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DOODLEあんまり漣タケじゃない。タケルがジグソーパズルを漣とやる話ジグソーパズル タケルくんもやってみて、と小さな手のひらから受け取った小ぶりな箱には、たまに見かけることのある夜の絵が描かれていた。姫野さんは「ゴッホの絵、なんだって」と教えてくれて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」
「へえ、それはすごいな」
どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。
「タケルくんに貸してあげる!」
2676「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」
「へえ、それはすごいな」
どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。
「タケルくんに貸してあげる!」
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DOODLE漣タケ。成人してお酒を飲んでいますオレンジブロッサム 子供の頃に読んだおとぎばなしに出てくる「ぶどう酒」は、あんなにおいしそうだったのに。
大人になって初めて飲んだワインに顔をしかめる。てっきり濃厚なジュースみたいな味がすると思ったのに、渋くて、苦くて、まずかった。少ししょっぱいような、飲み込みにくい味。
「あはは、これはボディが重いからね」
俺にワインを勧めた番組プロデューサーはおかしそうに笑い、俺からグラスを受け取って残りをすいすいと飲み干していく。
「ドイツのアイスワインとかなら飲みやすかったかな」
「いえ、もう……結構です」
大人になったら、自然と酒が飲めるようになると思っていたのだ。身体が環境に適合していくように、胃とか食道も細胞が変化したりして。ビールが苦いという知識はあったけれど、まさかワインもこんなに重苦しい味だとは。匂いだけで脳が揺れそうだ。
2422大人になって初めて飲んだワインに顔をしかめる。てっきり濃厚なジュースみたいな味がすると思ったのに、渋くて、苦くて、まずかった。少ししょっぱいような、飲み込みにくい味。
「あはは、これはボディが重いからね」
俺にワインを勧めた番組プロデューサーはおかしそうに笑い、俺からグラスを受け取って残りをすいすいと飲み干していく。
「ドイツのアイスワインとかなら飲みやすかったかな」
「いえ、もう……結構です」
大人になったら、自然と酒が飲めるようになると思っていたのだ。身体が環境に適合していくように、胃とか食道も細胞が変化したりして。ビールが苦いという知識はあったけれど、まさかワインもこんなに重苦しい味だとは。匂いだけで脳が揺れそうだ。
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DOODLE漣タケ。とりとめない話みかん 店内ではなぜか「ももたろう」の曲がかかっている。俺はその軽快でチープな音楽を聴きながら、野菜売り場で困惑していた。
どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。
なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。
出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。
2419どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。
なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。
出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。
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DOODLE漣タケ。ほぼ同棲かさかさ ずっと段ボールを触っていたから、手がかさかさしてきた。指先の水分が全部吸い取られてしまったかもしれない。
近頃、もっぱら買い物を通販で済ませているせいで、家に段ボールが増えた。毎週のゴミ出しの日をすっかり忘れてしまい、かさばっていくそれらに溜息をつくのも飽きた頃、やっと前日に思い出すことが出来たのだ。明日、ランニングに行くときについでに出そうという算段である。
段ボールに張り付いている伝票を剥がしながら、牙崎、という名字が目に留まる。俺のだけじゃなくて、アイツの通販も俺の家に届くようになっていた。アイツ自身が買い物をしているわけじゃない。アダルト商品を買うのに、十八歳以上でないといけなかったから、名前を借りているに過ぎない。だいたいはコンドームだけど、その他にも、数種類、必要なものを買った。本来、入れるべきでないところに入れているわけだから、いろいろ準備が必要なのだ。思い出すのも恥ずかしく、俺は手回しシュレッダーに伝票をつっこむ。
2168近頃、もっぱら買い物を通販で済ませているせいで、家に段ボールが増えた。毎週のゴミ出しの日をすっかり忘れてしまい、かさばっていくそれらに溜息をつくのも飽きた頃、やっと前日に思い出すことが出来たのだ。明日、ランニングに行くときについでに出そうという算段である。
段ボールに張り付いている伝票を剥がしながら、牙崎、という名字が目に留まる。俺のだけじゃなくて、アイツの通販も俺の家に届くようになっていた。アイツ自身が買い物をしているわけじゃない。アダルト商品を買うのに、十八歳以上でないといけなかったから、名前を借りているに過ぎない。だいたいはコンドームだけど、その他にも、数種類、必要なものを買った。本来、入れるべきでないところに入れているわけだから、いろいろ準備が必要なのだ。思い出すのも恥ずかしく、俺は手回しシュレッダーに伝票をつっこむ。
カゲン
MENU◆「戯れよふかし」/A5/P8/単色刷り/中綴じ本/¥200ある冬の日の小話。
事後なので終始裸ですが、えっちな本ではないです。
サンプルの感じのほのぼのイチャラブコメ?な本です。
ぺら本ですが出せてよかったです!当日はよろしくお願いします~~! 5
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DOODLE漣タケ舞妓パロ鳩「なあ、チビ、鳩の目ぇ見えてんのかよ」
「ハト……? なんのことどすか?」
うちにだけ京ことばを使わないアイツを、姉さんなんて呼ぶ義理はない。おかあさんもこれには頭を悩ませているが、お客様の前ではきちんとしているし、何よりも花街一の舞の踊り手であるから、こっそり目を瞑っているのが現状だ。うちとしては、きつく咎めてほしいものだが。
「だぁら、簪だよ。その様子じゃ、まだ目ぇ入れてないみてーだな」
「目……」
ああ、思い出した。そうだ、この稲穂かんざしについている白い鳩には、目を描くことが出来るのだった。ご贔屓さんに目を入れてもらうと出世すると言われている。うちの鳩はまだ真っ白だ。
