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    2021.11.28 ウイニングショット15&きみはくらやみのひかり2
    頒布予定の新刊
    倉御「SecretBackstage2」A6/P66/600
    ※昨年発行したSecretBackstageの続編です

    ##サンプル

    【倉御】SecretBackstage2【ボクノシルベ】

    「止まるな! 走れ!」
    「行け! 行け!」
     颯爽と駆け抜けた。
     肌で感じた風に、ぶわっと全身の毛が逆立つ。通路の床を踏み抜いて、ステージまでの階段を次々に跳躍する。ステージ上を向かって左側から右側へと走る彼ら。その後を追うように舞台袖から現れた黒子が操る機械的なモンスター。
    (すげえ……)
     舞台上に設置されたギミックをアクロバティックに使いこなしながら、モンスターを交わしたり攻撃したりしていく。中でも三白眼の男の身のこなしがしなやかで、軽やかなのに、その攻撃は重く見える。
     体中の血が沸き立った気がする。興奮が次から次へと顔を覗かせて、あまりの熱量にぶるりと身体が震えてしまった。
     初めて舞台というものを見たけれど、とんでもない世界だ。
     リテイクなし。一発勝負の中で、観客の視線を一身に浴びて、芝居をする。アクションをする。そして、観客を魅了する。
     かく言う俺も魅了された。それまでは全く興味がなかった芝居という世界。クリス先輩に誘われたという理由だけで、観に行くことにした舞台というもの。それが十五分もしないうちに役者たちに釘付けになって、場面場面を読み解くことに頭をフル回転して、次の展開に心を踊らせ、を続けることとなった。
    「どうだ、御幸。役者の世界は」
    「……すごいです。俺も、俺もやってみたい」
     映画だったか、ドラマだったか。野球のシーンのエキストラを募集していたから、なんとなく日雇いバイト感覚で応募してみた。そこで今の事務所の敏腕スカウトマンに目をかけられて、スケジュールに都合がつきやすい読者モデルとして芸能の世界へと踏み込んだ。綺羅びやかに見えて陰湿な部分も多い世界は、やはり俺には向いていない、と判断した。サークル活動で野球をする合間にやる割のいいバイト。
     大学を卒業したらきっかり足を洗って、世間一般でいうフツーの職業に就くのだと思っていた。
     人よりも一年近く遅れて就活を始めたことが、どこからどう流出したかはわからないけれど、クリス先輩の耳に入って、役者へと転向しないかと誘われた。まずは舞台に触れてみよう、と。それで駄目なら引き止めないと言われて来てみたら、これだ。まんまと策にハマった。
    「御幸はモデルよりもこっちのほうが向いていると思う」
    「できますかね、今からでも」
    「必死に努力すれば、な。御幸は元々求心力があるタイプだろう。今からでも演技力を育て、舞台について勉強すればいい」
     深く頷いて、クリス先輩と分かれた帰り道。ふと、あの役者について調べてみたくなった。仕事の連絡のためにとスマホに変えたけれど、こんなときに役に立つとは。公演の公式サイトでキャストを確認する。
    「倉持、洋一……」
     その名前をインターネットで検索して調べていく。同い年だということに親近感を覚え、幼少期に野球をしていたことに、より興味を引き立てられる。役者歴は俺の芸能歴よりも一年半長く、高校二年の頃からアンサンブルを始めたらしい。いくつもの舞台に出ているらしく、SNSもマメに更新している。そこから垣間見える人間性は、粗雑に見えてやわらかく、人懐っこい。でも見た目どおり少しだけ喧嘩っ早そうだ。
     非公開にしている友人だけ繋がっているアカウントでこっそりとフォローをして、更新の通知をつける。また舞台の予定が流れてきたら観てみようと思った。


