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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    ファンクロ(漣タケ)タバコ吸ってます クローがモブに襲われてる描写があります

    #漣タケ

    煙草「……ペッ」
     相手の男――だったもの、が倒れる床に、彼から排出された唾液を吐き出す。床というか、彼自身に。
     僕は童顔だ。背も低い。こればかりは天からの授かりものだから、悔やんでも仕方ない。逆に利用する他ない。だけど、こう何度もペド野郎の相手をさせられるのも、いい加減堪忍袋の尾が切れそうだ。
    「なーにが可愛い坊や、だよ。ゲスが」
     彼に弄られた臀部を数回手で払い、撫で回された頬を肘で拭う。ヤるに至らなかったからまだマシだ。懐から煙草を取り出し、口に咥える。一刻も早く、彼の体液の味を忘れたかった。煙草も嫌いだけれど、こういう時に役立つから仕方なく持ち歩いている。マッチを二、三回擦り火を起こす。肺いっぱいに煙を吸い込めば、喉の辺りが焼けた心地がした。初めて煙草を口にした日のことを思い出す。
     
    「う、ぐす、ひっ」
    「これからこんな事ばっか起きる」
     あの日、訳もわからず滅茶苦茶に身体を暴かれているところに、ファングが助けに来てくれた。僕は処女のように股間から血を流し、忘れたと思っていた涙を滝のように流していたんだった。さっきまで覆い被さっていた巨大が床に転がり、僕は生暖かい液体に全身塗れていた。栗の花と鉄が混ざった、反吐のような匂い。
    「今日のことがどうでも良くなるくらいに、何度も」
     死体をツヤツヤした革靴で蹴飛ばしたファングは、自分の懐から小さな紙箱を取り出し俺に差し出す。
    「忘れるのも、一つの能力だ」
     煙草だ。初めて触った。大人の嗜好品だ――地面にこびりついてるのを拾い集め巻き直し、再び売ることで日々の小銭稼ぎにするスラムの子供は、何度か見たことがあるけれど。
    「掻き消せ。上書きしろ。生き残るには、忘れるしかないんだ」
     そうやって、色んな大切なものを忘れていって、都合のいい苦味で上書きして、塗りつぶしていく。大人になるって、なんて気持ち悪いのだろう。初めての煙草は涙で咽せて、ただ嘔吐を誘っただけだった。

     あれから何年経ったろう? ショタコンは殺しても殺してもその数は尽きず、僕はそろそろ尻が擦り切れそうだ。広がる苦味が舌に染みる。忘れなきゃ。コイツのことを忘れて、空っぽにならなきゃ。細く吐き出した煙は空にじんわり消えていく。
    「まーだこんなとこにいんのかよ」
     カツカツと革靴の音が響いたと思ったら、毛先を赤く染めたファングが退屈そうに現れた。
    「ごめん、これ吸ってから行くよ」
    「俺にもくれ」
     ファングの革靴の音はいつ聞いてもシャレてる気がする。気取ってるって言うのだろうか。泥の中を生きていても、こんな音って出せるんだな。
     ファングに煙草を渡せばぱくっと咥えられた。両手をポケットに入れたままだから、自分で火をつける気もないのだろう。やれやれ、面倒くさがりなんだから。それとも甘えん坊なのだろうか。あはは、僕にだけ見せてくれる素顔ってこと。なんだか気が抜けてしまう。
     ファングの口元に顔を近づけ、煙草の頭と頭をくっつける。黒い火が広がり、昇る煙が二本に増えた。
    「……はー」
    「おいしい?」
    「苦ぇ」
     そう。苦い。苦いだけ。喉を焼いて肺を染めるだけ。それでも悍ましい吐き気を上書きしてくれる。僕は小さくなった吸い殻を足元に転がし、爪先ですり潰した。ちっぽけな命みたいだ。あっけなく煙は消えていく。
    「ねえ」
    「何」
    「キスしない?」
    「……何で」
    「煙草より、よっぽど美味しいと思うんだけど」
     あの日、煙草の味を教えてくれたのはファングだった。ファングは煙草が上手く吸えずに咳き込んだ僕の唇を、その大きな舌で舐めとった。その時の味を、僕は一生忘れない。煙草なんかより、よっぽど大人の味だった。
    「ねえ。ファングからキスして」
    「……いつからこんな甘えたになった」
    「さあね。キミのせいだってことは確かだけど」
     さっきまで違う男を抱いていた腕で、ファングに抱きつく。咽せ返るような錆の匂い。僕らに染みついた殺しの匂い。
    「クロー」
     苦い苦いキスを一つ。僕らが生きてる証にならないかな。ならないか。だってきっと、僕は明日も煙草を吸って、今日のこともすぐに忘れるのだから。
    「……苦ぇ」
    「苦いね」
     クスクス、二人分の笑い声。足元には小さな吸い殻が二つと、真っ黒な死体が一つ転がっている。彼は生涯で何本煙草を吸ったろう。もう数えることもできないけれど。
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