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    kanagana1030

    @kanagana1030

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    POIPOI 25

    kanagana1030

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    温泉の話の続きの続き。書いても書いてもまだ終わらない。

    最初 https://poipiku.com/4207395/8117860.html
    前話 https://poipiku.com/4207395/8200589.html

    期待外れの温泉旅行3 全員が風呂を済ませて少し休んだら、すぐに夕飯の時間で、部屋食を運んで良いかと声をかけられたので、足立の部屋に集まって、夕飯がてらの宴会となった。
     一人一人に用意された食膳の上に刺身の鉢や焼き物の皿、茶碗蒸しと煮物、固形燃料の入った一人用の鍋には牛肉と野菜。そして、後からは揚げたての天ぷらが運ばれてくるということだった。
     見たこともないようなご馳走を前に春日は浮きたつ気持ちが抑えられなかった。
    「おい、こんなご馳走食ったことねぇぞ。なんだこれ、食う順番とかあんのか?」
    「好きに食べて大丈夫だよ。春日くんは何を飲む? 日本酒でいい? 最初はビールがいい?」
     メニュー表を手に飲み物のオーダーをしてくれている趙が運良く隣に座ってくれていて、それも春日の上機嫌に拍車をかけていた。
    「趙は何飲むんだ?」
    「俺ぇ? 俺はせっかくだから日本酒飲もうかなぁ」
    「じゃあ、俺もそうする」
    「オッケー。じゃあ、他のみんなは?」
     趙が水を向けるとそれぞれがビールだの、やっぱり日本酒だの、何か飲みやすいのが欲しいだの、オーダーが方々から飛んでくる。それを難なく捌いてオーダーをまとめて、給仕の中居さんに伝えている趙は手慣れていて、以前もこんな風に誰かと温泉に来たことがあるのだろうかと勘繰ってしまう。
    「趙はさ……お、温泉好きなのか?」
     オーダーを終えて、やっと自分の膳に向き合った趙に声をかける。
    「ん? そうだねぇ。好きか嫌いかで聞かれたらぁ」
    「聞かれたら?」
    「大好きだね」
     にかっと笑われて、その笑顔の可愛さに思わず趙を好きな気持ちが溢れそうになる。
    「春日くんは? 好きじゃないの?」
    「えっ!? い、いや、す、好きだ」
     一瞬、心を読まれたのかとどきっとするが、そう言えば温泉の話をしていたのだと思い出す。
    「お、温泉なんて初めて来たけどな。こんなん夢みてぇだよ」
     部屋についた大きな風呂に入り、殿様みたいな膳いっぱいの食事を食べて酒を飲む。おまけに自分の側には大好きな人が横にいて、春日が喜んでいるのを見て嬉しそうにしてくれているなんて……ホント刑務所の中で繰り返しみて憧れた夢みたいな出来事だなと思う。
    「ふふふ、夢じゃないよぉ。まぁ、そのうち、春日くんも大事な人を作って二人で温泉旅行に行ったりね。もう、いくらでも出来るでしょう」
     大事な人。そういわれて、今の春日の頭にはいの一番に趙の姿が浮かぶのだが、きっと趙が春日の隣に想定しているのは自分の姿ではなくて……分かってはいるが、そういうことを言われると、自分は趙の恋愛対象ではないと断言されているようでつらい。
    「ちょ、趙は……来たことあるのか? そ、その大事な人とかと」
     傷口に塩を塗るような質問を何故、自分からしているのだと自分のあほさ加減に呆れるような思いがするが、それでも口から思ってた質問がそのまま漏れてしまう。
    「俺? まさか。春日くぅん、今までの俺にそんな自由があったと思う?」
