Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    akua_yuu

    @akua_yuu

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 45

    akua_yuu

    ☆quiet follow

    シナリオ「モルグの園」のログ。
    ログというか、RPのところメモった感じのやつ。
    R-18&ネタバレ注意。
    探索者:世良優希、夢咲澪

    ログ『モルグの園』

    「──」

    目を覚ましてから、ぼんやりとしていた頭が一気に冴えた。寝ていたのは自分の部屋じゃない。どこか分からない、廃墟だ。
    周りを見渡すと──同じく、澪がボロボロのベッドで眠っている。

    「澪……」

    何が起こったのか。
    最悪自分が巻き込まれるのはいいが、彼女と一緒だということが問題なのだ。思考が混乱し、頭を掻きむしる。

    SAN値チェック
    成功 減少0

    何も思い出せない。
    いつも通り仕事して帰ってきて、寝て。
    それから……ここだ。

    服は、寝ていたはずだが普段着だ。
    お気に入りの白衣。適当なシャツ。
    澪を見ると、同じく寝巻きではなく普段着だった。

    ベッドの近くにある机、そこにバックパックがふたつある。早めにこれを確認した方がいいだろう。丸腰は不安過ぎる。

    結構このビルはボロボロだ。床が抜けるかもしれない。
    慎重に歩かないとまずいだろう。
    窓から外の景色を確認する。
    住宅街や公共施設、その奥には海が見えた。元は港町だったのかもしれない。

    バックパックが二つ。多少の荷物ならこれで運べそうだ。
    片方は中身がない。もう片方には手描きらしい地図がある。どこの地図なのか。

    「Land of The Morgue……モルグの園?」
    「聞いたことねぇな」

    元は英語の地図らしいが、いくつか日本語で書き込まれている。この街の地図と、島全体の地図があった。


    【街の地図】


    【島全体の地図】


    知識
    成功

    モルグ──死体安置所を指す言葉だ。
    誰がこんな名前の住むんだ。不吉すぎる。

    「ここに居ても仕方ねぇ」
    「いつ崩れてもおかしくないしな」

    澪の傍に行くと、彼女はこんな状況にも関わらずすやすやと寝ている。眠りは深い方らしい。

    「……」

    今まで、不可解な現象に巻き込まれた経験が何度かある。
    もし、自分のせいで彼女も巻き込まれたのだったら?
    そんな不安が消せずにいる。
    優しく、澪の頭を撫でた。すると僅かだが彼女は幸せそうに笑った。可愛い。

    「……澪」
    「ぅーん……」
    「おい、起きろ」
    「……ふぇ? あれ? 優希さん!?」

    パチリと目を開けた澪はすぐに起き上がった。周りを確認すると、ゾッとしたように顔が青ざめ、手を伸ばされる。彼女の手を握ると、落ち着かせるように背を摩った。

    SAN値チェック
    失敗 減少1

    現在SAN値(夢咲澪)
    59

    「ぁ、あの……もしかして、誘拐、とか……?」
    「島に移動させるほどの大掛かりな誘拐……まあ、お前のこと独占したいってファンがいればやるだろうな」
    「それじゃ、私の──」
    「まあ聞け。よく見ろ、俺もいる。ファンからしたら一番要らん存在だろ?」

    納得したのか、澪は頷いた。
    撮影だとしても、大切な出演者をこんな危険な場所に置くはずない。さっき言った理由も当てはまる。
    なら、何故自分と澪がこんな所にいるのか。
    分からないのなら、探すしかない。

    「外出るぞ、ここ危ねぇから」
    「は、はい……」
    「あとこれ、一個背負っとけ」

    机にあったバックパックを一つ澪に渡すと、残りを背負う。地図を手に持ちながら、二人でビルから出ることにした。

    大きな音と共に、さっきまでいた廃墟ビルが崩壊した。澪を庇うように引き寄せると、静かになったところで離してやる。
    あと少しでも出るのが遅かったら、二人仲良くタコせんべいだったかもしれない。

    「──っ」
    「足元、気をつけろ」
    「は、はい……!」

    周りを見渡せば、手入れされてない大きな道路が目の前にある。少し先には、商業施設が立ち並ぶ繁華街があるだろう。地図で言うと、自分たちは森の近くにある大通りにいるらしい。
    空はまだ明るい、脱出する術を見つけるため探索するしかないだろう。

    「くそー、どうすっかな……」

    地図を見ながら行き先を決める。まず必要なのは何か。
    どこかしら雨風が凌げる場所を見つけなくてはならない。あとは食料、これも大事だ。

    「まず拠点があった方がいいんじゃないですか? ほら、休む場所も必要ですし」
    「まだ寝足りないか?」
    「ち、違います! 色々探し回って疲れたら必要だと思うって話ですよ!」
    「はは、冗談冗談。よし、じゃあそうするか」

    拗ねている澪をなだめつつ、住宅街の位置を指でなぞる。
    こんな場所に人が住んでいるとは思えない。
    もし居たらな話を聞くが、誰もいないのなら少し借りても問題ないだろう。



    ──1日目:昼──



    →住宅街

    「うーわ、穴あいてんじゃん」
    「ほんとですね……」
    「ここは諦めるか」

    ただ体力を消耗しただけになった。無駄足だ。
    一度引き返すしかない。

    「じゃあ……」
    「つーかさ、スーパーに住めばよくね?」
    「あぁ〜! 確かに!」
    「そこなら食料もあるだろ。まあ……ガラガラになってたらそこを拠点にして食料探しゃあいい」


    →スーパー

    生鮮食品は流石に腐っている。
    食品の他には、薬品やガーデニング道具などの日用品。
    食料、他には怪我をした時に備えて消毒できるものがあればいい。

    目星×2(優希)
    1 成功
    2 成功

    目星×2(澪)
    1 成功
    2 成功

    「怪我した時用に包帯とか消毒液とか必要だろうな……」
    「優希さん手当とかできるんですか?」
    「まー、多少は? 昔はよく喧嘩してたからな」

    「あとはー、工具とかがあるなら……うん、鎌。これいいな」
    「何か切るんですか?」
    「もしこれ以上食料がなかったら、なんか狩る」
    「わ、わぁ……!」
    「俺ら以外に生き物がいたらの話だけどな。あとは植物が道塞いでたらこれで切ればいい」
    「ああ、なるほど」

    「食料は……カップ麺! は、お湯が必要ですよね」
    「まあ後で鍋とかパクればいいだろ」
    「じゃあ飲み物、あと缶詰。あ、缶切りありました?」
    「地面に擦り付けときゃ開くぞ、あれ」
    「え、そうなんですか! じゃあ持っていきましょう」

    「鍋、鍋……あった!」
    「よし、なんかあったらこれで防げ」
    「防具扱いなんですか、これ?」

    〇入手
    ・消毒液
    ・鎌
    ・缶詰
    ・鍋



    ──1日目:夜──



    こんなところで、一晩過ごそうとしている。まあ、一日でどうにかなるなんて考えていた訳では無いが、澪は早く帰りたいだろう。

    「優希さん、これどうやって開けるんですか?」
    「……」
    「優希さん?」
    「ん? ああ。上を地面に当ててずっと擦っとけ」
    「結構重労働ですね」
    「時々確認して、開きそうになってたら貸して」

    頷いて一生懸命言う通りにしている彼女を見ながら、荷物の整理をする。案外最初みたいに怯えている様子は無い。それに安心する。

    「あ、これぐらいです?」
    「ん、おけ。これを、強く握って……オラッ!」
    「……」
    「……開かねぇ」
    「ちょっと貸してください!」
    「お前には無理だ──」
    「よいしょっ! やった、開きましたよ!」
    「……良かったな」

    良かったのか、良くなかったのか。複雑な気分だ。
    澪は嬉しそうにスプーンを持った。

    「これ、ちょっとラベル擦れてて分からなかったですけどシチューみたいですね」
    「おー、そうか」
    「じゃあ、はい。どうぞ」
    「……は?」
    「分ける器ないんですよ、先どうぞ」
    「いや、先食えよ」
    「えー……」
    「なんだよ」
    「はい、あーん」
    「……はぁ!?」

    澪はスプーンでシチューを掬い、それを差し出してきた。どうしても先に食べさせたいらしい。まあ、毒味役になればいいかとそれを受け入れた。

    「うん、美味いよ」
    「よかったです!」
    「もっと」
    「ぇ、ええ!? あ、あーん 」
    「ん」

    自分でやったくせに、2回目は恥ずかしいらしい。恥ずかしがるのが見たかったようだが、そう簡単に乗ってたまるか。
    スプーンを咥えながら澪の弱い笑顔を見せると、顔を真っ赤にしている。

    「あの……やっぱ自分でどうぞ!」
    「ん」

    缶とスプーンを受け取ると、澪と同じように中身を掬って差し出した。

    「はい、あーん♡」
    「なっ、仕返しですか!」
    「あ、いらないんだ。へー、ふーん」
    「……あーん」
    「よろしい」

    澪はスプーンを咥えたあとシチュー味わっている。雛鳥に餌をやってるみたいだ。飲み込んだのが分かると、また差し出した。
    大人しく食べ続けている澪は、小動物みたいで可愛い。

    「んっ、優希さんも食べてくださいよ」
    「おー」
    「いや、私じゃなくて! むぐっ」

    澪に食べさせながら、たまに自分も食べて。
    暫くしたら中身が無くなった。

    「ご馳走様でした」
    「ん、ごちそーさん」
    「というか……優希さんちゃんと食べました?」
    「食べたよ。もう腹いっぱい」
    「ほんとですか?」

    適当に頷いておくと、暫く黙って寄り添った。

    「……眠いか?」
    「んー、少しだけ」
    「じゃあもう横になって、目ェ瞑れ」
    「優希さんも、もう寝ましょう?」
    「ああ」

    適当に寝っ転がると、澪を手招きする。何がしたいのか理解したのか、ブンブンと首を横に振った。バックパックの中身は柔らかいものじゃない。枕代わりにするなら腕しかないだろう。

    「やです、腕痛くなりますよ」
    「えー、じゃあ俺の腹に寝る?」
    「それだとお腹痛くなるじゃないですか!」
    「はいはい、いいから」

    無理やり腕を引くと、隣に寝かせる。腕枕が恥ずかしいのか、一度目が合うと頬を染めて背を向けてしまった。強く抱き締めると、氷のように固まっている。

    「あ、あのー……」
    「ん?」
    「近くないですか?」
    「寒いだろ、体温の低下は良くない」

    まあそんなの建前だが。ちゃんとした理由に納得するしかない澪は「確かに……」と言いながら体を丸めた。
    知らない場所で、静かな夜。
    寝て意識が無くなるまで、余計なことまで考えてしまうかもしれない。それを止められたら。自分がいるという安心感を与えられたら。

    「……必ず守るから」
    「あれ、何か言いました?」
    「いや、なんも」

    小さな声で決意を口に出すと、ゆっくりと目を閉じた。




    ──2日目:朝──



    体いてぇ。
    目を覚ますと、凝り固まった体を伸ばした。横を見れば、澪はまだ寝ている。
    彼女言う通り腕が痺れていて感覚がない。利き腕でないので別にいいのだが。

    「澪」
    「んー……優希さん……」
    「おう、朝だ」
    「ごめん、なさい……」
    「どうした?」
    「推しキャラ、先……引いちゃいました……へへ……」
    「……起きろ!」
    「わぁっ!」