     クリス先輩の紹介で演劇指導を行ってもらいながら、クリス先輩も含めた事務所の先輩たちが出ている舞台を観劇しに行き、考察を重ねる。
     足を突っ込めば突っ込むほどに、面白さが広がっていくことが知的好奇心をくすぐって、あっと言う間に演劇の世界にのめり込んでいた。
     そののめり込んでいく過程で、一番のきっかけである倉持洋一が出演する舞台を何度か観に行って気づいた。こいつは、ある種特殊な引力を持っている、と。
     クリス先輩や哲さんのような圧倒的なカリスマ性を放っているわけではないし、鳴や真田のような華がある容姿をしているわけでもない。それでも視線を奪っていく爆発力があって、それが引き金となってその物語の世界へと引きこむ。
    「俺はあいつも大嫌いだった。だから、また生き返った」
     舞台のヘソでひとりの男がスポットライトを浴びる。ワイルドな装いで、強い眼差しを遠くへと向けていた。
    「そしてどうやら今度は、王様の元に生まれたらしい」
     暗転。ガヤガヤとしたSE音が流れ、ゆるやかに明転していく。
     ヘソよりも少し奥の段差に玉座が置かれ、そこに足を組んで座る男は頭に王冠を乗せている。先程の男は王様と見られる男の横に佇んでいた。
    「王様は俺のことを大層気に入っていた。だからいつだって側に置きたがり、いつだって俺に話をさせる」
    「なあ、またいつものを頼む」
    「『……はい。俺はもう三万回目の人生だった。最初の主人は誰だったかもう顔を思い出すこともできない。その前はたしかまじない師が主人だった。俺を気に入って弟子としていつでも側においた。でも俺はまじない師が大っきらいだった。そしてあるとき、まじない師のかけた呪いが跳ね返って俺は気づいたときには死んでいた。おいおい、おいおい、とまじない師は泣いていたけれど、俺はなんてことはなかった。だって、どうせ生き返るし、ようやくまじない師から開放されるのだから……』」
     その回想の間、袖から現れたフードを目深に被った人がまじない師を演じていた。空を抱き上げて泣き崩れるのをフードの人の側に歩み寄った男は冷めた目で見ていた。王様は玉座に座ったままにこにことした表情で眺めている。
     静かな舞台だった。板の上に立っている人数は多くても三人。きっとアンサンブルの人数も少ないのだろう。
     それでもよく知った絵本を題材にした舞台は静かな求心力をもって観客を引き込んでいった。
    「あああ……ああ、こんなにも悲しい、ああ、なんで……」
     主人公の男は、横たわる女性を抱えて大泣きをしている。ボロボロと大粒の涙を、雨のように降らして時々洟をすする。
    「愛することは幸福で、その相手を喪うことは魂を奪われるような苦しみなのか……ああ……知らなければ、よかった……ああ、それでも俺は、きみを愛してい、る……」
     デクレッシェンドがかかっていく声は、最後は聞き取れるかどうかの瀬戸際で発せられた。そして、動かなくなった男の声に倣うようにゆるりと明かりが絞られていく。暗転して一拍、劇中で使われていたクラッシックのような音楽が流れて明転した。
     キャストがずらりと並んでいるが、やはり六人しかいない。入れ替わり立ち代わりで複数の役を演じていたのだろう。
     拍手が波となって、キャストを包み込む。
    (こんな繊細な舞台だとは思わなかった……)
     それは倉持洋一が初めて脚本を手掛けた『百万回の人生を歩んだ男』であり、予想をいい意味で裏切られた。繊細で文学的な作品として仕上げられているそれは、あの倉持が生み出したのだ。
    「いつか、絶対にあいつが脚本した舞台に主演で出てやる……」
     きっかけはあんなに活き活きと板の上に立ってみたいと思った。俺ではない誰かとして過ごすことができる時間は面白そうだと思った。俺が役者を名乗れるようになったら、倉持洋一と共演して同じ世界に浸れたらと思っていたけれど。
     それよりももっと面白そうな夢ができた。倉持洋一が生み出した世界の中心に沈む。どこまでも深く潜り進んで、誰よりもその世界を満喫する。とても楽しそうじゃないか。
     役者としてやっと卵から孵った二年目。倉持はどんどん先へと走っていく。俺は新たに目標を定めた。


    「御幸! ちょっとこっち来なよ」
     ソワレに向けて少しくらい身体を休めようと目論んでいた。サクッと用意された弁当を食べて、そして仮眠を取りたかった。
     芸能界の上下関係は、運動部の上下関係と酷似している。いくら俺がぼちぼち売れてきていても、今回の舞台の準主演でも、仮眠を取りたいと思っても、先輩に呼ばれたら答えは、はい、だ。
    「はあ、」
     鏡前に並んで雑談をしている共演者を交わしながら、楽屋の入り口に立っている亮さんの元へと向かってみた。瞬間世界が止まる。
    「これ、ちょっと前まで――」
     亮さんがなにか言っているし、俺の世界を止めた男は亮さんとにこやかに会話をしているけれど、その内容が頭に入ってこない。頭の中に駆け巡るノイズに、世界の音が掻き消されてミュート状態になっている。
    (亮さんと仲がいいのは知ってたけど、まさか……)
     あれから六年経っている。そして最近に至っては役者よりも脚本家を名乗っているおかげで、知り合う機会がぐんと減っていたのに。これは啓示に違いない。
    「へー、初めまして。御幸一也です」
    「あ、どうも。倉持洋一です」
     一応ぺこりと頭を下げれば、倉持も軽く頭を下げた。
    「亮さんとコンビ組んでたってことは、かなり動けて、アドリブも得意なんだろ?」
    「?」
     チャンス。とは思ったけれど、咄嗟に飛び出るのはいつも使うような言葉たち。日頃できないことが、瞬間的にできるはずもなく。
     案の定、濁音がついた疑問符と、鋭い眼光が俺へと向けられた。
    「倉持、元ヤン出てるよ」
     倉持の後頭部に亮さんの手刀が入る。その衝撃にハッと表情も雰囲気も変わる。
     俺も何度かあの手刀をもらっているから威力もわかるし、亮さんも無闇矢鱈に手が出る人ではなく必要なときだけということも知っているし、後輩の指導がうまいことも理解している。けれど、倉持には特に効果があるらしい。
    「あ、さーせん。つい……」
     亮さんに向いていた視線がゆっくりと俺へと向けられる。じっと俺を見る瞳は、俺を品定めしている。黙って俺の内側にひっそりと隠してあるものも暴こうとしているようにも思えた。
    「お前に演って欲しい役があるんだけど」
    「俺?」
     倉持が俺を観察していたように、俺もまた倉持を観察していた。どうやら視覚に神経を傾けすぎていたらしく、倉持が放った言葉を咀嚼できなかった。
    「そうお前」
     はて、いまなんと言っただろうか。首をかしげて考えてみる。
    (おまえに、やってほしい、やくが、ある……)
     間違いなくそう聞こえた。倉持が俺に向ける視線に迷いもなければ、冗談の色もない。真剣そのもので、静かに俺の反応を待っていた。
     やっと倉持に認識してもらえ、これからが勝負だと思っていた。それなのにこんなにも早くオファーをもらえるなんて夢ではないだろうか。もし、これが夢だとしても断る理由はどこにもない。
    「そうだな、脚本が面白ければ受けてやるよ」
     素直になることに慣れていない口はやっぱり天の邪鬼を働かせる。
     けれど、実際向こう二年くらいはスケジュールにほとんど空きがないはずで。ひとつ返事で受けてしまうわけにもいかない。少しくらい優位に立てるようにリードして、倉持側にもスケジュールの調整をお願いできる関係にしなくては。
    「まあ、酷いってことはないだろうから安心しなよ」
    「ちょ、亮さん!」
     そんなの知ってる。ありがたいことにこの三年くらいで俳優としての仕事もかなり増えて多忙を極めていたけれど、どうにか時間のやりくりをして倉持が脚本の舞台はほとんど観劇している。だから倉持が作る作品が面白いものが多いことを重々知っている。
     地方公演に遠征している間に公演期間が終わってしまったものとかはどうしても観ることが叶わなかったけれど。
    「はっはっは。亮さん手厳しいからな。とりあえず、今度詳細教えてくれよ」