    「えっ? あっ、そうか。そうだよな」
     趙の答えにほっとしながらも、改めて趙が長い間、流氓の総帥の座に縛られていたのだなと悲しい思いがする。刑務所にいた自分はともかく、趙に大事な人と出かける自由もなかったことを思うと我が事のようにつらい。春日の表情が曇ったことに気がついたのか、趙がなだめるように笑ってみせた。
    「でも、今は違うよ。こうして、春日くんたちと温泉にも来られたしね。俺、春日くんに会えてホント良かったなぁ」
     趙の言葉にまた心臓が大きく一つ鳴る。俺もお前に会えて……っと身体を向けて真剣に言おうとしたところで、注文した酒が運ばれてきて場は乾杯のムードになった。
    「ほら、春日、乾杯の音頭をとれよ」
    「そうよ。今日は一番のお祝いからの温泉旅行なんだから」
     足立と紗栄子にたきつけられて、言いたかった言葉を飲み込んで、仕方なく立ち上がって杯を手に取る。
    「えっと、皆さん、グラスの準備はよろしいでしょうか?」
    「なんだぁ、結婚式かよ」
    「うるせぇ。じゃあ、乾杯っ」
    「かんぱーい」
     全員で声を上げて、それぞれが自分の注文したものに口をつけながら食事を始める。春日が腰を下ろすと趙はすでに隣のハンジュンギと談笑していたので、仕方なく猪口の日本酒を干して、春日も箸をとった。
    「ん、うめぇ」
     刺身をつまんで、再び、酒を煽るとえもいわれぬ心地がする。
    「ホームレス時代とはえれぇ違いだな」
     隣のナンバもご馳走に舌鼓を打って幸せそうにしていて、春日も全く同意だと頷き返す。
    「そう言えば、ナンバ、大浴場はどうだった?」
    「ああ、広かったぜ。いろんな風呂があってよぉ。そんで、ハンジュンギがめちゃくちゃいい身体してやがった」
     ナンバが苦々しそうにそう言うと、自分の名前に反応したのか、趙の向こうからハンジュンギの誇らしげな声が聞こえてきた。
    「鍛えてますからね」
    「んなこと聞いてねぇよ」
    「まぁ、ハンジュンギがどんな身体してようがどうでもいいが、でけぇ風呂はいいなぁ」
     先ほど、部屋風呂でも十分に温泉を満喫出来たが、広い風呂を想像するとそれはそれで堪らないだろうなと羨ましくなる。龍魚を背負うことに後悔はないが、思えば、広い風呂など子どもの頃に養父と銭湯に行って以来入っていない。広い風呂に浸かるのはどんな気分だろうと想像してみると、温泉旅館に来てそれが出来ないのはとても残念だという気がした。
    「まぁ、でもよ、部屋風呂も良かったぜ。静かで川の音とか聞こえてよ。ナンバも後で入ってみろよ」
    「あぁ、そうだな。露天風呂を独り占めってのはいいもんだよな」
    「ちょっと、あんたたち、風呂に入るのはいいけど、酔っ払ってはいるのだけは止めてよね。事故るわよ」
     向かい側から紗栄子がいつもの姉御肌を発揮してきて、そう言えばそうだなとナンバと顔を見合わせる。
    「さっちゃんは、もう部屋風呂入ったのか?」
     ナンバの問いに紗栄子の脇のえりが声を上げた。
    「入りましたよ。大浴場から帰ってすぐに」
    「えっ? えりちゃんももう入ったのか?」
    「二人で入ったのよ。部屋風呂も十分大きいから余裕だったわよ。ね?」
    「はい。いいお風呂でした」
     にこにこと笑みを交わす二人を見ながら、女の子同士なら二人で一緒に部屋風呂とか、そう言うのが気軽にありなのか……と、ちょっとしたカルチャーショックを受ける。
     春日と趙とは当たり前のように別々に入ったが、もしかしたら、一緒に入っちまおうぜ、と軽く言えば男同士でも同じ風呂に入れたことなのかと趙の方を伺うと、趙もこちらを見ていて、間近で視線が合った。
    「あっ……」
     サングラスの奥の趙の真っ黒な目が揺れた気がして、何か言おうと口を開きかけたら、足立が声を上げた。
    「俺も部屋風呂に入ったぞ! 一人だったけどな! 俺だけ一人部屋だから独り占めだ!」
