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    かんざキッ

    @kan_za_

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    かんざキッ

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    真桐(だれもいない)

    ※「桐生一馬を探しています」という張り紙を見つけた真が、全く知らない他人の桐を探す話

    薄暗いだけ ぼんやりと知らない街の中を歩く。駅に向かい、行先も確かめず電車に乗った。暫くした後、電車は終着駅に辿り着いたらしい。どうやら、降りる乗客は他に誰もいないようだ。古い駅に独り降りた此方を乗務員が一瞥したが、特に表情を変えることもなくそのまま電車を発進させて、駅には誰もいなくなった。
     無人駅らしい此処には駅員も他の利用客も見当たらない。適当に買った切符を、無人の改札に置かれた箱の中に入れ、駅を後にした。
     近くに人の集落も建造物も見当たらない。恐らく、車を利用しなければ辿り着けない場所にこの駅はあるということだろう。ひとまず、目の前の道を歩き始めた。
     履き慣れた靴は電車に乗る前に捨ててしまった。代わりに買ったスニーカーは、あまりにも久しぶりに履いたものだったが、当てのない歩行には最適だった。同じく、服も同じ理由で捨てた。ジャケットは長距離移動に向かないだろう。適当に選んだパーカーも久しぶりに腕を通したが、選択は間違っていなかったと知る。ただ、下ろした前髪は少し暑い気がした。
     舗装された道は、徐々に人の手から離れていった。単に土をかき集めて固めただけの道に変わっていく。周囲に生えている草花が風に吹かれて揺れる。いつしか、この道もこの植物達に飲み込まれて消えていくのだろうか。
     連絡端末も腕時計も数日前に捨てている。今が何時か、あれからどれぐらい経ったか分からない。ふらふらと歩き続けていると、道は遂に無くなった。しかし、集落が現れる訳でもない
     ただ、朽ちた祠がそこにあった。
     供え物も無ければ、手入れされた痕跡も無い。人々が関わらなくなってから、一体どれ程の年月が経っているのだろうか。
     ふと、祠の前にしゃがみ込んだ。閉じた扉は触れただけで簡単に崩れ落ちてしまいそうだった。
     何処かで見た古い記憶を思い出す。神というものは、人々の信仰心によって形を成しているらしい。それはつまり、信仰心が無くなれば神は消えてしまうことになる。

    「…、……」

     叶えたい願いなど、疾うに無くなった。あったかもしれないが、終ぞ思い出せない。
     失われた人々。大切な家族。護ると己に誓ったこともあった。しかし、そのどれもがこの手から滑り落ちた。いや、そうではない。ただ、自分が掴めたものを掴み損ねただけだ。
     朽ちた祠に手を合わせる。
     たかが、一人の人間に神を戻す力など無いに等しいだろう。嗤われているに違いない。
     それでも。

    「……、」

     独り、願う。
     この存在を消してほしい、と。
     この世から喪失させてほしい、と。
     この愛していた世界から愛する人々を護る為に、自分が成し遂げられなかったことを棚に上げて、紡ぐ。
     跡形もなく、痕跡もなく、ただ最初から何もなかったかのように。

    「…それでも、俺は」

     誰かが後ろで呟いた。
     その声には聞き覚えがあった。思わず振り返ろうとしたものの、それよりも先に視界がホワイトアウトする。身体が崩れ、確かに倒れた筈だが、その場に音は響かなくなった。
     雑草だけが風に吹かれて、揺れている。
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    かんざキッ

    DOODLE真桐(だれもいない)

    ※「桐生一馬を探しています」という張り紙を見つけた真が、全く知らない他人の桐を探す話
    薄暗いだけ ぼんやりと知らない街の中を歩く。駅に向かい、行先も確かめず電車に乗った。暫くした後、電車は終着駅に辿り着いたらしい。どうやら、降りる乗客は他に誰もいないようだ。古い駅に独り降りた此方を乗務員が一瞥したが、特に表情を変えることもなくそのまま電車を発進させて、駅には誰もいなくなった。
     無人駅らしい此処には駅員も他の利用客も見当たらない。適当に買った切符を、無人の改札に置かれた箱の中に入れ、駅を後にした。
     近くに人の集落も建造物も見当たらない。恐らく、車を利用しなければ辿り着けない場所にこの駅はあるということだろう。ひとまず、目の前の道を歩き始めた。
     履き慣れた靴は電車に乗る前に捨ててしまった。代わりに買ったスニーカーは、あまりにも久しぶりに履いたものだったが、当てのない歩行には最適だった。同じく、服も同じ理由で捨てた。ジャケットは長距離移動に向かないだろう。適当に選んだパーカーも久しぶりに腕を通したが、選択は間違っていなかったと知る。ただ、下ろした前髪は少し暑い気がした。
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