期待はずれの温泉旅行 5口にしておいて、仲間を飲みに誘う文句としてあまりにも不自然だったかとドキドキする。こんな言い方では、きっと自分の下心が趙に伝わってしまう。
趙が立ち止った春日をゆっくりと振り返った。
「いいけど、どこで飲む?」
春日に向けられた趙の顔がいつも通りで少しほっとする。
「俺たちの部屋はどうだ? どうせ、このままあっちで寝る奴もいんだろ」
「まぁ、ジュンギはともかく、ナンバは確実にそうだろうね」
趙が共犯者めいた笑みを浮かべて「じゃあ、そうしようか」と春日に腕を伸ばして、春日が手に持ったビニール袋を手にとった。
「春日くん、先にお部屋行ってて。俺、これだけ置いてくるよ」
「お、おう」
宴会部屋の方に行く趙を見送って、カードキーで自室の扉を開ける。案の定、こちらに帰ってきている人間はおらず、皆はまだあちらで宴会の真っ最中のようだった。
「はぁ……」
部屋で一人になると先ほどまで暴れていた胸が痛んだ。趙が側にいると心臓がまるで今までとは別の生き物になったかのように騒ぐのだが、その姿がなくなると急に切なくなって、なんだか苦しい。
履物を脱いで部屋に踏み込むと、すでに和室の中央には二組の布団が敷かれていた。小上がりにベッドが二台あるので、それ以外の二人用の布団ということなのだろう。ただ、先ほどは普通の部屋だったはずなのに二組布団が敷かれただけで、なんだか妙な気分になってくる。部屋の明かりは露天風呂の方からぼんやりと漏れてくる橙色の光だけでそれもいけない。
こ、ここに趙が来るのか?
そして、これから二人でここで酒を飲もうと言うのだ。春日は何だか悪いことをしているような気分になって、慌てて部屋の明かりのスイッチを探した。ただ部屋は暗く、春日が良く見知った明かりのスイッチらしきものが壁のどこにもない。あちらこちらと探してるうちに電気がつく前に部屋の扉が開いて、趙が顔を見せた。
「お酒、貰ってきたよ〜。あれ? 春日くん?」
暗い部屋に踏み込んできた趙の声が疑問に上がるのに気がついて、慌ててその前に飛び出す。
「あ、あのよ、部屋の電気のスイッチが分かんなくて……」
「おっ! ねぇ、見て」
しどろもどろでフォローしてる春日の脇から趙が部屋の奥に踏み込んで行き、窓際の椅子が二脚並んだところで止まって春日を振り向いた。
「ほら、綺麗に月が見える」
言われて春日も窓に寄っていくと、確かに暗く影になった向こうの山の上にまん丸の月が空に浮かんでいるのが窓からよく見えた。部屋が暗いので月明かりが溢れて窓から差して、そこに置かれた二脚の椅子を煌々と照らしている。
趙がその白い明かりの中の椅子に腰を下ろして、向かいの椅子に春日を誘った。
「いい雰囲気じゃん。このまま月見酒と行こうよ」
「お、おう」
趙が持ってきた日本酒をグラスに注いで、春日にくれる。趙も自分のグラスになみなみと注いで、春日の方へと持ち上げた。
「じゃあ、改めて乾杯」
「おう、乾杯」
お互いのグラスをカチンと合わせて、それぞれがグラスを傾ける。温く甘い塊が喉を緩く焼いて、胃に落ちていくのが分かった。
向かい側の席の趙は窓の外の月に目を向けている。その視線がこちらを向いていないことをいいことに、春日は月明かりに照らされた趙の姿を肴に再び酒を煽った。
今の趙は湯上りということもあり、いつも後ろに固められている髪が落ちていたり、アクセサリーをつけていなかったりで、無防備だ。そんな無防備さを存分に目で愛でて堪能する。サングラスのつるの間から見える、月を映した真っ黒な目を眺めていたら、不意にそれがこちらを向いた。