「だっせえの。貸せよ」
「ちょっ」
1167「ハト……? なんのことどすか?」
うちにだけ京ことばを使わないアイツを、姉さんなんて呼ぶ義理はない。おかあさんもこれには頭を悩ませているが、お客様の前ではきちんとしているし、何よりも花街一の舞の踊り手であるから、こっそり目を瞑っているのが現状だ。うちとしては、きつく咎めてほしいものだが。
「だぁら、簪だよ。その様子じゃ、まだ目ぇ入れてないみてーだな」
「目……」
ああ、思い出した。そうだ、この稲穂かんざしについている白い鳩には、目を描くことが出来るのだった。ご贔屓さんに目を入れてもらうと出世すると言われている。うちの鳩はまだ真っ白だ。
「だっせえの。貸せよ」
「ちょっ」
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DOODLE漣タケ。一緒に風呂に入る話マスカラ 撮影で、赤いマスカラを塗った。撮影後に化粧を落とすとき、赤い涙を流してるみたいになって、すこし怖かった。
家に帰り、風呂に浸かっていると、アイツが無遠慮に浴室に入ってきた。追い炊き機能もない、狭い狭い浴槽に、無理やり身体をねじ込んでくるから、窮屈で仕方がない。だけど俺は文句も言わず、ただされるがままになっていた。身体はもう充分あたたまっていたけど。
「狭い」
「男二人で入るのには無理があるだろ」
アイツが濡れた手で豪快に髪をかきあげる。ヘアアレンジでもされない限りなかなか見ることのない彼の額が、てらてらと美しく濡れた。
「何見てんだよ」
「向かい合わせに座ってんだから仕方ないだろ」
アイツの体積の分だけ溢れたお湯が、排水溝に流れていく。どこまで流れていくんだろう。下水へ、川へ、ダムへ、海へ。ゆらゆらと揺れる水面を、ぱしゃ、と手で掬う。アイツが入ってるせいで肩までつかれない。
1524家に帰り、風呂に浸かっていると、アイツが無遠慮に浴室に入ってきた。追い炊き機能もない、狭い狭い浴槽に、無理やり身体をねじ込んでくるから、窮屈で仕方がない。だけど俺は文句も言わず、ただされるがままになっていた。身体はもう充分あたたまっていたけど。
「狭い」
「男二人で入るのには無理があるだろ」
アイツが濡れた手で豪快に髪をかきあげる。ヘアアレンジでもされない限りなかなか見ることのない彼の額が、てらてらと美しく濡れた。
「何見てんだよ」
「向かい合わせに座ってんだから仕方ないだろ」
アイツの体積の分だけ溢れたお湯が、排水溝に流れていく。どこまで流れていくんだろう。下水へ、川へ、ダムへ、海へ。ゆらゆらと揺れる水面を、ぱしゃ、と手で掬う。アイツが入ってるせいで肩までつかれない。
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DOODLE10年後漣タケ甘々ラブラブ同居エプロン 十年経っても、チビはチビのままだった。
詳しく言えば、チビもあの頃より背は伸びたものの、オレ様の方が多く伸びたので、差がさらに開いたのである。いまはチビの頭にアゴを乗せられる。
ガチャ、とドアノブを回すと、ぱたぱたと駆けてくる音がする。住処に帰ってきたのだ、という安心感が一気に広がるこの瞬間の、得も言われぬ幸福。チビがエプロン姿のまま、おかえり、と出迎えてくれた。
「ただいま」
「寒かったろ」
「そーでも」
コートを脱ぎ、チビに抱きつく。このコートはチビに選んでもらったやつだ。スタイル良いなら似合うから、とおだてられるままに買ったロングコートはペラいくせいに重く、本当はいつものジャンパーがいい。しかしこれを着ていると仕事先で好評なのも事実。似合っていると褒められるのは気分がいいから、結局着てしまうのだ。
1746詳しく言えば、チビもあの頃より背は伸びたものの、オレ様の方が多く伸びたので、差がさらに開いたのである。いまはチビの頭にアゴを乗せられる。
ガチャ、とドアノブを回すと、ぱたぱたと駆けてくる音がする。住処に帰ってきたのだ、という安心感が一気に広がるこの瞬間の、得も言われぬ幸福。チビがエプロン姿のまま、おかえり、と出迎えてくれた。
「ただいま」
「寒かったろ」
「そーでも」
コートを脱ぎ、チビに抱きつく。このコートはチビに選んでもらったやつだ。スタイル良いなら似合うから、とおだてられるままに買ったロングコートはペラいくせいに重く、本当はいつものジャンパーがいい。しかしこれを着ていると仕事先で好評なのも事実。似合っていると褒められるのは気分がいいから、結局着てしまうのだ。
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DOODLE漣タケ。初日の出の中でキスする話1月1日 正月っていつも晴天のイメージだ。雨の降る元旦を経験したことがない気がする。
今年も、初日の出をベランダから見ていた。コートを着て、毛布をかぶって。白い息がゆっくりと宙を揺蕩う。
隣に並んだアイツは、何故だかとても大人しい。いつもと同じ朝日じゃねーか、位は言いそうなものを。じんわりと広がってく空の黄色の中、アイツは鼻を赤くして黙っていた。
「……キレイだな」
「……ん」
小さな声で呼びかけると、毛布が少し揺れた。寒さで喋りたくないのかもしれない。それとも、一年のはじまりの、どこか荘厳な光にあてられているのだろうか。
祈りが届く気がして、はあ、と息を大きく吐いた。口の中が熱くなって、その熱さが外に出た途端白く変わって。白が消える頃、アイツの顔が正面にあった。俺のことをじっと見る瞳の色は、日の出の色とそっくりで、俺は息を吸うのを忘れて見入ってしまう。
716今年も、初日の出をベランダから見ていた。コートを着て、毛布をかぶって。白い息がゆっくりと宙を揺蕩う。
隣に並んだアイツは、何故だかとても大人しい。いつもと同じ朝日じゃねーか、位は言いそうなものを。じんわりと広がってく空の黄色の中、アイツは鼻を赤くして黙っていた。
「……キレイだな」
「……ん」
小さな声で呼びかけると、毛布が少し揺れた。寒さで喋りたくないのかもしれない。それとも、一年のはじまりの、どこか荘厳な光にあてられているのだろうか。
祈りが届く気がして、はあ、と息を大きく吐いた。口の中が熱くなって、その熱さが外に出た途端白く変わって。白が消える頃、アイツの顔が正面にあった。俺のことをじっと見る瞳の色は、日の出の色とそっくりで、俺は息を吸うのを忘れて見入ってしまう。
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DOODLE漣タケ。タケル誕線香花火を灯して くしゃみで起きた。肩がすっかり冷えていた。
眠そうにしながら日付ぴったりを待つアイツをくすくす笑いこの日を迎え、祝いの言葉でもくれるのかと思ったら押し倒されて、何が何だかわからないまま三回致した。
祝い方が下手すぎるだろ。くしゃみをもう一度して、スマホを手繰り寄せる。お祝いのメッセージがたくさん届いていた。朝になったら返そう。このまま幸せな眠りにつくためには服を着ようか、それならばついでにアイツも起こして一緒に服を着させようか。風邪でも引かれたら困るし、それが俺のせいだと周りにバレるのはもっと困る。
