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    touno_s0

    ぽい

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    touno_s0

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    一次創作

    世界登場する二人に性別はありません



    「なぁちゃんにもしもの話をするね」
     窓際に寄り掛かるna=17の隣にやってきたミズメイは、そう言って窓枠から身を乗り出しながらミルキーブルーの空を見上げた。na=17は咥えていた煙草を口から外し、煙を吐き出してから「うん」と頷く。
    「この世界がくるっとひっくり返って、街が丸ごと海にどぼんしちゃったらどうなると思う?」
    「未来のロマンチスト共に海底都市として調査されるだろうな」
    「そうじゃなくって!」
     na=17の返答はミズメイの望んだものではなく、不服をありありと浮かべた表情が向けられる。自分の感性ではミズメイが喜ぶような言葉を最初から選べると思っていないna=17は、それを甘んじて受け止め、煙草を咥え直すことで続きを促した。
    「あのね、私は未来を生きる見知らぬ誰かたちのことなんて興味ないの。想像してほしいのは、なぁちゃんと私がその時どうなっちゃうのかってことだけ」
    「あなた泳げるでしょう。私も泳げる」
    「泳げてもどうにかなるとは限らないよ? 海が地平線しか確認できないくらい広かったり、底が真っ暗で見えないくらい深かったら、途中で疲れちゃうかも」
    「ミズメイが疲れたら、私が手を引っ張って二人で暮らせる場所まで連れていくよ」
    「んへへ……うん」
     ふにゃふにゃと溶けそうなミズメイの笑顔は、食べたら甘い味がするだろうとna=17は思っている。表情を食物に変換する装置はまだ発明されていないが、完成したら自給自足が可能になるだろうかーーと考え始めたところで、煙と共に妄想を霧散させる。自分の世界に逃避して、ミズメイの笑顔を寂しいものに変えることはしたくなかった。
    「手からこぼれ落ちるって言葉があるけど、落とさずにずっと持っていられるものなんてあるのかな? だってほら、こんなに隙間だらけなんだよ」
     ミズメイが大きく広げた手を、星を掴もうとするかのように空へ伸ばす。na=17の瞳に、指と指の間にできた四つに隙間で輝く光の粒が映った。
    「だからね、私の手を掴んだら、こぼれ落ちないように強く強く握っていてね。骨が何本折れても構わないから」
    「……もしそうなったら、あなたの苦痛に、骨を折る音と感触を、私は死ぬまで繰り返し夢に見るよ」
    「でもなぁちゃんの手が離れたら、たとえ海の中で生きられたとしても私の心臓は止まっちゃうよ。骨で済むならいいと思わない?」
    「ミズメイの骨も心臓も守るために、世界がひっくり返らないよう祈っておくか」
     na=17が呟いた直後、流星が空を駆ける。それからna=17が願い事を三回唱えるまでの間、計三度の流星が彼方に消えていった。
    「これでよし」
    「ちょっとなぁちゃん。もしも話のために星を三つも落としちゃうなんて可哀想だよ」
    「名も知らぬ星たちのことなんて興味ない。大事なのは、ミズメイと私がどうなるのかということだけだ」
    「なぁにそれ、私の真似?」
     からかい混じりの口調ながらも、ミズメイは喜びを隠さずにna=17の肩へ寄り掛かる。na=17は短くなるまで吸った煙草をガラスの灰皿に落とすと、愛おしさのままにミズメイの手を握った。
     他人の未来も未知の星にも関心を持たず、二人は二人きりの部屋でただ呼吸をする。
     もしも世界がひっくり返ろうとも、ミズメイの指の骨が折れてna=17が悪夢を見るようになる以外は、なにも変わらないだろう。





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    nabe

    DONE書きかけのやつに反応頂けたのが嬉しいのでこっちも更新

    フェルヒュー子どもの頃に出会ってたらいいなというよくあるやつと御伽噺の魔女兼お姫様概念のヒュが書きたかった
    魔女の館鬱蒼と生い茂る高木の隙間から差す木漏れ日すら翳りがみえだした。もう日が沈んでしまったのだろうか。徐々に近づく夜の気配はより一層フェルディナントを不安にさせた。どこか遠くの方で狼の遠吠えのような声が聞こえた気がする。
     今にも泣き出しそうな顔で辺りを見回すが、視界に入るのは同じような木々ばかり。今自分が歩いてきた方角さえ見失いそうな、同じ光景ばかりである。

     こんなはずじゃなかった。フェルディナントは何度目か分からない自問自答を繰り返す。フェルディナントは今日父に連れられてこの森に初めて狩猟を行うために来た。騎士道を尊ぶファーガス神聖王国程ではないが、アドラステアの帝国貴族にとっても狩猟とは舞踏会と同様に重要な社交の場である。フェルディナントもいずれ本格的に武器を持ち、立派な貴族としてまた戦士として、多くの貴族とともに雄々しく狩りに勤しむことになるだろう。その教育の最初の一歩として父に連れられて、この森を狩場とし初めて狩りというものを経験しに来たのだ。
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