俺の先生は可愛い!ある晴天の日の朝、鍾離は1人で璃月港の埠頭に来ていた。埠頭にて骨董市が行われるという情報を聞き、何が興味を惹かれるものがないか探しに来たのだ。恋人のタルタリヤがいれば骨董市に誘っていたが彼は朝から取り立て業務があったらしく、北国銀行にいなかったので誘えなかった。
がっかりしたが気分を変えて骨董市を見て回る。さまざまなジャンルの本が置いてあるスペースを見ると偶然探していたがなかなか見つからなかった昔に出版された岩王帝君に関する物語が5巻セットで置いてあった。購入しようと思ったが店主に金額を言われ財布を探すが見つからない。さてどうするか、往生堂に請求回すか…?と考えていたところ、取り立てが終わり北国銀行の職員から先生朝来てましたよと言われ鍾離を探していたタルタリヤが先生!と声をかけてきた。声をかけられた鍾離は綻ぶような笑顔になり、タルタリヤがいる方向へと向いた。
「鍾離先生!どうしたの?またモラ忘れたの?」
「公子殿!ああ、また忘れてしまったんだ。往生堂に請求を…」
「アハハッ!なるほどね…じゃあ俺が払うよ。店主これで足りる?」
店主はモラを確認し、お釣りを返す。2人はお礼を言い、骨董市から離れた。
「公子殿すまない、ありがとう」
「先生、これって岩王帝君の本でしょ?先生が読むなんてどんな内容なの?」
「これは100年ほど前に出版された女となった岩王帝君が男を誘惑して手玉に取っていく物語だ」
「岩王帝君の性的な本ってこと?すごい不敬だな〜」
「身も蓋もないことをいうとそういう本だな。だから検閲に引っ掛かってしまったんだ。確か5巻出版されていたかな。1巻は読んだことがあるんだが、案外面白く次巻を買おうとしたら販売停止になってな。だから5巻セットになっている物を買えてよかった」
「ふぅん…俺も読んでみたいなー」
「もちろん貸すぞ」
「俺のモラで買ったからね?この本俺のと言っていいやつだからね?」
2人はそんないつも通りの会話をし、腕を組みながら歩く。幸せそうな彼らのその様子を周りの人々は微笑ましい目で見守る。買った本の内容については置いておいて。
その様子を偶然見ていた蛍とパイモンはつい2人に声をかける。
「タルタリヤさ、先生に凡人生活させるなら我慢させるとか無理矢理お金準備させるとかした方がいいんじゃない?」
「まぁそうだけど欲しいもの買ってもらえて嬉しそうな先生も可愛くない?可愛い恋人って世話したくなるよね?」
「そうかなぁ?先生はカッコいいとは思うけど可愛いとは思ったことないや」
タルタリヤは自分より遥かに年上の鍾離のことを可愛いと言う。横にいる鍾離も可愛いと言われ心なしか嬉しそうだ。鍾離に頼られて気分がいいのか今日は相棒もおチビちゃんも食事奢るよ!と言い出した。蛍は2人の惚気話を聴くのは懲り懲りだったので断わった。
「ええ〜っ!蛍断るのかよ〜」
「パイモンは2人の惚気話を延々と聴きたい?料理食べながら2人の甘い雰囲気やイチャイチャオーラ味わいたい?」
「そう言われると嫌になってきたぞ…」
「でしょ?私たちは違うところ行こう」
鍾離とタルタリヤは岩王帝君暗殺騒動の後から付き合い始めた。付き合う時に鍾離が周りに公子と付き合うことになったんだ、と嬉々として友人達に場所を気にせず話をしていた。そのせいで美しく博学な鍾離を狙っていた璃月港のお嬢様や一部の男たちがショックを受けたのは有名な話だ。あと某仙人もショックで倒れた。
タルタリヤはタルタリヤで普段からどんなに人が多くいる場所でも鍾離のことを可愛い可愛いと言い、エスコートもする。お兄ちゃん属性だからか世話も焼く。鍾離も嬉しそうな顔をしており、エスコートも受け入れ、世話も焼かれているのも満更でもないようだ。タルタリヤは周りにも鍾離先生って可愛いよね?と惚気る。そのような印象から周りからは往生堂の鍾離先生が女役だと思われている。魈やピンばあやなど鍾離と付き合いの長い者、蛍やパイモンみたいにイチャイチャしているところを目撃している者は実際は鍾離が男役であることを見抜いている。
タルタリヤと買い物をした次の日、鍾離は往生堂の備品を購入する為に市場に来ていた。購入し、往生堂の職員の昼食でもテイクアウトするかと思い、試しに最近できたスネージナヤの食堂に入ることにする。タルタリヤからスネージナヤの料理の話を聴き興味を持ったのだ。食堂に入るなり大声が聞こえ、声の方を向くと店の中に酒飲み商人の集団がいた。あまりにも大きな声のため、耳を塞ぎそうになるが話の内容を訊くと鍾離自身とタルタリヤの話題のようだ。鍾離はどんな話題だろうかと気になり仙術を使い気配を消し近くで話を聴く。
