コーギー、あるいは食パン 目の前を食パンが歩いていた。
いや、違う。犬だ。コーギーと言ったか。短い足で一生懸命に歩いている姿がかわいらしい。
「なんか食パンみてー」
隣のアイツも同じ発想のようだ。見てると腹が減るな。赤いリードの先の、いわゆる「お母さん」みたいな人は歩くのがゆっくりめで、コーギーは先へ先へと走りたそうで、散歩を代わってやりたかった。俺ならいくらでも走らせられるから、あなたは休んでいてくれていい、と声をかけたいのを我慢し、隣のアイツのあくびを聞く。
「あー、腹減る」
「おい、聞こえるから」
歩くスピードは俺たちの方が早い。コーギーとお母さんを追い抜かす時、少し名残惜しかった。ずっとあの食パンを見ていたい。
その時、ブチッと、何かが切れる音がした。
「ペヤング!!」
女性の叫び声に、何事かと振り向く。さっきのお母さんだ。見るとリードが地面に落ちている。
「ペヤング!!戻ってきなさい!!」
「おい、待ちやがれ!!」
アイツが走り出す。その先にはさっきのコーギーが走っていた。俺も咄嗟に駆け出した。ペヤング。なんでそう名付けたんだ。
「待て、ペヤング!!」
俺も叫ぶ。この先は大通りだ。車との事故だけは防ぎたかった。
「ペヤング!」
「おい!犬!」
二人で全力で走った。ふかふかのおしりは追いかけっこを楽しむように、たまに振り返ってはごきげんだ。それどころじゃない事態なのに。
ああ、大通りが見えてきた。このままじゃ危ない。俺は大声で叫ぶ。
「ストップだ!!ペヤング!!」
ペヤングは、ぴた、と止まった。信号が青に変わり、トラックが走り出す。ペヤングはおすわりをしてこちらを見ていた。俺とアイツはなんとかペヤングに追いつき、確保する。
「待てじゃなくて、ストップで躾けられてたんだな。間に合ってよかった……」
ペヤングのハッハッという息遣いに、俺とアイツのぜえぜえという息もあわさる。アイツがペヤングを抱き抱え、俺たちはお母さんのところへ戻った。
お母さんに泣きながら感謝をされ、家まで送り届けた際、俺たちはお礼として高級食パンを貰った。
腹が減ってたから、ちょうどよかった。