「何? 俺のことなんて見て」
「えっ? い、いや……そうやってっとマフィアのボスをやってた奴には見えねぇなと思ってな」
「それって、俺の童顔を馬鹿にしてる?」
「してねぇよっ。き、キレイだなとは思ってたけどよ」
思わず本音を漏らすと、趙は少しびっくりしたような顔をした後に小さく笑った。
「女顔とか童顔とか言われて舐められることはあったけど、キレイだなんて言われんのは初めてだよ。やっぱり、春日くんって変わってんね」
「舐められてたのか?」
「まぁね。立場も立場だったから多少の僻みもあったんだと思うけど」
「嫌な思いをしてきたんだな」
「でも、ほら、俺、喧嘩は強いし、負け知らずだからさ。まぁ、舐めてくる奴なんて言わずもがなだよね」
「趙先輩は怖ぇな」
「相手が悪いよね」
「ちげぇねぇな」
顔を見合わせて笑う。子どものように破顔する趙が好きだなという気持ちで胸がいっぱいになる。
「なぁ、サングラス、ちょっと取ってみてくれよ」
「なんで? やだよ」
「ちょっとでいいからよ。素顔の趙がみてぇんだ」
真剣に頼み込むと趙が笑顔を引っ込めて、サングラスを鼻の上から上げた。
「そんなこと言われたら、余計に外せないじゃん」
「何でだよ」
「春日くん、直球過ぎ」
「趙ぉ」
趙が弱いことを分かりながら甘えた声で頼むと、趙がしょうがないなと言う顔でため息を吐いた。
「じゃあ、じゃんけーん」
「えっ?」
趙の声と動作に咄嗟に手を出す。
「ぽん!」
慌てて出した春日の手はパー。対して、趙の手はチョキ。
「春日くんの負けだね。さ、じゃあ、一枚脱ごうか」
「はぁ? な、なんで脱ぐんだよっ」
「だって、俺のサングラス外させたいんだろ? 野球拳、野球拳」
「よ、よぅし!」
そんなら、やってやんぜ、と浴衣から帯を引き抜く。浴衣の前がはだけるが気にせずに立ち上がる。
「じゃんけんっ」
「ぽん」
今度は春日が勝って「よっしゃー!」と声をあげる。趙が「なかなか、いい勝負だね」と春日と同じく浴衣から帯を抜くので、ぎょっとする。
「サングラスじゃねぇのかよ!」
「順番は俺の勝手だろ。ほら、次の勝負行くよ」
趙の浴衣も前がはだけて、肌と下着がのぞくので目のやり場がないと感じる。脱がせたいような、脱がれると困るような複雑な気持ちがやってくる。
「よ、よしっ」
「じゃんけーん」
『ぽん!』
「よしっ!」
趙が勝って嬉しそうに拳を握る。春日は自棄になるような気持ちで浴衣を脱ぎ捨てた。
「ふふふ、春日くん、後がなくなってきたね」
「うるせぇっ。絶対勝ってやるから見てやがれっ!」
ここぞ、という時の運には自信がある。春日はよしっ!と気合を込めた。
『じゃーんけん、ぽんっ』
二人の声が揃って、それぞれが同時に手を出す。春日がぐーで、趙がちょき。
「やったぜっ!」
思わず、ガッツポーズをとる。趙が「あーあ、残念」と躊躇いもなく立ち上がって肩から浴衣を落とした。
「よし、じゃあ、次が正真正銘、最後の戦いかな?」
趙が下着とサングラスだけを付けた姿で片頬を上げて笑う。その肌は先ほど風呂場で目にしたはずだが、月明かりに照らされた趙の肌はまた先ほどと違って、何とも言えない色気がある。そのあでやかな様子に、思わず生唾を飲みそうになるが寸前のところで耐える。
「よ、よしっ、行くぜっ」
「俺も負けないよ」
負けられない戦いだと拳を握って、趙の前に立つ。趙も笑みを浮かべたまま、拳を握って春日の前に出した。
「じゃんけーん」
『ぽん!!』
勢いよく出した手は、趙がぱーで春日がぐー。
「やったぜ!!」