    澪は勢いよく目を開けると、こちらをぽかんとした表情で見ている。半分夢の世界だったのだろう。しかも推しキャラを先に引きやがった。ちくしょう。

    「あ! 腕大丈夫ですか!?」
    「別に、大丈夫だ」

    すぐに体を起こすと、枕にしていた右腕を摩られる。手を開いたり閉じたりして、感覚を戻した。
    寝て起きても周りは昨日と同じ。いつも通りのベッドじゃない。
    今日も、探索を続けなきゃいけない。
    スーパーから出ると、地図を広げて行き先を決める。


    →繁華街

    「結構お店ありますね」
    「だな」
    「こんな状況じゃなきゃ楽しめたのになぁ」
    「いいだろ、楽しめば。考えてもみろ、誰もいねぇんだぞ? 独り占め……じゃねぇか、二人占めだ」
    「ふふっ、なんですか二人占めって」

    目星(優希)
    1成功
    2成功
    3成功

    目星(澪)
    1成功
    2成功
    3成功


    「あ、ブティックがありますよ!」
    「入るか?」
    「はい!」

    好みの服1d10着
    2

    「このワンピース可愛いかも……」
    「おい、これ着てみろよ」
    「なにを──って、それ! 透けてるじゃないですか!」
    「ティッシュと耐久力変わらなそうなパンツ。ほら、やる」
    「要らないです! 返してきてください!」
    「じゃあコレ」
    「なんで下着ばっかりなんですか。というかそんな大きなブラ入りません!」
    「そうだな……んー、推定Cの69」
    「私のバストサイズ当てないでください! もうあっち行ってて!!」

    「おい! 見ろ、酒だ!」
    「え、ああ! 待ってくださいよ!」
    「これいいやつだな……本来なら高ぇから買わないが、今はタダだからな」
    「もう、程々にしてくださいね」
    「おう!!」
    「一個にしてください!」

    「ん、あの店ならテントとかあるんじゃね」
    「確かに、行ってみましょう」
    「あー、寝袋あるぞ。これで寝るか」
    「いいですね! スーパーの床硬いですし」

    「ランタン、必要かもしれないですね」
    「確かに明かりはあった方がいいな」
    「ランタン持って知らないところ探索って、ホラゲにありそう……」
    「俺バケモノ役な」
    「え」
    「ニンゲン、コロス……」
    「目がガチなんでやめてください」

    「お、ここにも食料ありそうだ」
    「根こそぎ持っていきますよ!」
    「なんか、逞しくなったな……」
    「これ食べたいです」
    「ポテチ? お前これ系食べたっけ?」
    「普段は太るから我慢してるんですけど、今回は特別に」
    「いいんじゃね? 持ってこ」

    「書店だ」
    「よし、植物図鑑探すぞ」
    「は、はい!」
    「あ〜、あったわ」
    「これで何が有毒か調べるんですね」
    「おうよ。あとなんか襲ってきたらこれで殴る」
    「防具に続いて武器まで……」


    〇入手
    ・ワンピース、大きめのシャツ
    ・ランタン
    ・ポテチ
    ・お酒(ウイスキー)
    ・寝袋
    ・植物図鑑

    繁華街で手に入れた物を分けて、バックパックに詰める。最初は軽かったが、ある程度の量が入り重みを感じるようになった。これで対処できるようになればいいが。


    →門

    「念の為に脱出通路の下見に来たが」
    「大きい門ですね。それにこの電気柵……」
    「突破は無理だな。確実に死ぬ」

    門の大きさから簡単に開くものでは無いと分かる。
    五芒星のような文様が気になり、一応記憶しておく。
    そしてこのエリアを囲うように設置された高い石の堀、その前には狩猟用の電気柵。すぐにここから出ることは不可能だ。

    「『高圧電流が流れます』『危険』……」
    「おい、あんま近づくなよ」

    頷いた澪の手を引き門の前から離れると、次の場所へ向かった。

    →図書館

    「わあ、大きな図書館ですね」
    「チッ、入口が崩落してやがる」
    「うーん、残念ですね」
    「……窓から入るか」
    「えっ」

    窓は割れている。自分たちが割った訳じゃないから器物破損にはならないし、この島には誰もいないので不法侵入にもならんだろう。不法侵入を言うのなら今更だし、それ以前に窃盗で捕まるが。

    窓の位置は少し高いが、都合よく置いてあった木箱を窓の下に寄せる。木箱に登り窓を確認すると、越えられる高さになった。

    「お前の身長だとちょい高いな。俺が引っ張るから先はいるぞ」
    「あ、待ってください! 私、越えられるかな……」
    「不安だったらここで待ってても……いや、来い。大丈夫だ」
    「ううっ、はい……」

    木箱に乗った澪に手を伸ばした。彼女が手を掴み壁に足をつけたのを確認すると、思い切り引っ張った。窓枠を超えた、そう安心した瞬間に澪がバランスを崩したのが見える。

    「──ぁ、っぶね!」
    「ひっ!」

    澪を受け止めると、そのまま背中から床に倒れる。痛い。
    思い切り打ったが呼吸は大丈夫だった。ならなんも問題ない。

    「ごっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか?!」
    「ん、平気」

    慌てた様子で背を摩ってくる澪の頭を軽くなでると、起き上がって床に座ったままの彼女の手を引き起こした。
    外観から分かるように中も広い。雨風に晒され殆どの本が曲がってしまっているが、まともに読めるものもありそうだ。

    「サバイバル知識の本とか欲しいな」
    「さっき書店で探すの忘れちゃいましたね」

    図書館(優希)
    失敗

    図書館(澪)
    成功

    「うーわ、全然見つかんねぇ」
    「うーん」
    「もしかして無いんじゃね?」
    「あ! ありましたよ!」
    「ナイス」

    差し出されたサバイバル知識のまとめられた本を受け取ると、パラパラと適当に捲る。これならちゃんと読めるだろう。


    →森&ビーチ

    北側の繁華街を抜けると、深い森が広がっている。
    意外にも道が舗装されていたため、ルートから外れなければ迷うことは無いだろう。

    「なんか水の音しません?」
    「──おお、確かに」
    「あっちに川がありますよ! 水汲みましょう!」

    意気揚々と走っていった澪について行くと、湧き水があった。それを今取れるだけ取っておくと、容器を受け取ってバックパックに詰める。
    周りには名も分からない植物たちが生えていた。水があることによって枯れずに元気に育っている。

    「ここで植物図鑑の出番ですね!」
    「おう、刈り取れるだけ刈ってやるぜ」

    二人で植物図鑑で確認しながら、食べられるか食べられないかを見定める。こんな雑草普段なら素通りしているはずだが、今は大切な食料源だ。
    暫くして、大体一日分の食べられる植物が取れた。

    「よし、今回はこんぐらいにしてやるぜ」
    「図鑑持ってきて良かったぁ」

    そのまま森を抜けていけば、白く綺麗な砂浜と透き通った海が姿を現した。浜辺には壊れたボート、そして廃れた木製の小屋がある。

    「わぁ……綺麗……!」
    「すげぇな、そうそうこんな透き通った海見れねぇぞ」
    「へへ、ちょっと足つけてもいいですか?」
    「おう、ちゃんと足元気をつけろよ」

    はしゃいだ様子で靴を脱ぐと、澪は海の方へ向かった。ゴミや割れたガラスなどは見当たらない、本当に綺麗な場所だった。人の痕跡はないか探すが、そういったものは見られない。

    「わぁ、冷たい! 優希さんもちょっと浸かりましょうよ!」
    「……お前、海に入るの怖くないわけ?」

    何故そう聞くのか、澪は分かっている。
    だから寂しそうな顔をして笑った。
    澪にとって、海は人生の終わりとして選んだ場所だったからだ。あの時引き止めることが出来たとはいえ、今でも彼女が海に近づくのが怖いと思う。
    またそこへ、消えようとしているのではないかと。

    「私、海好きですよ」
    「……」
    「だって、優希さんと出会った場所じゃないですか!」
    「出会ったって……初めて会ったの俺の職場だろ」
    「違いますよ」
    「何が」
    「いつも優希さんが言う、ただの世良優希と会ったのはあの時が初めてだったじゃないですか?」

    仕事中の誰にでも優しく穏やかな世良優希と、普段の自己中心的な世良優希。自分の中では別の存在だと思っている。二重人格などでは無いが、それに近いと言えるだろう。
    彼女は、大抵の人が見放すただの世良優希を大切にしているようだった。

    「それに……怖がってるのは優希さんじゃないですか!」
    「あ?」
    「私、もう消えたりしませんよ。約束してくれましたよね?」
    「……勿論だ。あん時、俺は一切嘘を言ってねぇ」
    「ふふっ。あ! もしかして、ただ海が怖いんですか?」
    「は? なんで」
    「星さんに聞きましたよ。優希さんってカナズチなんですよね! なんだか可愛いなぁ、うふふっ」

    からかうように笑っている澪を見て、靴を脱いで適当に投げ捨てる。そしてスラックスの裾を上げると、大股で海へ向かった。

    「誰が! 海が! 怖いってぇ!?」
    「わっ! あははっ!」
    「あん時は足つくって知らなかっただけだ! ヒロの馬鹿野郎! 帰ったらぶん殴ってやる!」

    文句を言いながら澪の隣に立つと、彼女は嬉しそうに笑った。
    あの時も一緒に海に浸かっていた。まあ足首程度じゃなかったが。それに、お互いの感情も関係も、取り巻くものが変わっている。

    「足つく所で溺れたんですか!? ぷっ、くふふ……!」
    「くそっ、お前はもー! ……ちょっと黙れ」
    「んぅっ……ゆうきさっ、んんっ……!」

    澪の腰を引き寄せ、からかって笑う口を塞ぐ。
    無理やり唇をこじ開けると、舌を掬って笑ったことを咎めるように軽く噛んだ。驚いて腰を引こうとする彼女をしっかりと掴むと、空いた手の指先で鎖骨から首筋にかけてなぞり上げる。

    「ふぁっ、ぁ……んっ……」
    「はぁ……笑ったらこうなる。理解したか?」
    「ひゃいっ……」

    顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を縦に降った澪は、俯いてしまった。慣れていないのだろう、あんまりやらないから。
    彼女が今の仕事を辞めるまで、手を出さないと決めている。軽いスキンシップはするが、キスしてしまえばこっちが我慢できなくなってしまうだろう。
    だから控えるようにしているが、この調子では本番が来た時澪は失神するんじゃないかと心配になる。

    「そろそろ行くか」
    「ぁ、あの……」
    「ん?」

    まだ水遊びがしたいのかと振り返ると、澪に服を掴まれた。まだ俯いたままだが、上目遣いにこちらの様子を伺っている。あんまり可愛い顔してるとマジで食うぞ。加減しろや。

    「そのっ、私がまた笑ったら……」
    「笑ったら?」
    「ぁ、の……さっきみたいに……キス、してくれるんですか……?」

    澪はそう言い切ると、また下を向いてしまった。しかししっかりと服を掴み、返事を待っている。

    こう……何言ってんだろうって思ってる。
    更に、そう、正直に言えば、

    勃ちそう。

    少しすると呆れられたと思っているのか、澪はおずおずと服から手を離した。あまりの衝撃に言葉が出なかった。が、すぐに離れそうになったその手を掴む。

    「気持ちよかった? もっとして欲しい?」
    「やっ、その……うぅっ……」
    「ごめん、意地悪した。ほら、こっち向いて……」

    小さく頷いて、澪はゆっくりとこちらを向いた。
    潤んだ蜂蜜色の美しい瞳が、僅かに欲に濡れている。
    軽く唇を合わせれば、それを合図に次を求めるように彼女は薄く口を開いた。



