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    現パロのフェヒュ
    フェが宇宙人と結婚する夢を見るヒュの話

    #フェルヒュー
    ferhu

    宇宙人と浮気も結婚もしないでください※少しだけ文字化けの表現があります



     恋人のフェルディナント殿が宇宙へ旅立ってから、もうすぐ半年が経とうとしている。
     人類による技術の発展はめざましく、天文学が進歩したことで新たな惑星がいくつも発見された。そしてフェルディナント殿は、惑星の調査チームに抜擢されたのだ。
     彼の活躍はニュースで知るだけでなく、最先端の技術を駆使したテレビ電話で直接聞かせてもくれる。数ヵ月前には、観測すらされていなかった星を彼が新たに見つけたそうだ。『星の名前を決める権利をもらったので、ぜひ君の名前を付けたい』と言われたときは困惑したが、離れていても自分を想い続けてくれている証左のようで少し嬉しかった。
     触れられない距離にいる恋人を想うと寂しくはあるが、大義を背負って宇宙を飛び回る姿はそれ以上に誇らしい。帰還はまだ先だが、火星にいるよと言われた夜は紅い光を探し、金星に着いたと教えてくれた夜は、宵の明星を眺めながら無事を祈って、私は日々を過ごしていた。
     
       ◇

    『ヒューベルト。……君に伝えなければならないことがある』
     久々にかかってきた通話に喜んだのも束の間、画面に映るフェルディナント殿は、深刻そうな表情をしていた。
    「どうされたのですか?」
     もしや彼の身に何かあったのだろうか。あるいは乗っている宇宙船のトラブルか。彼の様子から察するにいい報せではなさそうで、体に緊張が走る。
     やがてフェルディナント殿は、覚悟を決めたようにカメラから視線を外して『こちらに』と誰かを呼んだ。モニターの端からもぞもぞと〝何か〟がやってくる。
     それは、翠色のもやを揺らめかせる〝何か〟だった。人でも動物でも植物でも機械でもない〝何か〟としか形容しようがない存在。通信の不具合で輪郭が崩れているのだろうかと思ったが、隣にいるフェルディナント殿の姿はくっきり映っている。
     その〝何か〟は蠢くたびにモザイクを帯びたような破片を散らばらせ、言い知れぬ不気味さがぞわぞわと胸に湧き上がった。
    『紹介するよ。辟。諤ァ縺ョ蟄伜惠だ』
    「……すみません、もう一度お願いします」
    『辟。諤ァ縺ョ蟄伜惠だ』
    「…………はあ」
     〝何か〟の名前は、何語か判別できないどころか音の一つを聞き取るのさえ困難だった。このままでは話が進まないと、ひとまず頷いておく。
    「それで、私に伝えなければならないこととは?」
    『ああ。……私は、この者と結婚することにした』
    「……はい?」
    『君が地球で待ってくれているのを知りながら、このような結果になり本当にすまない。だが私は、辟。諤ァ縺ョ蟄伜惠と生きていきたいと、そう思っている』
    「……は?」
    『これまで君に捧げた愛は決して偽りではない。だがこれからの人生は、辟。諤ァ縺ョ蟄伜惠なしでは考えられないのだ。辟。諤ァ縺ョ蟄伜惠の出身である水星で暮らすか、共に地球へ戻るかはまだ決めていないのだが……』
    「少し、待ってください」
     まさか他の惑星で恋人に浮気されるなど、誰が考えられようか。しかも宇宙船の乗組員と恋に落ちるならまだしも、相手は人間ではない〝何か〟ときた。水星出身なら宇宙人とでも呼ぶべきか。ともかく、突如告げられた内容にとても脳の処理が追い付かず、こめかみを押さえる。
     事実を整理すると、これまで一途に愛してくれた恋人が他に添い遂げたい相手を見つけ、別れ話を持ち掛けられている、ということで合っているだろうか。
    「その……貴殿はその方を愛しているのですか?」
    『もちろんだ。運命の導きだったのだろう……互いに一目惚れした我々は、多くを語り合い、そして愛を確かめた』
     語り合ったとの言葉通り〝何か〟はフェルディナントが話す内容を理解しているようで、もぞもぞと揺れ動きながら鳴き声を発した。これまで耳にしたことがない音の波長に頭痛がしてくる。
    「本気なのですか? 私を揶揄っているのではなく?」
     現実とは思えない出来事の数々に、一抹の望みをかけて問いかける。だがフェルディナント殿は『冗談でするような話ではない』と首を横に振った。
    『私と別れてくれ、ヒューベルト』
    「…………」
     彼の愛に浴した日々が、走馬灯のように駆け巡る。
     元より自分は、仕事の能力を買われてそばに置かれる自信はあれど、恋人として選んでもらえるような魅力は持ち合わせていなかった。長年そういう生き方をしてきたし、愛の言葉すらまともに紡げない人間だったのだ。
     だがフェルディナント殿は、そんな私の手を取った。ありのままの君を愛していると、私の生き方を肯定し、隣り合い、数え切れぬほどの幸福を教えてくれた。
     いつから自惚れてしまったのだろう。未来永劫、彼に選ばれ続けるなど。
     真摯でひたむきな人だ。宇宙人さえ虜にしてしまうのも頷ける。私がフェルディナント殿からの愛に満たされていても、フェルディナント殿は私からの愛に物足りなさを感じていたのかもしれない。だから彼は、より魅力的な相手に傾倒した。それが現実。
     他の誰かを愛し、結婚まで決めたのならば、彼の心に私の居場所はもうない。無為なことに時間は浪費しない主義だ。過去の自分であれば、あっさり頷いて関係を終わりにしていただろう。
     だが彼は、彼だけは。
    「……っ」
     私に与えられた選択肢は、フェルディナント殿の意志を尊重して送り出すのみだというのに、口を開けばみっともなく縋ってしまいそうで、強く唇を引き結ぶ。たくさんの愛を教えてくれた彼が最後に教えてくれるのは、さようならの五文字に伴う痛みとは。
    『そろそろ時間だ。……もう行くよ、ヒューベルト』
    「……フェルディナント殿、私は」