なあ、と隣に声をかけようとすると、寝ていたはずのアイツがこちらを見ており、ぱちんと目が合った。
2683眠そうにしながら日付ぴったりを待つアイツをくすくす笑いこの日を迎え、祝いの言葉でもくれるのかと思ったら押し倒されて、何が何だかわからないまま三回致した。
祝い方が下手すぎるだろ。くしゃみをもう一度して、スマホを手繰り寄せる。お祝いのメッセージがたくさん届いていた。朝になったら返そう。このまま幸せな眠りにつくためには服を着ようか、それならばついでにアイツも起こして一緒に服を着させようか。風邪でも引かれたら困るし、それが俺のせいだと周りにバレるのはもっと困る。
なあ、と隣に声をかけようとすると、寝ていたはずのアイツがこちらを見ており、ぱちんと目が合った。
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DOODLE漣タケエクストラなんとか エクストラなんたらホイップを勧められたから、テキトーに頷いていたら、甘すぎるコーヒーが完成した。一口すすって顔をしかめたオレ様を笑い、交換しようか、とココアのマグを差し出される。
「ココア飲みたかったんじゃないのかよ」
「甘いのが飲みたかったんだ。これも甘い」
チビは上のホイップをひとくち飲んで、うまそうに微笑んだ。チビが頼まないコーヒーを飲んでやろうと思ったのに。格好がつかない。まあ、この甘さに免じて許してやろう。ココアはこっくりと口の中に広がり、寒さで固まった身体がほぐれていく。
「今の時期って、正月の番組の収録があったりするだろ。まだクリスマスにもなってないのに、あけましておめでとうございますって言うの、なんか、くすぐったいよな」
1631「ココア飲みたかったんじゃないのかよ」
「甘いのが飲みたかったんだ。これも甘い」
チビは上のホイップをひとくち飲んで、うまそうに微笑んだ。チビが頼まないコーヒーを飲んでやろうと思ったのに。格好がつかない。まあ、この甘さに免じて許してやろう。ココアはこっくりと口の中に広がり、寒さで固まった身体がほぐれていく。
「今の時期って、正月の番組の収録があったりするだろ。まだクリスマスにもなってないのに、あけましておめでとうございますって言うの、なんか、くすぐったいよな」
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DOODLE漣タケもどきお玉 左利き用のお玉を見つけて、そのまま買ってしまった。カバンは持ってないから、ビニール袋の値段もかかった。
さて、家にあるお玉をどうしよう。そのまま捨てるのもなんだかもったいない。でも使い古しを誰かにあげるわけにもいかず(新品ならともかく)。
家に帰るまでの道で、トイプードルが散歩していた。ピンクのチェックの服を着ており、裾から飛び出た毛がくるくると膨らんでいて大変可愛らしく、思わず頬が緩む。飼い主手作りの服だろうか。家族に自分の作品を身に纏ってもらえるなんて、きっととんでもなく嬉しい。
家には豚汁の素(にんじんやじゃがいもがあらかじめ切られているパック)と豚肉がある。今夜は豚汁だ。たっぷり作って、どんぶり一杯に食おう。円城寺さんならそこに鮭とか青菜とか何かつけるんだろうけど、俺にはそんな器用なことは出来ない。鍵穴に鍵を突っ込んだ時、違和感に気付く。味噌の匂いがしたのだ。
1927さて、家にあるお玉をどうしよう。そのまま捨てるのもなんだかもったいない。でも使い古しを誰かにあげるわけにもいかず(新品ならともかく)。
家に帰るまでの道で、トイプードルが散歩していた。ピンクのチェックの服を着ており、裾から飛び出た毛がくるくると膨らんでいて大変可愛らしく、思わず頬が緩む。飼い主手作りの服だろうか。家族に自分の作品を身に纏ってもらえるなんて、きっととんでもなく嬉しい。
家には豚汁の素(にんじんやじゃがいもがあらかじめ切られているパック)と豚肉がある。今夜は豚汁だ。たっぷり作って、どんぶり一杯に食おう。円城寺さんならそこに鮭とか青菜とか何かつけるんだろうけど、俺にはそんな器用なことは出来ない。鍵穴に鍵を突っ込んだ時、違和感に気付く。味噌の匂いがしたのだ。
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DOODLE漣タケ。事後コーラ味 アイツのくしゃみは二パターンある。大地を揺るがすようなでかいやつと、子供がしたみたいな小さいやつ。今はささやかなほうが漏れた。
「寒いか?」
「さむくねえし」
嘘つけ、と笑って毛布を渡す。薄手とはいえ、一人一枚必要な季節になってきた。外ではすっかり秋の風が吹いている。
いい加減はだかでいることを諦めた方がいいのだろう、だけど心地いいのだ。つながった後、汗も精も尽きて一息ついて、二人でこうして寝ころんでいるのが。時折思い出したようにキスをするのは、なんだか犬と戯れているみたいだった。
「オマエってさ」
「あ?」
「コーラ飲めるか」
「飲めるにきまってんだろ」
何を言ってるんだと心底不思議そうな顔をされてしまった。俺はどうしても小さい頃聞いた「歯が溶ける」という話が頭をよぎって、避けてしまうのだ。
1463「寒いか?」
「さむくねえし」
嘘つけ、と笑って毛布を渡す。薄手とはいえ、一人一枚必要な季節になってきた。外ではすっかり秋の風が吹いている。
いい加減はだかでいることを諦めた方がいいのだろう、だけど心地いいのだ。つながった後、汗も精も尽きて一息ついて、二人でこうして寝ころんでいるのが。時折思い出したようにキスをするのは、なんだか犬と戯れているみたいだった。
「オマエってさ」
「あ?」
「コーラ飲めるか」
「飲めるにきまってんだろ」
何を言ってるんだと心底不思議そうな顔をされてしまった。俺はどうしても小さい頃聞いた「歯が溶ける」という話が頭をよぎって、避けてしまうのだ。
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DOODLE漣タケ。モブおじさんが漣を泊めてた過去があります手のひら 夜中の三時に目が覚めた。
どうして三時かわかったかというと枕もとのスマホで見たからで、どうして夜中に目覚めたかというと話し声が聞こえたからだ。
隣に寝ていたはずのアイツの姿はなく、かわりに風呂場の方から声がする。誰と話してるんだ、電話か? こんな時間に台詞暗記をするようなヤツではない。
俺は軋む身体を無理やり動かしてベッドから降りた。シングルベッドじゃ睦みあうのにも無理がある。しかし事はいつも急に始まるから、わざわざホテルに行っている暇もない。どうしたもんかと腰を摩りながら、俺はこっそり風呂場へ近づいた。
「だから、無理だっつってんだろ」
苛立った声が浴室に響く。俺を起こさないようにわざわざここまで移動してきたんだろう。真っ暗な室内に、煌々とスマホの光が反射する。
1992どうして三時かわかったかというと枕もとのスマホで見たからで、どうして夜中に目覚めたかというと話し声が聞こえたからだ。
