Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    komaki_etc

    波箱
    https://wavebox.me/wave/at23fs1i3k1q0dfa/
    北村Pの漣タケ狂い

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 224

    komaki_etc

    ☆quiet follow

    リクエスト れおたい

    地下鉄 じゃあ、海にでも行こうか、そう言ったのは先輩だった。一体何が「じゃあ」なのかわからなかったけど、反射で俺も「そっすね、じゃあ」と答えたので、そこはお互い様である。
     駅で待ち合わせして、数駅乗って、乗り換えて。開けた場所に辿り着きたいというのに、長い長いトンネルの中にいる。密閉された空間に時折入ってくる外の風が心地よかった。
    「……先輩って」
    「なに」
    「泳げますっけ」
    「ある程度? つか、今日泳げねーぞ」
    「わかってますって」
     だって、海だから。想像するのは、夏の青い空じゃないか。春になりたての今、海開きはまだまだ先だ。
    「虎斗は」
    「……ある程度」
    「くはは」
     まあ、この歳まで水泳の授業を受けてたら、そこそこ泳げるようになるもんだ。聞くまでもなかった。
     ゴオゴオと窓の外が流れていく。この中の電球って、切れた時誰が取り替えるんだろう。どうでもいいことばかり思いつく。
    「……どうすか、大学」
    「まーまー」
    「それじゃわかんないっすよ」
    「高校より学食がウマい」
     得意げに笑うその顔の向こう側に、降りる駅の看板が見えはじめる。
    「降りますよ」
    「へーへー」
     次の電車は、しばらく乗れば地上につながる。さらにずっと乗っていれば、その先は待ち焦がれた海だ。長い長い電車の旅。
    「たまには部活、顔出してくださいね」
    「新しいヤツらにはメーワクだろ」
    「いいんすよ。俺がそうしたいんすから」
    「ワガママな主将」
     いいじゃないか、寂しいんだから。張り合う相手がいないと、日常に漂う空気が、なんだか軽薄だ。
    「ボール持ってくればよかったか」
    「砂浜でバスケはまずいっすよ」
    「それもそうだな」
     暗いトンネルに、小さな呟きは吸い込まれていく。置き去りにされた会話たちは、どこかで俺たちのことを覚えていてくれるだろうか。
    「……先輩」
    「わかってるよ」
     置いてかないでくださいね、俺のこと。伝えるより先に伝わっている。人工的な灯りの下で、バレないように手を重ねた。他の乗客は皆、スマホに夢中だ。
     海はまだ先、だからもう少し、この仄暗い電車の中で。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏👏👏👏👏👏❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator