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    kari

    仮です。

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    kari

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    覚醒前に書いただざあん。
    色々な顔を持つdzが好きです。

    光るか陰るか 坂口安吾はある日突然、太宰治を徹底的に避けるようになった。何十人という文豪が共に暮らす図書館は決して狭いわけではないが、それでも延々と1人の人物と会わずに生活することなどほとんど不可能に近いはずである。にもかかわらず、すでにひと月もの間、太宰は坂口の姿はおろか声すら耳にしていない。坂口はよほど警戒しているのだろう。そのうえ、こと人間関係おいて特別に敏感な太宰のフォローを同じ無頼派の織田と壇に手回ししておくという抜かりなさだ。おかげで最初の一週間で「安吾に会えるまでここから動かない!!」と坂口の部屋の前で宣言した太宰が、30:21:02で脱水症状により倒れる寸前に他の無頼派二人に回収され事なきを得たのだった。
     そもそも太宰を避けるようになった理由を、坂口は隠すこともなくはっきりと皆に告げていた。曰く「そういう病気になったから」と。
     
     
     向かい合った相手の姿を上から下までじっくりと観察して、ひと月前とのどんな些細な変化も見逃すまいとする太宰の眼は飢えた獣のそれによく似ていた。対する坂口は無防備にただ突っ立っているだけだ。飄々とした態度を崩すこともなく、今にも唸り声をあげて飛び付いてきそうな相手を見下ろしている。
    「………………病気は治ったの?」
     獰猛な気配をまき散らしていた太宰の声は、思いの外静かなものであった。
    「いいや。治らん。治る見込みもない。僅かな可能性に賭けていつかお前に会えるだろうと今日まで足掻いてみたが、それもお終いだ。お別れだよ、太宰」
     次の瞬間には坂口の視界はぐるりと回転し、後頭部と背中への強い衝撃で一瞬白く染まった。さらには胸の鈍痛で再び意識がはっきりしてみれば、太宰に押さえ込まれ圧し掛かられた身体がみしみしと嫌な音をたてている。
    「どうして?どうして!?なんでだよ!!だって『色がわからなくなった』だけなんだろ!?」
    「正確には『赤』だけがな」
     圧迫された苦しい息の中、坂口は付け加える。赤。個性的な容姿で転生してきた数多くの文豪達の中でも、その色から連想されるのはおそらくたった1人だけである。それが目の前の太宰治だ。そのままの体勢で大きく息をひとつ吐くと、坂口はひと月前に特別親しい仲間達へ告げたのと全く同じ台詞を口にする。
    「太宰治という人間は、その人間性の全てにおいて不完全であることで完璧な存在たり得るんだ。だからそこには俺の余計な私情が一切含まれるようなことがあってはならない。持って生まれた人間としての欠落こそが太宰治が天才であり、俺を含めた多くの人間が惹かれずにはいられない理由なんだ。だから……」
     長い台詞は坂口自身の中で幾度となく繰り返されてきたのだろう。淀みなく綴られる言葉の積み重ねが徐々に色眼鏡越しの坂口の瞳から光を奪っていく。
    「だから俺の病気なんぞでお前の絶対的な欠損に影響を与えたくないんだよ!お前のその『赤』が今の俺にはわからない。この絶望感は俺にとってお前から逃げる言い訳としては十分過ぎる。この病が治らないというのなら、俺が太宰治に相対するのはこれが最後だ」
     坂口が一気に言い放った後、静寂のまま二人は長い間身じろぎもしなかった。今、太宰の両腕には随分と久しぶりに坂口の体温と鼓動が感じられている。だがその表情は赤髪に隠されてしまいわからない。次に顔をあげたその時、太宰の瞳は――。



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