『甘えたいんだったら、素直になって』 夕食を終え付けっぱなしになっているテレビの音を聞きながら明日の仕事の確認の為にスマホに触れ、会話がなくても心地いい彼とのひとときを私は楽しんでいた。同じくスマホを触りながら時折テレビに視線を向ける神谷を隣に置きながら。
「んー……」
仕事や事務所仲間からの連絡が入ることも増えた端末に文字を打ち込みながら何か言いたげな神谷にあえて何も言わずに次は何を作ろうかと、スイーツのレシピも頭に思い浮かべて。
「……」
小さく息を吐いてまたスマホを触りだす神谷の表情があまりにも解りやすく面白くなさそうで。その様子に仕方がないですねと言葉にせずに彼の少し膨れた頬を指先でツン、とつついた。
「!」
「甘えたいんやったら、素直になってください。……見るのも触るのも。スマホでいいんですか?」
ふっと笑みを向ければ、どうしようもなく私が好きだと笑顔を向けてくる神谷が好きで。こうして、たまに意地悪をしてしまう。
「よくない」
スマホを置いて両腕で抱きついてきた彼を受け止めて抱き締める。ぽんぽんと背を撫で叩けばぐりぐりと顔を押し付けてくる擽ったさに声が漏れてしまいながら笑って。
「ん、くすぐったいですよ。神谷」
「素直に甘えてるんだから、いいだろう?」
「まったく。単純なんですから」
ならばこちらも素直になれたご褒美をと髪に口付けを落とし今一度少し強めに抱き締めた。
「……東雲」
「なんです?」
顔を上げてじっと真っ直ぐに見つめてくる神谷に首を傾げればニーッと何か楽しそうに笑っている彼にすっかりご機嫌ですね、などと考えていれば不意に強い力で引っ張られソファに二人で転がった。
「なっ」
そのままわしゃわしゃと頭を撫でる彼の行動に心拍数が上がり顔が熱くなるのを感じた。髪が乱れることが気になりつつも、二人で過ごすオフには関係がないなと。私にこんなことをするのは神谷だけだと思えばまた愛おしさも募り、彼からの言葉にその思いは更に増すこととなる。
「東雲も、素直になって」
とびきり甘い声色で耳元に囁いて私の心を解す彼に、気付かされたのだ。
甘えたいのは、私もだったのだと。