    「一也、この後飯いかない?」
    「悪い、打ち合わせ」
     慌てて荷物をかき集めてスマホを確認すれば、予定よりも四十分近くも押していた。後ろで鳴が喚いている気配がするけれど、構っている時間はなくて現場を飛び出した。
     元々押すことを想定して撮影終了予定時刻の一時間後を待ち合わせとしていたし、場所だって撮影現場の最寄り駅から三駅のところにあるカフェを指定した。とはいえ、時間ピッタリに来るとは思えない。むしろ時間前行動をするタイプだろう。
     駅まで走って、滑り込みで電車に身体を押し込んだ。
     深呼吸を二回。視線を集めないようにたっぷりと時間をかけて、静かに大きく息を吸い込んで、同じくらい時間をかけて吐き出す。
     呼吸が整ってからスマホを確認してみれば、駅から店までまた軽く走れば時間前には到着できそうな時間でほっと、胸を撫で下ろす。いくら直前まで撮影が入っていることを伝えているとはいえ、できるだけ遅刻はしたくない。
     降車駅に着いてドアが開く隙間に、身体を滑り出す。階段を一段飛ばしに駆け下りて改札を抜ける。早歩きで急な坂道を登る。目当てのカフェが半地下にあるビルが見えてきたところで、もう一度スマホを確認した。
    (よっし……)
     ギリギリセーフ。待ち合わせの二分前。また深呼吸を二回。でも今度はささっと済ませ、カフェの扉を開けた。
     ジャズ調だかクラシック調だかにアレンジされた、学生時代に流行ったポップスと、コーヒーの芳ばしい香りが店内を満たしている。
     ぐるりと店内を見渡せば、スマホを構えて座っている倉持は、周囲の雰囲気からはすこし浮いていてすぐに目に留まる。
    「おっす。待った?」
     出てきた店員に倉持を指差して案内を断ると、店内を進み倉持の向かいの椅子を引きながら声をかける。
     スマホから視線を移した倉持は、一度時間をかけてまばたきをした。
    「あー、取材お疲れさん」
     スマホを二度タップした後、ロックして机に伏せた倉持はきゅっと、眉を寄せた。そのタイミングで俺のスマホが静かに二秒振動したけれど、なにかのアプリの通知だろう。いまは一旦無視で良さそうだ。
    「俺、アイスコーヒーをブラックで」
     オーダーを取りにきた店員に、メニューも見ずに注文を伝えてふと気づく。倉持の前にはホットのカフェラテしかないことに。
    「ってかなんにも頼まねえの?」
    「頼んでんだろうが、カフェラテ」
    「いや、亮さんが甘いものすきだから、美味しい店選んでやれって」
     亮さんをダシに使ったことがバレたら良いように遊ばれるのは分かっていたけど、ずっとSNSチェックしてたから知ってるなんて言えるわけがない。わざわざ人に聞いて店を選んだなんて。
    「……あの人は、」
     倉持は店内BGMに掻き消されてしまう程度の音のないため息を吐いた。ずっと倉持に視線を向けているのに気づいていなかったのか、一瞬俺に視線を向けた視線が絡むときまりが悪そうに顔を顰める。
    「すみません、ついでにガトーショコラで」
     オーダーを復唱した店員を見送ると、倉持は一冊の台本のようなものを机の上に置いた。『Myself』とタイトルのプリントされたそれはまだ印刷したてで、折り目ひとつない。角をぶつけた形跡もない。生まれたてほやほやの宇宙が目の前に差し出された。
    「待ってる間でいいから、これ」
    「ストレートだっけ」
     冊子を手に取る。指先でタイトルの文字をなぞると、そこから不思議な感覚が全身に回る。
    「俺、二本しか出たことないんだよな」
    「ふーん、あっそ」
     俺が抱える唯一の不安。たくさん板に立つ機会に恵まれたけれど、そのほとんどは原作が別媒体で存在するものばかりだった。ゼロベースからキャラクターを作り出したのはたったの二回。
     その不安をどうでもいい、興味がない、とでも言わんばかりにあっさりと流した倉持に、腹のそこから沸々と愉快な気持ちが湧き上がる。
    (期待、されてるって思っていいのかな)
     表紙をめくる。ごく一般的なコピー用紙はかろやかに宇宙の扉を開いた。