    「うるせぇよ。足立さん、いつまでも根に持つなよ」
    「寂しいのでしたら、ご一緒に入ってさし上げても良いですが?」
    「そうだよ。ハンジュンギに一緒に入ってもらえよ。いい身体してるぜ、こいつ」
    「あほかっ。何が悲しくて、男と二人で風呂にはいらなきゃならねぇんだっ。俺は一人で十分だっ」
     足立が荒れながら、酒だ、もっと酒持って来いっと言い出すので、趙が苦笑して追加の酒を頼みに席から立っていってしまった。
    「ねぇ、一番」
    「ん?」
    「さっき、エリちゃんから聞いたんだけど、会社の女の子にアプローチされてるんだって?」
    「あっ、さ、紗栄子さん、ご本人に言っちゃあ、駄目ですよっ」
     紗栄子の横で慌てるえりの顔を見ながら、何のことだと春日は首をひねる。
    「あぷろーち? なんだ、そりゃ」
    「言い寄られたってことよ。女の子に連絡先、聞かれたんでしょ?」
    「えっ? あ、ああ。でも、社員の子だしよ。会社のことで相談があるっつうから相談に乗ってただけで、別に何もないぜ」
    「うそ、うそ。だって、一緒に夜のホテルのラウンジで飲んでたらしいじゃない」
    「だから、ありゃあ、相談に乗ってただけだって」
     紗栄子が言うように、一週間ほど前に会社の女の子から声をかけられ、相談に乗って欲しいとホテルのラウンジに呼び出された。そこでしばらく会社の話などをして帰ったのだが、えりにその話をしたら、「恋の始まりですか!?」と思いもよらない大きなリアクションをとられたことを思い出す。
    「だからぁ、紗栄子さん、春日さんは全然気が付いてないんですよ」
    「ホントね。鈍感にもほどがあるわ」
     女子たちから少し冷めた目で見られて、なんだか心外だという心持ちになる。
    「何だよ、それ」
    「だって、その後も電話やらLINEやらが頻繁に来てて、次にいつ会えるかって言われてるんですよね?」
    「ラウンジで飲んでる時に、彼女の有無とか、好みのタイプとか色々と聞かれたんでしょ?」
    「いや、そうだけどよぉ……別に普通のことだろ」
     会社の話がひと段落したころに、その子が自分は男運が悪くて駄目な人ばかり好きになっちゃうんですと恋愛の話をし出して、話の流れで春日の事も色々と聞かれたというだけで春日的には彼女に他意ないことだと思っていたのだが、どうやら女性陣からすると違うらしい。
    「違いますっ! 普通は興味のない男性にはそんなこと、聞かないんですよっ」
    「相談があるなんて呼び出して、二人っきりで飲んだりしないしね」
    「まぁ、その後、連絡が頻繁に来て次回もまたってことは、そういうことなんだろな」
     何故だか、ナンバも参加してきて、春日は三対一で責められるような構図になる。
    「で、どうするの、その子。付き合うの?」
    「はぁ? 社員の子だし、付き合うも何もねぇよ」
     彼女は社員の一人であって、それ以上でもそれ以下でもない。ましてや付き合うなんて考えたこともないと口にすると「だったら、思わせぶりな行動を取るなよ」と三人から口々に責められた。
    「いいじゃねぇか、付き合えば、向こうから声をかけて来てくれるなんて最高じゃねぇか」
     足立が脇から無責任なことを言って場を煽る。
    「付き合わねぇよっ」
    「じゃあ、春日さんはどんな方がタイプなんですか?」
     ハンジュンギまでも興味深そうに質問を投げてきたところに、アルコールの追加注文を終えた趙が帰ってきた。
    「俺ぇ、春日くんのタイプ、知ってるよ」
     楽し気にそんなことを言い出す趙にぎょっとして目を見張る。
    「何で趙が知ってんだよ」
     いぶかしむナンバに笑みを深くして、趙が酒を煽った。
    「ふふふ~、だって、そんなの春日くんを見てれば分かることじゃん」
