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    jusimatsu

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    jusimatsu

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    FFBE幻影戦争webオンリーイベント アードラ秋穫祭に描き下ろした小説です。

    ##幻影戦争
    ##シュゼナイ
    ##エンフェデ

    祭りの花秋空が澄み渡る心地よい気候の中、≪堅牢≫の兵士たちは任務からの帰還の道から少しそれた場所を目指していた。
    目的地は本来のルートの近くにある町。偶然にもちょうど任務が終わる頃に秋の収穫祭が行われるのだ。
    目敏い者があらかじめ許可を取っており、晴れて≪堅牢≫の面々は少し早い休暇と慰労会を楽しむこととなった。

    小さな町だが評判の良い収穫祭には毎年他の町村からの客が大勢来るとのことで、人も屋台も多かった。これなら突然部隊が丸ごとひとつやってきたところで問題はないだろう。
    解散の号令もそこそこに隊員は思い思いの場所に散っていった。羽目を外しすぎなければいいのだが、とエンゲルベルトは思う。

    「ダーリン見て見て♡ これ、一緒につけよう」
    「……なんだそれは」

    思わず聞いてしまったが、花冠以外の何物でもないそれがフェデリカの手に下がっていた。おそらくは2人分。

    「このお祭りでは、カップルとか仲のいい友達とかがお揃いで花飾りをつける風習があるんだって。だからあたしもダーリンとお揃いのお花をつけたいの。いいでしょ?」
    「断る」
    「えーっ!ちょっとくらいいいでしょー!みんなつけてるじゃない」
    「シュゼルトとナイアは花冠を被っていないようだが」

    反論しようと恋人同士の2人を引き合いに出したエンゲルベルトが、ほら見ろと言わんばかりに目を向ける。
    すると当の本人たちは目を合わせてはにかんだ後、揃って左手を上げた。

    「私たちは、ほら」
    「少し照れますけどね」

    花冠を被っていない2人がつけていたのは、小さな花の指輪。示し合わせたように薬指に付けている意図は明確だった。
    論破されるはずだったフェデリカが、満面の笑みを浮かべる。

    「ダーリンには冠のほうがまだ恥ずかしくないかなって思ったけど、指輪がいいって言うならあたしもいいよ♡」
    「絶対につけんぞ!」

    到着早々羽目を外す者がこんなにすぐそばにいるのはさすがのエンゲルベルトにも想定外だった。
    人目がなければ比喩ではなく実際に頭を抱えたいくらいだ。

    「まあまあフェデリカ、そこまでにしてやれ。あまり押強引にしても得るものはないぞ。」
    「大将、ブレスレットなんてどうですか? みんなで同じのをつけようって話してたんですよ」

    これならただの仲良しグループですよ、というロレンツォの声にようやくエンゲルベルトも妥協することにした。
    あまり意固地になってもフェデリカを焚きつけるだけだろうという考えもあってのことだ。
    エンゲルベルトがロレンツォからブレスレットを受け取るのとほぼ同時に、シュゼルトとナイアもジザから受け取ったそれを互いの腕につけあっていた。
    2人だけのお揃いではないが、同じ飾りをつけられたフェデリカはすっかりご機嫌なようでエンゲルベルトは胸をなでおろした。

    「ねえダーリン! さっき美味しそうな料理を見つけたの。せっかくだしみんなで食べたいから、一緒に行って持ってくるの手伝ってくれる?」
    「そのくらいならいいだろう。早く済ませるぞ」
    「ありがとダーリン♡ あとね、せっかくだからお祭りを見て回ったらお土産も買っていきたいな。ヴィネラ様がホルンのことを知りたがってたでしょ?こういう地方でしか見られないものを持って帰るのも大事だと思うの」
    「いいだろう。あとで付き合う」

    誘われたエンゲルベルトがフェデリカと2人で屋台の立ち並ぶほうへ向かっていく。
    大勢で揃いの花飾りをつけていれば男女混合の仲良しグループだが、そこから2人が離れていれば傍目にはカップルだ。要するに、完全に外堀を埋められていたのだ。
    彼は気付いていないが、この場にヴィストラールがいないのは花飾りをつけるつもりが一切なかったために、計画に加わらずグループを離れたからだった。彼は彼で1人気ままに料理を楽しんでいる。

    「さて、料理が来るなら飲み物も必要だな。ロレンツォ、運ぶのを手伝え」
    「はいはい。飲み物は重いからな。男手はいるよな」
    「シュゼルトはナイアと一緒に座るのに良さそうなところを確保しておいてくれ」

    離れていくロレンツォが一度こちらを振り返ってウインクをした。
    今更周りのお膳立てが必要な関係でもないが、気を遣われたからには2人の時間を楽しむのが彼らへの礼というものだろうとシュゼルトは思う。
    人が増えてきたからはぐれてはいけないとナイアに手を差し出すと、彼女もそっと手を握ってきた。

    6人が座るのに十分そうな場所を見つけた2人はそこに座って他の面々を待ちながら他愛もない話を楽しんでいた。
    笑ったナイアが口元に手を添えたときに、薬指に付けられた花の指輪が目に留まった。
    本物の花の茎を結んだだけの素朴だが愛らしい指輪は、恋人の贔屓目を抜きにしてもナイアによく似合っている。
    いずれは宝石のついた指輪を贈るつもりだが、手作りの花の指輪が高価な宝飾品に劣っているなどということはない。どちらもかけがえのない美しさがあった。
    気が付くと、シュゼルトはナイアの左手を取っていた。

    「ナイア、綺麗だよ」

    会話の途中に突然口説くような真似をしてしまった自分に驚くが、祭りとは浮かれるためのものだ。嘘偽りを言うわけでもないし、今思ったことを素直に口に出してしまおうと覚悟を決めた。

    「花の指輪は枯れてしまうけど、私は今日の君を忘れない。これからもずっと愛しているよ」
    「シュゼルト……。私も……私も忘れません。今日こうしてみんなとお祭りに来たことも、あなたと2人で話したことも、あなたの言葉も、それを聞いてうれしかったことも。ずっと覚えています」

    てらいのない今の気持ちを伝えあった後、2人の口数は少しばかり減ってしまったが心は満たされていた。
    時々笑いあっては揃いの花の指輪を見つめる。顔の近くに持ってくると甘い香りが鼻をくすぐった。
    香りは記憶を密接に結びついているという。これから先、花を見たり匂いをかぐと今日のことを思い出すのかもしれない。

    天気には恵まれ、食べるものに満ちていて、周りを見ればみんなが笑顔になっている。
    今日だけではなくこれからもずっと、ここだけではなく世界中が、みんなこうであればいいのにと思わずにはいられなかった。
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