猗窩煉ワンドロ「火傷」「噂」「酔う」 赤提灯と暖簾が玄関を飾る、小さな居酒屋の一角。
店内はほろ酔い客の大きな声が反響し賑わっている。その中でもこの、一番入口から深く入った角の席からは慎ましく潜めたつもりの大きな声が漏れている。
「暑くないか?」
「暑くない」
「嘘だ、暑いだろう」
「暑くない」
「顔が赤いぞ」
「しつこいな」
「あ、もっと赤くなったぞ!やっぱり暑いんじゃないか!」
「やかましい!」
煉獄杏寿郎は何敗目かの空になった中ジョッキの取っ手をしっかりと握って、輪っか状に残る泡の縁が重力に負けて垂れていくのをじっと見ていた。
大学で、級友たちの間でまことしやかに広まっている話しが耳に残って離れない。普段、他人の言葉や流れを気にすることなく生きていただけに、どうしてこうも気がかりになってしまうのかが煉獄自身でも全く理解が及ばなかった。
1935