Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    komaki_etc

    波箱
    https://wavebox.me/wave/at23fs1i3k1q0dfa/
    北村Pの漣タケ狂い

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 143

    komaki_etc

    ☆quiet follow

    梅雨の漣タケ

    #漣タケ

    永遠 低気圧が都心を覆う。紫陽花すらどこか憂鬱そうだ。
     家の中から、窓の奥の曇天を見上げる。分厚そうで重苦しい。カーテンを開けても閉めても部屋の暗さは変わらない。仕方なく電気を付けるけれど、煌々とした人工的な明かりは、余計気分を落ち込ませた。息がしづらい季節だ。
     アイツも大人しい。散歩も、外で昼寝も出来ないから、鬱々としているのだろう。雨宿りと言わんばかりに俺の部屋に来たはいいものの、ずっと窓の外を見るばかりで、会話もなかった。雨粒はガラス窓を伝い、氷砂糖のようなすじを残していく。そこだけ視界が歪んで、外の明かりがぼやけて広がっている。内側からそれをなぞっても何も変わらないのに、辿らずにはいられない。傘を内側から覗いている時も似たような感覚になる。ビニール越しの雨粒は、指で叩くと落ちていくから。
    「……何か飲むか?」
    「……ん」
    「あったかいのと、冷たいの」
    「どっちでもいい」
     いつになく静かな彼の存在が、息苦しさを余計際立たせる。小さなワンルームの部屋に、二人分の二酸化炭素が充満している。俺は湯を沸かし、紅茶のティーバッグをマグカップに落とした。事あるごとに頂き物で増えていくティーバッグはこういう時に消費するに限る。
    「はいったぞ」
    「ん」
    「……どっか具合悪いか?」
    「ちげーし。ほっとけ」
     マグカップを渡し、そっと隣に座った。さあさあと降り続ける雨は、永遠という言葉の不安定さを思い出させる。たまらず、俺は窓を開けた。
    「何してんだよ、雨入ってくるだろーが」
    「この方がいいだろ」
     生ぬるい風が頬を撫でる。紅茶の湯気が揺れ、部屋の外と中の境界線を曖昧にさせた。アイツの黄金色の瞳を盗み見ると、外ではなく俺のことを見ていた。そのことに驚いて、思わずマグカップの中身を波立たせる。
    「な、なんだよ」
    「チビ」
     マグカップを床に置いて、強引に肩を引き寄せられた。ゆっくりと近づく唇に、ああ、永遠の重さってこういうことをいうんだ、とどこか違う場所にいる俺が思う。曇天は俺たちを覆い隠し、誰もが傘に隠れて、俺たちのことなんて忘れてる。二人ぼっちだ。合わさった唇を何度も食みながら、コイツが弱ってるところを見られるのは世界で俺だけだ、と心の中で何かに勝ち誇る。それが何に対してかわからない。プロデューサー? コイツのファン? わからない。ただ、コイツは俺だけのものだ。アイツの舌が乱暴に俺の口内を犯しだすのに合わせて、俺もマグカップを置いた。せっかく淹れた紅茶が渋くなっちまう。そんなことどうでもよかった。服の中に入ってくる手を受け入れながら目を瞑る。雨の音が耳にこだまする。コイツの呼吸が流れていく。
     梅雨って嫌いだ。漣、と静かに呼ぶ俺の声が、いつもより頼りなくなるから。それに返事する代わりにもう一度キスをするアイツのまつ毛が、濡れている気がするから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works