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    314_sts

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    5/3の鍾タル女装コピ本の冒頭。ここから普通の青年ァャックスくんの性癖がバキボキに折られます(エッチシーンは含まれてないです)

    假花 薄暗い照明の元、よく磨き上げられたグラスに金銀の装飾がまばゆく光を散らしている。アルコールと香水と化粧の匂いがとにかく鼻について、アヤックスは帰りの電車の時間ばかり考えていた。
     某大手企業に就職して数年。出世街道をひた走るアヤックスは上司にも気に入られ、勉強と称してあらゆるところへ連れ回されていた。為になることは多かったが、問題はこの上司の趣味である。仕事面では非常に尊敬のおける人なのだが、プライベートではひとつのことに入れ込みすぎるところがあった。近頃はキャバレークラブ……一般的に女性が客席に付き接待を行う飲食店にお熱なようで、誘われる度にどうにかのらりくらりと躱していたが、今日はとうとう根負けし連れてこられてしまった。
     キャバクラなんて学生時代に若気のノリで仲間と足を運んだくらいだ。楽しく話をしてお酒を飲んでくれることは楽しかったが、のめりこむ程のものではなかった。周りと比べると顔がいいと自覚があるアヤックスにとっては女の子と話ができることに特に利点を感じることができなかったのが大きい。
     今日もそうだった。上司は気に入りのキャストを侍らせてご満悦。アヤックスの両隣にも綺羅びやかな衣装を身に纏った女性たちが肌が触れ合う距離で相手をしてくれている。質でいえば学生時代に遊びに行った店よりもグレードが大分高いからか、接客自体は悪くない。仕事の接待の延長と思えばなんとか耐えられる絶妙な具合だ。
    「例のアレ、今日だったよね?」
    「部長さんも好きね。もうすぐ時間だわ」
    「アレって……?」
     入店後からチラチラと腕時計を気にしていた上司がそわつき始める。何事だろうと自分も腕時計を見た。時刻はちょうど二十二時を指し示すところだった。お店でイベントでも催しているのだろうか。あたりを見回すと周りの客も様子が少し変わっていた。キャストたちも咎めるでもなく、一緒に何かを待っているようだった。
     何が始まるのかと上司に声をかけようとしたところで、ホールの奥にある扉が静かに開かれる。客用でもない、キャスト用でもない。ひっそりと壁と同化して存在していた扉だ。ホール中の視線がそこへ集まっていくのを感じてアヤックスもそちらを見てしまった。
    「あ、」
     ボーイによって開かれた扉をくぐり姿を現したのは、黒髪の麗人だった。黒い璃月風のドレスを身に纏い、肌はライトに照らされてパールの如き光を返している。艶やかな髪は腰まで伸び、人物が歩く度に流れるように靡いた。漆黒のハイヒールはスリットから伸びた脚を艶めかしく彩った。華美な衣装を身に纏っているわけではない。むしろ落ち着きのある出で立ちで、なのにまるで光の中を黄金が歩いているかのようだった。
     アヤックスは息をするのも忘れて人物を見ていた。その人物が男であると気がついたのは、彼が壁際に設けられた席に腰掛けた時だった。あれ、なんだか背が高いな。肩幅も結構ある気がする。よくよく体格を見れば男なのではないか。つまり、女装をした男だ。
    「綺麗でしょ」
    「うん……」
     見惚れているアヤックスにくすくすと笑いながら嬢が耳打ちしてくれる。とにかくそれ以外の言葉が咄嗟に出てこない。うつくしいもの、というのは、男女の形に囚われないのだと、常識が崩れ去っている最中だった。
     曰く、彼の源氏名はモラクス。あの席は假花と呼ばれるゲストが座るための席であり、彼らはこの店のキャストではない。決まった日取りにだけ現れて、店員ではないので客からのお触りは厳禁。声掛けだって禁じられている。彼らはただ席に座りホールに華を添える。触れられないそれが假花(造花)と呼ばれる由縁らしい。モデルや俳優が座ることもあるという。これが店の名物だった。
    「良いだろう、お前にも是非とも見せてやりたかったんだ」
    「えっと、すごく綺麗だ……」
     呆然と、ひどくありきたりで面白みのない称賛しか溢れない様子を見て、上司は満足気に酒を口に運んだ。アヤックスも倣ってグラスを運ぶ。氷は大分溶けてしまっていた。酒の味はわからない。
     他の客たちも一人ひとりと我に返り、先程までの空気を取り戻していく。ざわつきが戻ってきた店内。それでも、モラクスに目を奪われたままぼんやりとした客はいくらか残っていた。それはアヤックスも含まれている。普通に広げられていた会話がどこか上の空で頭に入って来ない。視線は勝手にモラクスの席へと向かい、彼が今何をしているのかを捉えようと脳が躍起になっていた。
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