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    mizhara12

    一時保管庫

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    mizhara12

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    314直後の🎏に思いを馳せて

    こういうのを書きたいな〜という、ぬるっとしたメモ程度の産物

    誰かのうめき声で目が覚めた。
    身体がだるい。力が入らない。酷く熱くて痛む。
    月明かりの下、部屋には負傷した兵士がベッドの隙間にまで転がるように敷き詰められていた。至る所からうめき声が鳴る。
    だが、自分を起こした地鳴りのような声は、自分自身のものだったかもしれないと思うほどに、鯉登も気を抜くと声をあげそうになった。
    列車はどうなった。鶴見中尉殿は、金塊は?月島軍曹はどうした。この兵士たちは怪我人だろうが、死者は出たのか。
    「こ、鯉登少尉殿!まだ起き上がってはなりません!」
    開け放たれたドアの向こう、廊下から湯の張ってあるだろう桶をもった一等卒が、大きな声をあげないよう、努めて囁くような声で咎め、駆け寄ってくる。
    「田山一等卒……。お前、怪我は」
    「私はこの通り息災であります。情けない話でが、五稜郭突入の際に敵ともつれあいの末、頭部を打ち気絶しておりました…。申し訳ございません」
    情けないのは私のほうだ。見渡せば一面の青白い肌。包帯の下から除く赤黒い血。戦場とはこんな有様なのか。いや、地雷も砲弾もない、限りなく白兵戦。ましてや、相手は数えるほどだ。
    「いや、謝ることではない。頭はもういいのか。大事ないならよい」
    「恐縮です……。それより少尉殿、身体に障りますから。三日三晩うなされて、ようやく滝のような汗が収まった頃です、まだ」
    「まて、三日三晩だと?」
    背筋が凍る思いがした。三日も空いたのか?あの日から。思考がグルグルと駆ける。
    「鶴見中尉殿は?」
    一等卒は下を向いてかぶりを振る。
    「……捜索隊を出しています。月島軍曹も同行を」
    「月島は動けるのか!?相当な怪我では」
    「ええ、二ヶ月はかかるかと見える重傷でしたが、昨晩遅くに目を覚まし、捜索隊が出ていると知るや否や現場へ」
    「どこだ、函館湾か」
    馬を……。言いかけて、ハッとした。否。今すべきことは。
    一等卒が声もなく頷く。鯉登が出かけると予感して不安そうな顔を向けている。身を案じつつ、止められないのがわかっている表情。月島とも同じやりとりをしたか。
    「わかった。今、ここの指揮は誰が」
    「はっ。二宮軍曹を中心に私含む数名の兵士が宿直をしております」
    「そうか、ご苦労。案内を頼めるか。肩を借りる」
    「はいっ」

