この世界で生計を立てて以来、ゆっくり眠ったためしはないのだが、その職業柄の浅さとは違う目覚めだった。それが何なのかうまくアウトプットできなくて、歯痒い。ソローネは隣のベッドで眠るオーシュットを起こさぬよう、音を立てずに部屋を出る。
宿屋の窓から見える外の景色はまだ暗く、月が高い位置にあった。日が昇る頃にはウェルグローブを出発する予定で、全員で過ごす最後の日になる。
今度は、それぞれが別の旅路を行くのだ。当然、しがらみが取れた自分も。
「自由、か……」
俯いて思考を巡らせる。
先のことはゆっくり考えたらいいと思っていた。組織に縛られず、普通の生活を送る。ずっと憧れていたことだ。
でも、いざとなると戸惑う。普通って何?
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