     ちらりと視線を向けられて、もしや自分の思いが趙にはすでにバレてしまっていたのではとドキドキしてくる。それならそれで開き直るだけだが、心の準備が出来てるかと言われればまだなので、ちょっと待って欲しいという気にもなる。
    「一番のタイプって? どんな子なの?」
     身を乗り出して聞く紗栄子に趙が向き直って言った。
    「春日くんのタイプはねぇ」
    「うんうん」
    「春日くんのことを好きな子だよ」
    「はぁ?」
     大きな疑問符を浮かべる春日に対して、周りの皆が「確かに」とか「違いない」と大きく首を縦に振っているのが解せない。
    「そういえば、春日さんって恋愛に関してはとことん受け身ですもんね」
    「そうそう。いっちゃんは押しに弱すぎるのよね」
    「えっ? ってことは、春日さんは相手は誰でもいいってことですか?」
    「じゃあ、その子でいいじゃねぇかよ」
    「ちげぇねぇな」
     仲間達から呆れたような視線を向けられて、それは心外だと憤る。
    「ちょっ、ま、待てよっ。俺だって誰でもいいわけじゃねぇぞっ」
     仲間はともかく、思い人の趙にそんな風に誤解されるのだけはどうしても避けたかった。それならまだ変な視線を自分に向けてくるなと責められる方がいい。でも、そんな春日の気持ちにはまるで気づかぬように、趙が春日の肩を抱いてなだめるように言った。
    「大丈夫、そんなの分かってるよ。春日くんが好きなのは、”可愛くて”春日くんのことを好きな子だよね?」
    「春日ぁ、お前、最低ぇだな」
    「まぁ、気持ちは分からんでもないがな」
     あらぬ疑いがさらに良からぬ方に向かっていることに慌てる。
    「ちげぇよ。そういうことを言ってんじゃねぇっ。お、俺だって、流されるだけじゃねっぞ」
    「えっ? 何よ、それ」
    「俺だって、好きな奴の一人や二人ぐらいいるっつうの」
     思わず言った言葉で、一瞬、皆が動きを止めて場が固まった。
    「な、なんだよ」
    「おい、一番、マジかよ。お前、惚れた女が出来たのか?」
    「えっ? 嘘でしょ? 本気なの? 相手は? 誰なのよ」
    「春日さん、私、何も聞いてないですよ!」
     皆がえらい勢いで詰めてきて、春日は迫力に気圧されて身を引いた。
    「かすがぁ、好きな奴が一人はいいが二人いたらそいつもやべぇだろ」
     既に酔っ払い始めた足立だけが興味なさげにそう笑っているのにむしろ救われる。
    「春日さんに好きな人か。それはコミジュルでも掴んでいない情報ですね」
     ハンジュンギまでもがそんなことを言い出すので、袋小路に追い詰められたような気になって春日は赤らむ顔を意識しながら悪態を吐いた。
    「うるせぇ。そんなことどうでもいいだろ。俺のことは放っておけ」
    「どうでもいいってことはないだろ」
    「そうよ。いっちゃんはね、なんだかんだで悪い子に引っかかりそうなのよ。だから、みんな心配してるんじゃない」
    「そうですよ、春日さん!」
    「わ、悪いのになんか引っかからねぇよ」
     趙は悪いのなんかではないし、それに悲しいかな、引っかかるどころか相手にもされていない感じすらある。
    「まあまあ、みんな、春日くんのプライベートなことだしね。その子とは、まだ付き合ってないんでしょ? 付き合ったらさ、また改めてみんなに紹介してよ」
     春日の肩を抱いた腕を解きながら、春日を庇うように趙がその場をいなしてくれる。改めて、優しい奴だなと思う反面、趙にそんな風に言われることが一番胸が痛い。
    「そうね。付き合ったら、皆にちゃんと報告するのよ」
    「そうだぞ。俺たちに黙って付き合ったりするなよな」
    「うるせぇなぁ」
     自棄になって、目の前の猪口に日本酒を注ぎなおして飲み干す。
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