    ──2日目:夜──



    スーパーへ戻ってきた。今日は寝袋があるから昨日よりはマシになるだろう。ふかふかベッドを恋しく思いながら、手に入れた酒をあおる。澪は手に入れたスナック菓子をご馳走のように食べていた。

    「ん! 美味しい!」
    「おー、何味?」
    「えっと、コンソメですね」
    「俺にも一枚」
    「一枚って……ちゃんと半分しますよ」

    少し飯抜いた程度で死にはしないだろう。が、ちゃんと物を考える脳を保つためには、食べないといけないことも分かる。澪の言葉に適当に返事をすると、酒を飲みながら彼女が食べ終わるのを待った。

    「優希さん、別に少食じゃないのにご飯食べようとしないから……」
    「めんどくせぇんだよ、作るの。カップ麺さえ作るの面倒い。その時間をゲームに回したい」
    「はぁ……趣味も程々にしてくださいね」

    心配そうに口にポテチを突っ込んできた澪に、頷きながらそれを咀嚼する。食べることは嫌いでないしむしろ好きな方だ。しかし誰かが作ってくれればの話だが。
    外食? そんな金は全部課金にいってんだよ。

    「この島って結構空気澄んでますよね、海も汚れてなくて綺麗でした」
    「ああ、確かにな」
    「もしかして……綺麗な星が見れるんじゃないですか?」
    「あー、どうだろう。ちょっと窓の外見るか」

    いい事に気づいたと、澪はすぐに立ち上がりスーパーの出入口へ向かった。窓からじゃないのかと慌てて追いかけると、彼女は空を見上げている。

    「ほら、やっぱり……!」
    「すげぇ、プラネタリウムみたいだな」
    「綺麗……」

    見上げた空には、絵に描いたような美しい星空が広がっていた。暗く静かな闇を、数々の星が照らす。見た事のない程の景色に、お互い暫く黙って空を見ていた。
    すると、澪の方から恐る恐るといった様子で手を握られる。それに小さく笑うと、星空を見上げたまま指を絡めしっかりと繋ぎ直した。

    「こんな状況でも、空は綺麗ですね」
    「ああ、そうだな。楽しむ余裕もちゃんと持っとけよ」
    「……帰れなくても、ここでこうして楽しく過ごせるんでしょうか」
    「帰れないは無い、俺たちは必ず帰る。いつか……この時間も終わる」
    「そう、ですよね……」
    「俺達には俺達の世界があるだろ。ここでの時間が終わっても、俺達の繋がりが終わるわけじゃない」

    確かに職業柄、彼女が変装なしで一緒にデートなどをすることは出来ない。素顔のまま、こうして時間を気にせず一緒に楽しむことが出来て、魅力的に感じる気持ちも分かる。
    だが、帰らないと。
    この世界はゆっくりと広がる毒のようで。
    死が、手招いている気がして。
    ざわざわと、胸騒ぎがする。

    「……私、優希さんともっと一緒にいたいです」
    「いるよ。ずっと、何処にいても」

    繋いだ手の力を強める。
    すると、決して解けないように澪も握り返した。



    ──3日目:朝──



    窓の日差しが丁度目元にあたり、すぐに目を覚ました。眩しい、位置が最悪だった。
    自分のタイミングで起きたいから、朝日で起きる、アラームで起きるなどが苦手だ。
    苛立ちながら窓を睨んだあと、隣で眠る澪を見下ろす。やっぱりすやすや寝てる。可愛い、癒された。

    「朝だ、起きろ」
    「んー……おはよう、ございます……」
    「今日はちゃんと起きれたな。偉いぞ」
    「ん、へへ……」

    へにゃっとガキみたいな笑顔を浮かべると、澪は僅かに開いていた目をまた閉じた。そして、小さな寝息。

    「…………起きろォ!」
    「ひぃっ?!」
    「よし、おはよう。今日も準備したら外出るぞ」
    「おひゃようございましゅ……」
    「お前こんな朝弱いんだな……知らなかった」

    不慣れな環境で疲れているというのもあるかもしれないが、これは元から寝起きが良くないらしい。二人で外に出る準備をすると、地図を持ってスーパーから出た。

    「あとピックアップされてて行ってない場所は……」
    「えと、教会と……あとは火葬場、ですね……」
    「まず教会から行くか」
    「はい」



    →教会

    地図でわかる通り街の中央にある教会だ。
    どこの宗教団体なのかは書かれていないが、十字架が飾ってあるところを見るとキリスト教なのだろう。
    鉄製の両開きのドアは鍵がかかっている。そして窓は内側から板で打ち付けられていて、侵入は不可能だ。

    「うーん、入れなさそうですね」
    「ぶち壊せそうなものがあればいけそうだが……」
    「ええ!? 駄目ですよ!」
    「まあ、とりあえず現状無理だな」

    さて、気になる場所は残り一つ。
    澪は行くのが嫌そうだが、そこに重要な手がかりがあれば避けたことを後悔する。それは困るからな。


    →火葬場

    セレモニーホールと火葬場を兼ねた建物で、とても大きい。火災によって崩壊したらしい、瓦礫ばかりが転がっていた。それ以外に気になるところはない。

    「お前、お化け出そうとか思ってたんだろ」
    「べっ、別に思ってませんよ! もう大人ですから!」
    「へぇー……お、おいっ、あれなんだ!?」
    「ひぃっ! いやっ……!!」
    「……ふっ、くくっ」
    「ぁれ……あっ! だ、騙したんですか!」

    怖かったのか、すぐに背中の方へ隠れた澪の方へ振り返る。本当に何か出たと思ったのだろうか、涙目でこちらを睨んでいた。

    「大丈夫大丈夫、なーんもいないから」
    「酷いですよ……こういうの怖いんですから……!」
    「ごめんって」
    「駄目です、許しません」

    拗ねたのか、澪はそっぽを向いてしまった。彼女が怒ることなんてあまりない。だからどう機嫌を取っていいのか分からなかった。

    「澪、怒ってるの?」
    「知りません!」
    「悪かったよ、どうしたら許してくれる」
    「え、どうしたら、どうしたら……?」

    特に何も考えてなかった、澪はそんな感じの顔をしている。今なんでも好きなことをしてもらえる、その権利に戸惑ってもいるようだ。
    なんでもどうぞと手を内側にくいくいと曲げて、指示を待つ。

    「えっと……じゃあ」
    「うん?」
    「そのっ、白衣貸してください!!」
    「おう、いいよ。……ん? 白衣?」

    なんでも受け入れるつもりだったからすぐに返事をしたが、意外な要求に思わず聞き返す。これをどうするのか、まさかいつもこればっか着やがってと燃やされるのかもしれない。デートの時ぐらい脱いどくべきだったか。

    「まあ、予備あるし好きにしていいよ。火使うなら気をつけろよ」
    「火? 使いませんけど……?」
    「あれ、燃やすんじゃないの?」
    「違いますよ!」

    なんでそんなことになっているのか、そうぶつぶつ文句を言いながら澪は白衣を受け取った。そしてそれを身につけると、俺に見せびらかすように両手を上げて笑顔を浮かべている。

    「おう、似合ってるぞ」
    「えへへっ、暫く借りますよ!」
    「はいはい。つーかなんでソレなわけ?」
    「いつも優希さんが着てて、かっこいいなぁって……」

    まあ当然サイズがブカブカの白衣を着て、決めポーズを始めた澪。アイドルなだけあって綺麗に可愛く決めてやがる。

    「白衣ならすぐ買えるだろ。ほら、ドンキとかで」
    「優希さんのじゃないと嫌です」
    「ふーん、まあ気に入ったなら何より」

    若干こっちの方が恥ずかしくなってきた。アイデンティティを奪われたが、澪が楽しいならそれでいいだろう。



    ──3日目:夜──



    「う゛ぅっ……マジぃ……」
    「そうですか?」
    「うん、なんか……雑草食ってるみたい」

    昨日取った植物を食べることにしたが、めちゃくちゃ不味い。マジで草の味しかしない。食べれはするが味は期待しない方が良かった。

    「醤油かけよう、あれで大体なんとかなる」
    「ああっ、かけすぎですよ!」

    血圧?知らん。
    醤油をかけたら、食べれないでもない。まあ草の食感がする醤油味の何かが完成した。
    澪はなんでもない顔で黙々と食べている──が、若干眉間にシワがよっている。美味しくは無いのだろう。

    食べ終わると、休憩してから二人で横になった。
    ここに来て3日目、脱出の手がかりになるようなものは発見できなかった。今はまだ食料があるが、いつかは無くなる。その前にどうにかして自給自足の術を探すべきか。
    外にヘリポートがあるらしいが、扉を開けてたどり着けたとしてヘリは来るのだろうか。
    最悪、脱出の術もなく、このままここで──。

    「優希さん?」
    「──っ! ごめん、なんか言った?」
    「いえ、なんか難しそうな顔してたから……」
    「ああ。ただ帰ったら最初に何食おうかなぁって」
    「もうっ、能天気ですね」

    澪は笑っている。
    そう、彼女の笑顔さえ守れればそれでいい。それまで何があっても死ぬ訳にはいかない。生きることを諦めてはいけない。

    どうなって、生にしがみつかなくては。





    ──2週間後:昼──



    毎日探索して門を突破する術を探しながら、心を癒すために好きなことをして時間を過ごした。
    一人だったなら弱音を上げていたかもしれないが、隣にはいつでも澪がいる。それだけで、生き続けることが出来た。
    だが、この島に来て2週間が経過し……ついに食料が底を尽きた。

    「ど、どうしよう……」
    「魚……釣るか。あとは森に生き物がいれば、殺るぞ」
    「それしかないですよね……! 繁華街の方に釣竿ありましたよね、それとって行ってみましょう!」

    頷いて、バックパックを背負った澪の後を追う。
    着実にリミットは近づいてきている。その自覚をしっかりと持っていなきゃいけない。


    →森

    今回は舗装されているルートを外れた。すると、鹿や兎等の野生動物が水を飲んだり、走り回ったりしている。

    「弓矢があれば、役に立ったかもしれないんですけど……」
    「形は作れたとしても、ちゃんと飛ぶか分かんねぇな」
    「そうですよね」
    「サバイバル知識の本あったろ、あれに罠の作り方乗ってたわ」
    「じゃあ、やってみましょう!」

    道具作成
    本により自動成功

    狩猟
    罠(世良優希)
    クリティカル

    罠(夢咲澪)
    失敗

    クリティカルの処理
    澪の失敗判定を成功とする


    ―――


    ふと、誰かに見られているように感じた。驚いてそこへ視線を向けると、そこにはただ木々が並んでいる。安心した、そう思った瞬間それに気づく。
    真っ直ぐ伸びた木の幹の中央がぐにゃりと歪み、丸い穴が開いていた。
    それはまるで、ブラックホールのようだ。

    気になる。どうしても止められない。
    足が自然にそこへ向かって、手を伸ばした。
    近づく度に脳を直接掻き回されるような不快感を覚えるが、足は止まってくれない。
    手がその闇に触れた時──脳裏に映像が流れ込んできた。

    手術台に、2人の人物が寝かされている。
    体に無数の管をつけられている彼らは、目覚める様子もなくただ眠り続けていた。
    だけど、その手はお互いに繋いだままだ。
    顔も性別も分からない。だけどきっと、その二人はお互いを想いあっているに違いない。
    深い眠りに落ちているのに、その手を絶対に離そうとはしなかった。

    『────行かないで。』

    誰かの声が頭の中に響く。
    その瞬間、どうしようもない焦燥感に襲われた。固く目を閉じて、その声を跳ね除けようとする。しかし、瞼の裏には優希さんの顔が浮かんだ。
    好き、好き、愛してる。だから、そばにいて欲しい、誰のところにも行って欲しくない、誰にも見せたくない。
    だって、だって私のものだから。
    私の、
    私だけの優希さん。
    ずっと、ずっとずっと隣にいて。

    手を握って、
    離さないで、

    ずっと、
    一生!!