思わず飛び上がって喜ぶと、着地の地点で椅子に躓き、身体がぐらりと倒れる。
「わわっ」
転ぶ!と思った途端、趙の手が伸びてきて、転びそうになった春日の身体を支えたので、春日も咄嗟にそんな趙の身体に腕を回した。
「……さ、サンキュ」
「びっくりした。はしゃぎすぎだよ、春日くん」
趙のサングラス奥の目がたしなめるように至近距離から春日を見るので、春日もその目に吸い込まれるように趙を見つめた。お互い下着一枚で肌がそのまま触れて趙の熱が直に伝わってくる。ドクンと心臓が大きく一回跳ねて、全身を熱い血が巡っていく音が聞こえたような気がした。そのまま動けなくて、趙の目に射すくめられたように目を当てていると、趙もこちらに静かな目を向けたままでいて……。
「おいっ、一番っ」
暗い部屋のドアがいきなり開いて、廊下の明かりが無遠慮に差し込む。ナンバが部屋の扉のところにいて、春日と趙のことを見て、息を止めたのが分かった。
「……」
「……」
「……わ、わりぃ」
三人の間になんとも言えない空気が流れる。が、すぐにその空気を振り払うようにナンバが気まずそうな顔で謝罪を口にして、静かにドアを閉めて出て行った。部屋には再び、趙と春日が二人きり。そして、また暗がりが戻ってくる。春日が趙の顔を見上げると趙はおかしそうに小さく笑った。
「……ナンバに誤解されちゃったね」
「そうだな」
「誤解を解いてこないとね」
趙の手が春日の背を軽く叩いた。離れるように促されているのは分かっているのだが、一度触れてしまった趙の肌から離れがたくて、春日は趙の背に両腕を回してぐっと抱きついた。
皆に、趙とは何もない、関係があるわけではない、と言いたくない。誤解にしたくない。だって、自分は……。
「……好きだ」
「えっ?」
「俺、趙のことが好きなんだ」
緊張で声が掠れる。趙の背に回した腕も、ともすれば震えてきそうで怖い。けれども、不意に口にした思いは口から溢れ出た途端に大きな実感となって春日に戻ってきた。
趙のことが好きだ。
趙が欲しい。誰にも渡したくない。趙を自分だけのものにしたい。そんな切羽詰まった気持ちで趙の身体を抱きしめる。
「……春日くんの好きな人って、俺ってこと?」
「そうだ」
「そっか」
平時と変わらぬ趙の調子に不安になって心臓がぎゅっと締め付けられる。
「……い、嫌か?」
「俺さ、気になる子がいるって言ったじゃん」
そういえば、先ほどそんな話をされたばかりだった、と春日は慌てて趙を抱きしめていた腕を解いた。
「そ、そうだったよなっ。わりぃ」
しまった。自分の気持ちが先走り過ぎて、好きな人がいると言っていた趙のことを何も考えずに気持ちを押しつけた。慌てて我に返って身体を離して趙から距離を取ろうとすると、逆に腕を趙に掴まれた。
「それってさ、春日くんのことなんだよね」
「へ?」
趙の手が春日のあごにかかって、顎髭の感触を親指で確かめるように撫でられる。趙がサングラスを外して、その目が真っ直ぐにこちらを見つめたと思ったら、すぐに近づいてきてせっかくの趙の顔がよく見えなくなる。と、同時に唇に柔らかい感触があって、吐息を注ぎ込まれるように口づけられた。
「……」
全て、一瞬のことで頭が追い付かない。再び離れた趙の顔が今度は良く見えて、その真っ黒な目に射すくめられて動けなくなる。
「春日くん?」
趙が小首をかしげて、春日の顔を伺う。春日は信じられない思いで、趙が触れた自分の唇に手を当てた。
「えっ?」
「何?」
「き、キスしたか?」
「だね。駄目だった?」
「だ、駄目じゃねぇ」
