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    akua_yuu

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    akua_yuu

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    アンディートが気づく話。

    彼女の残した難解な謎『アンディートって顔は悪くないはずなのに、周りを威嚇しまくるから誰も寄ってこないんだよ?』
    「別に、威嚇してねぇ」
    『確かに……モテそうな顔してるのに全然モテないよね』

    ムームアとレナータからの悪評に、アンディートは眉間に皺を寄せた。全く、酷い言いようである。

    互いに国を離れたくないために直接は会えないが、三人でこうして連絡を取り話すことがよくある。従者と違い、運命に選ばし王はお腹も空くし眠くもなる。健康的な生活を従者に望まれる王は、夜になればベッドに向かうのだ。つまり就寝時間が殆ど同じ三人は、眠れない暇な時に誰ともなく連絡をしてくる。
    ころころと変わる話題。そしてそれはいつの間にか容姿の話になっていた。

    「別に好かれてぇ訳でもないからな。顔立ちが整ってようが不細工だろうが関係ねぇよ」
    『えー! 王族にとって見た目って大事なんだよ?! これだからアンディートは!』

    きゃんきゃん喚くムームアに、そんなに大事なことなのかとアンディートは起き上がって窓を見た。反射して映るのは、隈が酷く、鋭い目付きをした不機嫌そうな男の顔。悪くない顔、モテそうなどと評価されるようには見えなかった。

    『多分、今まで誰も褒めなかったから自覚がないんじゃないかな? その……環境も良くなかったし』
    『あー、そっか。でもさぁ、ミラさんとかは褒めてくれなかったわけ?』

    トリムルティ化によって、レナータとアンディート、ムームアの三人は互いの記憶を共有し、過去に何があったか全て知っている。その日から時間が経っているために忘れていることもあるため、ムームアはアンディートがミラに褒められたかどうか、よく覚えていないのだろう。

    それを聞いて、アンディートは顎に手を当て考え始めた。二人が自分の事情を知って、ミラのことを思い出すことが多くなっている。彼女のことを知っている人が居て、普通に話題にも出してくれることがアンディートにとって有難かった。向き合えるきっかけになるからだ。

    「あー、そうだな、『びっくりさせるから人に笑顔を向けない方がいい、特に女には。でも私にはいいよ』……みたいなことは言われた気がする。ミラが俺の容姿について触れたのはそんぐれぇかな」

    しん、と場が静まり返った。
    何か変なことを言ったかとアンディートが口を開く前に、レナータとムームアは咳払いをして「あー」だとか「なるほどぉ」だとか小さく相槌を打つ声がする。何を納得しているのか知らないが、アンディートは置いていかれている気がして雑に頭をかいた。

    「言いたいことがあるならちゃんと言えよ」
    『ごめんごめん、怒らないでよ。そうだなぁ……アンディートは、なんでミラさんがそう言ったと思う?』
    「は? なんだよ急に。普通に、笑顔が怖ぇから人を怯えさせないようにって親切で教えてくれただけだろ。ミラは見慣れてるから自分にはいいって言った……と思うが?」

    それ以上に何があるのか、レナータとムームアのなんだがよく分からない雰囲気にアンディートは若干苛立ち始める。何が言いたいのかはっきり言わず、自分だけ置いていくような態度を取られればまあ当然のことだ。しかしレナータもレナータで考えがあるのか、少し返事まで間が空いた。真剣に何かを伝えようとしている、それを察してアンディートはすぐ冷静になった。いつも野次を飛ばすムームアすら静かにしているのだ、自分が思うより大切なことなのかもしれない、と。

    『そうだなぁ……ミラさんのことを想うなら、自分で気づいた方がいいかもしれない。と、思うんだけど……』
    『ボクも同感。あ、アンディートが知りたいって言うなら教えてもいいけどねー』
    「よく分かんねぇけど、自分で考える」

    なんでこんな話になったのか、きっかけすらもう思い出せない。しかしアンディートはムームアからの挑発を一蹴りすると、答えを導き出すために自分で考えることにした。それそろ眠いと言い出したムームアに続くように、レナータもメサージュを切る。そして再びベッドに一人寝転がったアンディートは、ゆっくりと目を閉じた。