    もう、いっそのこと
    私は

    貴方と



    ──ひとつに
    なりたい──




    「──ッ」

    呼吸が、苦しい。
    慌てて深呼吸をしながら、目の前の歪みに目を向けた。だけど、そこにはもう何も無かった。
    幻だったのか。いや、幻であって欲しかった。
    優希さんへの気持ちが、ぐちゃぐちゃで、暴走している。
    こんなに、好きって醜いものだっけ?

    駄目、めちゃくちゃにしてしまう。

    どうしたら──。


    SAN値チェック(夢咲澪)
    成功 減少1

    現在SAN値(夢咲澪)
    58


    ―――


    いつの間にか澪の姿が見えなくなっていた。まさか迷ってしまったのか、そう焦っていると彼女はすぐに見つかった。
    木に手を付き肩で息をしている姿を見て、肝が冷える。

    「──澪!」
    「はぁっ、ゅうき、さん……?」
    「どうした?!具合が悪いのか?」

    澪の背を撫でると、体をびくりと震わせる。
    癒すのは体じゃなく心が専門だ。もし何かの植物から毒の成分を摂取してしまったとかだったら、ちゃんとした治療ができるかどうか分からない。
    だが、焦っていては澪が余計に不安になる。一度落ち着けて、森から移動させようと澪の体を支えた。

    が、背中に走る痛み。
    地面にぶつけたらしい。
    背中から倒れたのだと認識すると、澪が体に跨った。

    「どう、した……? 顔色がわ──」
    「優希さん、優希さんは私の事好きですか?」
    「何を、今そんなこと──っ、ん……ぉいっ……!」

    澪の両手が頬に添えられると、口付けられる。
    何が起こったのか、一瞬理解できなかった。しかし、彼女が今正気でないことだけははっきりと分かった。
    発汗、瞳孔の開き具合。明らかな興奮状態だ。

    抵抗するのを忘れていると、ぬるりと舌が入り込んでくる。優しく噛んで、吸って。海でしたキスを思い出す。

    「ぁ、はぁっ……優希さん、私のこと抱いて?」
    「落ち着け、今お前は……んっ、きけって……!」
    「私のこと愛してますよね。ねぇ、触って……?」

    手を捕まれ、そのまま澪の胸へ誘導される。抵抗して腕を引こうとすれば、余計に押し当てられた。
    その柔らかな感触がこんな状況じゃなければどれほど嬉しかったか、頭を抱えたくなる。

    仕方なく手を強く振り解けば、澪は今までと打って代わってしんと静かになった。
    そして──その頬をぽたぽたと雫が伝う。

    「わっ、私のこと、嫌いですか? いりっ、ませんか?」
    「違う。一度話を──」
    「好きです、愛してます……私のっ、私のこと見てください……!」

    ──目の前で、好きな女が、好きだ好きだと泣いてて。
    俺は、何やってんだ。
    正気でもラリっててもいい、安心させてやるべきだ。

    泣いている澪を引き寄せると、体の位置を逆転させて押し倒した。驚いた表情を浮かべていた澪に、噛み付くように口付ける。手加減する気もない、相手の全てを喰らうように口内を掻き乱した。

    「んぅっ、ふっ……好き、好きです……」

    首に腕を絡めてきた澪は、それを懸命に受け止めていた。時折学んだようにやり返して、舐めて、吸って、互いに夢中になる。
    シャツの裾から手を伸ばすと、胸元に触れた。澪は一瞬動きを止めたが、集中しろと言うように舌の裏を舐めあげれば、嬉しそうに目を細める。
    もう待てないとブラのホックを外すと、シャツもまとめて上へ押し上げた。

    「ね、私綺麗ですか?……んっ」
    「ああ、綺麗だよ。感度も良さそうだし……最高だな」
    「んふふ、もっと、もっと触って……?」

    てっぺんに指を掠めれば、僅かに身体を震わせた。夢にまで見た澪のおっぱい、すぐに味見するしかない。顔を寄せしゃぶりつくと、澪から熱っぽい吐息が漏れる。
    舌先で遊びながら、時折強く吸って、噛んで。反対側も手で弄れば、澪は太ももを擦り合わせた。

    「ぁっ、ぁあっ……んっ……!」
    「もっと胸触って欲しい? それとも……下の方がいい?」
    「もっ、下触ってください……優希さんが早く欲しいっ……!」

    全てを求められるように、頭を引き寄せられると必死に口付けられる。澪は──泣いていた。
    心から望んでいるのだろう。乾きを感じているのか、もっと、もっとと強請るようにキスを繰り返した。

    スカートと言うのはどうしてここまでセックスに適しているのだろうか、そう思いながら中へ手を忍ばせた。

    「ふっ、ほら……もうこんな濡れてるよ」
    「はぁっ……早く、優希さん……」

    応えるように澪の口を吸って、キスをしながらショーツの中に手を入れた。割れ目をなぞるとくちゃりと音が鳴る。そのまま指先で上下に擦れば、澪が腰を揺らした。

    「ぁっ、ぁあっ! んぅっ、んん……っ!」
    「んっ……はぁ、指入れるよ……」

    自分で触ったりしないのだろうか、澪は慣れてなさそうに体を固くしながら受けいれている。指一本なのにめちゃくちゃ狭い、まずは浅く入れて出し入れした。喘ぐ彼女が可愛くて、もう突っ込みたい気持ちでいっぱいだ。
    やがて指を深くまで入れると、ぐるぐると掻き混ぜるように中を解していく。

    「ふっ、はぁっ、ぁっ……!」
    「ほら、ここに俺の入れるんだよ? 想像して……」

    耳元にそう吹き込むように囁けば、素直にきゅっと中が締まる。彼女のイイ場所を探して、何度も押してやると可愛い声が上がった。
    押しながら親指で突起を弄ると、澪はびくりと震え背をそらす。達したのだろう。

    「〜〜〜〜っ!?」
    「きもちい?」
    「ぁっあ! きもちっ、れす……んっ、もっとぉ……っ」

    澪の足が腰に絡まり、ぐっと引き寄せられる。
    指を二本に増やして、先程と同じようにして解していった。くちゅっぐちゅっと、愛液の音が先程よりも大きくなる。指を開いて中を広げるようにすれば、入口がひくついた。

    「ぁうっ、んぁっ! ぁっ、──っぁあァっ!」
    「またイッちゃった?」
    「ひっ、ぁっあ! もっ、いれてぇ……っ!」
    「こんな狭いところに入んないよ。ほら、もっとイッていいよ。気持ちいいね?」

    絶頂したところで、更に指の動きを早めて攻め立てた。
    体を後ろにずらすと、手をそのままに突起にしゃぶりついて舌で遊ぶ。

    「きもちっ、もっ……りゃめっ……!」

    そろそろかと強く吸いあげれば、澪はがくんと背を反らし潮を吹いた。それを飲み干すと、離さないと言うように食っていたソコから指をゆっくり引き抜く。
    顔にかかったものを袖で拭うと、澪の顔を覗き込んだ。意識がない、連続でオーガズムを迎え失神してしまったのだろう。
    すぐに彼女の乱れた衣服を整えると、一息つく。

    「…………はぁーーーー!! 焦った!!! もうっ、こんな……くそっ! 突っ込んで、泣かせてぇーーー!!」

    こんな場所だし人目を気にせず叫ぶと、自分の理性に感謝した。それはもう壮大に褒め讃えたい。
    処女だろうしペッティングで満足させられるかもしれない、そんな賭けに出ていたがどうやらこちらの勝ちのようだ。

    「もうチンコ痛てぇよ……はぁ……」

    しかし、彼女に何があったのだろうか。澪に貸していた白衣を脱がせると、布団のように掛けてやる。
    一瞬目を離した隙に、予測できない自体が起きた。植物図鑑を持ちながら、澪が立っていた場所を調べたが、毒性のあるものは見つからなかった。

    「……一旦戻るか、ここから離れねぇと」

    落ちていたバックパックを二つ背負って、澪を横抱きにして抱える。羽のように軽いとか言った方がいいんだろうか。
    そんなことを考えながら、拠点に戻ることにした。




    ──2週間後:夜──



    「……ぁれ。え!? 寝ちゃってました!?」
    「うぉっ! 暴れんじゃねぇ、落とすぞ」
    「わっ」

    目を覚ました澪は、さっきのことを何も覚えていないようだ。横抱きにされている方に驚いている。

    「なんかちょっと目ェ離した隙に倒れてて……疲れたんじゃねぇの?」
    「うーん……自分ではそんなこと思ってなかったんですけど……。迷惑かけたみたいで、ごめんなさい。もう降ろして大丈夫ですよ!」
    「……いや、もう着くしいい」

    自分が常に一緒にいれば、こんなことにはならなかったかもしれない。そう思うと手を離したくなかった。拠点に着くと、澪を抱えたまま床に座る。

    「ゆ、優希さん……?」
    「ん?」
    「ご飯食べましょ?」
    「ああ、そうだな」
    「……いや、降ろしてくださいよ!」

    確かに、今日取った肉を捌くにはどくしかない。しょうがないと澪を解放すると、サバイバル知識の本を見ながら兎を解体した。澪は指の隙間からその様子を見ている。
    処理が出来たら、味付けしてフライパンで焼く。完成だ。

    「んーっ、美味しい!」
    「うん、超うめぇ」

    なんか久々にまともなもの食ったかもしれない。澪も嬉しそうで、こちらも嬉しくなった。
    食べ終えると、眠気が襲ってくる。澪も同じようで、眠そうに欠伸をしていた。

    「もう寝ようか」
    「はい。なんだか今日は特に眠くて……」
    「寝てたくせに?」
    「そっ、それは申し訳ないと思ってますけど!」
    「冗談よ。ほら、寝ろ」

    初日にもこんな会話した気がする。そんなことを思いながら澪が寝袋に入るのを確認した。しかしこっちが動こうとしないことを不思議がっているのか、寝ようとしなかった。

    「優希さん?」
    「先寝てろ。俺便所いくわ」
    「分かりました。おやすみなさい」
    「ん、おやすみ」

    少し離れたように見せて、すぐに澪の元へ戻る。彼女は……ぐっすりと寝ていた。
    可愛い穏やかな寝顔、あの時必死に求めてきた澪の顔とは正反対だ。澪は衝動に駆られたかのように、必死で、そして怖がってて。その原因が分からない以上、安心できない。
    寝袋に入らず、彼女の横に寝転がる。体に添えるように腕を乗せると、ぽんぽんと寝かしつけるように優しく叩いた。