     琢人という男のセリフから始まった。嘆きと、現状否定。困惑が最初に散りばめられていた。
     いろいろな人が訪ねてくる中、部屋にこもりきりになった琢人は、自問自答を繰り返していくうちに、誰が問いかけていて誰がその問いに答えているのかわからなくなっていた。蹲って流した涙は眼鏡へと溜まって視界を歪ませる。拭うべく眼鏡を外した瞬間、誰かが話しかけた。
     琢人は、内なる自分タクトに狂気を委ねた。
     部屋から出てくるようになった琢人に、周囲の人間は安堵し日常を取り戻していく。琢人自身も日常へと戻った。眼鏡をかけている間は。
     琢人として休んでいる間、タクトが活動する。日頃の抑圧を嫌がり琢人へ身体を返すことを拒みはじめ、狂気は着々と琢人の世界を蝕んでいく。休む時間などほとんどない身体は疲弊していき、タクトの行いに痛みを覚えた琢人はそれらから意識をそむけるようになる。
     一ヶ月ぶりに琢人と食事をした親友・昴汰(こうた)は琢人の様子がおかしいことに気づき、相談に乗ろうとするが、琢人はタクトの行いの数々について親友に話すことは憚られ、拒絶する。
     その後も琢人を案じた昴汰からの連絡を無視し、昴汰を避け続ける琢人。
     それからまたひと月ほど経過した頃、目覚めた時にふとカレンダーをみた琢人は、初めて現状に焦りを覚えた。最後に日時を確認してから数日が経過していたのだ。着実にタクトが身体の主導権を奪っている。
     琢人は意識が不安定になるのを感じながら、震える手で机に向かってまっさらな紙へペンを走らせる。
    『どうか、僕という人を忘れないでくれ。けれど、どうかこの手紙を読んだ後、僕は僕だと思わず、縁を切ってくれ。キミが友として心を許してくれた僕はもうこの世にはいない』
     琢人を心配した友人は、ついに彼のアパートにまで足を伸ばしてみると、鍵が開けっ放しのまま忽然と姿を消していた。部屋は彼にしては散らかっているけれど、先日の疲弊具合を思えば不思議には思わない程度だった。
     そして、机の上に不自然に丸められた紙を昴汰は手に取る。丁寧に皺を伸ばしていくと、いつも几帳面な字を書く琢人が書いたとは思えない、子供の書いたような字で手紙が綴られていた。
     すぐさま昴汰は琢人の捜索を依頼したその数日後。
     タクトは琢人が親しくしていたクライアントとその提携先の幹部を殺害する。ようやく果たされた復讐と後戻りのできないことに意識の端で琢人だった感情があふれる。タクトは瞳からこぼれていた感情を拭うと、姿を消した。
     昴汰は翌日そのニュースを見て胸騒ぎに琢人へと電話をするも、繋がらないまま。あるとき街中で琢人の気配を感じたものの、そこには誰もいなかった。

     一気に読み終えた宇宙はまだまだ星が生まればかりで光を放てていない。まだまだ宇宙としても危うさがある。けれど、ここに役者の解釈が加わって、抑揚や躍動が乗ってくれば星はたちまち光を放てる。光の明度は役者の力量次第。
     それをより引き出して光量を増やす演出とで、ブラッシュアップしていけば生まれたばかりのこの宇宙も誰かを飲み込むことができる。
     まだ軽い宇宙の素をテーブルの上へ戻した手で、いつの間にか提供されていた氷が溶け出して薄くなったコーヒーのグラスを手にした。
     気づけば撮影後から何も飲んでいなかった。乾ききった喉を鳴らして、コーヒーを飲み込むと、一緒になにか渦巻いているものを飲み下した気がする。
    「……やるよ。まあスケジュールが合えば、だけど」
     俺の手で倉持が生み出した宇宙に光を与え、命を吹き込みたいと思った。ヘビーな内容ではある分、細やかな演技力も試されるだろう。
     そんな面白そうなことやらずにいられない。
    「まじ?」
    「俺からマネージャーには言っておくから、事務所に通してくれる?」
    「わかった」
     どっぷりと深く顎を沈ませたあと、倉持は何度か瞬きをした。その様子が俺の回答を噛み締めて味わっているかのように見える。
     フォークを手にした倉持は、しっとりとしたガトーショコラにそれを突き刺して頬張る。それを咀嚼する様子はやっぱり先程の仕草によく似ていた。
     なるほど、と思った。なるほど、相手の言葉を受け止めるときは好物のひとくち目を堪能するようにたっぷりと時間をかけるのはいい。きっと演技でも役に立つ。
    「で、ちなみにさ。俺どの役?」
     ふたくち目からは、もぐもぐと食べ進めていく。倉持が急ブレーキを踏んだ。ガトーショコラに向いていた視線が俺に向けられ、いっぱいに目を見開いた。
    「俺言ってねえっけ?」
    「演ってほしい役としか。俺としてはタクト演ってみたいけど」
     琢人も美味しい役だとおもうけれど、どうせチャレンジするなら今まで演ったことのある役柄からはより離れたものがいい。琢人はオーディションの話くらいは上がりそうだけど、タクトは世間に着いている俺のイメージからは当分回ってこない役だと思った。
    「琢人とタクト。二重人格だから一人二役って言っていいのわかんねえけど、このふたりをお前に演って欲しい」
    「……まじ?」
     ふたりが会話するシーンや入れ替わるところを考えて、てっきり演者を分けると思っていた。想像していなかった回答に、驚きが顔に出てしまった。
    「役聞いて無理だと思ったなら今断って、」
    「演る! 演りたいに決まってる!」
     倉持の言葉を遮る。立ち上がりそうになった勢いを押し止めるのに必死で、言葉の勢いだけはそのまま飛び出してしまった。
    「だって、それ主演ってことだよな⁉」
     「お、おう」と俺の勢いに若干引き気味の倉持は、たどたどしく返事をした。
     まさか役者をはじめた頃の目標がこんなにあっさりと叶うなんて思いもしなかった。そのうえ、多重人格者の役をどちらも演ったことのないような役なのにオファーをくれるなんて。燃える展開すぎやしないだろうか。
     これは意地でもスケジュールに都合をつけて出演したいし、稽古だってできる限り全日参加したい。前後で多少無理をすることになるかもしれないけれど、それでこの役を演れるなら本望だ。
     目標だから、というだけではない。この役を演じきったあと、俺は間違いなく成長していると確信を得られるからだ。
    「どう演じ分けるか、とかさ、どう演出して対話させるのか、とかさ。めちゃくちゃ燃えるな」
    「……噂通りの芝居バカだな」
    「だって、演劇の世界って無限大じゃん。ひとつの役だって演者次第で何通りにも顔が変わって、ストーリーを解釈するのにだって影響する」
    「まあ、わかる」
     特徴のある笑い声を零した。役者もやって、脚本も書いて、ってしてる奴が演劇バカじゃないわけがない。倉持は紛うことなき同類だ。
     スケジュールも定まっていないのに、次々にあふれる高揚感をアイスコーヒーで飲み込んだ。



