休講 寒さで手が悴む。親指の感覚がない。それは久しぶりの雪で、僕は履いてくるべき靴を間違えたことを早くも後悔していた。
都心に雪は積もりづらい。整備されたアスファルトは水捌けが悪く、水たまりに雪が溶けてぐちゃぐちゃだ。街路樹の根元くらいだ、「真っ白」が存在するのは。どろどろのみぞれをかき分けて、大学への道を歩む。
自販機で缶コーヒーを買う。早く温まりたいのに、缶の外側が熱くて火傷しそうになる。人間の体って不便だ。セーターの袖を指先まで持ってきて、服越しに持つことでなんとか耐えた。舌先に苦さが広がって、こんな日くらいは砂糖の加わった方を買っても良かったかな、と思いながら喉奥へ流し込んでいく。
バスは遅延していた。缶コーヒーを空にしながら、手の温度が元に戻っていく感覚を味わっていた。バス停に人は少ない。ぼうっと空から落ちる白い粒を眺めているうち、疲れ切ったような顔のバスが来る。
バスに乗ってからスマホを見たのが間違いだった。どうせ寒さで震えているだけなら、バス停でポケットから手を出せばよかった。そこに映っていたのは「休講」の二文字。この授業のために乗ったバスは、十分遅延しながらがたがたと進んでいく。