よいこにはならない②初めてのタバコを吸い尽くした後、彼にスタッフルームに連れられてドキドキしていたら、ブレザーに消臭剤を吹きかけられただけで帰されてしまった。彼との時間が無かったことにされたようで悲しかった。
翌日性懲りも無く彼が立つレジに向かって、栄養ドリンクと彼の吸う銘柄のタバコを購入して差し入れした。
「昨日は、ありがとうございました、その、お礼です」
「学生が無駄遣いするんじゃないよ」
「無駄じゃないです。あなたと話すことが俺にとっては、すごく、その、刺激的で……」
「また刺激が欲しくなった?」
コクコクと頷くと、彼が笑みを深めて見つめてきた。彼の目線を浴びると、体の芯からじわじわと熱が広がってくるような気がする。
「いいよ。またすぐ休憩入るから、昨日のとこで待ってな」
彼の休憩時間に、店の裏で並んで一服するようになった。ヒョンと呼んでいいと言われたが、気持ちが乗りすぎて最初はうまく舌が回らなかった。彼は俺のことを学生と呼んだり、呼び捨てしたり、ベイビーと呼んだり様々だった。
「ヒョンは、どうして俺なんかに構ってくれるんですか?」
「初心な奴をからかうのは面白いから」
「へっ?」
「冗談冗談。お前のことが好きだからだよ」
「……それも冗談ですか?」
恨めしい気持ちで彼を見つめると、ニヤニヤとした顔で見つめ返してくる。
「君は意地悪な俺も好きだろう?」
図星だったので、ぐうの音も出ずに返事に困っていると、よしよしと頭を撫でられて、それから指先で顎下をくすぐられた。
「んふっ。う、何するんですか」
「君は血統の確かな坊ちゃんだろうに。俺には君が腹を出してひっくり返ってる犬に見える」
彼の指が首筋を下って、俺のネクタイをいじっている。
「犬ですか」
「そうだ。犬、可愛いだろ。俺は素直な生き物が好きだ」
自分が可愛いと言われたわけではないと頭ではわかっているのに胸が浮ついてしまう。
「首輪、買ってあげようか?」
「えっ?」
「明日学校休みだろ、デートしよう。12時ごろここにおいで。ブレザー着てくるなよ」
「デート?」
俺が彼に問い直すとニヤリと頷きが返ってくる。彼は腕時計を確認してから、小さくなったタバコを踏みつけて火を消した
「じゃあなベイビー。また明日」
「うん、また明日、ヒョン」
スタッフルームに消えていく彼の背中を目で追ってから、俺は夢心地で立ち尽くしていた。