    「ごめん、ごめんな……」

    守ると決めていたのに、自ら傷つけてしまった。それを悔いるだけじゃダメだ、何か対策を練らないと。とりあえず今日は暫く起きて、様子を見よう。

    だが、酷く眠い。
    起きなければと考えるが、すぐに眠気に全てかき消されてしまう。
    これは異常じゃないか? そう考え────。



    ―――



    ──悪夢──



    目を覚ますと──見知らぬ建物の中だった。教会の礼拝堂のようだが、天井の一部が崩落している。仰向けの体勢で眠っており、そのまま上を見れば──……。

    こちらを見下ろしている赤い目と、目が合った。

    いつもは夜空に星が浮かんでいたのに、今は大きな目以外何も見えない。思わずゾッとして起き上がると、頭を締め付けるような頭痛に襲われる。

    『お前の願いは聞き届けた』

    悍ましい声が降ってくる。
    赤い目がギョロリと動き、ただ静かに命じてくる。

    『お前の望みは我の望み。──お前の望みは、いずれ成就することだろう』

    頭の中をまさぐられる不快感に襲われる。
    ぐらり。立っているはずの地面がガラガラて崩れているくような感覚を覚え、体が闇の中に落下していく。

    『本能のままに動け。お前の願いが本当の意味で叶った時、楽園の扉が開かれる────』

    足の爪先から這い上がる闇が、体を黒く染めていく。
    闇が心臓を飲み込み、ついには目も塞いだ瞬間。

    自我が欲望に塗り替えられ、身体が作り変えられるのを感じた。


    ―――



    ──目覚め──
    (夢咲澪)



    目を開いて、天井から差し込む月光に導かれるままそれを見上げる。そこには無数の星が煌めいていた。
    あの夢で見た赤い目は、どこにも居ない。
    胸がザワつく、拭えない不快感に強く手を握りしめた。

    「優希さん……」

    どうしてここで眠っていたのだろう。そしてあの声が言っていたことは……。訳の分からないことばかりだ。
    だけど、まずここから出ることが先だろう。

    教会の礼拝堂にある大扉の前に立つ。
    そこには大量の家財道具と瓦礫が積まれていた。一人ではどかせそうにない。
    だが、バリケードに手をかけた瞬間、目の前で家財道具が爆ぜた。

    「ぇ……?」

    一体何が起きたのか──その理由はすぐに分かった。
    触れて、それをどかそうとする度に触れたものが壊れ、崩れている。唖然とする間もなく、目の前の障害物はなくなり、ついには両開きの扉が外に向かって弾きとんだ。

    「な、なにこれ……」

    SAN値チェック
    ファンブル

    ファンブル処理
    1d5→1d5+1に変更 減少2

    現在SAN値(夢咲澪)
    56




    ──目覚め──
    (世良優希)



    「──っ!?」

    遠くの方で轟音と悍ましい声が響き、反射的に身を起こした。なんの音だったのか、そして''何''の声だったのか。あれ程恐ろしい声を上げる''何か''が、この島に潜んでいるのか。

    そして、いつの間に眠っていたのだろう。あれだけ起きようとしていたのに、謎の眠気に勝てなかった。
    今の音で澪も目を覚ましたに違いない。夢だったのではと言って、自分だけ様子を見に行こうか。しかし、彼女をもう一人には──

    「──澪?」

    いない。澪がいない。
    寝袋に触れるが、もう冷たくなっている。トイレに行っている訳では無いらしい。それか行った先で何かがあったか、いや、他の可能性も──。

    「くそっ! 考えてる余裕ねぇ……!」

    外から聞こえた音も調べなくてはならない。とにかく動くしかないと、外へ出た。




    ──夜の探索──



    <ラウンド1>


    →夢咲澪
    →住宅街

    住宅街は闇に包まれている。明かりがないのは真夜中だからではなく、人がいないからだろう。原型を留めている家もあれば、そうでないものもある。ここも荒廃が進んでいるようだ。

    「し、失礼しまーす……」

    家の壁を破壊して入る。ここに何かあるかもしれない。優希さんと行った時は来れなかったから、自分だけでも探索しなくては。
    家の中を歩き回っていると、ふと姿見が目に入る。

    「──ぇ……」

    ──自分の姿が、鏡に映ってない。

    透明になっているわけじゃない。体が黒く塗りつぶされていて、暗闇の塊になっていて視認できなかったのだ。
    黒いもやに包まれた''何か''がいる。
    これは──自分自身なのか。そう自覚すると、頭の中で誰かの声が反響した。

    『行かないで』

    心臓が勝手に跳ね上がる。
    体だけでなく、心までどす黒い感情に染まっていく。
    嫌だ、こんなの自分じゃない。
    怖い、こわい!
    狂いそうだ、そう思った時脳裏に浮かんだのは──優希さんの顔だった。

    駄目だ、でも、あの人とひとつになりたい。
    いけない、いけないけど……なんで?

    私達、愛し合ってるから、いいよね?

    いやだ、違う──

    お願い──ああ、

    止まらない──


    「──ぁ、ああ……優希さん……今すぐ、貴方を犯したい……!」


    SAN値チェック
    成功 減少7

    現在SAN値(夢咲澪)
    49



    →世良優希
    →教会

    隣にある教会の方へ向かう。大きな音の発生源は結構近かった。ここだったのではないかと推測してきたが──当たりだったようだ。
    塞がれていた大きなドアが、吹っ飛ばされていた。
    破壊されたドアの破片が、道路の対岸に落ちている。
    飛ばされた方向から、内部から破壊されたのだろう。
    誰が壊したのかは分からねぇが……自分たちの味方ではないだろう。

    SAN値チェック
    成功 減少1

    現在SAN値(世良優希)
    83

    二階は破壊されていて、一階は開けた礼拝堂だ。

    目星(世良優希)
    成功

    「あ? なんだこれ……」

    よく見ると瓦礫の隙間が淡く光っている。
    近づいてみると、丸底フラスコのような形状の硝子瓶がひとつあった。奇跡的に、瓦礫に潰されず残っていたようだ。中には淡く光る液体が入っている。

    「貰うか。なんかに必要になるかもしれないしな」

    それを手に取ると、再び走り出した。


    <ラウンド2>


    →夢咲澪
    →図書館

    住宅街の近くにある図書館。
    あの時優希さんは私を一人にしないように、一生懸命引き上げてくれたなぁ。
    私は一人でも待てたけど、あの人は優しいから。
    ああ、大好き、大好きだよ。
    居ないの?
    優希さん?
    会いたい。
    早く会いたいよ。
    ここじゃないの?


    →世良優希
    →森

    澪に異変が起きたのは森の中だった。まさかここではないよなと思い来てみたはいいが、やはり危険すぎる。
    ここにいるとしたとしても、別のアプローチが必要になるだろう。

    「何処なんだ……!」

    自分があの時、手を握ってちゃんと繋ぎ止めておけばこんなことにはならなかったかもしれない。またもう今更言ってもしょうがないことで悩んでしまう。
    早く、早く見つけないと。



    <ラウンド3>


    →夢咲澪
    →繁華街

    商業施設が立ち並ぶ繁華街。
    ここで色んなもの頂戴して生活したなぁ。
    ブティックに行った時、優希さんってば下着なんて持ってきて。
    ほんとにすけべな人。
    じゃあなんで……あの時、最後までしてくれなかったんだろう。
    私ってそんなに魅力的じゃないの?
    どうしたら抱いてくれる?
    ひとつになれる?
    優希さん。
    私を見て。
    私だけを、ずっと。
    ねぇ。


    →世良優希
    →火葬場

    一度スーパーに戻って澪が居ないか確認した方がいいかもしれない。森から戻る途中で、火葬場の前を通った。

    目星
    成功

    ふと立ち止まり、瓦礫の方をよく観察した。すると、瓦礫の下にアタッシュケースが入っているのが見える。
    表面はへこんでいたが、それ以外に損傷は無さそうだ。
    中を見れば、丸底フラスコの……教会で見たものと同じものがふたつ入っていた。

    「あれだけじゃなかったのか、これ」

    誰かに渡す予定だったのか、一枚の手紙が添付されている。

    ──

    ◾︎誰かに宛てた手紙
    管理施設からくすねてきたこの薬は、黒い化け物に効く。完全に倒すことは出来ないが、逃げるための足止めにはなるだろう。本当はあと2つあったんだが、逃げる最中にいくつか落としてきてしまった。
    夜になれば淡く光るから、どこにあるかはすぐにわかると思う。

    どうか無事に、逃げてくれ
    最後まで一緒にいられなくて、ごめんな

    ──

    手紙には血が付いていた、書き手は怪我をしていたのかもしれない。あの叫び声は、黒い化け物だと思っていいだろう。
    ここに2本、そして教会で見つけたのが1つ。あと1本あるはずだが、探した方がいいのだろうか。

    「探すのは……今じゃないな。もしかしたら澪が見つけてるかもしれねぇし、独り占めになると困る」

    もう自分が3本も持ってる時点で、もし澪がその黒い化け物とやらに襲われれば不利になる。本当に時間が無くなってきた。その化け物より先に、澪を見つけてる守る必要がある。

    「待ってろよ、必ず行くから」

    アタッシュケースに持っていた1本を入れると、今度はスーパーの方へ向かった。

    ◾︎AF「淡色の薬」
    この薬は、黒い影に襲われた時に使用できる唯一の防御アイテムです。このアイテムは夜の間だけ見つけることが出来ます。
    1個使用すると、黒い影の行動を一度キャンセルする事ができますので、当てることに成功すれば次に<隠れる>技能を振る時、更に追加の補正(+30%)が付きます。
    当てるのに使用する技能は<DEX×5>、使用制限は1ラウンドにつき1個です。
    黒い影に3個当てることが出来れば、その日の夜は安全に過ごせるようになるでしょう。



    <ラウンド4>

    →夢咲澪
    →スーパー

    私たちが拠点にしていたスーパー。
    ここにあったシチューの缶詰、美味しかったな。
    優希さん、私がからかって食べさせてあげたら、なんか今度は私が食べさせて貰う番になったっけ。
    たまにああいうことするから、心臓に悪いというか。
    いや、本当は甘えたいのかな?
    なら、沢山抱きしめてあげなきゃ。
    でもそれじゃ距離が遠いよ。
    もっと近くに。
    2人の境目さえ分からないぐらい、
    近い存在になれば。
    私たち、ずっと一緒にいられるのかな?
    そしたら、しあわせだよね?
    そうだね
    しあわせ
    だから

    ゆうきさん
    あいたい

    はやく


    やく






    →世良優希
    →スーパー

    スーパーに向かう道中でも、澪は見つからなかった。どこにいるのか、暗闇を照らしながら走り続けた。
    そうしていると、目的地に到着する。
    飛び出してきた時と変わらず、相変わらず澪の姿は無い。

    「駄目か……! 澪、何処にいるん──」

    ──自分以外の足音が聞こえる。
    こちらに近づいてくる足音に、澪が戻ってきたのだろうと後ろを振り返った。

    しかし──その希望はあっさりと、打ち砕かれる。

    黒いもやに包まれている''何か''。
    大きな、黒い影が少し離れたところに立っており、こちらに敵意を向けている。
    思わず後退すると、それは煙い炎のように跳ねて、広がる。
    闇夜に解けるようにして、その存在を曖昧にする。
    一瞬、幻なのかとさえ思った。
    しかし、床がきしんだことで、やばい存在が確実にいると思い知る。
    ゆらゆらと影が揺れ、完全な死と空虚で満たされた寒気を伴ってこっちに近づいてくる。

    逃げないと。
    あれに捕まれば、きっと──。


    SAN値チェック
    失敗 減少10

    現在SAN値(世良優希)
    73



    体が震える。
    あれは確実に追ってくる、狩るために。
    澪を守る前に、死んでしまうなんてそれこそ最悪だ。
    今は自分の身を先に守るべきだろう。



    <ラウンド5>(ハイド・アンド・シーク)

    →世良優希
    →逃走

    DEX対抗(70)
    成功

    やつより先に動くことが出来た。よくこんな産まれたての小鹿みたいな震えてる足で走れたもんだ。褒めて欲しいね。
    こいつの存在を知って、澪もどこかに隠れているのだろう。早めに合流しないと、不安で仕方ない。


    →世良優希
    →ハイド(繁華街)

    繁華街に逃げ込むと、書店に逃げ込んだ。
    棚の影に身を潜める。

    隠れる(70)
    成功


    →夢咲澪
    →目星-40%(40)
    クリティカル

    クリティカル成長判定
    失敗


    ゆうキさん! みツけたァ!
    やっとアエたのに、なんで、なンデにげるの?
    はやくツカまえなきゃ。
    ねェ、こっちに、キテ?