    二宮含む下士官が4名、以下8名の兵が宿直室に雑魚寝している。慌ただしく居直った兵士たちに姿勢を崩すように促す。
    「夜分にすまない。状況を」
    「はい。兵士50名を乗せた列車は函館駅直前で先頭車両から切り離され停止。鶴見中尉殿は先頭車両ごと函館駅を突っ切り、海へ落下した模様。現在動ける6名の兵士を捜索に出しています」
    「旭川は。中央はどう出ている」
    「鶴見中尉殿は札幌出立の前と五稜郭突入前に淀川中佐に電報を打っていたようです。旭川に駐屯している兵士によれば、此度の一件は刺青の囚人による大規模なテロで、その措置にあたる旨、昼までに電報がない場合、金塊はなかったと中央に知らせる旨が書いてあったそうです」
    「なるほど」
    金塊がなかったとなればこちらの立場は悪い。おそらくは全て権利書に置き換わっていたとも伝えたろう。
    「旭川としては囚人の暴動を抑える大義名分で通していますが、中央の動向は未だ掴めず」
    「権利書は」
    「杉元、アシリパが持ち去ったと見られます」
    金塊が回収できず、権利書も奪われたとなれば、いくら大義名分を掲げたとて中央は黙っているはずがない。逆賊として吊し上げて晒し首にされる可能性は高い。そうなればトカゲの尻尾きりに合う。
    「淀川中佐に電報を頼む。まずはこちらに反乱の意思がないことを早急に伝える。私の名義でだ」
    二宮軍曹がそう根回ししてくれたに違いないが、私である必要があるだろう。特別懇意にしていたわけではないが、鶴見中尉の媒介で淀川中佐にも親しかった。親しかったといっても、立場は純粋な上下関係ではなかったが。
    五稜郭、列車での死傷者の把握。近隣住民への説明はすでに手が付いていた。動けるものは少ない。旭川の同期でもなんでも、頭を下げて引っ張るしかない。
    「近隣住民への説明に人を増やせ。市民を敵に回すな。民家への損害があれば最優先で補修の手配を。……それから、亡くなったものに手を合わせたい」
    「……はい。斜向かいの寺に安置しておりますが、今日はもう遅いので明朝に」
    「そうだな」
    「それと少尉殿」
    二宮は気まずそうに俯く。
    「お伝えすべきか、いえ……。お耳に入れておかねばならぬことが」
    ああ、なんとなく察せた。父上か。その前置きだけで幾分か覚悟が出来た。
    「大湊水雷団が函館山からの砲撃に遭い、全艦撃沈。船員は帰還していますが、鯉登少将は未だ見つかっておらず……。海軍兵が捜索に当たっていると聞きましたが、こちらからも兵を割きましょうか」
    「いや、今は陸海の距離は保とう。私が話をする。なに、昔から世話になっている者もいるし、私が出れば向こうも聞く耳を持ってくれるはずだ」
    「承知しました。では明朝、追悼の後、大湊へ出向く手配を進めます」
    「頼んだ。もう休んでくれ。手間をかけた」
    「いえ……少尉殿こそ、お休みになってください」
    「いや、文を書く。机を借りるぞ」
    出来るだけ多く、直筆で連絡すべきだ。電話で取り次いでもらえるかわからない以上、文で会合の場を設けてもらうよう懇願する。明日の朝一番で出来るだけ届けてもらわねばならない。



    気づけば1週間。まともに寝れていない。肩の傷が疼く。クソっ。月島は何をやってるんだ。
    「鯉登少尉殿」
    名を呼ぶのは月島の声ではない。
    「……二宮軍曹。すまないが、馬を、出してくれ」
    「すぐに馬車を」
    「いい、そんな悠々としては皆に顔向けできん。このくらいなんてことない」
    「しかし」
    「月島の様子を見てくる」
    二宮は何も言わなかった。彼とて、月島を案じていたのだろう。



    「……月島」
    くたびれた兵士のなかに月島もいた。身体中に包帯と添え木をして、滲む血の跡が頬に線を引いている。荒れた髭に肌。物々しく血走った白目が異様だった。
    兵士は交代で海を潜っているようだった。上がってきたばかりの兵士が鯉登に気づいて敬礼するのを静止する。
    「ご苦労。首尾はどうだ」
    「……はい。いまだ、痕跡のようなものも見つけられず」
    「そうか……。無理はしないでくれ。お前たちが疲労しては元も子もない」
    「少尉殿」
    私の鶴見中尉殿へ対する心酔ぶりはさぞ有名であったろう。自覚がある。私とて海のなかを這いずり回って探し当てたい。だが、今それをすべきかと問われて首を縦には振れないのだ。
    「月島はどうだ」
    「え、ええ……その、随分と懸命に捜索いただいているのですが……。私とて、1秒でも早く中尉殿を見つけたいことに変わりありません。ですが、月島軍曹には少し、お休みいただきたいとも思っております」
    「そのようだな」
    言葉を選んでいるが、月島の様子が物々しいことは周囲を困惑させるほどのようだ。
    「食事を手配しよう。皆を集めてくれ。休息をとるようにと」
    「はっ。ありがとうございます」
    「月島も休ませてくれ」
    その後ろ姿に、声はかけられなかった。
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