    【ボクラノミライ】


     無。黙々とペンを走らせる。決まったコースをただ何周も何周も無心で走らせる。隣で同じようにペンを走らせる沢村はにこにこと楽しそうだ。そして不規則に違うコースを走る。
    「あら、御幸くん。珍しいわね事務所にいるの」
    「サイン書き、溜まってるから来いって、マネが」
     声の主は分かっているから顔はあげない。機械になったみたいに黙々とサインを書き続ける。
    「そう。でもちょうど良かったわ」
     近くにあった椅子を引き寄せた礼ちゃんは、当然のようにそれに腰を下ろした。長い脚をゆるやかな動作で組んで、胸の前で腕も組む。
    「知り合いの監督から、連ドラに出ないかってオファーがきてるの。どう?」
     ようやく手が止まる。連ドラ、連続ドラマ。まだ経験したことがない仕事。
    「ゲーム原作を映像化するらしいわ」
     ああ、理解。なるほど。オファーの理由に納得がいく。けれど、今の御時世は実写化に対して寛容になってきている。わざわざ映像の世界で名の売れていない役者を使う必要もないことを考えると脇役とかだろうか。
    「主演、演ってみる価値はあると思うわよ」
     今しがた浮かんだ考えがすぐさま打ち消される。代わりに謎は膨らむ。
    「なんで俺? もっと有名な俳優なんていっぱいいるじゃん」
     礼ちゃんが持ってくる話だから、とんでもない条件が着いているとかではないと思う。けれど美味しすぎる話には裏が付き物だ。きっとなにかトリックがある。
     礼ちゃんの目が一瞬細くなる。よく見ていなければ気づかない程度の変化なのは、さすがこの事務所きってのやり手だ。熟れた瑞々しい林檎を彷彿とさせる唇が、ゆるやかに弧を描く。
    「セットとCGに力を入れて原作のビジュアルにできるだけ近づけたいらしいの。で、映画でもない連続ドラマの予算を考えると、俳優のギャラを少し、ね?」
    「ああ、それなら納得。有名所は使えないってことか」
     それに俺が主役ってことは、それ以外のキャストもきっとギャラを抑えられる役者を引っ張ってくるということだろう。演技もロクにできないような共演者と一緒になるなら、その話は丁重に断って舞台に専念していたほうが俺個人としては有意義だろう。
    「ちなみに、アクションが多い作品なんだけど、動ける役者の推薦が欲しいらしいの。主演の相棒役のようなポジションらしいわ」
    「……俺の?」
     乗り気じゃなくなりかけていたけれど、鶴の一声。急にやる気のスイッチが入った。
    「そう、御幸くんの。あなたとのシーンが多くなるから、あなたとの相性も重視したいんですって」
    「御幸一也! 俺! この沢村栄純なんでどうだ!」
    「沢村くん、あなたにはオーディションで話がきてるから、マネージャーに通してあるわよ」
     キャンキャンと吠えて騒がしい沢村をあしらう礼ちゃんの顔をまっすぐ見つめる。条件にピッタリとあう人物なんてひとりしか浮かばない。そして礼ちゃんはきっとそれを見越してあんな言い方してきている。
    「倉持、倉持洋一が通るなら受けるよ、そのオファー」
    「あら、どんな作品とか聞かなくていいの?」
    「分かってて言ってるくせに」
     倉持と共演したいという願望が叶うのなら、この際作品は問わない。クリーンなイメージで売っている沢村にまでオーディションの話が来ている礼ちゃんが持ってきた話なら、それなりに信用できるし。