    ──まずい、見つかった!
    棚から、黒い影が僅かに見えたかと思うと、こちらを覗き込むように顔を出した。
    このまま捕まれば、ただで済むはずない。

    「くそ、使うか……」

    アタッシュケースからフラスコをひとつ取り出すと、
    それを思い切り投げつけた。


    →世良優希
    →「淡色の薬」での反撃

    DEX×5(75)
    成功

    フラスコは黒い影に命中し、動きを止めることが出来た。
    その隙に別の通路に向かって走うとすると──光を浴びた化け物の体からじゅうじゅうと煙が上がった。
    薬が効いたのか、そう考えていると化け物は悶え狂い始める。
    ──夜明けだ。

    やがて痛みが治ったのか、化け物はけむりをあげながらもその場に顔を抑えて俯きながら立っていた。
    先程より、大分闇が薄まっている。
    化け物の体格がら先程より小さくなっているように見えた。
    だがその姿を現す前にやつは跳躍して天井を突き破ると、どこかへ消えていった。

    「はぁ、はぁっ……助かった、のか……?」

    安心して、力が抜ける。
    今なら安全だ。早く澪を探さないと──。

    だが、意識が──……




    ──襲撃者の悪夢──



    お、お、お、お、い。

    誰かの唸り声が聞こえる。
    いや、あれを唸り声と言っていいのだろうか。
    周りから聞こえるのは、そんな単純な音だけじゃなかった。
    気が狂いそうになる大音量の中を、ただふわふわと漂っている。
    あたりはまっくらだ。進むことも、戻ることも出来ない。そして何も見ることが許されない漆黒の世界。
    自分の身体すら確認ができない。今は一体いつで、自分はどうなってしまっているのだろうか。

    その疑問に答えるように、目の前の暗闇に長い縦の切れ目が入った。切れ目が両側に開き、楕円形の穴になって広がっていく。
    一縷の望みをかけて手を前に出してみたけど、透明の壁に阻まれ穴から外に出ることは叶わなかった。
    理由は分からないが、この場所に捕らわれている。
    そして自分を捕らえただれかは、逃走の意欲を削ぐためにこの檻の中に入れたのだろう。
    唯一の出口だと思う場所に壊せない壁があるなら、逃げるのはどう考えても無理だ。
    諦めたくないけど、頭のどこかで、そう確信に近いものを抱いている。

    どうしようもなくなってしまったので外を眺めていると、何かがキラキラしているものが確認できた。
    あれは、星だろうか。それにしては規律正しく並びすぎている。
    どちらかと言えば、ネオンサインに近い集方をしていた。
    あの光の群れがそうだとすれば、今、自分は空から街を見下ろしていることになるのだろうか。
    宙吊り状態でなくて良かったと、安堵した。
    ──その時だった。

    誰かが窓の外に浮いていることに気づく。
    ネオンサインに近づいているせいか、そのシルエットがはっきりと見えた。
    何故か、その人から目が離せなくなる。
    何処かで見た覚えがある。それこそ、以前からよく知っているような。

    「優希、さん……」

    名前を呟いた瞬間、しゅるしゅると窓の外で何かが巻きついてきた。
    気持ち悪い、触手のようなものだった。
    どこから出てきているのかは分からないけど、それの狙いはすぐに把握することができる。
    触手の先が、漂っているその人物に向けられていたからだ。

    叫びも虚しく、触手が下に向かって伸びていく。
    それにつれて、周囲の闇が晴れてきた。
    届かなかった声は音を形成し、虚空に漂うこの叫びは、誰にも拾われることなく辺りに響く。
    もしや、あの闇は彼を捕らえようとしているのだろうか。
    理解する前に全身の血の気が引いて、反射的に彼の方に向かって叫んだ。
    止めようと下降を試みたが、どういう訳か浮いた体はネオンの方に向かうことは無かった。
    全身が徐々に闇に飲まれ、やがて、その姿が見えなくなっていく。

    どうして、この身体は動いてくれないのだろう。

    歯痒い思いはやがて怒りになり、迸る声は、慟哭になった。



    ──侵食1日目:朝──



    目を覚ますと──穴が空いた天井が見えた。
    日が差し込んで、完全に朝なのだと分かる。

    「生きてた……か。危ねぇ」

    起き上がると身体中が痛かった。そして自分の横に転がるアタッシュケース、壊れた天井の破片──夢であって欲しかったんだが。

    「グッ……いつの間にか強く打ったか?」

    腹部が痛い。
    あざになっているのかと服をめくってみれば──そこにはどす黒い墨で書かれた模様が刻まれていた。
    痛みの原因はこれらしい。脈打つような鈍痛に耐えながら、澪を探すために立ち上がった。


    ──

    ◾︎侵食
    この日以降、世良優希が夜を過ごす度に、体に模様が刻まれることになります。5日目の夜になった時点で模様の黒い染みは胸に到達し、その心臓を潰してしまうことでしょう。
    徹夜する度に睡眠不足によるデバフ(全技能-5%減少)がかかりますので、今まで通り食料を確保しつつ、早急に探索を進めることをおすすめします。

    ──


    スーパーに戻っても、澪の姿はなかった。
    帰ってきていない、それが、最悪な現実を見せつけられているようで。

    「……まだ決まってねぇだろ! 弱気になんじゃねぇボケが!!」

    自分にビンタをして喝を入れると、思ったより加減ができずしなければ良かったと痛みに後悔する。セルフビンタで痛む頬を擦りながら、ぐぅ、と腹が鳴る音を聞く。

    「はぁ……こういう時も腹へんのね」

    とりあえず、食料を確保しようと森へ向かった。


    →世良優希
    →森&ビーチ

    川で魚釣りをして、二人分の食料を集めた。
    昨日は探せなかったからと少し森の中を探して、また澪の姿がないことに落胆する。
    魚を取れたのはいいが……食べる気分じゃない。だが、空腹状態で探し回って倒れでもしたら本末転倒だ。適当に胃に入れておくしかないだろう。

    あとは、前入れなかった教会が入れるようになっていた。昨日の夜はそれどころじゃなくて詳しく見てなかったが、今から行って確認するのもいいかもしれない。


    →夢咲澪
    →住宅街

    目を覚ますと、天井が見えた。どうやら住宅街にある家のひとつで寝ていたらしい。外から自分が倒れていた家を見たあと、周りを見渡す。

    かつて子供遊んでいただろう大きな公園や、立ち並ぶ一軒家が多数ある。しかしどれも朽ちて、廃れてしまっていた。人が立ち入らなくなったせいか、壁に生えた鶴が窓辺りを覆っていたり、床板がバキバキに壊れている家もある。
    何故、人々はいなくなってしまったのか……。

    目星
    失敗

    風に揺れる白衣をしっかりと着直すと、周りを探索する。どうやらいつの間にか着て来てしまったらしい。優希さんは……今頃どうしているだろうか。

    家屋の方を探す。食料などがあれば役に立つかもしれないと思ったが、大体の場所が鍵がかかっていた。窓ガラスを割ったら入れるかもしれないが、それは危ないので避けたい。

    今すぐに探索ことが出来そうなのは、公園だ。
    公園に入ると、小さめの遊具がいくつか置いてあった。特に変わったところは無い。
    落胆からブランコに勢いよく座ると、ぼうっと地面を見つめた。

    「どうしよう……」

    このまま夜が来て、またあの感情に支配され、そして──。
    嫌だ、もう嫌だ。
    どれだけ否定しても、時間は進んでいく。

    その時、ふと百葉箱が目に入った。その下に、不自然に盛り上がっている土が見える。何かあるのだろうか。
    近づいてみると、土の隙間から鉄の取っ手が見えた。百葉箱をどかして取っ手を掴み持ち上げると、地下に続く階段が見えた。

    「ここって……?」

    怖い。
    だけど、行くしかないだろう。


    →世良優希
    →教会


    教会は扉が破壊されて風通しが良くなっている。遠慮なく入ると、遥か高くにある天井のステンドグラスが破壊され、陽の光が入っていることに気づいた。
    家財道具が散乱し、足場は不安定。夜に調べていたら危なかっただろう。

    目星
    成功

    「おー、立派なマリア像だこと」

    奥の方に、唯一瓦礫で埋まってないマリア像が設置されているのが見える。気になって近づくと、彼女の背中にスイッチが付いていることに気づく。

    「こんなん、押すしかねぇな。よいせっ」

    興味本位にそれを押せば、重々しい音を立てて壁の一部が開く。現れた扉の奥を見てみると、地下へ続く階段が見えた。

    このまま下に行ってしまえば、街から離れることになる。澪がまだ街にいて化け物隠れているのなら、探した方がいいかもしれない。だが、現状は何も変わらないだろう。

    「……行くか、この先に居るかもしんねぇし」

    意を決して、下へ進むことにした。



    【地下道】



    →夢咲澪
    →地下道

    階段をおりて鉄扉を開くと、そこには水音が響く地下道だった。下水道ではないけど、空気が淀んでいて僅かに臭う。なるべく長居したくない。

    壁には、ここのマップが設置されていた。

    「ここ以外にも入口が何ヶ所かあるんだ」

    スーパーに出入口が繋がっているのなら、偶然優希さんも見つけてたりしないか。早く会いたかった。
    だけど、会った時にまたおかしくなってしまえば……。会いたいけど、会いたくない。

    「でも……脱出できる術が何か見つかるかも」

    とりあえずここを探索しよう。門の扉を開けることが出来れば、ここから出られるのだから。だけど──今の自分が出てもいいのだろうか。もしこのから出たあとも、この異変が続いていたら。

    「……私は、ここに残った方がいいのかな」

    苦しい、辛い。その気持ちを振り払うように白衣を握ると、歩き出した。



    →世良優希
    →地下道

    「うーわ、臭ぇ」

    不快な匂いに眉間に皺を寄せると、ため息を吐いて歩き出す。壁にはマップ、これで迷うことは無いだろう。
    マップを確認して気になるのは、管理事務所だ。もしかしたら、門の開閉を操作できるかもしれない。

    「状況が変わるかもしれねぇな。早く脱出して日常に戻らねぇと、イカれそうだ」

    マップを覚えて、管理事務所へ向かった。
    少し進んだところで、こつりと足音が聞こえた気がした。驚いて足を止める。
    まさ……あの化け物がいるのか。

    そう思って警戒しながら確認すると、そこには──澪が立っていた。

    「──澪!」
    「っ! 優希さん!」

    すぐに彼女の方へ向かうと、駆け寄ってきた澪を受け止めてしっかりと抱きしめた。澪だ、澪が無事で、目の前にいる。それだけで、暗闇を歩いているようだった感覚から解放される。

    「心配かけんじゃねぇよ……! マジ寿命5年縮んだわ!」
    「ご、ごめんなさい……」
    「でも、無事でよかった……本当に」

    強く、強く抱きしめる。苦しそうな声を上げた澪を名残惜しく思いながらも離してやると、彼女はどこか寂しそうに俯いた。離れていたことが、澪も辛かったのだろう。
    彼女の手を握ると、しっかりと繋いだ。
    もう離したくない。あんな気持ちは懲り懲りだ。

    「ぁ、あの……?」
    「絶てぇ俺から離れんなよ」

    こくこくと頷いた澪を確認すると、二人で管理事務所へ向かった。彼女は繋いだ手を確認してから、嬉しそうに笑っている。

    「今までどこに居たんだ? どっかに隠れてたか?」
    「……私、その」
    「ん?」
    「きっ、昨日の夜に──」

    ―――

    どくり、心臓が大きく脈打つ。
    ああ、来てしまったのか。折角会えたのに。
    また、また支配されてしまう。
    嫌なのに、どうしても止められなくて。

    ああ、やめて
    優希さん、
    逃げて
    はやく
    はやく

    はやく……
    ひとつにならなきゃ。

    大好き
    だいすき
    ねぇ、優希さん
    すきだって

    いって?


