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    bunbun0range

    敦隆、龍握、タダホソの人。

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    タダホソ進捗その3。
    甘い。

    #タダホソ

    第一章その3「おい、多田」
     宿泊するホテルに到着したあと、今夜泊る部屋に移動しようとしていた時、誰もいない廊下で細見に呼び止められる。それだけで細見が何を言おうとしているのか分かってしまい肩を竦めた。隠そうとしていないのか細見の顔には、明らかな苛立ちが滲んでいる。想像していたよりもバレるのが早かったなと思った。
     高校二年生の時、膨らんだ欲望を抑えられそうにないと感じた多田は、何年間も共に過ごしてきた細見との夜を避けた。男はオオカミという名言があるように夜が特にダメなのだ。一番理性が緩む。夜さえ別々になれば、昼間は健全にサッカーに取り組めるのだから問題はないと、選んだ最善の選択肢だった。
     「部屋割りのことか?」と分からないふりをして尋ねると、「あぁ」と吐き捨てたような答えが返ってくる。
    「いつまでも俺と同室じゃマズいんじゃないかと思って。他のメンバーとの交流だって必要だろ?」
     用意していたもっともらしい言い訳。
     宿泊する部屋を交換ほしい。そんなワガママをチームのメンバーに伝えたのは初めてだった。細見と比較的仲の良い綿谷に頼み込むと、流石に何かあると感じとったのか茶化すことなく承諾してくれた。しかし、元よりプライドの高いエースの誇りを傷つけてしまったのか、ホテルに来て早々にこの状況である。部屋でいるはずもない綿谷と会って、すぐに多田を探しに部屋を出たのだろう。でなければ、こんなに早くに会うはずがない。
    「違うだろ。そんなくだらない理由でお前が綿谷に頼む訳がない。本当のところはどうなんだよ」
     一歩、また一歩と細見が多田に近づく。
     それに比例して、多田は一歩、また一歩と後ろに下がる。
     しかし、あと数歩下がれば廊下の壁に背中が当たってしまうところまで多田は追い詰められていた。視界の端に消火栓の真っ赤なランプが映る。まさに非常事態だ。頭の中ではすでに危険を知らせるサイレンが鳴り響いている。
     それ以上その澄んだ瞳で詰め寄らないでほしい。笑顔で取り繕っている仮面の下には、細見に欲情している情けない男がいるのだから。細見の真っ直ぐな眼差しに当てられて、ボロが出てしまったらどうしようと恐ろしくて仕方がなくなる。気まずい関係になるくらいなら、仲の良い友人のままでいさせてほしい。
     早く細見を納得させる言葉を考えなくては。
     平和的解決を望み、グルグルと思考を巡らせる。細見とのPKよりも心情的に追い詰められている気がした。
    「本当だって。小室と今日の守備のことを話したくて……」
    「それなら部屋に言って話せばいいだろ。寝る部屋を交換する必要ねぇ」
     まったくもって正論だ。ぐうの音も出ない。
    「言えよ……本当は俺がお前に嫌われるようなことしたんだろ」
     普段耳にしたことがないか細い声が聞こえた。
     マズいな。細見は、顔を合わせたくないほど嫌いだから部屋を変えてもらったと勘違いしている。
     友人としての地位を脅かしかねない雰囲気に、退路を断たれたような感覚がした。
    「違うって」
    「じゃあ、なんなんだよ」
    「それは……」
    「……」
     言葉の続きを待つように、細見が口を閉ざす。
     その時、細見は多田の隠し続けている本心を探るような眼差しで見つめているように感じた。
     微かに揺れる瞳を多田は見つめ返すしかできない。
    「……悪い。俺の勘違いだった。そういう気分の時もあるよな」
     多田から目を逸らし、細見が引き下がる。
    「てっきり多田は、俺のこと好きなんじゃねぇかって思ってたわ」
    「えっ?」
     図星を突かれ、変な声が出た。
     好きだ。好きだけど……。
     いつの間にバレていたんだろうと焦る。
    「まぁ、多田にだったら、俺はいいと思ってたけどよ」
     続けて爆弾が落とされた。
     心臓に見事命中し、ドキドキと激しい音を立てる。
     マジか。これは自分が考えた都合のいい夢じゃないよな。
     幾度瞬きしても、目の前にいる細見は消えない。心なしか細見の頬が淡く色づいているようにも見える。
     これは自惚れてもいいのだろうか。
     叶わないと思っていた願いが、今まさに叶おうとしている。
    「あ……さっきの言葉、撤回していいか?」
     おずおずと尋ねると、「どの言葉だよ」と細見に質問し返された。「部屋を変えてほしい理由」と伝えると、「やっぱり嘘だったじゃないか」と細見が恥ずかしそうに視線を逸らす。
    「俺、細見のこと好きだわ」
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