「まだまだ桐生さんも元気だねぇ」
風呂上りの身体をぺたぺたと触る。その手つきは幼い子供が玩具を転がすようなもので、身構えるだけ無駄であった。
しかし、どうにも台詞が合っていない。何をしたいか、何と返すべきか、頭を悩ませる。
ただ、どうやら発言主の表情を見るに、此方の困惑した様子が期待していたものであったらしい。柔らかい笑みを浮かべ、尚且つ手を止める気もない。
「ヤんねぇのか」
「ははっ。期待してた?」
「…それは、卑怯な返しだろ」
「桐生さんだって、こういうこと言ってたんじゃないの」
「おいおい。なんだ、次は嫉妬か」
口を尖らせたと思えば、またすぐに表情を崩す。
結局のところ、此方の反応を見たいだけなのだろう。卑怯とまでは言わないが、器用な男だとは思う。
自由に動いていた手が急に止まり、柔く爪を立てた。次もまた遊ぶように腹筋を突き、割れ目を薄くなぞる。
「結局ヤんじゃねぇか」
「いや、今日はヤんないよ」
「なんだよ」
「昨日熱出してたでしょぉ」
「知ってたのか」
「もしかして隠す気でいたの? ナンバ君から連絡きてたんだよ」
「……ナンバ、」
自分の知らない所で密接になっているらしい連絡網に、些か不満を覚える。何もナンバに対して腹立たしさを覚えはしないが、都合が悪くなってしまえばよく思えない。
一度点いた火というものは、簡単に消せないものだ。
「あと二、三日は様子見って言われちゃったからさぁ。我慢我慢」
「はぁ…仕方ねぇか」
「ナンバ君から許可が出たら天国見せてあげるから……ね、?」
「ふっ。それは楽しみだな」
パッと趙の手が離れ、そのまま顔が近づく。目を閉じることもせずに至近距離で見つめ続ければ、あまりにも子供くさいキスをされた。
どちらともなく笑ってしまう。
「今日はこれでおしまい」
「可愛い奴だな、お前も」
「ああ、そういうこと言う? これでも俺だって結構我慢しているんだよ」
「ナンバ先生からの許可はまだ出ないんだろう? なら、諦めてくれ」
「急に立場変わるじゃん。なんか、俺の方が期待しちゃってるかも」
後日、趙はナンバの元に通い詰めることになる。。
ナンバからの苦情が桐生に届き、今度酒の一つや二つでも奢ってやろう、と謝罪のスタンプだけ送り返した。