    ────



    屋敷に、客人が来ていた。
    あの自分勝手な我儘主人の元へ客が来るなんて、どうせ悪巧みをする輩だろう。来客のためいつもよりまともな服を来ているが、奴隷の証である首輪はやはりどうにもならない。カリカリとそれを爪で引っ掻きながら、俺は床の掃除をしていた。

    「──貴方は、ここの使用人の方?」

    声をかけられ顔を上げると、一人の女性がこちらを見ていた。すぐに頭を下げるが、女性は俺の顔を覗き込んだ。驚いてすぐに身を引くと、女性はくすくすと笑っている。何がしたいのか分からず、俺はとりあえず作り笑いを浮かべておいた。

    「いいわね、貴方。ここの人にはいくらで買われたの?」

    女性がこちらに手を伸ばし、触れようとする。
    俺が返事をしようとすると、不意に手首を掴まれた。いきなり引っ張られてどこかへ連れていかれ、何が何だかと状況を確認する。
    女性から離れた場所に俺を引っ張ったのは、同じくここで働くミラだった。なんだか怒ってるような、拗ねてるような。ぷくっと頬を膨らませて、俺を睨んでいる。

    「な、なんだよ……」
    「さっ、さっきの人と仲良いの?」
    「いや、知らんヤツだけど。なんか近づいてきたから適当にニコニコしてた」

    それを聞いた、ミラは安心したように大きく息を吐いた。何が聞きたいのか、それを探るように見つめていると彼女は慌てて両手をぶんぶんと横に振った。

    「あれ! あのー……あんまり人に笑顔見せない方がいいんじゃないかな?……みたいな?」
    「なんで」
    「アンディートって目つき悪いから、驚いちゃうじゃない? お、女の人には特に、ほら……」

    確かに自分の笑顔なんて確認した事がない。それを見ている他者が言うのだから、余程恐ろしい表情なのだろう。笑うなんて意識してやらないものだし、俺にはよく分からない。ミラが言うならそれが正しい、そう思って俺は頷いた。

    「でも私にはいいよ! 練習みたいな感じで……?」
    「分かった、そうするよ。あんがとな」
    「いや、そのぉ……うん」

    焦ったり、嬉しそうにしたり、申し訳なさそうにしたり。忙しいその様子がおかしくて、自然と笑みがこぼれる。慌ててそれを隠そうとするが、そういえば彼女相手なら問題なかった。ミラはそれに嬉しそうにしていて、何度もこくこく頷いている。
    俺の欠点もこうしてカバーしてくれる、彼女は本当に俺には勿体ない親友だ。



    ────



    昨日話をしたせいか、懐かしい夢を見た。
    よく思い返してみても、まだ何も分からない。彼女の言葉に他の意味があるとも思えず、モヤモヤと朝から胸が苦しくなった。色々考え過ぎて逆に少し思考が止まっていたのか、ハッとして気づいた時にはベッドから体を起こして数十分経っていた。

    「……はぁ」

    身支度をして、仕事を始める。書類を読むが、全く頭に入って来なかった。どこの国から届いたなんの内容が書いてある手紙だったか、今手にとって目で文字を追っているのにスルスルと頭から抜けていく。この文章さっきも読んだような、読んでいないような。

    「……アンディート様」
    「…………あ?」

    呼ばれたのが勘違いな気がして、一瞬返事が遅れた。リヴェルダは心配そうにアンディートを見つめている。心ここに在らずといった様子に、悩み事かと気になったのだろう。そんなに分かりやすかったかとアンディートは自分の行動を思い返して、まあもっともな反応だと苦笑いを浮かべた。

    「考えなきゃいけねぇことがあって……ちょっと聞いてくれねぇか」
    「は、はい! 勿論でございます!」

    仕事の話ではないだろうと察したリヴェルダは、アンディートがプライベートのことで相談という事を珍しい思った。自分が力になれるならなんだってする、という意気込みの中、アンディートが昨晩レナータやムームアと話したことを語るのを聞く。

