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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    れおたいクリスマスデート

    #漣タケ

    マーキング まあクリスマスだからと言って何があるわけでもない。今日も今日とて部活がある。クラスメイトの女子たちはプレゼントを交換しあったりしていたが、男からしたら無縁の世界だ。街中がきらきらしているのも、季節の催し物だな、と思うくらいで。
     ふっきれたとはいえ、マネージャーの方は見ないようにしている。たとえばこの後彼氏とデートなのかな、と思うことほど、空しいものはないからだ。リストバンドで汗を拭きながら、体育館の時計をちらりと見る。大きいアナログ時計。電池はいつ交換しているんだろう。そもそも電池なのか。
     部活が終わったら会おうぜだなんて連絡が来たのは昨日、クリスマスイブのことだった。玲央先輩のことだから大学でもモテてしょうがないんじゃないかと思い連絡を控えていたのに、クリスマスを俺なんかと過ごして大丈夫なのか。聖なる夜に告白したい女性なんて山ほどいるはずだ。
     ――いや、だからかもしれない。女避け。「先約があるから」という口実。
     何か奢ってもらえれば、許してやらないこともない。せっかくだからチキンでも買って貰おうか。飯のことを考えていたら腹が減ってきた。あと一時間の辛抱だ。
     
    「虎斗」
     駅は黒いコートで騒めきあっていた。いくら街を彩ったって、人間たちが黒いんじゃ意味ないんじゃないかと思ってしまうが、自分の身なりを見下ろして何も考えなかったことにする。俺も黒いコートを着ていたからだ。
     先輩はグレーのロングコートを着ており、真っ赤なマフラーがよく映えていた。マフラーに隠れている鼻まで赤い。大学生になってからの先輩はぐんと大人びたように見えていたが、昔と変わらない部分を見つけるとなんとなく嬉しい。
    「遅くなりました」
    「さみい。なんか奢れ」
    「え、奢るのは先輩の方でしょ」
    「何でだよ」
     今日、どこに行くのかは聞いていなかった。所詮は女避けの口実の身なので、正直どこでも良い。俺の腹の虫が鳴るのを聞いた先輩はゲラゲラ笑い、ファミチキとモスチキンどっちかなら奢ってやると言われた。
    「なんかもっとないんすか。夜景の見えるレストランとか」
    「クリスマスにそんなとこ空いてるワケねーだろ」
     仕方なくファミチキで小腹を満たしながら、先輩に付いて行く。大きなショッピング施設に入っていくのを見ながら、女性へのプレゼントかな、と考え、なんとなく足取りは重くなった。
    「虎斗は」
    「なんすか」
    「なんかなかったワケ。クリスマスに予定」
    「あるわけないっす。部活だけ」
    「はっ、色気ねー」
     迷いなく進んでいく先輩は、たまに俺が付いて来ているか振り向きながら、真っ赤なマフラーをなびかせて笑っていた。クリスマスに先輩の笑顔を独り占めしているのは俺だ、という、どことない優越感を覚える。誰に対してだかは知らない。
    「先輩はいいんすか。彼女とか」
    「いねーし」
    「でも告白されたとかはあるでしょ」
    「まーな。でも全部断った」
     隠すこともなく、恥じることもなく、堂々と言ってのけるのが、先輩らしい。かつて同じ人を好きになった同士、今更気を遣うことなんてないのだ。でも、どこかほっとしている自分がいた。俺の知らないところで女性と歩いている先輩を想像すると、なんとなく、飲み込む空気がまずいのだ。嫉妬だろうか。そんな感覚ないけれど。
    「あった。こっち」
     先輩に付いて行った先には、香水ショップが並んでいた。香水なんて、それこそ俺に一番無縁だ。鼻につくし、汗で流れちまうし、付けたことがない。先輩は女性に香水をプレゼントするのか。随分シャレている。
     先輩はつかつかと一つの店に入って行き、奥の棚の、下から二番目の青い瓶を指さした。
    「これ。やる」
    「……は?」
    「クリスマスプレゼント」
    「え、いや、なんで」
    「オレ、これ使ってっから」
     先輩は小さい瓶を手に取り、またつかつかとレジへ歩いて行ってしまった。俺にやるって言ったか? なんでだ? なんのために?
     呆然と立っていると、会計を済ませた先輩が戻ってきた。さっきの香水の、展示されているものを備え付けの紙にプシュッと吹き付けて俺に差し出す。
    「どうだよ」
    「普通それ買う前に確認しませんか……」
     先輩の手の中の紙の匂いを嗅ぐ。甘くない、爽やかで、どこかで嗅いだことのある匂いがした。
    「……いい匂いっす」
    「ホラ」
     先輩は白い手提げ袋を俺に突き出した。中にラッピングされた小包が入っている。金色のリボンは俺の動揺をよそに浮かれ気味だ。
    「……なんで」
    「マーキング」
    「は?」
    「女避け。オレの匂いさせとけ」
     べ、と舌を出した先輩は、そそくさとそれをマフラーで隠し、つかつかと店を出て行く。俺は慌てて追いかけながら、先輩の耳も赤くなっているのを見上げた。たぶん、俺も同じくらい赤くなっている。
     俺の心配なんかより、自分の心配すればいいのに。マーキングだなんて、そんなの。
     オレのもの、って、言われているみたいで。
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