    「よろしくおねがいしまぁす!」
     その声に首を捻ると、スタジオに御幸が入ってくるところだった。ぐるりと周囲を見渡して、目のあった人とは会釈をする。徐々に視線が俺へと近づいてくる。
    「あ、倉持」
     視線が俺を捉えた瞬間、あからさまに花が咲く。目をきらきらと輝かせて、頬をゆるませて、まっすぐに俺の方へと向かってくる。
    「はよ、監督挨拶したか?」
    「さっき廊下で会った」
    「あっそ」
     俺の隣に並んだ御幸にスイッチが入ったのを空気で感じる。瞬間的ではないものの、わずかな時間でオフモードから役者モードへと入っていく。それをイチ役者として隣で感じるとは。
    (なんつーか、普通にすげえんだよな……)
     役者という同じ立場から見る御幸は、逸材だと思う。制作サイドから見ていても、その才能の素晴らしさは分かっていたが、立場が変われば見方が変わる。見え方が変わる。
     一度役者モードに入ってしまえば、役が降りてきてのめり込んでいくところも。台本が届いてから読み込むときの集中力も、演じ方に対してのアイディアなんかはとめどなくあふれる泉で、それを実現するだけの努力をしてきている。何よりも俺がこいつを知るきっかけになった、求心力は並々ならぬものを持っている。
    「みんな集まってるね。これからしばらくの間、チームとしてよろしく」
     スタジオに紙コップを片手に入ってきた監督はスタジオを見渡した。今日は放映後販売する映像ディスクに収録予定の舞台裏の撮影も入ったクランクインの日だった。今日撮影がないメンバーもこの挨拶のためにスタジオへと訪れている。
     必然的に主演である御幸の近くにはカメラマンが寄ってくる。
    「御幸くんは今日撮影だったよね?」
    「そうですね、この後着替えとメイクしたらぶっ通し」
     あからさまによそ行きの顔を貼り付けた御幸を間近で見て鳥肌が立った。誰だこいつ。
     俺は御幸よりも先に撮影開始するし、この場にいると鳥肌が止まらないし、すぐにでも楽屋に戻ってメイクと着替えを済ませてしまおう。
    「倉持となんで、撮影も楽しみなんですよ」
    「……おい。巻き込むな」
    「なんでだよ。お前も今回は出演者なんだからいーじゃん」
     一歩。隣から踏み出した瞬間だった。腕を掴まれて話を振られる。
     そんなことされてしまえば、カメラが俺も捉えるのは当然なわけで。この軽いインタビューを終えるのに付き合わなくてはいけなくなる。
     周りはいざはじまる撮影に向けて、スタッフが慌ただしく動き回っている中で呑気なものだ、と思う。けれどこれも売上貢献の一部であって、その売上がなくてはエンタメの世界は回らないのだからしょうがない。ファンサービスの一環だ。
    「へいへい。銃とか扱ったことあんだっけ?」
    「あー、舞台だとハンドガンしかないんだけど、みっちり稽古通ったんだぜ」
    「へー」
     ハンドガンを扱っているのは観たことがある。最初に観たマフィアものが確かそうだったはず。
    「倉持こそいけんの?」
    「俺余裕。純さんとかとよくサバゲーやってたし」
    「まじ? なにそれ俺聞いたことねえんだけど」
     首のスジ違えてないか? と尋ねたくなる勢いで、ぐりんとカメラから俺へと視線の向きを変えた御幸に一瞬たじろぐ。その食い気味のリアクションはすこし怖かった。
    「別に言うほどのことじゃなくね?」
    「ずるい。俺も倉持と遊びに行きたい」
    「もう銃関係ねえじゃん」
     一度オンに入ったはずのスイッチがいつの間にかオフになってねえか、こいつ。ぎゅっと眉を寄せている御幸に苦笑いを零す。かわいたため息も一緒に出て行ってしまったが、しょうがない。
    「ははは。ふたりとも仲いいね」
     別に、見たまま言っただけ。そうだと頭では理解しているのに、深い意味があるのではないかと勝手に慌ててしまう。
     悪いことをしているわけでも、誰かに迷惑をかけているでもない。それでも、世間体というか、御幸のファンには申し訳ないような気がしてくる。彼女がいるならまだしも彼氏がいるなんて。
    「さ、カメラテストもはじまりますし。また後ほど」
    「じゃあ。戻ります」


    【シーン 2ー2 テイク2】
    「おい、もう一度俺の目ぇ見て言ってみろ」
     努めて低く。よく作り込まれた戦艦内を模したセットの地を這うように。その静かな怒りが母なる海にうねりを起こすように。
     その声にふたりの役者の肩が大きく揺れて、ゆっくりと視線が交わる。怯えの色で染めたその瞳は少しだけわざとらしさが感じる。けれど。カットがかからないなら続けるまでで、そのまま目を細めて睨みつける眼光を鋭利にする。
    「カット!」
     監督の声に、息を吐き出す。演技とはいえ爆発的な怒りはかなり疲れる。
     駆けてきた助監督が、一般士官役の役者に指示を出している。その間に深呼吸をして、集中力を切らさない程度に体に入りすぎていた力を抜く。
     分かってはいたけれど、舞台と映像では魅せ方が違う。演技の仕方も舞台とは大きく異なる。口の動き身振りをオーバーにして後方席でも視認できるようにする舞台のような演技だとわざとらしさが出てしまう。よりリアルに近い自然な演技をした上で、四方からカメラから抜かれる可能性を考慮して動かなくてはいけない。画角だって異なる。それらの違いを意識しながらの演技はかなり神経をすり減らす。
     助監督が戻っていくのを見送って、もう一度スイッチを入れ直した。その時、横顔に突き刺さる強烈な視線を感じて監督よりも後方の暗がりに目を凝らせば椅子に足を組んで座った御幸がじっとこちらを見つめていた。
     吸い込まれそうだ。そう、ではないあいつは吸い込む気だ。俺たちの演技のいいところだけを。
    (ってか、お前の撮影まだ先だろ……)