でも、何だか良く分からなかった。あんなに夢見ていた趙との初めてのキスだったのに、うろたえすぎて、せっかくの瞬間がよく覚えていない。
「ほ、本当に好きなのか? 趙も俺のこと」
「うん。好きだよ。春日くんを傷つける奴は誰であろうと俺がぶっ殺してやるって思ってるぐらいに、ね」
好意の言葉とともに物騒な言葉が出て来て、どう反応していいか困るが、それでも趙が自分と同じように好意を持ってくれているということが嬉しかった。先ほど離した腕を恐る恐るそっと趙の背に回すと、趙も同じように両腕をこちらに回して、抱きしめてくれた。
「好きだ」
趙の髪に頬を押しつけながら、思いを込めてその身体を抱きしめる。
「俺も」
趙もそういって回した手で背中を撫でてくれて、その手が腰へと降りたと思ったら春日の下着の中に差し込まれた。
「ちょっ、ちょっと待て」
「えっ? あれ? しない?」
「し、しなくはねぇけど、いきなりは心の準備ってのが……」
「そうなの? 俺はさっき、風呂場で春日くんに触ってから、ずっとこうしたかったよ」
趙が春日の首筋に唇をつけて、吸い付く。と同時に腰を撫でられて下腹部に熱が溜まっていくのが分かる。ずっと触れたかった趙から積極的に触れられることは嬉しいのだが、これは自分の想定とまるで違う。
「た、タンマ! 趙、ちょ、ちょっと待て」
「どうしたの?」
「タンマだ! ちょっと待て!」
趙が両手をあげて、春日の体から少し離れる。
「急すぎた?」
「い、いきなり過ぎて、心臓がもたねぇ」
「そうなの?」
そう小さく小首を傾げるのが可愛い。春日がその頬を掌で包むと趙は小さく笑って、春日の手に擦り寄せるように頬を寄せた。そんな仕草に愛しさが募って、今度は春日の方から趙の唇に自分の唇を当てる。柔らかく温かいそれに触れて、じんっと心の奥に趙と両想いなんだと実感がやってくる。
「……ちょう、好きだ」
「うん。俺も好き」
「た、大切にするぜっ」
春日の言葉に趙が少し目を丸くして、こちらをみた。
「それって、今日はしないってこと?」
「えっ? い、いや……そりゃあ、してぇけど……」
趙が再び、春日の腰に両腕を回して、上目遣いで春日を見上げてきた。
「春日くん、俺、こんな格好だから冷えてきちゃったな」
「えっ? あ、そ、そうだよな」
趙の肩に触れると確かに冷たくなってきている。慌てて床に落ちた浴衣を拾おうと床に目を向けると、趙の唇が春日の視界を奪うように再び重ねられた。驚いて趙を見ると、仕方ないなという風に笑った趙がそこにいた。
「違うって。誘ってんの。ね、ベッド行こうよ」
蠱惑的な笑みを浮かべた趙が春日の腕を取って、小上がりにあるベッドまでいざなってくれる。なんか夢の中にいるようなふわふわとした気分で春日はその背に従った。趙がベッドの一つの掛け布団をめくって膝をついて上がる。
「きて」
趙が仰向けになった状態で、そんな風にこちらに手を伸ばしてくれる。その据え膳っぷりがあまりにも自分に都合が良すぎて、本当に夢なのではないかと心配になってくる。趙と二人で飲んでいて飲み過ぎで寝落ちてしまい、自分は都合の良い夢を見ているのではないんだろうかという疑いが濃くなってくる中で、春日はそれでもふらふらと誘われるがままに趙のいるベッドへと自分も乗り上げる。趙の身体にのしかかるようにして、その身体を抱いた。腕の中のみっしりとした筋肉と固い骨格は、今までベッドを共にしてきた女性たちとは全く違うものだったが、だからこそ、自分が今抱きしめているのは、大好きな趙以外の誰でもないという喜びがあった。
