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    のくたの諸々倉庫

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    去りゆくお前の手を掴めない/鍾タル

    死ネタとか諸々。何でも許せる方のみどうぞ〜

    #鍾タル
    zhongchi

    「実のところさ、先生結構優柔不断でしょ」
    「む、どうしてそう思った」
    「えぇ? だって最近……先生ずっと何か迷ってる気がするんだよね。買い物するときも一緒にご飯食べる時もさ」
     ──こういうこと、してる時も。
     言ってするりと伸ばされた手が、俺の頬を撫でてからぱたり、とシーツに落ちる。あるいは好きにしてくれというように、けれどまたあるいはあきれてしまうように。
    「俺を前にしてさ、何を迷うことがあるのさ。言いたいことは言って、したいことはすればいい。俺は簡単には壊れないよ」
    「……そうは、言ってもな」
     ほらまた、とけらけら笑う彼にしかめた眉は、彼が笑ったことによってその腹に力が入ったからだということにしてほしい。
    「……俺はね先生、先生の何もかもを愛してるわけじゃないし……先生より大切なものだっていくつもあるけどさ。こうして一緒にいられるのは、幸せだって思うんだよ」
     だからと濁った目が、けれどまっすぐに俺を見る。
    「ね、せんせ。俺のこと、どう思ってるの」



    「……愛して、いるさ。これ以上、ないほど」
     思えばあの時、俺はどのように言葉を返しただろうか。今更の告白はとうに届くはずもなく、冷たくなった痩身を抱きしめる。
     優柔不断か。それも、そうだ。
     神として在ることを自分からやめたくせに、人としてお前の隣にいることはできなかった。俺の存在自体がともすればその体現のようなもので、けれど彼はそんな俺の隣に、ずっと寄り添ってくれたというのに。
    「……公子、殿」
     届かない。だってもう彼はいってしまった。
    「こうしどの」
     どうすればよかったのだろう。伸ばすための腕はとうになかった。それでも歩み寄ろうとすれば、彼は応えてくれただろうに。
    「……俺、は……っ」
     隣にいてほしかった。共に歩く街も、食事も床も何もかも心地よくて、ぬるま湯のようなその状況が長く続かないことだって知っていて。
     それでも俺は、彼と生きたかったし──死にたかった、のに。
    「……はは、は……」
     そうしてただかわいた笑いだけが、空気を揺らしては、消えた。
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