隣に寝ていたはずのアイツの姿はなく、かわりに風呂場の方から声がする。誰と話してるんだ、電話か? こんな時間に台詞暗記をするようなヤツではない。
俺は軋む身体を無理やり動かしてベッドから降りた。シングルベッドじゃ睦みあうのにも無理がある。しかし事はいつも急に始まるから、わざわざホテルに行っている暇もない。どうしたもんかと腰を摩りながら、俺はこっそり風呂場へ近づいた。
「だから、無理だっつってんだろ」
苛立った声が浴室に響く。俺を起こさないようにわざわざここまで移動してきたんだろう。真っ暗な室内に、煌々とスマホの光が反射する。
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DOODLE漣タケ金木犀のジャム 大家さんに、はい、と手渡されたその小瓶には、小さなオレンジ色の花が浮かんでいた。
「金木犀のジャムなの」
「手作りですか。すごいですね」
「趣味なのよ、ジャムづくりが。イチゴでしょ、マーマレード、りんご、金柑なんかも」
にこにこと笑うその目尻の皺に、日々の暮らしの楽しさが刻まれていた。回覧板と一緒に小瓶を受け取った俺は両手が塞がっていて、不格好なお辞儀しか出来なかった。
「それじゃあ、ハンコを押したらお隣に回してね」
「ありがとうございます」
朝のロードワーク帰りに、集合ポストの前で偶然会うにはタイミングが良すぎた。俺は大家さんの背中を見送りながら、さては俺の音で朝起こしてるな、と察する。もっと静かにドアを開けるようにしよう、この家は古いから音が筒抜けだ――
1740「金木犀のジャムなの」
「手作りですか。すごいですね」
「趣味なのよ、ジャムづくりが。イチゴでしょ、マーマレード、りんご、金柑なんかも」
にこにこと笑うその目尻の皺に、日々の暮らしの楽しさが刻まれていた。回覧板と一緒に小瓶を受け取った俺は両手が塞がっていて、不格好なお辞儀しか出来なかった。
「それじゃあ、ハンコを押したらお隣に回してね」
「ありがとうございます」
朝のロードワーク帰りに、集合ポストの前で偶然会うにはタイミングが良すぎた。俺は大家さんの背中を見送りながら、さては俺の音で朝起こしてるな、と察する。もっと静かにドアを開けるようにしよう、この家は古いから音が筒抜けだ――
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DOODLE漣タケ獏 夢を本当にする力が、もしあったとして。
「覇王」
「にゃあ」
路地裏で、いつものネコに煮干しをやる。嬉しそうに喉をごろごろ鳴らす様を見ていると、自然と自分の口角もあがってくる。
そろそろ寒くなってくる時期だ。コイツは今年、どこでどうやって過ごすのだろう。あたたかい場所で眠れているのか。食い物にはありつけているのか。さみしくなったりはしやしないか。
「チャンプ――っと」
オマエもいたのか、とあからさまにテンションを下げるチビに、オレ様の口角も下がる。お互い、一人きり――正確には一人と一匹――になれる、とっておきの場所なのだ。邪魔されたともなれば、気分はよろしくない。だけど、退散する気もないし、おそらくチビもそうだろう。仕方なく、といった風にしゃがんで、ポケットから缶詰を取り出した。
3036「覇王」
「にゃあ」
路地裏で、いつものネコに煮干しをやる。嬉しそうに喉をごろごろ鳴らす様を見ていると、自然と自分の口角もあがってくる。
そろそろ寒くなってくる時期だ。コイツは今年、どこでどうやって過ごすのだろう。あたたかい場所で眠れているのか。食い物にはありつけているのか。さみしくなったりはしやしないか。
「チャンプ――っと」
オマエもいたのか、とあからさまにテンションを下げるチビに、オレ様の口角も下がる。お互い、一人きり――正確には一人と一匹――になれる、とっておきの場所なのだ。邪魔されたともなれば、気分はよろしくない。だけど、退散する気もないし、おそらくチビもそうだろう。仕方なく、といった風にしゃがんで、ポケットから缶詰を取り出した。
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DOODLE漣タケ。情事後波紋 アイツの胸の上で呼吸を整えていた。まだ夕飯には早い時間だった。
じんわりと全身を包む汗に、風呂に入らなくてはと思いつつ、もうしばらくこのぬくもりに包まれていたいと力を抜く。うるさかった鼓動がおさまってきて、まろやかな倦怠感が襲ってくる。
俺の頭の上で長く息を吐いていたアイツが、おもむろに俺の髪を撫でた。撫でたというより、掴んで離すような、髪の動きを遊ぶ仕草だが、俺はそれが酷く心地よくて目を瞑る。
「チビ、ここで寝んなよ」
「寝ない……風呂入るだろ」
全身でアイツの体温を感じる。さっきまで俺のナカで激しく動いてたとは思えない静けさに抱きしめられながら、アイツの肌のたくましさを味わう。薄暗くなった室内。カーテンをしめなければ。
1863じんわりと全身を包む汗に、風呂に入らなくてはと思いつつ、もうしばらくこのぬくもりに包まれていたいと力を抜く。うるさかった鼓動がおさまってきて、まろやかな倦怠感が襲ってくる。
俺の頭の上で長く息を吐いていたアイツが、おもむろに俺の髪を撫でた。撫でたというより、掴んで離すような、髪の動きを遊ぶ仕草だが、俺はそれが酷く心地よくて目を瞑る。
「チビ、ここで寝んなよ」
「寝ない……風呂入るだろ」
全身でアイツの体温を感じる。さっきまで俺のナカで激しく動いてたとは思えない静けさに抱きしめられながら、アイツの肌のたくましさを味わう。薄暗くなった室内。カーテンをしめなければ。
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DOODLE漣タケシュート 鼻をかんだティッシュをゴミ箱に向かって放り投げたら、少し左に逸れて入らなかった。外では秋の風が吹いている。
「ハッ、だっせーの」
めざといアイツはけらけらと笑い、新しくティッシュを取るとぐしゃぐしゃと丸め、席に座ったままゴミ箱へ放った。ティッシュはそのまま吸い込まれるようにゴミ箱へ入り、アイツは得意げに鼻を鳴らす。
「見たかチビ!」
「こんなことでいちいち騒ぐな」
俺だって、そのくらい出来る。先ほどのティッシュはゴミ箱に入れ直し、俺も新しく丸をぐしゃぐしゃと作った。
「おい、そこからじゃ近いだろ。オレ様んとこからじゃねーと勝負になんねえ」
「細かいヤツだな」
まあ言われてみればその通りだから、俺はしぶしぶアイツの隣に座りなおした。手首のスナップをきかせて、ゴミ箱を狙う。
1740「ハッ、だっせーの」
めざといアイツはけらけらと笑い、新しくティッシュを取るとぐしゃぐしゃと丸め、席に座ったままゴミ箱へ放った。ティッシュはそのまま吸い込まれるようにゴミ箱へ入り、アイツは得意げに鼻を鳴らす。
「見たかチビ!」
「こんなことでいちいち騒ぐな」
俺だって、そのくらい出来る。先ほどのティッシュはゴミ箱に入れ直し、俺も新しく丸をぐしゃぐしゃと作った。
「おい、そこからじゃ近いだろ。オレ様んとこからじゃねーと勝負になんねえ」
