土産この時期にしては涼しい朝だった。
鍾離は往生堂の玄関を出て、階段を降り、すぐにその姿を目にとめた。
「・・・公子殿?」
橋の欄干の上に、見慣れたほっそりとした姿が立っている。額に手でひさしを作って、建物の間から朝日が昇る海を眺めているようだ。
「いつ戻った?」
今更、この男が橋の欄干に上るぐらいのことを気にする璃月人はいないだろう。そんなもの目ではないぐらいのやんちゃだと知れ渡っている。いや、七星ぐらいなら叱りつけるかもしれないが。
公子タルタリヤが旅人の少年に同行して稲妻へ向かったのは、ひと月ほど前だろうか。一度手紙が届いて、見たことのない仕掛けや侍との鍔迫り合いが楽しい、と書いてあった。
ぶわりと海風が彼の衣を靡かせる。こんなところに立って風を受ければ、常人なら足を滑らせてしまうだろうに、彼の真っ直ぐな立ち姿は一切揺らがない。
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