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    いなーさ

    @ottonounkohunda

    すたおのSS保管置き場です

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    いなーさ

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    アシュプリ誕生日

    「もーーーっ、アシュトンは気にしなくていいのっ!」
     ぷりぷりと怒りながら、プリシスは工房へ続く扉を閉める。それを見送ってから、アシュトンは行き先のない上げていた右手を下ろした。
    「ギャフン」
    「フギャギャ〜」
    「まあ、しょうがないよ。何か急に閃いたのかもしれないし……。でも、あんまり寝るのが遅いと心配だよね」
     言いながら、背中の二匹を撫でた。
     平和が訪れてから、プリシスの家に居候する形でアシュトンは日々を過ごしている。一応、プリシスとは恋人同士……のつもりではあるのだが、グラフトの手前、カップルがするような、そういった過度なスキンシップは控えている。
     そりゃ、僕も男だし。そのうちもっと触れ合いたい、とは思っているけど。
     独り言にギョロとウルルンが反応して短く鳴いた。
    「…………頼むから、そうなったら覗くなよ」
     背中からの返事はない。
     そういう経緯の上、グラフトが就寝前に自室に行ってから、夜の数時間しか恋人同士になるような雰囲気に持っていけないわけだが。ここ最近プリシスは、夕食後に工房に篭って機械音を響かせてばかりで、会話すらあまり交わせていない。グラフトにそれとなく聞いたが、プリシスに口止めされているらしく両手で思い切り口を塞いでいた。
    「いいんだけどさぁ……」
     本当に、別にいいんだけど。自分にわからない世界や趣味があっても構わない。
     アシュトンは静かにコタツに入りながら、天井の模様を無言で眺める。
     ただ、自分だけに見せる顔のプリシスに、今は会いたい。



     数日後、夕食の支度をしているアシュトンのもとに、プリシスが寄ってきた。背後から声をかける。
    「ねぇアシュトン、今日の晩ごはん、そんなにたくさん作らなくていいかんね?」
    「え?」
     野菜の皮を剥きながら振り向く。
    「どうしたの? 具合でも悪い?」
     プリシスは慌てて両手を振る。
    「えーっと……とにかくだいじょぶだからっ!」
     逃げるようにコタツに入っていくプリシスを見ながら、アシュトンは今夜のレシピを変更することにした。お腹の調子が悪いのかもしれない。細かく刻んで野菜スープにしよう。
     プリシスと入れ替わるように、グラフトがわざとらしい咳払いをしつつ近づいて来る。
    「あー、アシュトン君よ。オレが続きをやっておくから、後はゆっくりしてくれんか」
    「え、でも」
    「まあまあ、スープの味付けくらいは簡単にできるから」
     グラフトに無理矢理背中を押されて、アシュトンはキッチンから出て行くはめになった。
    「? なんなんだ……?」
     訳がわからないまま、プリシスの隣でコタツに入る。それを横目で確認してから、プリシスはキッチンに向かい声を上げた。
    「親父〜、もういいよ!」
     かけ声とともに、窓に簡易的なシャッターが下ろされ、居間の灯りが消え、部屋が全体的に薄暗くなった。反射的にアシュトンは剣に手をかける。
    「!? なんだ?」
     辺りを見回し耳を澄ませる。ガラガラガラ。呑気なキャスター音とそれに続く足音。
     無人くんがカートを押して何かを運んできた。暗い部屋に映える、火がついたロウソクが乗った、
    「……ケー…キ?」
     呆気にとられたアシュトンの前にカートが止まった。
    「アシュトン、誕生日おめでと!」
     プリシスがパチパチと拍手を送る。無人くんの背後から、グラフトも顔を出して同じく拍手していた。
    「僕……。そっか、そういえば……」
     毎日があっという間に過ぎるから、すっかり忘れていた。
    「ホントはさ、あたしがイチから手づくりしようって思ってたんだ。だけど親父が、変な試食でオレが倒れる前に違う方法にしろー!って言うんだもん。ニーネさんにレシピ聞いて、無人くんが作れるように改造したんだ〜。だから味はホショーするよっ」
     プリシスは顔を赤くして、両手の人差し指をもじもじとくっつけたり離したりしている。
    「僕のために遅くまで起きてたんだ……」
     言葉がうまく出てこない。感謝も愛情も、目一杯伝えたいのに。胸の中が温かいもので満たされる。
     この子からもらえるものが多すぎる。
    「はいっ、ふーってして消して! 地球だとこうやってお祝いするんだって〜」
     グラフトがケーキをテーブルの上に運び、アシュトンの前に置き直した。
    「……ありがとう、じゃあ」
     息を吸い込み、すぐに勢いよく吹きかける。火が消えて部屋中が真っ暗になった。
     と思うとすぐ、アシュトンの頬に、何かが当たった感触があった。柔らかくて温かい、何か人肌のような。
    「開けるぞ〜」グラフトのかけ声とともに、窓のシャッターが開き、灯りが点く。
    「……………?」
     頬の違和感を考えながら、隣のプリシスの顔を見る。さっきよりもずっと茹でダコのように真っ赤になっている様子で、アシュトンは察した。
    「あ、あは……。真っ暗だったら、ギョロ達にも見られないで済むかなー……って。ほんとはクチにするつもりだったんだけどさっ」
     失敗しちゃった、と言って照れ臭そうに笑う。
     グラフトが気を利かせて、ケーキをカートに戻し、一人台所へと踵を返す。戸棚から皿を出して、ケーキを切る用意を始めた。
    「あっ、あたしも親父手伝っ」
     焦って立ちかけたプリシスの手首をアシュトンは引っ掴み、抱き寄せて顔を上げさせる。
     覆いかぶさりキスを繰り返す。息継ぎの暇もないほどに。
     苦しくなって呻き出したプリシスに気づいて、やっと唇を離して、愛しさで溢れた顔で笑う。
    「好きだよ、プリシス。大好き。何回言っても足りない」
    「……アシュトン」
     あたしも、と言う前に、キスをもう一回。アシュトンが初めて舌を絡め、プリシスが驚いて目を見開く。
     …………これ、えっちなやつだ。
     すぐ後ろに親父がいるのに。アシュトンも男だったんだと、こういう雰囲気になって改めて思い知らされる。
    「あっ!」
     ガチャン、と皿が当たる音とともにグラフトの声がして、アシュトンは我に返った。プリシスが上気した顔でキッチンを見ると、皿と食器類をまとめて出そうとして落としそうになったようだ。
    「あ……ごめんごめん! 手伝うよ親父」
     プリシスがコタツから出て立ち上がる。今度はアシュトンも止めなかった。
     少し歩いて、プリシスが振り向いた。グラフトには聞こえないように、口の横に手を当てて。
    「……続き、親父がいない時にねっ」
     小走りでグラフトの元へ向かう。
    「……………」
     アシュトンはコタツに潜り込んで頭を抱えた。
    「………僕、理性持つかな…………」
     身体中の火照りが止まらない。特に、あの一部分。今はとてもじゃないが立ち上がれない。
    「フギャフギャ〜〜」
    「ギャフ、ギャフフ!」
     暑くてかなわん、と言わんばかりに溶け出すふりをするウルルンに、ギョロが興奮気味に火を吹いた。完全におちょくっている。アシュトンはギョロ達に向かってジト目で睨みつけた。
    「ふたりとも……絶対に絶っ対に! 今日覗くなよ!」
     やはり背中からの返事はなかった。
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