「細かいヤツだな」
まあ言われてみればその通りだから、俺はしぶしぶアイツの隣に座りなおした。手首のスナップをきかせて、ゴミ箱を狙う。
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DOODLE漣タケうさぎと炭酸水 夜の散歩のお供に、強炭酸水を買ってみた。水より幾分か気分が晴れやかになる気がしたのだ。
今夜は中秋の名月と十五夜がかぶっているそうで、それはとても珍しいことのようだった。台本チェックもひと段落したことだしとサンダルで外に出てみれば、なるほど綺麗な月夜だった。炭酸水はぴりぴりと喉を通過して、脳が冴えわたる心地がする。
花札で、月見で一杯という役がある。花見で一杯という役とセットで覚えたのだが、花見は春にしかできないのに対して、月なんか毎晩出てるのになんで特別視するんだろうと不思議に思ったものだ。これだけ見事な月なら、そりゃああやかりたくもなる。俺はまだ酒は飲めないけれど、綺麗なものを愛でながら飲む酒はきっとうまいんだろう。しゅわしゅわと舌の上で炭酸が弾ける。
1793今夜は中秋の名月と十五夜がかぶっているそうで、それはとても珍しいことのようだった。台本チェックもひと段落したことだしとサンダルで外に出てみれば、なるほど綺麗な月夜だった。炭酸水はぴりぴりと喉を通過して、脳が冴えわたる心地がする。
花札で、月見で一杯という役がある。花見で一杯という役とセットで覚えたのだが、花見は春にしかできないのに対して、月なんか毎晩出てるのになんで特別視するんだろうと不思議に思ったものだ。これだけ見事な月なら、そりゃああやかりたくもなる。俺はまだ酒は飲めないけれど、綺麗なものを愛でながら飲む酒はきっとうまいんだろう。しゅわしゅわと舌の上で炭酸が弾ける。
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DOODLE漣タケ。魔法学校パロセンコウハナビ「ハナビ?」
「恭二さんに貰ったんだ。マグルの祭りで使われるんだと。火花が出るらしい」
「そんなの杖ふりゃすぐだろーが」
「マグルは杖を持ってない」
少し頭を使えばわかるだろうに。短絡的なアイツにやれやれと頭を振りながら、透明なビニール袋を破り、説明書きを見る。
恭二さんはマグル出身だ。時々マグル界に帰った後、こうしてお土産を買ってきてくれる。俺や隼人さんたちの、密かな楽しみだ。今回は「夏祭り」に行ったらしく、そのおすそ分けだと言っていた。
「えーと、バケツに水と、ライターを用意する」
「マグルらし」
アイツは杖をひと振りして、俺が持ってきていたタライに水を張る。途端に重みを増したそれを俺は慌てて地面に下ろし、ハナビの一つを手に取る。
1487「恭二さんに貰ったんだ。マグルの祭りで使われるんだと。火花が出るらしい」
「そんなの杖ふりゃすぐだろーが」
「マグルは杖を持ってない」
少し頭を使えばわかるだろうに。短絡的なアイツにやれやれと頭を振りながら、透明なビニール袋を破り、説明書きを見る。
恭二さんはマグル出身だ。時々マグル界に帰った後、こうしてお土産を買ってきてくれる。俺や隼人さんたちの、密かな楽しみだ。今回は「夏祭り」に行ったらしく、そのおすそ分けだと言っていた。
「えーと、バケツに水と、ライターを用意する」
「マグルらし」
アイツは杖をひと振りして、俺が持ってきていたタライに水を張る。途端に重みを増したそれを俺は慌てて地面に下ろし、ハナビの一つを手に取る。
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DOODLE漣タケおやすみ 事務所のソファで寝ていたら、枕代わりのクッションの下で、スマホがブルブルとうるさくて目が覚めた。朝のアラームとして置いているだけなのに、なぜ夜中に起こされなきゃならないんだ。表示を見ればチビからだったので、画面に指をスライドさせ着信に応じる。
「……んだよ」
「悪い。寝てたか」
チビの声が片耳に響く。寝起きの頭はまだふわふわとしていて、まるで目の前にいるかのような錯覚に陥った。
「何の用だ」
「オマエ、今日はどこ泊ってんだ」
「事務所」
「そうか、ならよかった」
今夜は少し冷えるから。そう言ってほっと息を吐くチビが見える。大きなお世話だ、多少の肌寒さなど寝ていれば紛れてしまうのに。
「用がねーなら切るぞ」
「……なくちゃだめか、用」
1688「……んだよ」
「悪い。寝てたか」
チビの声が片耳に響く。寝起きの頭はまだふわふわとしていて、まるで目の前にいるかのような錯覚に陥った。
「何の用だ」
「オマエ、今日はどこ泊ってんだ」
「事務所」
「そうか、ならよかった」
今夜は少し冷えるから。そう言ってほっと息を吐くチビが見える。大きなお世話だ、多少の肌寒さなど寝ていれば紛れてしまうのに。
「用がねーなら切るぞ」
「……なくちゃだめか、用」
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DOODLE漣タケうかうか 電車で隣に座った人が、花束を持っていた。
横を見なければ気づかないほどこぢんまりとした素朴な花束で、一輪、ひまわりだけが目を引くように鮮やかだった。
隣の人はそれを嬉しそうに、大事そうに何度も抱え直すものだから、自然と目が引き寄せられてしまう。きっと、じっと動かない人であれば、花束を持っていたことにも気づかなかっただろう。
花束は、職業柄、よく貰う。ドラマのクランクアップが主だ。ライブや舞台でもフラワースタンドを貰うが、持って帰れるものではない。手の中にすっぽりとおさまるサイズだと、家や事務所に飾れてささやかに嬉しくなる。
花は、一過性の美しさだ。あっというまに枯れてしまうし、それは手入れを怠れば尚のこと早まる。綺麗にドライフラワーにできれば長く楽しめるのだろうけど、自分はそこまで器用ではない。そんな一瞬の美しさを、わざわざ俺のために贈ってくれる存在がいるということは、なんと嬉しいことだろうか。右隣のひまわりを見ながら、そんなことを思う。きっとこの花たちは、帰宅後、速やかに花瓶に生けられるのだろう。存分に愛されてから散るに違いない。儚い栄華。俺は自分の右手の甲を見た。
1908横を見なければ気づかないほどこぢんまりとした素朴な花束で、一輪、ひまわりだけが目を引くように鮮やかだった。
隣の人はそれを嬉しそうに、大事そうに何度も抱え直すものだから、自然と目が引き寄せられてしまう。きっと、じっと動かない人であれば、花束を持っていたことにも気づかなかっただろう。
花束は、職業柄、よく貰う。ドラマのクランクアップが主だ。ライブや舞台でもフラワースタンドを貰うが、持って帰れるものではない。手の中にすっぽりとおさまるサイズだと、家や事務所に飾れてささやかに嬉しくなる。
花は、一過性の美しさだ。あっというまに枯れてしまうし、それは手入れを怠れば尚のこと早まる。綺麗にドライフラワーにできれば長く楽しめるのだろうけど、自分はそこまで器用ではない。そんな一瞬の美しさを、わざわざ俺のために贈ってくれる存在がいるということは、なんと嬉しいことだろうか。右隣のひまわりを見ながら、そんなことを思う。きっとこの花たちは、帰宅後、速やかに花瓶に生けられるのだろう。存分に愛されてから散るに違いない。儚い栄華。俺は自分の右手の甲を見た。