「ね、俺さ、実は少しだけ期待してたんだよね」
「期待?」
「春日くんとさ、温泉に来たら、もしかしたらこういうことが出来る機会があるんじゃないかと思って」
「ま、マジか……」
自分が趙との温泉旅行で夢を見ていたように、趙もこの旅行にそんな期待があったのかと喜びに胸が躍る。
「うん。ほら、春日くんってさ。押しに弱いって聞いたからさ。温泉旅行の際にさ、あわよくばってね」
趙の言葉に喜びに踊った心が小さくしぼむ。
「……俺の身体だけが目当てなのかよ」
不貞腐れるように言うと趙が小さく笑って、なだめるように春日の髪を撫でた。
「そうじゃないけど、春日くんの心まで手に入れるのは難しいだろうなぁって思ってたからせめて、ね。でも、春日くん、もう好きな人がいるって言うし、これはあわよくばって感じじゃないかなってがっかりしちゃったなぁ」
「だから、その好きな人ってのはお前だっつの」
両想いのはずなのに、何故かうまく嚙み合わない趙との会話に焦れてきて、趙の身体に回した腕に力を込める。趙がそんな春日の顔を包み込むように両手で覆った。
「なんか、まだちゃんと信じられないけど、嬉しいよ」
「何でだよ。信じろよ」
「だって、春日くんが俺をって……なんか変だよね」
「変じゃねぇよ」
「春日くんの周り、もっと魅力的な人がいっぱいいるじゃん」
「俺は趙がいいのっ」
確かに自分にふらふらしていた時期があったことは認める。好意を向けられることに慣れておらず、皆に不誠実なことをしたことで、信用を失ったということも分かっている。けれど、趙への気持ちはそういったものとは違って、まるで別のものなのだということを分かって欲しかった。
「今は趙以外の奴のことなんか考えられねぇよ」
真っ直ぐに見つめて、そう告げると趙の目の奥がまた揺れて、ふと視線が逸らされて、趙が額を春日の首元にあてた。
「趙?」
真剣に思いを伝えているのに顔が見えなくなってしまったことに不安を覚えて、名前を呼ぶと平素と同じように何でもないような顔をして趙が顔を上げた。
「うん。分かった。分かったから、そろそろしよっか。ずっとおしゃべりしてたら、せっかくの時間が勿体なくない?」
「本当に分かったのか?」
趙の対応が軽すぎて、なんだか、こちらの思いがちゃんと伝わった気がしなくて、重ねるように聞いてしまう。
「うん」
「好きなんだぞ、趙のこと」
「うん」
「両思いなら俺と付き合ってくれるってことだよな? 今さら嘘だなんて言われても受け付けねぇぞ」
「……付き合うって春日くんと俺がってこと?」
「他に誰がいんだよ」
「でもさ、ほら、春日くんもまだ若いんだし、まだ沢山遊ばなくていいの? 一人に絞っちゃうなんて勿体なくない?」
「もうそんな若かぁねぇよ。……何だよ、趙はまだ遊びてぇのか?」
趙がまだ確かな関係を持つつもりはなく、恋人も一人に絞る気にならないというなら無理強いは出来ないと思うが、それでも趙が自分と寝ながら他の人間とも、と考えたら嫉妬で頭がおかしくなりそうなことだった。
「いや、別に俺は……元々、遊ぶとかそう言うのはあんまりだし……」
「じゃあ、いいじゃねぇか。俺は趙以外ともうこんなことするつもりはねぇぞ」
腕の中に、自分の肌にしっくり来て馴染む趙の肌の感触に、もうこれ以上は何も要らないと感じる。愛おしくて、どこもかしこも唇をつけて含みたい。
「趙、好きだ。大好きだ」
思いの丈を趙の耳元に囁いて、首筋に口付けていく。腕の中の趙が小さく震えて、春日の肩を押した。
「ちょっと待って」
「ん?」
「待って。俺、ヤバイかも知んない」