだ。思い出したくもない出来事だというのに、じわじわと身体が熱くなり、疼き始めた。そして、がくりと力が抜けて膝から崩れ落ちていく。

    「う、ぁ……っ!!?」
    「将校さん!?」

     大きな音を立てながら絨毯の上に膝をついた。しかも、机にぶつかってしまったからか、あちらこちらに書類が散らばり、インクの容器も机から落ちて絨毯を黒く染めてしまった。
     眼前の黒を見て、自分の白い軍服が汚れなくて良かったと、そんなことしか思えなかった。そういえば、司の今着ている軍服は汚れがほとんど無い。類が気を遣ってくれたのだろうか、など都合のいい考えが降りてくる。馬鹿げた脳みそだと嘲笑を浮かべた。類には、あんな辱めを与えられた。尊厳もほとんど奪われたのに。──だというのに、何故、類のことを憎みきれないのだろうか。本当に、馬鹿げている。
     遠く、向こうでひとりでに歩く思考。そんな空っぽの司を現実に引き戻したのは、少女の声と部屋の中を歩く音だった。

    「将校さん、大丈夫!?」
    「──あ、あぁ、だ、大丈夫だ!大丈夫だから、こっちに来なくてもいい!!」

     司の今いる机は、最短距離に部屋の中央を通らなければならない。中央はダメだ。顔を青くしながら必死に来るなと叫ぶが彼女は意に介さずここまで来てしまった。「大丈夫?」という問いになんと答えたらいいのか分からなくなってくる。濡れた絨毯なんて、彼女は全く気にしていないようだが、司にとっては非常にデリケートな問題だ。変なことを聞かれないようにと祈りながら差し出された手を取った。すると、彼女は何かに気づいたように「あっ!」と叫んだ。別に、類とのことがこの部屋の有様だけで推測されないだろうとは思っていたが、それでも急なその声は心臓に悪い。砲撃音にさえ匹敵するかもしれない。司はらしくもなく、肩を大きくビクつかせて、続く言葉を待った。

    「な、なんだ……?」
    「それ、“黒い油”じゃないの!?」
    「え……!どれだ!?」
    「その黒いの!!」

     少女が指をさしたのは黒く染まった絨毯だった。それは、机の上にあったインクが零れただけで、“黒い油”では無い。けれど彼女はそれを勘違いしたようだ。
     目を輝かせる彼女に対して、申し訳ない気持ちになりながら否を唱えた。

    「それはインクだ、油じゃない。匂いも違うだろう?」
    「ほぇ?そうなの!?でも──」
    「ほら。」

     床に転がっていたインクの瓶を拾って見せると、彼女はまだよく分かっていないようで首を傾げた。そんな彼女の様子に、よくよく考えれば森の民にこれをインクだと言っても通じるのだろうか、と司は思い直す。文字を書いているところを見たことがない。

    「これはインクだ。字を書くために用いる。」
    「油じゃないの……って思ったけど、ホントだ、匂いが全然違う!」

     やはり、インクのことを知らなかったようだ。驚きながらもインクの瓶を顔に近づけていく少女は、新たな発見に一層瞳を輝かせている。そんな光景を目にして、ふと、ある考えが過ぎった。

    「待てよ……インクで、偽装出来ないか?」
    「へ?ぎそー?」
    「あぁ、“黒い油”は無い。ならば、私たちに残された道はほかの何かで誤魔化すか、森の中の“黒い油”の沸く場所から新たに持ってくるか、宝を失ったことを素直に報告するか。」
    「うーーーん、あたしは“黒い油”が何処から沸くのか分からないなぁ。それに、宝が無くなっちゃったことは……うーーーん……」
    「だから誤魔化すんだ。同じような黒い液体なら、遠目で見ていれば分からないはずだ。」

     実際少女は騙された。“黒い油”が入っていた容器は手の中に収められる程度の大きさで、交換の際に真偽を確かめるような真似はしないはずだ。
     司は床に鼻を近づけていた少女をそこから引き離し、眉を吊り上げニコリと笑って見せた。それは、戦況に勝ち筋を見出した将校の笑顔。

    「まずはインクがある部屋に行って、そこから拝借しよう。その前に……あの時と同じ形の瓶は私の部屋にあるはずだ。何もかもが手遅れになる前に、急ぐぞ!」
    「ちょっとよく分かんないけど、何とかなりそうなんだね!」

     印刷物をする部屋には大量にインクがある。瓶は司の部屋に。少女の手を引いて、司は部屋を飛び出す。部屋に戻って瓶を用意すると、印刷機がある部屋に入った。

    「いいか、そこで待っていろよ。」
    「うん!」

     印刷機を使ったことは無いが、ここにインクがあることくらいは知っている。手際良く漆黒のインクを瓶に移し、蓋をした。これで準備は終わった。安心するのは早いが、胸を撫で下ろした。
     しかし、恐れていたことが起こる。扉を開く音が背後から聞こえたのだ。

    「きゃっ……!?」
    「誰だ、お前は!!」
    「くっ…………!見つかったか!」
    「……、え、し、将校殿!?」

     開いた扉の向こうには銃を持った兵士は、驚嘆の声を上げた。司はポケットの中へ瓶を入れるとすぐに銃剣を構え、先手必勝とばかりに兵士の首に刃を突きつけた。

    「将、校……!?」
    「その武器を全て捨てて貰おうか……!」
    「な、何で生きてるんですか!?殺されたはずでは……!?」
    「……殺され……?お前も大臣の手先か?ならば残念だったな、私は殺されてなどいない。」

     笑みを作って睨みつければ、兵士は「違います」と叫ぶ。どうにもその必死さが、どうにもおかしい。違和感がある。だから司は、再度、口を開いた。

    「大臣の、部下だな……?」
    「違います、本当に違うんです!僕の話を聞いて下さい!!」
    「は……?」

     ガクガクと足を震わせて、半泣きでそう言う兵士に嘘は見えなかった。大臣の部下では無いのならば、何故、「殺されたはず」なんて言うのだろうか。司は兵士から刃を離し、武器を全て取り上げた。

    「…………何があったんだ。何故私は殺されたなんて言った?答えろ。」
    「……っ、は、はいっ!」

     少女に手出しが出来ぬように背に隠して扉を閉め、兵士を床に座らせた。そして、インクに囲まれた狭い部屋の中、兵士の口から語られたのは、司には思いもよらぬ話だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works