    「──って、話だ。まんま言葉の意味しか俺には分かんねぇし……頭いいやつしか気づけない謎掛けでも入ってんのか?」
    「あー……なるほどぉ……」
    「……なんだそのツラは」

    リヴェルダはニヤけそうになる顔を必死に抑えた。平常心、いつも通りに。そんな言葉を脳内で繰り返して、一度心を落ち着ける。

    「(あのアンディート様が惚気話を……それも無自覚……)」
    「おい、なんか分かんのか?」

    慌てふためくリヴェルダに、不審がっているアンディート。どうやって伝えればいいのか、リヴェルダはレナータの気持ちが今ものすごく理解出来る。リヴェルダはミラとアンディートの関係を深くまでは知らない。しかし、アンディートが彼女への感情でずっと悩んでいることは知っていた。彼女への気持ちは友愛か恋慕か、自分でも分かっていないらしい。

    「あの、俺もヴィシュヌ女王様と同意見でして……」
    「じゃあお前も分かるのか? ミラが何を言いたかったのか」

    頷いたリヴェルダを見て、アンディートは「なんだ、俺だけか……」と、どこか寂しそうに、悔しそうにそう呟いていた。今アンディートが抱いている感情こそ、その時ミラが抱いていた気持ちに近いのではないか。そんなことを思いながら、リヴェルダは頭を悩ませた。

    「そう、ですね……例えば、アンディート様にとても大切な人がいるとします」
    「おう」
    「そのお方は周りに誤解されやすく、そして相手の素晴らしさをアンディート様だけが知っています」
    「ほお」

    アンディートが真っ先に思い浮かべたのはレナータやムームア、そして従者達の姿だった。確かに運命に選ばれし王はその脅威から人を寄せ付けないし、従者達も主以外に対して態度が冷たいことが稀にあり理解されない時がある。当てはまるな、とアンディートは頷く。

    「しかし、その素晴らしさを自分が全く知らない人が知ってしまいました。その時、アンディート様はどう感じますでしょうか」
    「そりゃ、優しくて良い奴だって周りが理解して、良かったな……って」

    リヴェルダの反応を見て、アンディートはそれが望んだ答えではないと分かった。また上手い説明を考えようとしているリヴェルダを見て手で制すと、アンディートは椅子から立ち上がる。

    「ちょっと休憩する。お前も少し休め」
    「は、はい……」

    機嫌を損ねたのかと心配そうにしているリヴェルダの肩を軽く叩くと、アンディートは執務室から出た。



    …………



    庭にあるガゼボ。アンディートはベンチの決まった場所に座り、背もたれに身を預けた。いつも通りこのまま昼寝でもしたいが、今はそんな気分にはなれない。まさかここまで悩むことになって、これだけ苦しい思いをするとは思わなかった。もうギブアップして二人に聞いてしまおうか、そんなことを思いながら庭に咲く花を眺めていた。

    「……ん?」

    ガゼボから見える位置に、いつも見ているミラの誕生花が見えた。確かその花の位置はここからは見えなかったはず、そう思って従者達のことを思い浮かべる。ここによく昼寝をしに来るのを従者は知っているし、あの花が特別なことも知っている。恐らくここから見えるように植え替えてくれたのだろうと、僅かに笑った。

    大切な人。レナータやムームア、従者達もそうだが、アンディートにとってミラという存在もそうである。
    ミラは、あの時何を思ったのだろう。
    アンディートは彼女のことを考えながら目を閉じた。彼女の気持ちになれば分かるだろうか、そう思ってリヴェルダの話を思い出す。例え話、そう、例えとして立場が逆だったなら。そんなもしもを想像してみようと、アンディートは想像力を膨らませた。