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DOODLE漣タケゲーム実況「こんばんは、みんな、聞こえてるか?」
ヘッドセットのマイクに向かって声をかけると、数秒のラグののち、コメント欄に「聞こえてる」との書き込みが多数現れる。よし、準備は万端だ。改めてマイクに向かって、「これからゲーム実況配信をはじめます」と伝えた。
今回挑戦していくのはホラーアクションゲームだ。いわゆるゾンビ的な敵が続々と襲ってくるのを、手元の銃やらで倒していく、初見注意、叫び声注意、と表記はしたものの、俺は視聴者が期待しているようなリアクションはなかなか取れない。気を抜くと淡々と進めてしまうから、うまくトークを織り交ぜて、時折大げさに驚いてみせながら、順調にゲームを進めていった。
「あれ? この部屋、なんで開かないんだ?」
1507ヘッドセットのマイクに向かって声をかけると、数秒のラグののち、コメント欄に「聞こえてる」との書き込みが多数現れる。よし、準備は万端だ。改めてマイクに向かって、「これからゲーム実況配信をはじめます」と伝えた。
今回挑戦していくのはホラーアクションゲームだ。いわゆるゾンビ的な敵が続々と襲ってくるのを、手元の銃やらで倒していく、初見注意、叫び声注意、と表記はしたものの、俺は視聴者が期待しているようなリアクションはなかなか取れない。気を抜くと淡々と進めてしまうから、うまくトークを織り交ぜて、時折大げさに驚いてみせながら、順調にゲームを進めていった。
「あれ? この部屋、なんで開かないんだ?」
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DOODLE漣タケ/ワードパレットお題:頬にキス・髪を撫でる・空き缶空き缶 ふと、夜中に目が覚めた。覚めたというより、いったん睡魔に身を任せて、それが過ぎ去っただけにすぎない感覚。
射精後というのはどうにも眠くなる。全身から欲求が抜けた途端、泥に片足を突っ込めば最後、あっというまに引っぱりこまれてしまう。がくん、と沈んでいくのは一瞬だ。自分が息をしているのすら不思議なくらいの気絶。これだけはどうにも抗えない。
自分と世界の境目がゆっくりとはっきりしていき、輪郭を帯びていく。暗闇の中でも目は冴え冴えとして、このまま電気を付けずとも歩き回れそうだ。
隣ですうすうと寝息を立てているチビをちらりと見たのち、起き上がる。うすらかいた汗に、喉の渇きを覚えた。飲み物が何かしらあるはずだ。起こさないようそろそろと歩く。全身を気怠さが包んでいた。冷蔵庫の前で、大きく伸びをする。
1482射精後というのはどうにも眠くなる。全身から欲求が抜けた途端、泥に片足を突っ込めば最後、あっというまに引っぱりこまれてしまう。がくん、と沈んでいくのは一瞬だ。自分が息をしているのすら不思議なくらいの気絶。これだけはどうにも抗えない。
自分と世界の境目がゆっくりとはっきりしていき、輪郭を帯びていく。暗闇の中でも目は冴え冴えとして、このまま電気を付けずとも歩き回れそうだ。
隣ですうすうと寝息を立てているチビをちらりと見たのち、起き上がる。うすらかいた汗に、喉の渇きを覚えた。飲み物が何かしらあるはずだ。起こさないようそろそろと歩く。全身を気怠さが包んでいた。冷蔵庫の前で、大きく伸びをする。
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DOODLE漣タケ飴 飴を捨てた。カバンの底でどろどろに溶けてしまっていたからだ。
誰に貰ったんだったか、おそらくヘアメイクスタッフさんだ。こういう気軽な菓子って、ふいに手に入るから持て余してしまう。いつもなら喉ケアにもなるからありがたく食べるのだが、立て続けの撮影ですっかり忘れてしまっていたようだ。
「なあ、飴持ってないか」
「持ってねー」
「そうだな。あったらオマエ、自分で食べてるもんな」
アイツの当たり前の返答に、一人で納得してしまった。アイツは貰ったら即食べる。収録の直前でもだ。飴は噛み砕くし、口の中がもたつくチョコレートもペロリだ。おかげでメイクさんは、撮影が始まる直前に、アイツの口元をチェックしなければならない。
1336誰に貰ったんだったか、おそらくヘアメイクスタッフさんだ。こういう気軽な菓子って、ふいに手に入るから持て余してしまう。いつもなら喉ケアにもなるからありがたく食べるのだが、立て続けの撮影ですっかり忘れてしまっていたようだ。
「なあ、飴持ってないか」
「持ってねー」
「そうだな。あったらオマエ、自分で食べてるもんな」
アイツの当たり前の返答に、一人で納得してしまった。アイツは貰ったら即食べる。収録の直前でもだ。飴は噛み砕くし、口の中がもたつくチョコレートもペロリだ。おかげでメイクさんは、撮影が始まる直前に、アイツの口元をチェックしなければならない。
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DOODLE漣タケ指輪 晴れだか曇りだかよくわからない午後、行き交う車の多さに辟易していた。
横浜の、大通りから横に逸れたこじゃれた小さな道に、その店は面していた。紺色の軒下に、眩い黄色のランプで店名が灯されている。
チビが来店時間を予約していたからか、女性の店員が待ち構えていたように出迎えた。白いシャツに黒い腰エプロン、まるでカフェの装いだ。店内には青いタイルと霞んだ色のドライフラワーが溢れ、ここだけ異国のようだった。
「本日はご来店ありがとうございます」
室内では僅かにピアノクラシックが流れていたが、全体的に静まり返っている。店員もヒソヒソ声の音量で話した。隠れ家、秘密基地、そんな言葉が似合う場所だった。
指輪を買いに行きたいと言ったのはチビからだった。これからも一緒に歩んでいく、約束がほしいと。証を形にしたいと、そう呟いたベッドの中、オレ様は「好きにしろ」と言いながらチビの髪を遊んでいた。
1812横浜の、大通りから横に逸れたこじゃれた小さな道に、その店は面していた。紺色の軒下に、眩い黄色のランプで店名が灯されている。
チビが来店時間を予約していたからか、女性の店員が待ち構えていたように出迎えた。白いシャツに黒い腰エプロン、まるでカフェの装いだ。店内には青いタイルと霞んだ色のドライフラワーが溢れ、ここだけ異国のようだった。
「本日はご来店ありがとうございます」
室内では僅かにピアノクラシックが流れていたが、全体的に静まり返っている。店員もヒソヒソ声の音量で話した。隠れ家、秘密基地、そんな言葉が似合う場所だった。
指輪を買いに行きたいと言ったのはチビからだった。これからも一緒に歩んでいく、約束がほしいと。証を形にしたいと、そう呟いたベッドの中、オレ様は「好きにしろ」と言いながらチビの髪を遊んでいた。