    【シーン 2ー2 テイク3】
    「おい、もう一度俺の目ぇ見て言ってみろ」
     努めて低く。戦艦内のセットの地を這うように。その静かな怒りが母なる海にうねりを起こすように。できるだけさっきまでと同じように。
     ふたりの役者の肩が大きく揺れて、ゆっくりと視線が交わる。怯えの色が先程より少し色を変える。その色は俺の想像していた怯えの色に近い。そのまま目を細めて睨みつける眼光を鋭利にする。
    「……いや、あの、」
     ひとりの役者がバツが悪そうに言葉をつかえさせる。その間に視線を外したそいつをさらに睨みつける。
    「伝え方には問題があるけど、士官への忠告で間違ったことは言わねえよ」
     一呼吸。怒りを体内に無理やり抑え込むように、呼吸で自分をコントロールする。でも握り込んだ拳にはさらに力を込める。彼らの上官らしく、喧嘩ではなく指導を心がけて。
    「生きたきゃ、仲間をてめえのせいで殺したくなきゃ、あいつに言われたことについて真剣に考えろ」
    「……はい」
    「あと、二度と俺の耳に入るようなところで、くだらねえこと言ってんじゃねえぞ」
     ワンシーン前のような気の強さはすっかりなくなったふたりに、さらに釘を刺す。ここではもう一度地を這うような声を出す。
    「わかったら、とっとと持ち場に戻るか訓練でもしてこい」
    「はい!」
     駆けてセットからフェードアウトするふたりの背中を眺めてから、後頭部を掻いてため息を吐き出す。俺自身も重たい足取りでセットの先へと進む。

    「カートッ! 次シーン3の4撮るから準備して」
     スタッフたちがバタバタと動き回る中を、進んでいく。
    「お疲れ」
    「お前撮影までまだ数時間あんだろ、楽屋にいりゃいいのに」
    「せっかく倉持の演技見られるのにもったいねえよ」
    「あっそ」
     御幸が座る椅子の隣にかけておいたタオルで汗を拭う。強い照明によって思っている以上に汗をかくのは、舞台も映像も変わらないようだ。汗を拭き終えると同時に御幸がペットボトルのミネラルウォーターを差し出す。
    「もっち先輩!」
     大きすぎる声に、この呼び方。心当たりはひとりしかいないけれど、念の為振り返れば案の定沢村がこちらに向かって走ってきた。
    「おー沢村、次お前のシーンか」
    「俺、お前の事務所の先輩なんだけど? 無視かよ」
     俺たちのもとにやってきた沢村は握っていたスマホを掲げる。別に機種変をした様子もないし、カバーも相変わらずファンからの差し入れされたというものを使っているらしいし、その行動の理由がわからず首を傾げる。
    「久々なんで写真撮りやしょう」
    「まだ情報解禁されてねえからSNS上げらんねえぞ」
    「わかってやす! でもリリースされたらアップできるんで!」
     見えないはずの尻尾をブンブンと振って、大きな瞳は元々宝石なんじゃないかと思うくらいきらきらと輝かせた。断る理由も特にないし、むしろ俺もこいつに倣って写真を撮ってファンのためにもSNSに投稿したほうがいいだろう。
    「しょうがねえな」
    「やった!」
     すぐにカメラを起動した沢村の腕を引っ張って、背景が壁になるように身体の位置を誘導する。沢村とツーショットを撮るときの恒例ポーズであるガオと手を肉食獣の鉤爪のように翳す。沢村と共演した舞台上を(舞台どころか客席の通路もだけど)駆け回った作品でチーターの渾名をつけられて以来のお馴染みだ。
     二回シャッターをきった音がしてポーズを解けば、やっぱり御幸が恨みがましさを瞳の奥に隠してこっちを見ていた。
    「おら、てめえもたまにはファンサしろ」
    「えー」
    「そうっすよ! あんたのファンに感謝されたときの俺達の複雑の気持ちを考えろ!」
     不意に初めて御幸が映った写真をアップしたMyselfの三年半前を思い出す。たしかにあのときの感情はどう表現していいか難しいものだった。
     御幸の腕を掴んで沢村とふたりがかりで無理やり立ち上がらせる。そのまま両側から挟み込んで沢村が腕を目一杯伸ばしてカメラを構える。
    「御幸顔!」
    「ファンサだって言ってんだろ!」
     スマホの画面に映る御幸の表情は無。いや、顔がいいからそれでも絵になるけれど、写真を撮る意味をわかっているのだろうか。
    「笑えって言ってねえだろ。せめてキメ顔くらいしろ」
    「そうだそうだ!」
    「御幸さん、洋さんがかっこいい顔みたいそうですよ」
    「春市?」
     ぎゃあぎゃあと騒ぎながら御幸のやる気を引き出そうと奮闘していたら、少し離れたところからその様子をあたたかい眼差しで見守っていた春市が口をはさむ。その斜め上な発言に、思わず俺が動揺してしまった。
    「倉持~、そうならそう言えって」
    「言ってねえ! 思ってねえ!」
    「照れなくていいんだぜ?」
     急に口元をゆるめて涙袋をうっそりと持ち上げてニヤニヤと笑い出した御幸が俺の方へと向く。それを阻止しようと横顔を片手で押しやってカメラの方へと向ける。
    「おふたりとも! 腕限界っす! 撮りますよ‼」
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    Kana_BoS

    DONE奏哉さんと合同誌です。
    わたしは、サッカーファンのモブ女の視界から視るゆっきーについて書きました。

    奏哉さんのサンプル:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17413783
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    2022.5.3 SUPER COMIC CITY 29 -day1-
    Out of the Blue
    B6/36P/¥500
    ネット頒布中
    【青監獄】Out of the Blue/Blue sky that lasts Forever【サ 気持ちが弾む。ふわふわと軽やかで身体が宙を漂ってしまいそうでありながら、ぱちぱちと刺激的で体内で小爆発を起こす興奮がある。それでいて、じりじりと炙って内蔵を焦がすような焦燥もかすかに混じっている。いつだってそういうものだった。

