秘密の友だち 父は世界を股にかける冒険者だ。だから家にいる時間は少ないけれど、いつも腕から溢れるほどのお土産を抱えて帰ってきてくれる。
みんな父が大好きで、一秒でも長く一緒にいたくて取り合いになることもしばしばあった。すったもんだした後は、暖炉を囲んでみんなで冒険の話に耳を傾けるのがお決まりとなっている。凶暴なドラゴンを倒した話、氷の女皇さまの命を受けて戦った話、意気投合した劇団と共に舞台を盛り上げた話、妖怪退治の捕物帖、島一つ分のおおきさの怪魚を釣り上げて村人たちと饗宴を開いた話、異世界からの旅人と共闘した話……。魅力的な物語は閉ざされた雪国の閉塞感をも忘れさせてくれた。
そんなことだから我が家には父が持って帰ってきたお宝を収納するための倉庫がある。宝の数々は昔は父の部屋に収まっていたようだが、次第に入りきらなくなって後付で作られたものだ。兄弟はみんな宝物庫と呼んでいる。
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