       ◇

    「私は、貴殿がいない日々の生き方を、もう上手く思い出せないのに……、っ?」
     自分の声ではっと目を覚ました。
     モニター越しではない、生身のフェルディナント殿が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
    「大丈夫か? 随分と魘されていたが……」
    「ええ、大丈夫です……」
     のろのろと起き上がり、汗で額に張り付いた前髪をかき上げる。枕にもたれて鼓動を落ち着けていると、フェルディナント殿が水を持ってきてくれた。礼を伝えて受け取り、乾いた喉を潤す。
    「夢見が悪かったのか?」
    「……そうですな。耐えがたいほどの悪夢でした」
    「寝る前に『世界のUMA特集』を見たのが良くなかったのかもしれない」
    「まさか魘される羽目になるとは……」
     夢でフェルディナント殿が連れてきた異形の姿は、他に見るものもなく最後まで流し続けたあのテレビ番組の影響だろう。
     しかし、何とも奇怪な夢だった。フェルディナント殿が宇宙へ行き、宇宙人と結婚するなど。こうして冷静に考えれば、あまりの奇怪さに夢だとすぐに分かりそうなものだが、夢の中で夢の世界だと気付くのは案外難しい。
    「なあヒューベルト。夢には私も出てきたのだろうか?」
    「ええ、出てきましたよ。よく分かりましたな」
    「その……随分と熱烈な言葉を告げてくれていたから」
    「…………」
     自分の声で目を覚ましたということは、魘される私を気にかけてくれていたフェルディナント殿も、当然ながら同じ声を聞いたということだ。それも、別れを告げた彼への未練がましい縋り文句を。
    「……忘れてください」
    「忘れるにはあまりに惜しいな。君が悪夢に苦しんだことを思うと申し訳なくはあるが……君からの深い愛を感じて嬉しかったのだ」
     そう言うと、フェルディナント殿は労わるように私を抱きしめた。宇宙になんて行かずに、モニターに隔てられてもいない、体温が感じられる触れ合いに満たされながら、背中に腕を回して抱き返す。自分はまだ少し、夢の内容を引きずっているのかもしれない。
    「分かりました、忘れずとも構いません。ですが一つ条件が」
    「なんだろうか?」
    「宇宙人と浮気も結婚もしないでください」
    「宇宙人……? もちろん、相手が宇宙人に限らず、そのような不誠実な行いは決してしないと誓うが……私が結婚したいのは君だけだし……」
    「なるほど、私と結婚を……私と結婚を?!」
    「なっ、しまった! このような形でプロポーズするつもりではなかったのに」
     フェルディナント殿が慌てた様子で言う。
    「プロポーズ、してくださる予定だったのですか」
    「違うのだ! いや違わないのだが! もっとこう、相応しい場を整えてだな……」
    「……ひとまず忘れておきましょうか?」
    「いや……君が忘れようと忘れまいと、結婚を申し込む心づもりは変わらない。だから忘れずとも構わないよ。君からの返事は、また改めてプロポーズするときに聞かせてほしい」
    「では、そのように。……今であろうと先であろうと、私の返事は変わりませんがね」
    「本当かい? ふふ、それは嬉しいな」
    「おや、私が断るとは思わないのですか?」
     自信家の彼らしいと思いながら揶揄い混じりに言えば、フェルディナント殿は声に笑みを乗せて「君がいない日々の生き方を上手く思い出せないのは、私だけではなかったようだからね」と答えたのだった。



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