    「あれ、今日は早いね」

     無意味だとわかっていても逸る気持ちが抑えきれなくて、エレベーターのボタンを連打していた指が止まる。視界の隅にエレベーターが現在いるフロアが表示される電子モニターを収めて振り返る。ノートパソコンを片腕に抱えた同僚が物珍しそうにわたしを眺めていた。

    「今日は代表戦なんですよ」
    「あー、なるほど」

     いつもであればまだ己の業務と向き合っているけれど、唯一の趣味サッカー観戦は最優先事項で、数日前から業務調整をしてそそくさと退勤したところだ。カバンに入ったユニフォームとマフラータオル、ボーナスを全投資しているカメラを持ってスタジアムへ向かう時間も好きだ。この後の試合に思いを馳せて、お気に入りの選手がスタメンに選ばれたかをそわそわとSNSで度々確認して、頭がサッカー観戦モードに切り替わっていく時間。
    6376

    Kana_BoS

    DONEブラックコーヒー派で倉持クンにキスするのが大好きな御幸と、カフェオレ派の倉持くん。
    御幸が遠征中のお話。ナンバリング26を御倉にしたかっただけのペラペラの本。

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    2022.5.3 SUPER COMIC CITY 29 -day1-/スーパーウイニングショット 2022
    Pavlov's dog
    A6/22P/¥200
    ネット頒布:予定なし
    【御倉】Pavlov's dog【サンプル】 ぷかり。ふわり。のんびりと時間をかけて覚醒していく意識。閉じた瞼をくすぐる白を残した日差しに、ああ、もう朝なのか、と意識ははっきりとしてくる。できるものならもう少し、あと五分でいいから眠っていたい。体温が移って適温のシーツの中を蠢いて枕に顔を埋めた。すん、すん、と鼻を鳴らせば嗅ぎ慣れた匂いに気持ちも身体も脱力していく。そんな鼻腔をやわらかに刺激する香ばしい匂い。

    「くらもちー。あと三十分で家でないと遅刻するけどいいの?」
    「……はあ?」

     間延びした声。かなり暢気なそれに緊急性を察知できず、自身からも間抜けな声が溢れた。

    「今、七時半過ぎたとこ」
    「おま!」

     ゆるやかな覚醒をしていたはずの脳が一気にアクセルを踏み込んだ。腕力に任せて飛び起きた背後で、掛け布団がベッドからずり落ちた気配がしたけれど、そんなことを気にしている場合ではない。二十分以上の寝坊だ。
    4206

    Kana_BoS

    DONEパフューマー倉持とプロ野l球選手御幸の出会いの話。
    原作世界線ではない、パロディーです。倉持くん好みの香りに仕上げられちゃう御幸と、倉持くんが作った香りを独占したい御幸の関係最高だなって。

    ------
    2022.5.3 SUPER COMIC CITY 29 -day1-/スーパーウイニングショット 2022
    M2
    A6/70P/¥700
    ネット頒布中
    【倉御倉】M2【サンプル】< 01 : Top notes >





     新しいシーズンがはじまる前の、ほのかな緊張感とゆらめく高揚感がチーム全体を包み込んでいた。昨シーズンは惜しくもあと一歩のところで逃した優勝を、今年は掴み取ってやると勇み立つ若手をコントロールしながら、周囲と共に御幸一也も今日の練習を終えた。
     高校卒業後にプロ入りをしてから、気づけば十五年が経過しようとしている。あの頃のような伸び代も、吸収力もない。いくら神経質気味に身体を管理してきても、着実に重ねていく年齢には抗いきれないものがある。その積み重ねてきた時間の分、財産として経験があり、忍耐力がある。
     そうは言っても、御幸の周囲はとても御幸が老いているようには然程感じていない者が多かった。誰よりもストイックに自己管理をして余分というものを知らない肉体と、二十代後半で時が止まった風貌とが相まって、ファンからの人気も留まることを知らない。選手だって、コーチ陣だって、まだまだ御幸の活躍に期待をしていた。
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    Kana_BoS

    DONE高2の冬の金東。バレンタインデーに事件が起こる!
    季節外れだけど!新刊が出ることが大事だよね!幼馴染から恋人へのステップアップってむずかしいよなあ。


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    2021.12.18 松方WEBオンリー
    バレンタインデー憂鬱症
    A6/38P/¥400※送料・手数料は除く※
    ネット頒布中
    【金東】バレンタインデー憂鬱症【サンプル】 どことなく浮かれた空気が漂う。朝練終わりにちらりと見かけた三年生の一部は、将来をかけての試験前でピリピリとしていた。この季節の空気のように乾いて冷え切っていて、気がついたらどこか怪我してしまいそうなそんな張り詰めた空気。
     来年は俺もあの一員なのだろうか。それともなんとか推薦を貰えて、後輩の邪魔にならないように野球の練習に励んでいるのだろうか。
     廊下や他所のクラスの教室から感じる空気からどうにか意識を切り離して、後ろで騒がしい奴らも無視を決め込んで自分のクラスへ黙々と足をすすめる。

    「あ、信二」
    「東条、お前先行くなら言えよ」
    「あー……、ごめん。ちょっと、」

     視線を斜め上へと逃して乾いた笑いを浮かべる東条に、眉が寄る。でもすぐにその理由がわかってしまえば、東条なりの気遣いだとわかる。自分の体に隠すようにして持っている紙袋。そこから覗く愛らしいラッピング。
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