    ミラは態度が悪く、人に誤解されやすい。
    顔も怖いからすぐに怒っていると勘違いされる。

    もうそれだけで面白いしそんな訳がないと思うが、アンディートはそれらを堪えながら想像を続けた。

    そんなミラの良さを、自分だけが知っている。
    本当は別に睨んだつもりもないし、大切な人には優しくしたい。

    自分に笑顔を向けるミラを想像して感じるのは、優越感だろうか。自分は彼女の特別であるのだと、そう胸を張って誇る気持ち。そう思うと、上手く言葉に出来ないような気持ちになった。

    そしてミラのその良さを、笑顔を、自分の知らない人に向けられて、相手がそれを知ってしまった。

    あの時、逆の立場だったなら、どんな行動をとった?
    アンディートはあの日の光景を思い浮かべた。

    ミラは知らない男と、話して、笑顔を向けて

    触れられそうになって。



    ────あ。


    ────ああ、これか。



    理解した。
    全てを理解した。

    体が火照って、顔なんか燃えるように熱い。
    恐らく、今自分の顔を見てしまえば羞恥で死ねるだろう。
    そう思うほどに、予想外の感情にアンディートは襲われ赤面していた。

    ミラは嫉妬して、アンディートを独占したいと思ったのだ。 それはミラが最期に伝えたアンディートへの愛に深く関わることで、だからレナータ達は自分で気づいて欲しいと言った。
    皆の言動の意味、全部が分かった。ああ、なるほどと。
    つまり自分は、ミラにそうやって独占欲を見せられた惚気話のようなものをなんでもないように人にベラベラ喋っていた、と。
    絶叫して暴れ回りたい。
    この感情をどこへぶつければいいのだろうか。

    「う、う゛ぐぅ……ど、どうすりゃいいんだ……?」

    死にかけのような唸り声を上げ、アンディートはとりあえずベンチから立ち上がった。しかし、レナータ達に答えが分かったと伝えるのもめちゃくちゃ恥ずかしい事じゃないか。追い討ちのようにそれを理解して、またベンチに座る。立ったり座ったりを繰り返していると、時間が経ち少し落ち着いたように感じた。

    「これが分かったから、好きってことになんのか……? 分かんねぇ、友情と恋愛の境ってどこなんだよ……」

    今、ミラのことを異性として好きなのかと聞かれても、多分答えは出ない。アンディートの中でミラに対しての感情は複雑で、絡まった糸のように解くまでには時間がかかることだ。
    しかし、別にすぐ答えを出す必要は無いだろう。幸い、運命に選ばれし王には寿命というものがない。死んで彼女の元へ行くまでに、答えを出せばいいのだ。

    「小っ恥ずかしい……! モヤモヤする!」

    がしがしと頭を搔くと、アンディートは大きくため息を吐いた。未知とは恐ろしいものである。



    ────



    『──で、喧嘩両成敗ってことでエンドとテゾールに暫く私と接触禁止にしたんだよね。そしたら二人共干からびてて可哀想だった』
    『水でもぶっかけときなよ。多分元気に育つよ』

    レナータとムームアの話を聞きながら、アンディートは焦っていた。二人共忘れていればいいが、ミラについてのことを聞かれれば恥ずかしい思いをしなくてはいけない。忘れてろ、最悪殴って忘れされさせるか、そんな物騒なことを考えながら、貧乏ゆすりをする。

    『あ、そういえばさ──』

    ついに来たか、そう思って身構えるが全く関係ない話が始まった。案外、誰も聞いてこない。なんとも言えない気持ちになって、アンディートは話の区切りが来た頃に意を決して話し出す。

    「こ、こないだの話……分かったぞ」

    アンディートがそう言うと、少し間を空けてレナータとムームアが笑いだした。自分は勇気を出したのに、なんで笑うのか。アンディートが拗ねるのが分かったのか、レナータは慌てて話をする。

    『アンディートが何も話してこない時点で、気づいたんだなぁって分かってるよ。私もムームアも』
    『そーそー。だから自分から言い出して、なんか……可愛いなって。あははっ』

    余計に恥ずかしい思いをした。
    自滅したことに、アンディートは大声で叫びたいのをどうにか堪える。この気持ちの行き場は何処へ。
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