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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    漣タケもどき

    #漣タケ

    お玉 左利き用のお玉を見つけて、そのまま買ってしまった。カバンは持ってないから、ビニール袋の値段もかかった。
     さて、家にあるお玉をどうしよう。そのまま捨てるのもなんだかもったいない。でも使い古しを誰かにあげるわけにもいかず(新品ならともかく)。
     家に帰るまでの道で、トイプードルが散歩していた。ピンクのチェックの服を着ており、裾から飛び出た毛がくるくると膨らんでいて大変可愛らしく、思わず頬が緩む。飼い主手作りの服だろうか。家族に自分の作品を身に纏ってもらえるなんて、きっととんでもなく嬉しい。
     家には豚汁の素(にんじんやじゃがいもがあらかじめ切られているパック)と豚肉がある。今夜は豚汁だ。たっぷり作って、どんぶり一杯に食おう。円城寺さんならそこに鮭とか青菜とか何かつけるんだろうけど、俺にはそんな器用なことは出来ない。鍵穴に鍵を突っ込んだ時、違和感に気付く。味噌の匂いがしたのだ。
     玄関に靴が散らばっていた。アイツのものだ。合い鍵を持たせてからというもの、時折こうして勝手に家にあがってくる。円城寺さんちの合い鍵も持ってるから、どっちの家に行くのか、はたまた他のどこかに行っているのかは毎日わからない。仕事に支障さえなければなんだっていい。合い鍵を渡したのだって、冬空の下で風邪を引かれたら困るからだ。
    「来てたのか」
    「おせーぞチビ」
     別に、おかえりと言ってほしかったわけじゃない。鍵を貸してるだけで、ここはアイツの家じゃない。俺は手を洗いながら深呼吸をする。彼の髪がしっとりと濡れていた。首元にかけたタオル、新しいTシャツ。風呂に入ったのか。
    「ちゃんと拭かないと風邪ひくぞ」
    「うるせーな、腹減って動けなかったんだよ。この家なんもねーな」
     腹が減ってるなら男道らーめんに行けばいいのに。事務所でも、誰かしら飯に連れてってくれたろう。こいつの気まぐれには何かルールがあるのだろうか、と最近考えるようになった。例えば、雨の日は必ずうちにくる。事務所にいれば濡れないのに。
    「……なに作ってんだ」
    「豚汁。用意してあったろーが」
     見ると、大鍋のなかで具が煮えていた。出汁入りの味噌と、豚肉を切ったであろうまな板と包丁が出しっぱなしになっている。
    「オマエ、豚汁作れたのか」
    「コレの裏に書いてあるだろ、そんくらいオレ様にも読める」
     豚汁の素のパックの裏に、作り方、という欄があった。俺もいつもそこを見て作っている。俺は買ってきたばかりのお玉をビニール袋から取り出して、タグを切りながら感心した。
    「せっかく買ってきたけど、今日使わなかったな」
    「ソレなら今使ってるのがあんじゃねーか」
    「それ、右利き用なんだよ。ちょっと違うんだ。オマエ両利きだから関係ないけど」
     捨てる前に、最後にソレを使えてよかったかもしれない。鍋の中をぐるぐると回すお玉を見ながら、俺は味噌のパックを冷蔵庫に仕舞った。
    「味見したか」
    「……何か薄い」
    「めんつゆ入れるといいって、円城寺さんが」
     冷蔵庫からめんつゆを取り出し、アイツの持っているお玉に注いだ。アイツはそれを鍋の中に再び沈め、ぐるぐるとかきまわす。
    「どうだ」
    「……うめー」
    「よかった」
     アイツが鍋の番をしている間に、洗い物を済ませる。アイツも、一人で料理なんか出来るんだな。見慣れない姿に少しドキドキしてしまった。菜箸で器用に豚肉を摘まんで盗み食いしている。充分火も通っているようだ。
    「そろそろ食おうか。よそってくれ」
    「命令すんじゃねー」
     俺はどんぶりを二つと、茶碗を二つ、コップを一つ用意した。アイツ用のコップはもう机の上に出ていた。風呂上がりに使用したのだろう。
     二人分の食卓が整って、俺は両手をあわせた。いただきますという魔法の言葉を、今夜はアイツに贈る。アイツはさっそくがつがつと食べ進めて、満足げにしていた。味噌のコクで白米が進む。冷えた身体にあたたかかった。
    「……作ってくれて、サンキュ」
    「くはは、カンシャしやがれ」
     コイツの気まぐれには、きっと何かルールがある。今日は飯を作る気分だった、ただそれだけなのだろうけど。この料理がうまいのは、あたたかいからだけじゃない。コイツが作ってくれたからだ。ゆびさきがじんわりと熱くなる。
     明日は雨が降るだろう。コイツが優しかったから。そうしたらコイツはまた泊まりに来る。新しいタオルを用意しておこう。そして、今度は俺が料理を作る。新しいお玉も使いたいし、何だか借りを作ってるみたいでむずむずするのだ。
     俺が風呂に入っている間に、アイツはもう寝こけていた。むずむずに気付かれずに済んでホッとした俺は、二人分の食器を洗う。
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    DOODLE漣タケ
    うかうか 電車で隣に座った人が、花束を持っていた。
     横を見なければ気づかないほどこぢんまりとした素朴な花束で、一輪、ひまわりだけが目を引くように鮮やかだった。
     隣の人はそれを嬉しそうに、大事そうに何度も抱え直すものだから、自然と目が引き寄せられてしまう。きっと、じっと動かない人であれば、花束を持っていたことにも気づかなかっただろう。
     花束は、職業柄、よく貰う。ドラマのクランクアップが主だ。ライブや舞台でもフラワースタンドを貰うが、持って帰れるものではない。手の中にすっぽりとおさまるサイズだと、家や事務所に飾れてささやかに嬉しくなる。
     花は、一過性の美しさだ。あっというまに枯れてしまうし、それは手入れを怠れば尚のこと早まる。綺麗にドライフラワーにできれば長く楽しめるのだろうけど、自分はそこまで器用ではない。そんな一瞬の美しさを、わざわざ俺のために贈ってくれる存在がいるということは、なんと嬉しいことだろうか。右隣のひまわりを見ながら、そんなことを思う。きっとこの花たちは、帰宅後、速やかに花瓶に生けられるのだろう。存分に愛されてから散るに違いない。儚い栄華。俺は自分の右手の甲を見た。
    1908