鍾離が往生堂で執務をしていると扉からひょこっと公子タルタリヤが現れ机の向かいに肘をついてきた。
「これあげるね」と突然机の上に綺麗に包装された箱が置かれた。オレンジの箱に白いリボンがあしらわれている。
その箱に手を伸ばしながら鍾離は些細な質問をする
「開けてもいいだろうか?」
「どーぞ」
鍾離は箱を手に取りゆっくりと開け、甘い匂いがふんわりと広がる。
「これは‥?」箱を開けたままきょとんとしていると横から
「先生知らないでしょう?これはねチョコって言ってさ」と得意げに話し始めた。
「冬国のスネージナヤではこの原料のカカオってのが育たなくて、よくモンドから輸入してて妹がこの時期に欲しがるんだよ。ついでに"余り"が出たから試しに買って作ってみた」
「それがこのチョコというものか」と夢中になっている。
「先生は今日もらわなかったの?」
「貰う‥?何をだ?」
「‥いやなんでもない。璃月にはそう文化がないんだろうな、忘れて」
急に歯切れが悪くなったタルタリヤを気にかけながら鍾離は話を続ける。
「俺は特にもらわなかったが、これはバレンタインチョコというものだな」
「‥」「‥知ってるじゃん!!」
「稲妻に想い人にチョコを渡す文化があると八重宮司に聞いたことがある。ついでに公子殿が俺のためにチョコ作りを一生懸命しているということを旅人に聞いた。」
「俺が一生懸命考えたシナリオが嘘ってバレてるし」
「俺も少しソワソワしていた」
「なんでだよ!!!!」
「でも、公子殿からこのチョコをもらえて嬉しかったぞ」タルタリヤは頭を抱えてしまった。
「まぁいいよ。来年また作るからその時渡す」
「楽しみにしている」
タルタリヤは立ち上がりそのまま出ていってしまった。
その後ろ姿を見ながら、鍾離はふっと笑いながら呟いた。