    ―――

    「澪……!」

    澪が手を振り払ったと思えば、酷く苦しみ出した。慌てて駆け寄ると、今度は突き飛ばされる。
    思い切り臀を打った、痛いが……それよりこの腕力はなんだ?

    すると──黒い影が目の前に現れる。
    それは確かに昨日襲ってきた化け物だった。だが──澪が、それに変化したように見える。そんなはずない、そう思いながらも目の前で起こったことは変えられない。
    今は、逃走する……これしかないだろう。



    ──ハイド・アンド・シーク──



    <ラウンド1>

    →世良優希
    →逃走

    DEX対抗
    成功

    すぐに立ち上がり足を動かした。この地下道ならある程度隠れられる場所があるだろう。
    物置へ駆け込んで、身を潜めた。
    昨日襲ってきた化け物も、まさか彼女だったのではないか。それを伝えようとしていたのだろうか。
    今はそれを考えても分からない。とりあえず身の安全を優先した方がいい。

    →世良優希
    →ハイド

    隠れる
    失敗


    ぁア……ユウきさん
    ドコなの。
    かくレテじらすナンて
    それガおとなノかけひキ
    ッテやつなのかナ?
    ァ、いたァ!
    がまンできないノ、
    はやク
    はヤク……!!



    「──ッ、マジか……!」

    思ったより自分はかくれんぼが下手なのかもしれない。もう見つかってしまった。言い訳すると、どっちかと言うと鬼ごっこの方が好きだ。

    →世良優希
    →「淡色の薬」での反撃

    澪だと想定している黒い影に投げるのは気が引けるが、これで完全に倒すは出来ないとメモに書いてあった。ここで捕まれば、2人とも無事ではいられない。
    心の中で謝りながらフラスコを手に取り、振りかぶって投げた。

    DEX×5
    100 ファンブル

    「──しまっ……!」

    これが当たれば痛いかもしれない。そう思うと上手く投げることが出来なかった。フラスコは黒い影に当たることはなく、外れた場所の地面で砕け散る。
    反撃されたと分かった黒い影の叫びに僅かによろければ、背後にあった木箱の角に頭を打ってしまった。

    ファンブル処理
    HP-2

    現在HP(世良優希)
    12

    「ぃってぇ……!」

    後頭部を摩っていると、黒い影がこちらに迫り地面に押し倒される。近くの通路が、蔦のようなもので塞がれて行く。口元を抑えられると、強制的に上げられた両手を頭の上で固定された。

    「(これ、結構不味くねぇか……?)」

    今度こそ──逃げられない。
    それを悟った。
    周囲に黒い霧がかかる中、今まで追ってきた人の形をした影が、のしりと上に乗ってくる。
    足をばたつかせて暴れても、無意味だった。
    抵抗も虚しくマウンドポジションを取られ、これから起こる何かへ恐怖を感じた。体の震えが止まらない。

    「やめ……ぅぐ……っ!」

    黒い影は首を傾げ、胸元に置いていた手がするりと腰におりてくる。暴れてめくれ上がった服の隙間から直に肌に触れられ、更に恐怖に陥る。
    この後、腹の中心から裂かれて内蔵でも取り出させるんだろうか。もしくは、腹に穴を開けられて何か埋め込まれるかもしれない。
    想像したくもないのに次々と浮かぶ最悪から逃れるために、必死に抵抗する。
    両腕を拘束している闇は凄い力で振り解けそうになく、上に乗っている影も暴れているのに微動打にしなかった。

    止めてくれ、俺が何したって言うんだ。
    お前の目的は一体なんだ。

    聞きたいことは山ほどある。もし喉が引き攣っていなかったら、悲鳴も上げていただろう。
    服の中に忍ばせた闇の手が、腹から胸元に戻って撫で回している。
    もう殺すなら、いっそ一思いにやって欲しい。拷問のような死に方だけは、どうか。

    そう願っていると影の一部が剥がれ落ち──その顔が晒される。

    体格すら不明だった化け物の正体は、澪だった。
    疑惑が、確信へ変わる。そうであって欲しくないと願っていても真実は残酷だ。
    理性を失った澪の瞳は虚ろで、背筋が震えるほどの狂気を孕んでいた。

    口元を抑えていた霧が開放される。すぐに荒く呼吸をすると、澪に呼びかけた。

    「澪! おい! しっかりし──んっ、ふぅっ……!?」

    開いた口はすぐに塞がれた。ねっとりと上顎を舐めあげられ、その最中にも手が体をまさぐってくる。腕に全力の力を込めるが、やはりビクともしなかった。
    唾液を流し込まれると、それを反射的に飲み込んだ。すると徐々に意識が朦朧としてきて、体が熱を持つ。
    唾液に興奮剤のよう効果でもあったのか。

    「はっ、ははっ……あれ、よくえろ漫画とかに、あるやつ……? 澪って、そういうの、読むの……?」

    自分の気持ちとは関係なしに勃起した。もう吐き出したい。溜まり続ける熱を出すように、大きく息を吐いた。
    体を触られ、口内を蹂躙されるとさっきとは比べ物にならないほどの快感が、襲ってくる。
    ひくひくと体が震える。恐ろしい程に気持ちがいい。

    「おんな攻めとか、きょうみ、あるかんじ……? おれどっちかと言うと、攻めたい、たいぷなんだけど……?」

    呼びかけても、なんの返事も帰ってこない。とうとうベルトに手をかけられ、勢いよく引きちぎられた。ボタンもちぎられ、ジッパーを下ろされるとスラックスを下げられる。
    下着越しでも分かるほどに勃起して、布を押し上げていた。

    すると、何かが足に絡みついた。
    触手のようなものが数本体を這い上がり、ずるりと下着の中へ入ってくる。

    「み、お? まっ、むり……ぁっっ……!」

    首を横に振るが、触手は陰茎に絡みつくと上下に擦り始めた。ぬるぬるとした感触が気持ちよくて、腰が震える。思考が余計に霧がかかったように鈍っていく。
    水音を響かせながら扱く触手は、裏筋を撫で上げたり、玉袋を揉みほぐしたりと、とにかく奉仕が上手い。

    もう、出る。
    そう思えば、澪が体を屈め亀頭に吸い付いてきた。急な先端への刺激に耐えきれず、彼女の口内に射精する。

    「ぅぐっ……ぁっ、はぁ……っ!」

    澪は精液を味わうように舌を転がしているのだろう、もごもごと口を動かし、そして飲み下した。まるで大好物でも口にしたように、幸せそうな笑みを浮かべている。

    「ほら、もう……いいだろ? かいほう、してくれ」

    澪はその言葉を無視して、再び陰茎を咥えた。ぐちゅっ、じゅぷっと体液の混ざった音が響く。触手とはまた違う澪の口内に、息が荒くなった。
    鈴口を舌先で遊ばれ、精を求めるように強く吸い上げられればまたあっさりと達してしまう。

    「んぅっ……はぁっ、ぁ……! こないだの、仕返し? わかっ、たから……きもちい、から……もう……」

    遊ぶようにちょいちょいと指先で擽られれば、それを喜ぶようにまた勃ち上がってしまう。頭がおかしくなりそうだ。体がかくかくと痙攣して、閉じられない口の端から唾液が零れる。
    澪はお構い無しに口付けてきた。苦い。さっき飲んだからだろう。自分の味を知りたくなかった。

    「ふっ、ぅっ……んっ……!?」

    すり、と陰茎に股を擦り付けられた。
    そこは濡れていて、受け入れようと──喰らおうと待っている。首に腕を回されて、腰を揺らして何度も擦り付けてくる。

    早く、はやく入れたい。
    何度も絶頂に導いて、
    奥に出してやりたい。

    ──孕ませたい。


    「──はぁっ、くそっ……! ダメだろ……!!」

    こんな所で、お互いの意思関係なしに最後までしたくない。こんなの、澪が望むはずない。
    そもそも自分が嫌だ。初夜は綺麗な夜景の見える場所の、柔らかいベッドの上だと決まっている。

    「みお、たのむよ……。ほんと、に……これで、いいのか?」

    問いかけて見ても、澪は笑っているだけで。
    言うことを聞かずに馬鹿みたいに勃っている陰茎に手を添えられると、彼女の入口が先端に当てられた。
    ぬるついて、入れたらさぞ気持ちいいんだろう。

    正直、泣きそうだ。
    そう思っているとポタリと頬に雫が垂れた。望まない状況に、我慢できなくて泣いてしまった。情けないと思っていると……それは自分の涙じゃなかった。

    『やっト、いっしょになれルね』
    「……澪」
    『ひビしいノ、だから、ひとツになろうネ?』
    「なく、なよ……」
    『わたシ、ワたし、ゆうきさんが、ほしイの』

    欲しい、そう懇願して泣いている澪。
    彼女が望むなら、いや、今澪は正気じゃない。
    どうすれば、いいのだろうか。

    混乱して強く目を瞑ると──

    そのまま、プツリと意識を失った。




    ──侵食2日目:朝──



    「──はぁっ……!」

    ヒュッと喉が鳴る。
    目を覚ませば、地下道にある物置の中だった。すぐにそこから出ると、ばくばくと脈打つ心臓を押さえた。
    まだ体に残る感覚に、夢ではなかったのだろうと直感する。
    また腹部が痛い。捲ってみると昨日よりも紋様が大きくなっているように見えた。

    侵食Lv2(世良優希)
    全技能-10%


    ―――

    目を覚ましたのは、また住宅街の家の中。
    体を起こすと、ガタガタと震えるのを抑えるように自分の身を抱いた。
    あれは──夢なんかじゃない。実際に、優希さんを傷つけたのだ。

    「どうしよう、嫌われたかもしれない……嫌だ、いやだよ……」

    涙が溢れる。
    もう彼に近づいてはダメだ。
    1人で……生きていくしかないのだろうか。



    →世良優希
    →管理事務所

    脱出する方法に加えて、澪を元に戻す方法も探さなくてはいけない。黒い影になっている時の澪に、管理事務所にあったらしいフラスコの液体が効いた。まだここにヒントが残っていることに希望をかける。