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DOODLE漣タケ見失ってしまいそうな幸福を インスタントラーメンに湯を注いでいたら、案の定アイツも「オレ様も食う」と言い出した。
「オマエはさっき菓子を食ってたろ」
「別腹」
どうせこうなると思って、ケトルには余計に湯を沸かしてあった。アイツは備蓄品を入れてある棚からカップラーメンを取り出し、線まで湯を注ぎ入れる。あとは三分、待つだけ。
がっつり食べたい時は円城寺さんのラーメンに限るけど、どうしようもない夕方の小腹には、この程度でいい。麦茶をコップに用意して、蓋を剥がして、手を合わせていただきますを言う。
俺が麺を啜りだしたのと同時くらいに、アイツも蓋を剥がした。三分待ちきれなかったのだろう。
「まだ硬いだろ」
「ヘーキだっつの」
ズルズルと勢いよく口に吸い込まれていく麺から汁が飛ぶ。仕方ない、ラーメンを食う時の宿命だ。机は後で拭けばいい。
2326「オマエはさっき菓子を食ってたろ」
「別腹」
どうせこうなると思って、ケトルには余計に湯を沸かしてあった。アイツは備蓄品を入れてある棚からカップラーメンを取り出し、線まで湯を注ぎ入れる。あとは三分、待つだけ。
がっつり食べたい時は円城寺さんのラーメンに限るけど、どうしようもない夕方の小腹には、この程度でいい。麦茶をコップに用意して、蓋を剥がして、手を合わせていただきますを言う。
俺が麺を啜りだしたのと同時くらいに、アイツも蓋を剥がした。三分待ちきれなかったのだろう。
「まだ硬いだろ」
「ヘーキだっつの」
ズルズルと勢いよく口に吸い込まれていく麺から汁が飛ぶ。仕方ない、ラーメンを食う時の宿命だ。机は後で拭けばいい。
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DOODLE目が見えないタケルBGM:美しきもの(サンホラ)
美しきもの 紫陽花を二輪、手に持って帰る。適当な植垣から折ってきたが、どこかの家の庭だったのかもしれない。申し訳なく思う心も薄くなる。じんわりとした世界に、肌が汗を纏いだす。
「ただいま」
「おかえり」
小さな声で呟いても、必ず返事が返ってくる。オレ様の帰りを今か今かと待っていたのかと考えてしまう。きっとたまたまだ。たまたま起きてて、たまたま耳を澄ましていただけだ。そう思わなければやってられない。
「今日はなんだ?」
「ん」
ベッドの横まで行って、紫陽花を渡す。チビは花の部分を触りながら、首を傾げては戻し、傾げては戻ししていた。
「紫陽花か?」
「そうだ」
「何色だ? 水色?」
「そうだ」
ぶっきらぼうにしか答えられないオレ様に構わず、チビはぱあっと顔を綻ばせて、大事そうに紫陽花を抱えなおした。
1436「ただいま」
「おかえり」
小さな声で呟いても、必ず返事が返ってくる。オレ様の帰りを今か今かと待っていたのかと考えてしまう。きっとたまたまだ。たまたま起きてて、たまたま耳を澄ましていただけだ。そう思わなければやってられない。
「今日はなんだ?」
「ん」
ベッドの横まで行って、紫陽花を渡す。チビは花の部分を触りながら、首を傾げては戻し、傾げては戻ししていた。
「紫陽花か?」
「そうだ」
「何色だ? 水色?」
「そうだ」
ぶっきらぼうにしか答えられないオレ様に構わず、チビはぱあっと顔を綻ばせて、大事そうに紫陽花を抱えなおした。
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DOODLE漣タケ同棲コーヒー 荷ほどきをしている手を休めて、ベランダの窓を開けた。さあっと新しい風が駆け抜けていく。まだカーテンも付けていない窓辺は陽射しをそのまま迎え入れて、ぽかぽかとあたたかかった。
テーブル、椅子、食器棚。二人で選んだ家具たちが、所在なさげにうかうかしている。これから馴染んでいくんだろう。そして、置かれているのが当たり前になっていく。ソファをひと撫でして、おおきく伸びをした。この空色を選んだのはアイツだ。
ただ暮らせればそれでいい、と思っていた俺たちを、事務所の人々は強く説得し続けた。何年も住むことになるんだから使い勝手のいいものを、ストレスのない快適さは自分で作るものだ、と。言われてみればそれは全くその通りで、俺はもうすっかりこの部屋が気に入っている。こげ茶で揃えた家具たち、そのなかでひとつだけ明るい色のソファ。二人で暮らすのにちょうどいい広さの部屋。
2858テーブル、椅子、食器棚。二人で選んだ家具たちが、所在なさげにうかうかしている。これから馴染んでいくんだろう。そして、置かれているのが当たり前になっていく。ソファをひと撫でして、おおきく伸びをした。この空色を選んだのはアイツだ。
ただ暮らせればそれでいい、と思っていた俺たちを、事務所の人々は強く説得し続けた。何年も住むことになるんだから使い勝手のいいものを、ストレスのない快適さは自分で作るものだ、と。言われてみればそれは全くその通りで、俺はもうすっかりこの部屋が気に入っている。こげ茶で揃えた家具たち、そのなかでひとつだけ明るい色のソファ。二人で暮らすのにちょうどいい広さの部屋。
komaki_etc
DOODLE漣タケ寝坊 朝、オレ様の方が先に目を覚ますことは珍しかった。
チビは毎朝ロードワークに行くから、その支度の音で起き、勝負を仕掛けるために一緒に出ていくことが多い。どうしても眠気が勝ったらそのまま惰眠を貪ることがあるけれど、ともかくチビは、いつもオレ様よりも早く起きるのが日課だった。
それがどうして、今日はこんな時間まで寝ているのだろう。起こした方がいいのだろうか。鼻に手を当て、息をしているのを確認し、なんとなく安心する。こんだけ温かいのだから、そりゃ息もしているはずだ。
「オイチビ」
「ん……」
「起きなくていーのかよ」
そのまま鼻を摘まみ、チビがもごもご動くのを見ていた。苦しそうな顔をしたのち、オレ様の手を振り払い、うっすらと大きな瞳を開ける。チビは童顔だ。無防備な寝顔は、殊更幼く見える。
1944チビは毎朝ロードワークに行くから、その支度の音で起き、勝負を仕掛けるために一緒に出ていくことが多い。どうしても眠気が勝ったらそのまま惰眠を貪ることがあるけれど、ともかくチビは、いつもオレ様よりも早く起きるのが日課だった。
それがどうして、今日はこんな時間まで寝ているのだろう。起こした方がいいのだろうか。鼻に手を当て、息をしているのを確認し、なんとなく安心する。こんだけ温かいのだから、そりゃ息もしているはずだ。
「オイチビ」
「ん……」
「起きなくていーのかよ」
そのまま鼻を摘まみ、チビがもごもご動くのを見ていた。苦しそうな顔をしたのち、オレ様の手を振り払い、うっすらと大きな瞳を開ける。チビは童顔だ。無防備な寝顔は、殊更幼く見える。
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DOODLE漣タケコンドーム 部屋の掃除をしている時に、コンドームの新しい箱を見つけた。
薬局で買ったのか通販で買ったのかはわからないが、薄い袋に包まれたままの黒い箱が、四箱も。
――コンドームって、まとめ買いすると安くなったりするのか……?
ベッドサイドのミニテーブルの小さな引き出しにそれは乱雑に突っ込まれており、隠す気もさらさらなさそうであった。俺は引き出しの中身を整理するために、一度全てを取り出す。
新しい箱の他に、開封済みの箱も出てきた。ジェル付きのと、薄さに拘ったのが。使い比べてみようとして、大して違いが分からなくて、暗がりの中で手に取ったやつを使っているから、減り方も半々だ。
六つの箱と、使いかけのローションをベッド上に並べて、俺は一人で赤面する。だってこれじゃあ、まるで、やることをこんなにも楽しみにしてるみたいだ。
931薬局で買ったのか通販で買ったのかはわからないが、薄い袋に包まれたままの黒い箱が、四箱も。
――コンドームって、まとめ買いすると安くなったりするのか……?
ベッドサイドのミニテーブルの小さな引き出しにそれは乱雑に突っ込まれており、隠す気もさらさらなさそうであった。俺は引き出しの中身を整理するために、一度全てを取り出す。
新しい箱の他に、開封済みの箱も出てきた。ジェル付きのと、薄さに拘ったのが。使い比べてみようとして、大して違いが分からなくて、暗がりの中で手に取ったやつを使っているから、減り方も半々だ。
六つの箱と、使いかけのローションをベッド上に並べて、俺は一人で赤面する。だってこれじゃあ、まるで、やることをこんなにも楽しみにしてるみたいだ。
komaki_etc
DOODLEファンクロ/漣タケサクラ「見てくれ、ファング、アーモンドの花だ!」
こんなにたくさん、と木の下でくるくる回ると、ファングが溜息がちに肩を落とす。
「サクラだ。ちょっと違う」
「ふうん、違うんだ?」
ほんのり薄ピンク色の、優し気な花びらが舞う。おいしそうな匂いがする。花びらはきっと食べられないけれど。
「オレだって詳しいわけじゃねーよ」
「まあ、そりゃそうだよね」
ファングが花に詳しいだなんて、そんなハズがない。仕事で庭園に寄ったって、見向きもしないんだから。セブンだって笑うはずだ。
「……あ」
「どうしたの?」
「バラ科だな、アーモンドもサクラ」
「へえ」
胸の紋章が躍る。僕らは薔薇に囲まれて生きている。血を吸って真っ赤な、絢爛な花。
835こんなにたくさん、と木の下でくるくる回ると、ファングが溜息がちに肩を落とす。
「サクラだ。ちょっと違う」
「ふうん、違うんだ?」
ほんのり薄ピンク色の、優し気な花びらが舞う。おいしそうな匂いがする。花びらはきっと食べられないけれど。
「オレだって詳しいわけじゃねーよ」
「まあ、そりゃそうだよね」
ファングが花に詳しいだなんて、そんなハズがない。仕事で庭園に寄ったって、見向きもしないんだから。セブンだって笑うはずだ。
「……あ」
「どうしたの?」
「バラ科だな、アーモンドもサクラ」
「へえ」
胸の紋章が躍る。僕らは薔薇に囲まれて生きている。血を吸って真っ赤な、絢爛な花。
komaki_etc
DOODLE漣タケ 月から新しい身体がくるから殺してくれと言う漣殺してくれ 彼が言うには、明日、月から新しい「彼」が来るらしい。
ワンルームの小さなアパート。小さな冷蔵庫と机、水色のカーテンのほか、目立つものはない。規則正しい四角の中で生きている俺に、突拍子もないことを言ってのけるアイツは、腹が減ったから飯を寄越せと言ったかのような、当たり前の顔をしてそこに立っていた。
「え……?」
「だから、それまでに死ななきゃなんねえ」
死ぬ、という言葉は、音に出してしまえばなんて軽い響きなのだろう。ずしりと心臓が重くなり、首の後ろがひんやりとする。鉛を飲み込むような喉の気持ち悪さにも、アイツは微動だにしなかった。
「死ぬ、って」
「だから、身体の交代なんだよ。魂は同じだから気にすんな」
1710ワンルームの小さなアパート。小さな冷蔵庫と机、水色のカーテンのほか、目立つものはない。規則正しい四角の中で生きている俺に、突拍子もないことを言ってのけるアイツは、腹が減ったから飯を寄越せと言ったかのような、当たり前の顔をしてそこに立っていた。
「え……?」
「だから、それまでに死ななきゃなんねえ」
死ぬ、という言葉は、音に出してしまえばなんて軽い響きなのだろう。ずしりと心臓が重くなり、首の後ろがひんやりとする。鉛を飲み込むような喉の気持ち悪さにも、アイツは微動だにしなかった。
「死ぬ、って」
「だから、身体の交代なんだよ。魂は同じだから気にすんな」