「ファデュイの公子様と往生堂の鍾離先生ですがどちらが男役か賭けませんかね?」
「でももう決まっているようなものじゃないですか。男役が公子様でしょう」
「普段公子様は往来で鍾離先生のことを可愛いと言い周りを牽制してますからね。エスコートもして…」
「当の鍾離先生も嬉しそうにそれを受け入れていますし」
「そういえば前、北国銀行と融資の話をしたときに公子様に我が商会の大人の玩具を恋人様に使ってくださいとプレゼントしたんですよ。そうしたらありがとうございますと顔を赤くしながら言ってくれましてね…」
何と商人達は昼間から鍾離とタルタリヤの夜の役割について賭けをしようと話をしていた。
(案外、公子殿が男役て俺が女役と考えている者が多いんだな…。そういえば以前公子殿から恥ずかしがりながら使ってほしいと言われ玩具を受け取り彼に使ったことがあるな…。もしかしてあの時の道具はこの商人の贈り物だったのか…?セクハラというやつだな、岩喰いの刑にしてやろうか。)
でもタルタリヤの可愛い姿を見れたので岩喰いの刑はやめておく。それよりも鍾離は自分とタルタリヤ、どちらが男役で女役か思われているか気になってきた。別に女役と思われて嫌ではないが好奇心が芽生えたのだ。
「ふむ…。周りはどう思っているか気になってきたな。試しに調査してみるか」
それから1ヶ月鍾離は鍾離とタルタリヤどちらが男役か女役か考えている者が多いか調査することにした。酒場や市場で彼らの話題が聞こえたら仙術で気配を消し、時に子供や女性に化け調査をした。そんな不審な動きをしている鍾離を見た蛍やピンばあやに何をしているのかと飽きられたり、魈が鍾離の奇行に戸惑っていても構わず調査した。もちろんタルタリヤとは過ごせれる時はそれを優先して過ごした。
1ヶ月後に結果をまとめたところ、璃月港の成人7割ぐらいが鍾離の事を女役だと思っていることが分かった。
調査した結果をタルタリヤと共に鍾離の部屋で過ごしている時に話す。
「先生なんなの?暇なの?そんなこと調べて」
「大丈夫だ。休憩、休暇の時や所謂隙間時間といわれる時に行ったぞ。ちなみにファデュイは9割俺が女役だと思っているらしい」
「今ファデュイ、何かと理由をつけて璃月港にいる俺以外璃月郊外にいるのによく調べられたね?!」
タルタリヤはそんな無駄なことを調査した鍾離に呆れた。そんな自分の時間を使ってまで…。もしかして先生可愛いっていわれるの嫌なんじゃないか?と考え、嫌なら今度から公衆の面前で言うのをやめようかなと思う。
「先生?もしかして俺に可愛いっていわれるの嫌だから調査したの?」
「いや、公子殿にとっては可愛いは褒め言葉だろ?今まで可愛いとは言われたことはないが新鮮に感じるぐらいで嫌じゃない。むしろ嬉しく思う」
鍾離はタルタリヤを見つめながら微笑む。嫌ではないという言葉は嘘ではないようで安心する。
「そうやって笑う先生可愛い!!」
「ハハッ。そうやって笑う公子殿も可愛いぞ」
鍾離はタルタリヤを抱きしめてタルタリヤも抱きしめ返し笑い合う。
笑い合った後、鍾離はタルタリヤのジャケットの中に手を入れてベルトを外し始める。鍾離がタルタリヤのベルトを外し始める時は大抵性行為をする時だ。それに気付いたタルタリヤは恥ずかしがりながら慌てる。
「ちょっと先生明日俺仕事なんだけどするの?」
「ああ…1週間もしてないからしたい…。ダメか?手加減はするから」
鍾離は寂しそうな顔をタルタリヤに向けてお願いする。しおらしくお願いしているようだが、目はいつもより光り輝き絶対に抱くぞという欲望に満ち溢れている。
タルタリヤも最近欲求不満だったのでしょうがない、鍾離先生のわがままを聞くか!と考えることにした。ジャケットを脱ぎ捨て鍾離の唇にキスをする。
「もう、そういうところは可愛くないんだから…。じゃあするんならお風呂行こ?綺麗にしてからやりたいな♡」
翌日の北国銀行ではなぜか寝不足になり腰を押さえながら出勤してきたタルタリヤが居たそうだ。そして近くを歩いていた蛍とパイモンを捕まえて新月軒に連れて行き愚痴と惚気話を聴かせる。
「普段の鍾離先生は可愛くてカッコいいのに、夜の鍾離先生は本当にカッコいいけど可愛くない!手加減してくれるって言ってたのに!そこもいいんだけどね!」