    梯子を登り、上のハッチに手をかけて思い切り押し上げる。すると、眩しい光が目を焼く。
    太陽の光じゃない──人口の光だ。
    蛍光灯で照らされた喫煙所の床から、這い上がってきたらしい。

    ハッチから出てみると、変色した色の水を孕んだ灰皿が目に留まる。モルグの園に比べると、ここは随分と手入れされているように見えた。
    確か地下道の壁のプレートには、この梯子ほ行く先が書かれていた。

    「ここが管理事務所なら……ここであの街を管理してたかもしんねぇな」


    【管理事務所】



    ここを一通り調べるしかないだろう。

    →西ホール/東ホール

    殆どガラス張りの壁に覆われているホールだ。
    中庭や外の景色が見えるだけで、ここには特に何も無い。
    見渡せばいくつか部屋があるが、人の気配は全く感じられない。

    「誰もいね。今のうち色々荒らし……必要なものを探そう」

    →食堂
    机や皿が散乱している。
    酷い有様だが、繁華街の店ほどでは無い。

    「お! いいもんあんじゃん。大体……3週間ぐらいならいけるな」

    →オフィス
    中に入れば、血液で赤く染った書類やキーボード、机などが目にとまった。しかし、死体はひとつもない。
    複数人の血痕が残っているというのに、あまりにも不自然だ。一体どこに消えたというのか。

    図書館(世良優希)
    成功

    キャビネットから資料を見つけた。
    培養器のマニュアルだ。人体の複製方法と、手術機能を使用する方法が記されている。
    それと、とある兄妹についての記録が見つかった。

    アイデア(世良優希)
    成功

    この兄妹と状況が同じなのだろう。腹にある紋様は呪いで、澪は内蔵が溶け始めている。状況の最悪さがどんどん鮮明になっていく。


    →研究所2

    部屋の中央に二台の大型のカプセルがあった。
    その培養器のガラスに触れながら事切れている、1人の少女がいた。その傍らには小さな銃が落ちている。
    リボルバー式の銃に見えるが、本来バレルが付いているべき場所に液体が入ったタンクが付いている。
    液体が入っているが、撃退アイテムとして使っている淡色の薬とは違う色をしていた。

    大きなカプセルと棺のような形状をしたガラスケースが取り付けられた大型の機械、培養器がある。
    素人でも扱えそうだ。

    拳銃のそばには、1枚の血濡れの紙が落ちている。
    『使用回数の上限は5回。化け物になっている時に撃ち込むこと。淡色の薬を持っている場合は、それを投与してから打てば確実だろう』

    化け物になっている時に撃ち込めばということは……殺すのか、救えるのか。まだ判断がつかない。

    「日記……読むか」

    日記を読み終える。
    モルディギアン、この兄妹の状況、まともな世界では無い。もしかしたら澪とこの兄の状態は同じなのではないか?
    神様がいなくなる薬……それがさっき少女が持っていたものなのかもしれない。そうなると、あの子が妹だったのだろうか。
    そして、この銃にある液体で澪を救うことが出来る可能性がでてきた。

    「この施設でクソみてぇな事してたんだな。人間は……欲のためならいくらでも残酷になれる」

    培養器に近づいてみる。これで澪を治療出来るかもしれない。中央のコンピューターを確認すると、マニュアル通りにやれば操作が出来そうだと分かる。


    →研究所1

    部屋は酷く荒れていた。見覚えのある円形の瓶がいくつか転がっており、淡色色の薬が床に零れ落ちてキラキラと光っている。
    ここであの薬を作ったのだろう。
    綺麗ではあるが、これでは撃退アイテムとして使うことができさそうだ。

    アイデア
    失敗

    目星
    成功

    周囲を見渡すと壁にハンガーがかけられている。
    ここの従業員の制服が吊るされている。探せば自分達に合うサイズもあるだろう。
    よく見ればまだ無事なアタッシュケースが転がっていた。中身は何が入っているのか。

    ◾︎アタッシュケース
    中を見れば、丸底フラスコのような形状のガラス瓶が入っている。持っているものと同じやつだ。

    入手
    ・「淡色の薬」×3
    合計4本

    部屋の床にふと視線を投げると、溢れた薬に浸された紙が落ちていることに気づいた。

    「『……のため、16日9時、本土からヘリコプターがくる……』ヘリだと? これなら帰れるか……?」

    前後のメッセージは、インクが滲んでいて読めない。
    16日という日付を見て近くの端末を確認すると、今日がその日付の前日であると分かった。
    タイムリミットは明日の朝。
    迎えに来る前に、決着をつけなければ。



    ──最終決戦──


    ──午前1時。

    ついにその時がきた。
    ビーチで待っていると──黒い影が姿を現す。

    「澪!」
    「──ァぁああアッ!!!」

    少し距離をとると、しっかりと拳銃を握り直す。アタッシュケースも用意した、あとは己の技量に頼るのみだ。
    澪は泣いているのか笑っているのか分からない鳴き声を上げると、ゆらりとこちらへ向かってくる。

    「絶てぇ諦めるなよ、必ず──助けてやる」

    最後の夜の戦いが、今、始まろうとしていた。


    <ラウンド1>

    →世良優希
    →狙いを定める

    目星(37)
    成功

    →狙撃

    拳銃(50)
    失敗

    「くそっ、当たんねぇ!」

    打てる回数、残り4


    →夢咲澪
    →悪足掻き

    ゆうキさん、
    ゆウきさん、
    だいスき。
    だから、
    ひとつになろう?

    飲み込み(40)
    失敗


    「っぶな! 飲み込もうとしてるのか……?」

    飲み込まれたら、またあの世界が広がっているのかもしれない。もうこれ以上エロ同人みたいな展開は嫌だ。されるよりする方が好きだ。


    <ラウンド2>

    →世良優希
    →狙いを定める

    目星
    成功

    「頼む……澪を解放してくれ……!」

    →狙撃

    拳銃
    成功



    ──Ending──



    「澪は俺の心臓だ! 勝手に連れてってんじゃねぇよ!」

    放った弾丸が、澪の体を容赦なく貫いた。薬液が体に回り、澪が咆哮を上げる。悶え苦しみ、蹲るその体から黒い影がどろりと溶け落ちた。
    怒りの声を上げた影は、納骨堂の神の姿をしていた。
    自身が嫌う、人を復活させる力を宿した薬を打ち込まれ、こちらに手を伸ばそうとする。
    しかし、それよりも黒い影が完全に溶け落ちるのが早かった。
    目の前まで伸ばされた触手はべちゃりと地面に落ち、その視線の先には、タールのような液体に濡れながら倒れている澪がいた。
    腹の紋様も徐々に消え、また息ができるようになる。
    2人の体を蝕む神は、いなくなったのだ。

    「澪っ、澪!!」

    すぐに彼女に駆け寄ると、上半身を支えて呼びかける。しかし、返事は帰ってこなかった。顔にかかっている黒い液体を手で拭うと、今まで見てきたのと変わらない彼女の寝顔が見えた。
    これは本当に意識がないのか、それとも──。

    「……培養器! あれしかねぇ……!」

    すぐに澪を抱えて管理事務所の方へ走った。かなり激しく揺れているにもかかわらず、ピクリとも動かない澪に吐き気を感じるほど脈が早くなっている。最悪心臓が止まるんじゃないだろうか。

    管理事務所に運び込むと、すぐに培養器の上に乗せる。
    全身をスキャンして澪の複製を作った後、ガラスの棺に寝かせてからスイッチを入れる。
    所々、臓器に以上が検出された。胃や腸を始め、肺も溶けかけている。
    もしこのまま本土に帰っていたら、きっと彼女は帰らぬ人となっていただろう。

    「頼む、死ぬなよ……!」

    手術はたった1時間で終了したものの、手術直後であるため、ガラスの棺から這い出でるのは無理だ。
    澪のそばに寄る。先程より顔色は良くなった気がするが、瞼は閉じられたままだ。

    「澪……?」

    呼びかけても、彼女は返事をしない。
    手を握り、ただただ祈るように名を呼び続けた。
    すると──手が握り返される。

    「──ゅ、きさ……?」
    「ああ、俺だ……! よかった、ほんとに……!」
    「……ふふっ、ないて、るんですか……?」

    視界がぼやける。
    ぽたぽたと彼女の胸に、雫が落ちた。


    →ヘリポート


    「優希さん……」
    「ん?」

    2人で身を寄せ合いながら、ヘリコプターが来るのを待っていた。澪は繋いでいた手を握り返して、甘えるように頬を擦り付けてくる。

    「帰ったら、最初に何食べるんですか?」
    「……は?」
    「ほら、いつか言ってたじゃないですか」
    「あ、あー……」

    確かその時は別のことを考えていて、誤魔化すために適当にそう言ったはずだ。だから正直何も考えてない。今は空腹というより、疲れてもう眠い。だから何が食べたいとか、よく分からなかった。

    「えー、じゃあなんか作ってよ」
    「わ、私がですか?」
    「おお。あ、そういや料理下手だっけか」
    「違います! ちょっと、苦手なだけですよ。ちょっとだけ……」

    確か結構前にチャーハンという名の焦げた何かを出されたことがある。めちゃくちゃ苦かったが、まあ気合いで完食できた。本人はめちゃくちゃ申し訳なさそうにしていたが、メシマズ嫁なんて腐るほどいるだろう。

    「俺が教えてやるから、一緒に食おうぜ」
    「え、優希さんって料理できるんですか?」
    「やらんだけで、やろうと思えば作れるよ」
    「むー、なんか負けた気分」

    むくれた彼女が可愛くてその頬に口付けると、驚いたように体が跳ねた。こちらを向いたのをいいことに唇にキスすると、顔を真っ赤に染める。

    「ゆ、優希さんのそういうスイッチどこで入るんですか? いつも……」
    「んー? ずっとオンだよ、アクセル全開」
    「えぇ……でも、そんな感じしませんよ?」

    こちらを観察し始めた澪に、集中しろと口付けを深いものにした。
    柔らかくて、温かくて、心地よい。
    ゆっくりと、優しく味わっていく。
    その感覚に、徐々に眠気が混ざってくる。

    「……澪?」

    口を離し、彼女の表情を伺えば、いつの間にかすうすうと寝息を立てて寝ていた。こちらにもたれ掛かり、安心しきった様子に自然と笑みがこぼれる。
    暫くすると、音がした。
    騒がしい。
    これは──ヘリコプターの音だ。

    助かるのか。
    それに安堵すると
    ゆっくりと瞼を閉じて、彼女の体温を感じていた。



    ──数日後──


    ピッピッ──

    目を開けると、真っ白な天井が目に入る。
    恐らく病院だろう。心電図の静かな音と、時計の音が部屋の中に響いていた。

    隣を見れば──澪と目が合う。
    隣に設置されたベッドに、彼女は寝ていた。

    澪──。

    ゆっくりと手を伸ばせば、
    彼女も同じようにこちらに手を伸ばした。
    手を繋ぐと、澪は穏やかに微笑む。

    ──お前と一緒にここに戻らないと意味がなかった。
    だって、澪は俺の心臓だから。
    心臓なしじゃ、人間生きていけない。
    俺は、お前がいないと呼吸すら出来なくなる。
    だから、離れるなよ。
    お前だけが好きだなんて思うな。
    こっちだって狂いそうなほどお前が欲しい。

    愛してるんだ、澪──。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator