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    kanagana1030

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    kanagana1030

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    春趙ワンドロワンライ、お題「温泉」で書いていたのですが思ったより長くなりそうで終わらないので途中までちょっと春日くんが可哀想な感じですが……続きはいずれ!

    期待外れの温泉旅行 趙と自分の二人で出かけるのだと思っていた。二人っきりの旅行だと。だが、待ち合わせ場所に集まったいつもの面々の顔に、春日はその期待が幻だったことを知った。

     事の発端は、春日の誕生日。サバイバーを貸し切って、仲間での誕生日パーティーも終盤。一人二人と泥酔した脱落者が出てきた頃、趙がカウンター席にいた春日の側に寄ってきて、こっそりと封筒を差し出した。
    「誕生日プレゼント。開けてみて」
     金色の蝋で閉じられた赤い封筒。手渡されたそれをドキドキしながら開けると、中にはもっとドキドキしてしまうようなものが入っていた。
    「春日くんのお誕生日に温泉旅行をプレゼント。前に刺青のことがあるから、温泉とか行ったことないって言ってただろ? 部屋に露天風呂が付いてる部屋をとったからさ。人目を気にせずに存分に入れるよ」
     サングラスの奥、酔いに赤く濡れた目で趙にそんな風に囁かれて、誕生日で浮かれていた春日のテンションはその日一番に跳ね上がった。まだ本人には言ったことはなかったが、春日はこの男のことが好きだった。好きな相手にそんな風に温泉旅行に誘われて、期待しないことなどあるだろうか? 

     もしかしたら、趙も俺のことを……?

     そんな期待に胸を膨らませ、趙とのあれこれを妄想しながら、春日は今日という日を楽しみに待っていたのだ。それなのに……。



    「なんだよ、一番。寝不足かぁ? 珍しくテンション低いじゃねぇか」
    「おいおい、春日。お前、車酔いとか大丈夫だったよな? 吐くなら止めるから言えよ」
    「春日さん、昨日も遅くまで飲んでいたんですか?」
    「旅行前なんだから自粛しなさいよね。助手席の方が良い? 良いなら変わるわよ」
    「あっ! 私、飴持ってますよ。食べますか? 飴? 黒糖とパイン飴、どっちがいいですか?」
     レンタカーだというワゴン車を運転しているのは、元運転教習官の足立だ。助手席には紗栄子が座り、その後ろの二人席にはナンバと春日、その後ろにえりが座っている。趙とハンジュンギは、ドア脇に並んだ一人席にそれぞれ座っていた。
    「春日くん、調子悪いなら、休憩がてらにサービスエリアに寄る? 俺、サービスエリア好きなんだよねぇ」
     すでに高速道路に乗った車は一路、温泉地を目指している。皆での旅行が嫌なわけではない。わいわいと仲間で揃って旅行なんて本来なら楽しみなことこの上ないものだ。けれど、今回の旅行に関しては趙と二人っきりの旅行への期待が大き過ぎたので、その分、落胆が大きい。
     狭い通路を挟んで横に座る趙の顔をそっと盗み見ると、趙はこちらに後頭部を向ける形で楽しげに窓の外を眺めていて、春日の淡い期待などに気づいた様子は微塵もない。そんな様子に今回の旅行は自分に対して何らかの特別な思いがあって誘ってくれたものではないことが痛いほどに分かって、なんだかため息ばかりが出てくる。
    「おいおい、一番、本当に大丈夫かよ」
     顔を覗き込んで春日の様子を心配してくれるナンバには悪いが、今はどうにも元気が取り戻せそうにない。具合の悪いふりをして、一番後ろの二人席のえりと席を代わってもらい、上着をかぶって横になった。楽しんでいる皆の手前、現地に着くまではどうにか気持ちを切り替えて元気を取り戻したいと思うのだが、浮かぶのは今日までに繰り返しした、もしもの時のシミュレーションや妄想ばかりで、どうにもそれが諦めきれない。
     趙も自分を好きだと分かったなら告白はどのタイミングでしようかとか。部屋に温泉があるってことは、もしかしたら、二人で入れたりするのだろうかとか。湯上りの浴衣姿の趙はさぞ色っぽいんだろうなとか。もうその他もろもろ。
     春日としては、趙と一緒の様々な状況をシミュレートして、今日という日を迎えたのだ。それが全て無になって、残っているのは別に春日のことを何とも思っていない趙と仲間達との温泉旅行。こんなことなら、最初から期待などせずに来れば良かったと、日頃から周囲の状況を自分に都合よく解釈しやすいこの能天気な頭をどうにかしたい。
    「ねぇ、一番。本当に降りないの? 皆、行っちゃうよ?」
    「ああ、大丈夫だから行ってくれ。眠いだけだからよ……」
     休憩がてらとサービスエリアに止まって、皆が車を降りていくが春日としては今は起き上がる気力も出ない。なので、紗栄子からの呼び掛けも断って、誰もいなくなった車の後部座席の上で目を閉じて丸くなった。そのまま寝るつもりはなかったがしばらくうとうとしていたらしく、気づいたら皆が戻ってきていて、車は再び高速道路を走り出していた。
     横を見ると先ほどハンジュンギが座っていた横の一人席には、今度は趙が座っている。趙に失恋したばかりのような心境の今だが、やはりその姿が側にあると嬉しく、心が小さく踊る。少し顔を上げて趙のことを見ていたら、視線に気が付いたのか趙がこちらを向いてくれた。
    「春日くん、起きた? 具合はどう?」
     こちらを伺うように覗き込んでくる趙の視線の優しさが嬉しくて、趙がせっかく誘ってくれた温泉旅行なのに、今まで拗ねるように寝ていたことが急に恥ずかしくなる。
    「……それ、何、食ってんだ?」
     話題を変えようと、先ほどから趙が食べていたものに視線を移す。
    「あ、これ? アメリカンドッグ。サービスエリアで見るとついつい食べたくなるんだよねぇ」
     手元でケチャップとマスタードのかかったアメリカンドッグをくるくるっと回して、趙がふとその串をこちらに向けた。
    「春日くんも食べたい?」
     問われて、思わず目の前に差し出されるかじりかけのアメリカンドッグを見つめてしまう。
    「……いいのか?」
    「俺の食べかけで良かったら、どうぞ」
     趙が齧ったアメリカンドッグ。趙の唇が、歯が、触れたそこに自分のそれを当てていいのかと意識してしまって喉が鳴る。春日は首を伸ばして、趙が差し出したアメリカンドッグに齧りついた。さくりと衣を割って、中のソーセージを齧り取る。ケチャップが上唇についた感触があり、慌てて舌で舐めとった。
    「美味しい?」
     先ほどまで趙の唇に触れていたものが、今、自分の口の中にあると思うと味など何も分からない。けれど、趙はそんな春日の気持ちにまるで気が付かないように、楽しげに聞いてきた。
    「おう。美味いよ。サンキュ」
     温泉旅行が二人っきりのものであったのなら……告白をして上手くいったなら、この旅行で趙とキスぐらい出来るのではないかという期待があった。けれど、それが夢と消えてしまった今はこんなことだけでも胸が鳴ってどうしようもない。春日は身体を起こして、座席に座りなおして趙を見た。
    「温泉、楽しみだな。計画してくれてありがとうな」
    「あっ、寝たら元気になった?」
    「おう」
     趙の気持ちは自分には向いていなかったが、それでも仲間として大事に思われているのは変わりない。趙が計画してくれた温泉旅行を楽しもうと春日は決意を新たにした。
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